14.何時もの事
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NG:act.14-①-sideヒロイン
『へい、タクシー!』
人里離れた山奥の獣道で、何の気配もしない場所で空に向かって声を上げたら、
「…僕のスピリット・オブ・ファイアを足代わりに使わないでくれないか?」
なーんて、物凄く嫌そうな声が降って来た。そんな声の主の傍らには、小さな影も見える。
『失礼な!あたしはあんたを呼んだ訳じゃないわ愚弟!』
「はは…麻倉に行っても調子は相変わらずみたいだね、安心したよ」
『何か変わって欲しかったの?』
「…いや?君はそのままで居てくれ」
『よし、言質取った!』
「…は?」
『"あたしはあたしのままで居る"。今更この性格を変えようったって、無理な話よ』
「確かに…」
散歩中だったのか、本当にあたしが呼び出してしまったのかは定かじゃないけど。ハオも、あたしを覗き込むようにして見下ろすオパチョも変わらず元気そうで良かった。たった一週間かそこいらの間だったけど、まぁ、お互い無病息災が一番だろう。
俺ヲ呼ビ出シタ、用件ヲ聞コウ…
彼が(比喩で)口を開いたのは、ちょっと拓けた場所で二人が降りて来た後の事。分かりやすく例えるならテレパシーみたいなもので、此方も変わらず、あたしの耳にしか届かない。
『"あの子"をお願い』
…オ前ハ?
『あたしは降りる』
……承知
「何処に、行こうって?」
『…へ?何が?あ、今から?えーっとねー…』
「…その後だよ」
『え?普通に旅の続きを…』
首を傾げた自分の態度を見て、あからさまに深い深い溜め息をひとつ。一体何だって言うんだ。
「ハルさま、どこかいく?」
『出雲大社(いずもおおやしろ)だよ?
せっかく出雲に来たってのに、直ぐ帰るの勿体無いでしょ』
「おぱちょもいく!」
『いいよ、行こっか!』
「うん!ハオさまも!」
膝ほどしかない、小さなオパチョと手を繋ぐ。ぷにぷにして柔らかくて、可愛い。
「…僕はいいよ」
…人里ハ、ハオ様ニハ酷ダ
『それは、オパチョもでは?』
「?」
『…まあ、大丈夫でしょ。うん。
だって、会うのは人間じゃないもの』
…誰ダ?
『行ってからのお楽しみ~!』
ーーーーーー
「…此処は」
何だかんだとごねた結果、結局くっついて来た愚弟が立ち止まったのは大きな大きな鳥居の前。狐と狸が居ない、その代わりでは無いが其処に在(い)たのは…
『久しぶりー爺ちゃん!』
おお、お前さんか。いやはや、いつぶりかの?
『10年以上ぶりだよー』
まだそんなものか。いや、人間の立場になると永いのか?
『どーだろ…人によるのでは?』
鳥居の片隅にひっそりと座る、オパチョより少しばかり大きいが比較的小柄な老人。いや、老神。出雲大社付近の土地神で、男女の縁を結ぶと云われる月下翁(げっかおう)、またの名を月下氷人(げっかひょうじん)という。
「ハル」
呼ばれて振り返る。そう言えば、今日は1人じゃないんだった。
ほう、こいつがスピッツなんとかじゃな?
『スピリット・オブ・ファイアだよ、爺ちゃん』
いやいやすまん、年寄りに横文字は難しくてなぁ
『年寄りって、こいつも年寄りだよ?ねぇ?』
「…喧嘩売ってる?」
『売ったつもりはないなぁ。でも…傷付けたならゴメン』
眉間に皺(シワ)を作って目尻を僅かに下げる弟の頭に手を置く、だけ。撫でる事はしない。本当は撫でてやりたいけど、それはあたしの役目じゃないし、荷が重い気がする。今は。
『年寄りだけどさ。今その身体じゃあ、あたしに言わせれば年下なんだよね。まぁ、頭の中や知識なんかは溜め込んでるんだとは思うんだけど』
きっと頭の中がハテナだらけだろうオパチョを抱き上げて、そのまま奴に渡す。受け取った瞬間、口を開きかけてまた閉じる。言いたい事は分かるつもりだ。「何処へ?」と多分、言いたかったんだと思う。
『あたしさ、やりたい事があるんだよね。
約束したってのもあるんだけど、それがどーーっしても1人で行かなきゃいけない場所でさ。いや、行った事はまだないんだけども』
「行っておいで」と、あの時言われた。それは「世界へ旅に出る」だけではなく、「シャーマンを探す旅」でもなく、「(役目を果たしに)行っておいで」という事。「(存分に)楽しんでおいで」とも。
役目とは、あたし単独では成し得ない難しい課題である。小学生くらいの内容で、初めてのお使いのようにも感じる。けれど課題そのものは難しく、まるで受験生のよう。大学受験、残念ながら未経験だけど。
「ハル」
『なーにー?』
「あげる」
手を繋ぐように渡されたのは、不揃いな石が連なったアクセサリー。腕輪念珠。色は夕焼け色。グラデーションになっていて、山吹色から茜、紅から紫に変わり紺色へ。そして、また山吹色まで一周。全ての石には入ってないけど、色が濃く、夜になるにつれて星を模した白い斑点が見える。それを徐に左手首に通され、一言二言何か呟く。その後で、ひんやりとした光を伴った気がした。
『何事?』
「御守りだよ」
呪いかと思った、元陰陽師だし。
「違うよ。旅の安全祈願」
「自分から離れた場所に行くなら、身に付けておいて欲しい」と。初めて着けたにしては妙に違和感がなく、何故か既に腕に馴染んでいた。きっと何かしたんだろうなぁ。
相変わらず視えないSOFと、視界の隅に鎮座する神様。それご精霊か神様かの違いだけではない事くらい、きっと愚弟も勘づいてる筈だ。爺ちゃんはこっち側、対してSOFは元あっちで今はそっち。こっちの事情を知る相手って事で、譲歩してあたしと会話が出来るんだけど。それも視えていないから、あたしは何時も声の音量を頼りに、多分其処に在るだろう方向に向かって話していただけ。
『へい、タクシー!』
人里離れた山奥の獣道で、何の気配もしない場所で空に向かって声を上げたら、
「…僕のスピリット・オブ・ファイアを足代わりに使わないでくれないか?」
なーんて、物凄く嫌そうな声が降って来た。そんな声の主の傍らには、小さな影も見える。
『失礼な!あたしはあんたを呼んだ訳じゃないわ愚弟!』
「はは…麻倉に行っても調子は相変わらずみたいだね、安心したよ」
『何か変わって欲しかったの?』
「…いや?君はそのままで居てくれ」
『よし、言質取った!』
「…は?」
『"あたしはあたしのままで居る"。今更この性格を変えようったって、無理な話よ』
「確かに…」
散歩中だったのか、本当にあたしが呼び出してしまったのかは定かじゃないけど。ハオも、あたしを覗き込むようにして見下ろすオパチョも変わらず元気そうで良かった。たった一週間かそこいらの間だったけど、まぁ、お互い無病息災が一番だろう。
俺ヲ呼ビ出シタ、用件ヲ聞コウ…
彼が(比喩で)口を開いたのは、ちょっと拓けた場所で二人が降りて来た後の事。分かりやすく例えるならテレパシーみたいなもので、此方も変わらず、あたしの耳にしか届かない。
『"あの子"をお願い』
…オ前ハ?
『あたしは降りる』
……承知
「何処に、行こうって?」
『…へ?何が?あ、今から?えーっとねー…』
「…その後だよ」
『え?普通に旅の続きを…』
首を傾げた自分の態度を見て、あからさまに深い深い溜め息をひとつ。一体何だって言うんだ。
「ハルさま、どこかいく?」
『出雲大社(いずもおおやしろ)だよ?
せっかく出雲に来たってのに、直ぐ帰るの勿体無いでしょ』
「おぱちょもいく!」
『いいよ、行こっか!』
「うん!ハオさまも!」
膝ほどしかない、小さなオパチョと手を繋ぐ。ぷにぷにして柔らかくて、可愛い。
「…僕はいいよ」
…人里ハ、ハオ様ニハ酷ダ
『それは、オパチョもでは?』
「?」
『…まあ、大丈夫でしょ。うん。
だって、会うのは人間じゃないもの』
…誰ダ?
『行ってからのお楽しみ~!』
ーーーーーー
「…此処は」
何だかんだとごねた結果、結局くっついて来た愚弟が立ち止まったのは大きな大きな鳥居の前。狐と狸が居ない、その代わりでは無いが其処に在(い)たのは…
『久しぶりー爺ちゃん!』
おお、お前さんか。いやはや、いつぶりかの?
『10年以上ぶりだよー』
まだそんなものか。いや、人間の立場になると永いのか?
『どーだろ…人によるのでは?』
鳥居の片隅にひっそりと座る、オパチョより少しばかり大きいが比較的小柄な老人。いや、老神。出雲大社付近の土地神で、男女の縁を結ぶと云われる月下翁(げっかおう)、またの名を月下氷人(げっかひょうじん)という。
「ハル」
呼ばれて振り返る。そう言えば、今日は1人じゃないんだった。
ほう、こいつがスピッツなんとかじゃな?
『スピリット・オブ・ファイアだよ、爺ちゃん』
いやいやすまん、年寄りに横文字は難しくてなぁ
『年寄りって、こいつも年寄りだよ?ねぇ?』
「…喧嘩売ってる?」
『売ったつもりはないなぁ。でも…傷付けたならゴメン』
眉間に皺(シワ)を作って目尻を僅かに下げる弟の頭に手を置く、だけ。撫でる事はしない。本当は撫でてやりたいけど、それはあたしの役目じゃないし、荷が重い気がする。今は。
『年寄りだけどさ。今その身体じゃあ、あたしに言わせれば年下なんだよね。まぁ、頭の中や知識なんかは溜め込んでるんだとは思うんだけど』
きっと頭の中がハテナだらけだろうオパチョを抱き上げて、そのまま奴に渡す。受け取った瞬間、口を開きかけてまた閉じる。言いたい事は分かるつもりだ。「何処へ?」と多分、言いたかったんだと思う。
『あたしさ、やりたい事があるんだよね。
約束したってのもあるんだけど、それがどーーっしても1人で行かなきゃいけない場所でさ。いや、行った事はまだないんだけども』
「行っておいで」と、あの時言われた。それは「世界へ旅に出る」だけではなく、「シャーマンを探す旅」でもなく、「(役目を果たしに)行っておいで」という事。「(存分に)楽しんでおいで」とも。
役目とは、あたし単独では成し得ない難しい課題である。小学生くらいの内容で、初めてのお使いのようにも感じる。けれど課題そのものは難しく、まるで受験生のよう。大学受験、残念ながら未経験だけど。
「ハル」
『なーにー?』
「あげる」
手を繋ぐように渡されたのは、不揃いな石が連なったアクセサリー。腕輪念珠。色は夕焼け色。グラデーションになっていて、山吹色から茜、紅から紫に変わり紺色へ。そして、また山吹色まで一周。全ての石には入ってないけど、色が濃く、夜になるにつれて星を模した白い斑点が見える。それを徐に左手首に通され、一言二言何か呟く。その後で、ひんやりとした光を伴った気がした。
『何事?』
「御守りだよ」
呪いかと思った、元陰陽師だし。
「違うよ。旅の安全祈願」
「自分から離れた場所に行くなら、身に付けておいて欲しい」と。初めて着けたにしては妙に違和感がなく、何故か既に腕に馴染んでいた。きっと何かしたんだろうなぁ。
相変わらず視えないSOFと、視界の隅に鎮座する神様。それご精霊か神様かの違いだけではない事くらい、きっと愚弟も勘づいてる筈だ。爺ちゃんはこっち側、対してSOFは元あっちで今はそっち。こっちの事情を知る相手って事で、譲歩してあたしと会話が出来るんだけど。それも視えていないから、あたしは何時も声の音量を頼りに、多分其処に在るだろう方向に向かって話していただけ。