12.大切な人の大事な人
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
act.12-①:鬼ごっこは得意分野
迷路みたいだと思った。くねくねと、あちこち歩いては壁にぶつかり、方向転換して擦り付けて行く。
それをトゥエガは「器用」だと例えた。
石牢から抜け出したのは静かな夜だった。
寝静まった後なのか、たまたま夕飯時だったのかは定かではないが、周囲に何の気配も無い時に決行した。まるで忍者のように。
音を立てては何もかも無駄になるから、トゥエガ曰く「見張り」が居ない隙をついた。
見張り、とは祖父の小鬼である。
見えない、感じない。そんな当たり前が、此処では日常茶飯事だ。ごく普通に、一般常識とかけ離れた知識が、能力が、この家での当たり前なのだ。
まるで、あたしだけが取り残されたように感じてしまう。そんな事を思う時がある。たまに「飄々としている」と表現される事もあるけど、全ての場面でそれは当て嵌まらない。
「12秒後に左方向」
『はいよ』
物陰に隠れて機会を窺う。
壁を透過する彼らに死角があるかは分からないけど、此処は素直に先人の知恵を拝借しようじゃないか。伊達に、当時のSFという戦場を掻い潜って無傷で生き延びた奴の言う事は違う。
今はどんなシャーマンが居るのか、どういったルールがあるのか。など、様々な事に興味津々なトゥエガの隣で息を潜めた。
けれど人差し指を口に、指示を出したイケメンがこんな近くに居たんじゃ、慣れてないと正直きつい。何がって?そりゃ、変に緊張して動きが怪しくなるっていう事でしょ。
ちなみにトゥエガの容姿を簡単に説明しますと、健康的に日焼けした色黒の細マッチョなイケメンです。髪は黒ですがね。そして衣装は当時の十祭司特有のアレ。動いたり、風が吹くと引き締まった二の腕がチラリとな。あと男の癖に項(うなじ)がエロいんだよ、お前!
「何処へ向かうんだ?」
『さっき居た場所より更に下、旧友と待ち合わせてるのさ』
「へぇ、アサクラ(ここ)に友人がねぇ」
『うん。"こっち"の事情を知る、数少ないお友だちさんですたい』
地下への入り口が何処かに有ったはず、ただ何処に在るかまでは分からないので、こうして迷っているのだが。
『お?』
飛び込んだ先は台所だった。
棚にはシンプルだけど高そうな和食器、鍋にフライパン、圧力鍋まで多種多様。僅かなに濡れたグラスが網目状のカゴにひっくり返されており、既に夕飯を済ませた後だと知る。
「あー、腹減ったなぁ」
こいつも死者の癖に器用である。普通お腹は空かないだろうに。そう言えば婆ちゃん、キィバも良く煎餅をバリバリ食べているから器用の部類か。
『明日用かな?』
作り手は果たして誰によるものなのか、未だ見ぬ人物である事には違いない。それも女の子、此処には彼女が記憶した残滓が漂っていた。
「視えるのか?」
『うん』
"こっち"の連中は想いを具現化する事に長けている。目には見えない心を視る事に特化した能力で、相手の動きをいち早く掴んで先へ先へと回り込んで退路を断つ。そうする事で、動きを完全封鎖してしまうのだ。まるで蜘蛛の巣、または食中植物かそこら辺。
『ほぅ、許嫁候補とな?』
叔父さんが連れてきたピンク色の髪を持つ内気な少女、葉に一途な想いを抱いており、近くで支えたいと。
「ん?許嫁なら既に決まってなかったか?」
『うん、アンにね。例え選ばれなかったとしても、その想いは本物って事だよ』
「いやぁ、若いねぇ」
『そうだねぇ、トゥエガも生きてりゃモテモテだったろうにねぇ』
「俺はいいの」
『あら、残念』
不可視なスクリーンに映し出された少女もまたシャーマンであると言うが、傍らには持ち霊なんて存在は居らず。まぁ、此処は女の城と呼ばれた台所だし、機会が有れば何時か会う事もあるだろうと踏む。
『この子は家庭向きなんだねぇ』
こう、専業主婦的な。
けれど何故だろう、その行く末を視た瞬間、思わず苦笑いが溢れた。
迷路みたいだと思った。くねくねと、あちこち歩いては壁にぶつかり、方向転換して擦り付けて行く。
それをトゥエガは「器用」だと例えた。
石牢から抜け出したのは静かな夜だった。
寝静まった後なのか、たまたま夕飯時だったのかは定かではないが、周囲に何の気配も無い時に決行した。まるで忍者のように。
音を立てては何もかも無駄になるから、トゥエガ曰く「見張り」が居ない隙をついた。
見張り、とは祖父の小鬼である。
見えない、感じない。そんな当たり前が、此処では日常茶飯事だ。ごく普通に、一般常識とかけ離れた知識が、能力が、この家での当たり前なのだ。
まるで、あたしだけが取り残されたように感じてしまう。そんな事を思う時がある。たまに「飄々としている」と表現される事もあるけど、全ての場面でそれは当て嵌まらない。
「12秒後に左方向」
『はいよ』
物陰に隠れて機会を窺う。
壁を透過する彼らに死角があるかは分からないけど、此処は素直に先人の知恵を拝借しようじゃないか。伊達に、当時のSFという戦場を掻い潜って無傷で生き延びた奴の言う事は違う。
今はどんなシャーマンが居るのか、どういったルールがあるのか。など、様々な事に興味津々なトゥエガの隣で息を潜めた。
けれど人差し指を口に、指示を出したイケメンがこんな近くに居たんじゃ、慣れてないと正直きつい。何がって?そりゃ、変に緊張して動きが怪しくなるっていう事でしょ。
ちなみにトゥエガの容姿を簡単に説明しますと、健康的に日焼けした色黒の細マッチョなイケメンです。髪は黒ですがね。そして衣装は当時の十祭司特有のアレ。動いたり、風が吹くと引き締まった二の腕がチラリとな。あと男の癖に項(うなじ)がエロいんだよ、お前!
「何処へ向かうんだ?」
『さっき居た場所より更に下、旧友と待ち合わせてるのさ』
「へぇ、アサクラ(ここ)に友人がねぇ」
『うん。"こっち"の事情を知る、数少ないお友だちさんですたい』
地下への入り口が何処かに有ったはず、ただ何処に在るかまでは分からないので、こうして迷っているのだが。
『お?』
飛び込んだ先は台所だった。
棚にはシンプルだけど高そうな和食器、鍋にフライパン、圧力鍋まで多種多様。僅かなに濡れたグラスが網目状のカゴにひっくり返されており、既に夕飯を済ませた後だと知る。
「あー、腹減ったなぁ」
こいつも死者の癖に器用である。普通お腹は空かないだろうに。そう言えば婆ちゃん、キィバも良く煎餅をバリバリ食べているから器用の部類か。
『明日用かな?』
作り手は果たして誰によるものなのか、未だ見ぬ人物である事には違いない。それも女の子、此処には彼女が記憶した残滓が漂っていた。
「視えるのか?」
『うん』
"こっち"の連中は想いを具現化する事に長けている。目には見えない心を視る事に特化した能力で、相手の動きをいち早く掴んで先へ先へと回り込んで退路を断つ。そうする事で、動きを完全封鎖してしまうのだ。まるで蜘蛛の巣、または食中植物かそこら辺。
『ほぅ、許嫁候補とな?』
叔父さんが連れてきたピンク色の髪を持つ内気な少女、葉に一途な想いを抱いており、近くで支えたいと。
「ん?許嫁なら既に決まってなかったか?」
『うん、アンにね。例え選ばれなかったとしても、その想いは本物って事だよ』
「いやぁ、若いねぇ」
『そうだねぇ、トゥエガも生きてりゃモテモテだったろうにねぇ』
「俺はいいの」
『あら、残念』
不可視なスクリーンに映し出された少女もまたシャーマンであると言うが、傍らには持ち霊なんて存在は居らず。まぁ、此処は女の城と呼ばれた台所だし、機会が有れば何時か会う事もあるだろうと踏む。
『この子は家庭向きなんだねぇ』
こう、専業主婦的な。
けれど何故だろう、その行く末を視た瞬間、思わず苦笑いが溢れた。