16.15年越しの未来
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act.16-②:雑魚以下-sideザンチン
何てことはない、いつも通りだ。今日も。
弱いシャーマンに勝って、狩る。
最近手に入れたこのオラクルベルの出番はない。そんなもんに頼らなくても、この相手が雑魚だって事は知っていた。誰が見ても、俺が勝つのは当然の結果だった。
「お疲れさま。また明日も頼むよ」
ハオ一派と一括りにされる仲間の元に戻る。
各方面に散らばる奴らの帰りはバラバラ。
戻った順から報告を済ませ、ラキスト手製の晩飯を食らう。不味くはないが、如何せん辛さが足りない。今度マイ唐辛子でも買ってくるか。
「ザンチン、ちょっといいか?」
「あ?」
森の開けた場所、星空がよく見える岩場で寛ぐハオ様とオパチョから随分離れた場所を陣取って重い腰を下ろす。普段より更に膨れた腹を忌々しく思いながら、今更ながら昔抱いた夢を思い出した。今考えると碌でもない夢であったと、心底嫌な気分になって溜め息を吐き出す。まるで当時の夢を忘れてしまえと願うように。そんな時に掛かって声に、喧嘩越しになるのは仕方ない。俺は全く悪くねぇ。
「早朝用があってな、朝食を頼みたい」
「…奴絡みか?」
「まぁ、そう邪険にするな」
奴、とはハオ様お気に入りの例の奴の事だ。
シャーマンではない雑魚の癖に何故かハオ様に構われる日常を良く思わないのは、何も俺だけじゃない。
様付けも、呼び捨ても、名前を聞くのだって正直嫌気が差す。出来る事なら土足でズカズカと、視界にすら入って欲しくない。今最も会いたくない雑魚なシャーマンより虫酸が走る渦中の人物だ。
ただハオ様の御前で、"SOFを呼び出し、その瞬間を味わった"というラキスト(こいつ)の言葉が無ければ、誰も耳を傾けなかっただろう。あれだけ気に入らないと口にしていた花組も、一度追い返されて以来奴を様付けで呼ぶようになった。
シャーマンでもない癖に、下等な人間の癖して。
ーーーーー
ぐわんっ、と衝撃を受けたのは早朝の事だった。
耳元で衝撃波を食らったような痛い思いをした。
思わず耳を塞いで、振り返る。
其処に居たのは昨夜ラキストが探しに行かされたであろう人物が立っていた。腕を組んで仁王立ちで。
「何で、テメーが此処に…」
『呼ばれたの。文句ならスッピーに言って』
スッピーとはハオ様の持ち霊であるSOF、の愛称らしい。そう、前にオパチョに聞いた。奴はSOFをそう呼ぶのだと。
「…は?呼ばれた、だ?
また訳の分からねえ事をいけしゃあしゃあと…」
『あら?貴方、私の事嫌いなんでしょ?
良く返事しようと思ったね』
「…あ?」
『あ、あんまり辛いの入れたら舌がバカになる。
あと朝っぱらから中華ってどうなの?』
「うるせぇ!俺の料理にケチつけんな!」
『うっさい!うちにはアホな愚弟だけで十分よ!
アホに舌バカって、もう救いようがないわ!』
「…聞こえてるよ、ハル」
『あ、おはよー』
「おはよう。あと君、来るならもう少し早くおいで」
『あー、ラキスト御愁傷様ですー』
「ラキストしんだ?」
『いや、お疲れ様の意味も込めて』
炒めた具材に唐辛子を一瓶、ハバネロをスプーンで一掬い入れようとしたところでこれだ。ラキストにも前に朝から辛いものをだの愚痴愚痴言われたが、この炒飯にはこの辛さが一番旨いんだ。素人にとやかく言われる筋合いはない。
『だから、入れ過ぎって言ってんでしょーが!』
「はっ!料理も出来ねー素人が口出すんじゃねぇっ!!」
『失礼な!料理ぐらいするわ!あたし何時でも嫁に出せるって婆ちゃんに言われてんのよ!行く気ないけどな!』
「…婆ちゃん?木乃?」
『ちっがぁーうっ!婆ちゃんってのは…!』
キィバか?
『うん。あたしが婆ちゃんって呼ぶの、その人くらい』
「…ハル」
『あ、ノーコメントでー』
また、だ。誰かと話している。
俺には見えない誰かと。それがSOFだっつーから、戸惑いしかない。ハオ様も、それで納得しているらしい。馬鹿馬鹿しい。
『あんたが、あたしを嫌っても別にいい。
あたしも、あんたの持ってる辛いの大っ嫌いだから!』
「………は?」
「くくく…っ、ハル…お前…
言うに事欠いてそれかい?」
『事欠いてないわ!事実よ!』
「うん、僕も。辛過ぎるのは苦手かな?」
「……あ、す、すんませんハオ様!」
「いや…朝から面白いものが見れた。
今日はいい日になりそうだよ、」
…と。ハオ様が背を向けた一瞬。俺の名前を呟きかけた、その前。俺から奪った、奴の手中にあったハバネロの瓶が地に落ちた。
「…………あ?」
赤いドロリとした液体が、奴に踏まれていた草を染める。半分ほど無駄にしたハバネロの辛味が風と一緒に巻き上げられ、近くに居たらしいペヨーテに直撃していた。運が悪い奴め、もろに食らって咳き込んでやがる。
「ハルさま?」
奴が、消えた。忽然と。音も、何の前触れもなく。
「…ハオ様」
ハオ様はこの事を知っていたのだろうか。
…いや、知らなかったようだ。あの僅かに動揺して見開いた目を見れば。
「ハオ様」
神に最も近い方だと畏怖し、敬い、時に崇拝していると言われても否定しなかったが。今この瞬間だけは、やはりハオ様も人の子であると確信出来た。
嗚呼、俺たちシャーマンと何も変わらない。
ただケタ違いに強いって事を除けば。
何てことはない、いつも通りだ。今日も。
弱いシャーマンに勝って、狩る。
最近手に入れたこのオラクルベルの出番はない。そんなもんに頼らなくても、この相手が雑魚だって事は知っていた。誰が見ても、俺が勝つのは当然の結果だった。
「お疲れさま。また明日も頼むよ」
ハオ一派と一括りにされる仲間の元に戻る。
各方面に散らばる奴らの帰りはバラバラ。
戻った順から報告を済ませ、ラキスト手製の晩飯を食らう。不味くはないが、如何せん辛さが足りない。今度マイ唐辛子でも買ってくるか。
「ザンチン、ちょっといいか?」
「あ?」
森の開けた場所、星空がよく見える岩場で寛ぐハオ様とオパチョから随分離れた場所を陣取って重い腰を下ろす。普段より更に膨れた腹を忌々しく思いながら、今更ながら昔抱いた夢を思い出した。今考えると碌でもない夢であったと、心底嫌な気分になって溜め息を吐き出す。まるで当時の夢を忘れてしまえと願うように。そんな時に掛かって声に、喧嘩越しになるのは仕方ない。俺は全く悪くねぇ。
「早朝用があってな、朝食を頼みたい」
「…奴絡みか?」
「まぁ、そう邪険にするな」
奴、とはハオ様お気に入りの例の奴の事だ。
シャーマンではない雑魚の癖に何故かハオ様に構われる日常を良く思わないのは、何も俺だけじゃない。
様付けも、呼び捨ても、名前を聞くのだって正直嫌気が差す。出来る事なら土足でズカズカと、視界にすら入って欲しくない。今最も会いたくない雑魚なシャーマンより虫酸が走る渦中の人物だ。
ただハオ様の御前で、"SOFを呼び出し、その瞬間を味わった"というラキスト(こいつ)の言葉が無ければ、誰も耳を傾けなかっただろう。あれだけ気に入らないと口にしていた花組も、一度追い返されて以来奴を様付けで呼ぶようになった。
シャーマンでもない癖に、下等な人間の癖して。
ーーーーー
ぐわんっ、と衝撃を受けたのは早朝の事だった。
耳元で衝撃波を食らったような痛い思いをした。
思わず耳を塞いで、振り返る。
其処に居たのは昨夜ラキストが探しに行かされたであろう人物が立っていた。腕を組んで仁王立ちで。
「何で、テメーが此処に…」
『呼ばれたの。文句ならスッピーに言って』
スッピーとはハオ様の持ち霊であるSOF、の愛称らしい。そう、前にオパチョに聞いた。奴はSOFをそう呼ぶのだと。
「…は?呼ばれた、だ?
また訳の分からねえ事をいけしゃあしゃあと…」
『あら?貴方、私の事嫌いなんでしょ?
良く返事しようと思ったね』
「…あ?」
『あ、あんまり辛いの入れたら舌がバカになる。
あと朝っぱらから中華ってどうなの?』
「うるせぇ!俺の料理にケチつけんな!」
『うっさい!うちにはアホな愚弟だけで十分よ!
アホに舌バカって、もう救いようがないわ!』
「…聞こえてるよ、ハル」
『あ、おはよー』
「おはよう。あと君、来るならもう少し早くおいで」
『あー、ラキスト御愁傷様ですー』
「ラキストしんだ?」
『いや、お疲れ様の意味も込めて』
炒めた具材に唐辛子を一瓶、ハバネロをスプーンで一掬い入れようとしたところでこれだ。ラキストにも前に朝から辛いものをだの愚痴愚痴言われたが、この炒飯にはこの辛さが一番旨いんだ。素人にとやかく言われる筋合いはない。
『だから、入れ過ぎって言ってんでしょーが!』
「はっ!料理も出来ねー素人が口出すんじゃねぇっ!!」
『失礼な!料理ぐらいするわ!あたし何時でも嫁に出せるって婆ちゃんに言われてんのよ!行く気ないけどな!』
「…婆ちゃん?木乃?」
『ちっがぁーうっ!婆ちゃんってのは…!』
キィバか?
『うん。あたしが婆ちゃんって呼ぶの、その人くらい』
「…ハル」
『あ、ノーコメントでー』
また、だ。誰かと話している。
俺には見えない誰かと。それがSOFだっつーから、戸惑いしかない。ハオ様も、それで納得しているらしい。馬鹿馬鹿しい。
『あんたが、あたしを嫌っても別にいい。
あたしも、あんたの持ってる辛いの大っ嫌いだから!』
「………は?」
「くくく…っ、ハル…お前…
言うに事欠いてそれかい?」
『事欠いてないわ!事実よ!』
「うん、僕も。辛過ぎるのは苦手かな?」
「……あ、す、すんませんハオ様!」
「いや…朝から面白いものが見れた。
今日はいい日になりそうだよ、」
…と。ハオ様が背を向けた一瞬。俺の名前を呟きかけた、その前。俺から奪った、奴の手中にあったハバネロの瓶が地に落ちた。
「…………あ?」
赤いドロリとした液体が、奴に踏まれていた草を染める。半分ほど無駄にしたハバネロの辛味が風と一緒に巻き上げられ、近くに居たらしいペヨーテに直撃していた。運が悪い奴め、もろに食らって咳き込んでやがる。
「ハルさま?」
奴が、消えた。忽然と。音も、何の前触れもなく。
「…ハオ様」
ハオ様はこの事を知っていたのだろうか。
…いや、知らなかったようだ。あの僅かに動揺して見開いた目を見れば。
「ハオ様」
神に最も近い方だと畏怖し、敬い、時に崇拝していると言われても否定しなかったが。今この瞬間だけは、やはりハオ様も人の子であると確信出来た。
嗚呼、俺たちシャーマンと何も変わらない。
ただケタ違いに強いって事を除けば。