14.何時もの事
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
act.14-①:今、この瞬間(とき)
口を酸っぱくして再三言ってきた。声を特大にして遠くまで聞こえるように、宣言してきた。
「あたしはシャーマンじゃないから、視えないよ」って。
中学時の修学旅行で、当時日本一怖いと言われるお化け屋敷でも、全部作り物だって知っていたから怖さは軽減されてたし、悪寒もなく、割りと余裕を持って出口まで辿り着く事が出来た。クラスの女子に「凄い!」と感心されながら、男子に「鈍い」と馬鹿にされながら。
高校生に成り立ての頃「霊感がない」と話す自分を面白がって(普通逆だと思うが)上級生が捕まえて、玩具の手錠と目隠しで連行された先がテレビで有名な心霊スポットであったとしても。
もちろん独り置き去りにされたよ。懐中電灯も帰る術もない状態で、真っ暗闇の中でぽつんとね。朝になっても帰れる保証は何処にもないし、既に廃村となった区域の一角だったから、助けを呼ぼうにも出来ない。お金もない。電話もない。しかも雨が降ってきた。
まだ春先だった事もあって夜になれば肌寒かったし、雨具も当然ないから仕方なしにその、嘗て家だったものに入る事にした。
第一印象は想像以上に汚かった事。勇敢(バカ)なのか勇気(アホ)だかを振りかざして、肝試しやったんだろう後が見てとれる。どの部屋に行っても。これなら荒らされる前の住人達に祟られても文句は言えないなぁ、と呑気に考えていた。その時は。
取り敢えずあたしは無事だった。何となく胸騒ぎを感じたらしい見慣れた顔が数人やって来てみれば・・・といった感じ。その結果だけを要約すれば、頭を抱えて項垂れた後でマリアナ海港並みに深っかい溜め息を、這うように吐いた愚弟の珍しい姿を目撃する事となった。
いやぁ、ホント分からないって役得。
そう呟いた自分の額に未来王のチョップが降って来たのは実に痛い思い出だ。
因みに翌日は平気な顔して登校した。何事もなかったかのように。それに驚いたのは計画を企てた連中。即座に呼び出されたから、予め愚弟に覚えさせられた言葉を呟いた。それを相手が聞き取れなくても構わない。ただ、音として形になればいいと。
その後連中は不登校になった。原因は分からないが、直前まで自分も一緒に居た目撃情報が寄せられ、問い詰められたが答えられず。そりゃそうだ、何せ上級生を追い詰めた犯人達は既に常世の住人。捕まる筈はないし、誰がそんな話を信じよう。
…という訳で、晴れて自分も停学処分を受ける運びとなったのである。大人しく白状すれば自主的な休学扱いにしてやってもいい、とは言われてはいるが、明らかな上から目線な物言いにイラッと来たので端からその選択肢を頭から除外した。
さて、話は逸れたが此処で先程の爺の言葉を思い出して欲しい。「学校も行かずにフラフラと」、そう此処である。本家並びに両親にさえ停学処分の内容は伝えてはいないのだ。本家・麻倉が目の敵にしている人物を想えばこそと言えば聞こえはいいが、正直な話あたし自身本家とは関わりたくはないのだ。あ、葉は別。あの子は従兄弟であり、年の近い弟であり、あたしを慕ってくれる可愛さを持ち合わせているから。年相応に見えないとか、ゆるゆるーっとしてる癖に何か考えてそうな所だとか。語りだしたら長いよー?
たまおよりアンナより長いかもしれない。ただ、その過半数は「可愛い」を連呼するだけだろうけど。
『あたしがまだシャーマンだと、どの口が言う?』
「…っ!では逆に聞きたい。葉が言った"神様と知り合い"、その言葉はどう言い訳するつもりじゃ?」
『神様?嗚呼、カミサマ…上様ね。あたしに旅に出る決心をくれた恩人なの』
「なん…じゃと?」
『本人曰く"殿様みたいだから嫌だ"って事なんで、上様って書いてカミサマって呼ぶようにしてるよ』
「…っ、紛らわしい!では何故その事を自慢気に葉に話したのだ?!」
『嗚呼、それは上様がシャーマンファイトを運営する人達の血縁者だからじゃないかなぁ?ほら、葉も何れはシャーマンキングを目指すんでしょ?なら知識として知っておいた方がいいかと思って』
紛らわしい、と言えばそうかも知れない。まさか"上"を"カミ"とは呼ばないだろうと、文句を言われるのは別にいい。ただ何処まで"上様"という恩人に興味を示すかが鍵となる。特にこれから先は、余計な首を突っ込む奴ほど得をする。
「あの…葉明様?」
『およ?終わり?』
「…嗚呼、それを聞いてお前を連れ戻すという意欲が削がれた。もう何処へなりと行け」
『よっしゃ!んじゃ、あたし友達と待ち合わせてるから!これにて失礼、ほんじゃーねー!』
「え、えぇっ?!あ、あの…!」
随分後で聞いた話だけど、誰が例えたか蝗の大群。物凄い数の式神たちは散り散りに、一応祖父もあたしに背を向けたっきり振り向きもしない。慌てるのは、たまおちゃん唯一人。
「(なんでまた上様なんて嘘を?)」
『(嘘じゃないよ、半分はホント)』
「(まぁ、確かに。あのお方は我らの神様であり、お前の上様だな)」
『(そうそう)』
トゥエガ曰く初代の話である。
彼女は今のあたしの恩人であり、神様でもある。愚弟曰くの全知全能という存在。けれど彼女はそれに首を振って否定の意を示す。
"神様になった覚えはないから"と。
ーーーーー
「葉様には、その…お会いにならないのですか?」
座敷に放置された鞄を手に取る自分を、少し離れた場所から見ていた少女は、葉が黄泉の穴へ修行に行ってしまった事を教えてくれた。ついでに死に近い場所で、一人淋しい思いをして、そんな場所へ連れ出した爺にモヤモヤした不信感を抱いた事も。
『葉なら大丈夫。あの子の事だから戻って来て直ぐに”腹へったー"って言うと思うな』
だから是非その腕によりをかけて、葉たちに美味しいご飯を振る舞って欲しいのだと。
それについて少女は力強く頷く事で応えた。
『世の中理不尽な事だらけだよ』
何の脈絡もなく、ふとそんな事を口にしてみた。一応、曲がりなりにも孫の出発なのに、自分の思い通りにならない子供みたいな態度を取る爺は結局見送りにも来なかった。そんな時、たまおの顔を見たので、今、この時に伝えておきたかった事がある。
『シャーマンじゃない自分が言うのも可笑しいかも知れないんだけどさ』
相手を想って自ら行動したはいいけど、それを相手は望んでなかったとか。相手の大切なものを護りきれなかった時とか。相手の考えや想いを汲みきれなかった時とか。あとは自分の考えを押し付けてしまった時とか。
それが誰の事を指しているかなんて、名前は出さなかったけど。でも彼女なら分かってくれるだろうと、敢えて言葉を暈(ぼか)した。
『それがシャーマンでも、一般人相手でも。思った通りにならないからって、今の誰かさんみたいに拗ねるだけが能じゃないでしょう?
その一瞬を悔やむより、その先を見据えて。自分に何が出来るか、また自分が何をすべきか考えて行動できるようになると世界が違って見える時があるんだよね。あたしはその一巡した後の世界を目指して旅してるの。誰がなっても関係ない、問題なのは今この瞬間がどう未来に繋がるか』
「今…」
『自分でもね、変な事言ってる自覚はあるよ。
でもね、こんな時じゃないと話せないだろうなぁって思ったから。あとは今、話しておきたかったんだ、あたしが』
自己満足ってやつ?
おどけたように笑って、振り返って見た少女の顔は、決して馬鹿にしたような顔ではなかった。あたしの、頭が可笑しい人みたいな言葉を必死に飲み込もうとしてくれている顔。だからその時思ったんだ、嗚呼この子は心身共に何れ強くなるなぁって。
友達(まん太)しかり。こんなにも想ってくれる仲間が彼の傍に居るなら、これから先の瞬間(シーン)にあたしの出る幕は殆ど無いだろう。
口を酸っぱくして再三言ってきた。声を特大にして遠くまで聞こえるように、宣言してきた。
「あたしはシャーマンじゃないから、視えないよ」って。
中学時の修学旅行で、当時日本一怖いと言われるお化け屋敷でも、全部作り物だって知っていたから怖さは軽減されてたし、悪寒もなく、割りと余裕を持って出口まで辿り着く事が出来た。クラスの女子に「凄い!」と感心されながら、男子に「鈍い」と馬鹿にされながら。
高校生に成り立ての頃「霊感がない」と話す自分を面白がって(普通逆だと思うが)上級生が捕まえて、玩具の手錠と目隠しで連行された先がテレビで有名な心霊スポットであったとしても。
もちろん独り置き去りにされたよ。懐中電灯も帰る術もない状態で、真っ暗闇の中でぽつんとね。朝になっても帰れる保証は何処にもないし、既に廃村となった区域の一角だったから、助けを呼ぼうにも出来ない。お金もない。電話もない。しかも雨が降ってきた。
まだ春先だった事もあって夜になれば肌寒かったし、雨具も当然ないから仕方なしにその、嘗て家だったものに入る事にした。
第一印象は想像以上に汚かった事。勇敢(バカ)なのか勇気(アホ)だかを振りかざして、肝試しやったんだろう後が見てとれる。どの部屋に行っても。これなら荒らされる前の住人達に祟られても文句は言えないなぁ、と呑気に考えていた。その時は。
取り敢えずあたしは無事だった。何となく胸騒ぎを感じたらしい見慣れた顔が数人やって来てみれば・・・といった感じ。その結果だけを要約すれば、頭を抱えて項垂れた後でマリアナ海港並みに深っかい溜め息を、這うように吐いた愚弟の珍しい姿を目撃する事となった。
いやぁ、ホント分からないって役得。
そう呟いた自分の額に未来王のチョップが降って来たのは実に痛い思い出だ。
因みに翌日は平気な顔して登校した。何事もなかったかのように。それに驚いたのは計画を企てた連中。即座に呼び出されたから、予め愚弟に覚えさせられた言葉を呟いた。それを相手が聞き取れなくても構わない。ただ、音として形になればいいと。
その後連中は不登校になった。原因は分からないが、直前まで自分も一緒に居た目撃情報が寄せられ、問い詰められたが答えられず。そりゃそうだ、何せ上級生を追い詰めた犯人達は既に常世の住人。捕まる筈はないし、誰がそんな話を信じよう。
…という訳で、晴れて自分も停学処分を受ける運びとなったのである。大人しく白状すれば自主的な休学扱いにしてやってもいい、とは言われてはいるが、明らかな上から目線な物言いにイラッと来たので端からその選択肢を頭から除外した。
さて、話は逸れたが此処で先程の爺の言葉を思い出して欲しい。「学校も行かずにフラフラと」、そう此処である。本家並びに両親にさえ停学処分の内容は伝えてはいないのだ。本家・麻倉が目の敵にしている人物を想えばこそと言えば聞こえはいいが、正直な話あたし自身本家とは関わりたくはないのだ。あ、葉は別。あの子は従兄弟であり、年の近い弟であり、あたしを慕ってくれる可愛さを持ち合わせているから。年相応に見えないとか、ゆるゆるーっとしてる癖に何か考えてそうな所だとか。語りだしたら長いよー?
たまおよりアンナより長いかもしれない。ただ、その過半数は「可愛い」を連呼するだけだろうけど。
『あたしがまだシャーマンだと、どの口が言う?』
「…っ!では逆に聞きたい。葉が言った"神様と知り合い"、その言葉はどう言い訳するつもりじゃ?」
『神様?嗚呼、カミサマ…上様ね。あたしに旅に出る決心をくれた恩人なの』
「なん…じゃと?」
『本人曰く"殿様みたいだから嫌だ"って事なんで、上様って書いてカミサマって呼ぶようにしてるよ』
「…っ、紛らわしい!では何故その事を自慢気に葉に話したのだ?!」
『嗚呼、それは上様がシャーマンファイトを運営する人達の血縁者だからじゃないかなぁ?ほら、葉も何れはシャーマンキングを目指すんでしょ?なら知識として知っておいた方がいいかと思って』
紛らわしい、と言えばそうかも知れない。まさか"上"を"カミ"とは呼ばないだろうと、文句を言われるのは別にいい。ただ何処まで"上様"という恩人に興味を示すかが鍵となる。特にこれから先は、余計な首を突っ込む奴ほど得をする。
「あの…葉明様?」
『およ?終わり?』
「…嗚呼、それを聞いてお前を連れ戻すという意欲が削がれた。もう何処へなりと行け」
『よっしゃ!んじゃ、あたし友達と待ち合わせてるから!これにて失礼、ほんじゃーねー!』
「え、えぇっ?!あ、あの…!」
随分後で聞いた話だけど、誰が例えたか蝗の大群。物凄い数の式神たちは散り散りに、一応祖父もあたしに背を向けたっきり振り向きもしない。慌てるのは、たまおちゃん唯一人。
「(なんでまた上様なんて嘘を?)」
『(嘘じゃないよ、半分はホント)』
「(まぁ、確かに。あのお方は我らの神様であり、お前の上様だな)」
『(そうそう)』
トゥエガ曰く初代の話である。
彼女は今のあたしの恩人であり、神様でもある。愚弟曰くの全知全能という存在。けれど彼女はそれに首を振って否定の意を示す。
"神様になった覚えはないから"と。
ーーーーー
「葉様には、その…お会いにならないのですか?」
座敷に放置された鞄を手に取る自分を、少し離れた場所から見ていた少女は、葉が黄泉の穴へ修行に行ってしまった事を教えてくれた。ついでに死に近い場所で、一人淋しい思いをして、そんな場所へ連れ出した爺にモヤモヤした不信感を抱いた事も。
『葉なら大丈夫。あの子の事だから戻って来て直ぐに”腹へったー"って言うと思うな』
だから是非その腕によりをかけて、葉たちに美味しいご飯を振る舞って欲しいのだと。
それについて少女は力強く頷く事で応えた。
『世の中理不尽な事だらけだよ』
何の脈絡もなく、ふとそんな事を口にしてみた。一応、曲がりなりにも孫の出発なのに、自分の思い通りにならない子供みたいな態度を取る爺は結局見送りにも来なかった。そんな時、たまおの顔を見たので、今、この時に伝えておきたかった事がある。
『シャーマンじゃない自分が言うのも可笑しいかも知れないんだけどさ』
相手を想って自ら行動したはいいけど、それを相手は望んでなかったとか。相手の大切なものを護りきれなかった時とか。相手の考えや想いを汲みきれなかった時とか。あとは自分の考えを押し付けてしまった時とか。
それが誰の事を指しているかなんて、名前は出さなかったけど。でも彼女なら分かってくれるだろうと、敢えて言葉を暈(ぼか)した。
『それがシャーマンでも、一般人相手でも。思った通りにならないからって、今の誰かさんみたいに拗ねるだけが能じゃないでしょう?
その一瞬を悔やむより、その先を見据えて。自分に何が出来るか、また自分が何をすべきか考えて行動できるようになると世界が違って見える時があるんだよね。あたしはその一巡した後の世界を目指して旅してるの。誰がなっても関係ない、問題なのは今この瞬間がどう未来に繋がるか』
「今…」
『自分でもね、変な事言ってる自覚はあるよ。
でもね、こんな時じゃないと話せないだろうなぁって思ったから。あとは今、話しておきたかったんだ、あたしが』
自己満足ってやつ?
おどけたように笑って、振り返って見た少女の顔は、決して馬鹿にしたような顔ではなかった。あたしの、頭が可笑しい人みたいな言葉を必死に飲み込もうとしてくれている顔。だからその時思ったんだ、嗚呼この子は心身共に何れ強くなるなぁって。
友達(まん太)しかり。こんなにも想ってくれる仲間が彼の傍に居るなら、これから先の瞬間(シーン)にあたしの出る幕は殆ど無いだろう。