12.大切な人の大事な人
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act.12-③:是が非でも-side葉明
それは遡る事、3日前ー…
「また、腕を上げたようだな」
「"そ、そんな…!あ、ありがとうございます!"」
味を褒めると、途端に顔を赤らめ、必死で指を動かす様を見て笑った。この性格が何時か改善された暁には、たまおにもこの麻倉の秘密を教えてやってもいいんだが…生憎、未だその時ではないようだ。
「"あ、あの…葉明様!"」
「ん?何じゃ?」
「"朝食を…ハル様にも…その、お持ちしてもいいでしょうか?"」
「(ハル様?)…奴を敬う必要はない」
「"しかし、麻倉の者ですし…"」
「未だそうとは決まっておらん」
およそ10年ぶりに会った孫の顔に、昔見た僅かな面影はあるものの、その姿は儂の身長も上回る1人の女性へと成長していた。
伏せられた目蓋の裏に潜む眼は、果たしてこの状況をどう捉えるのだろうかと密かに思う。シャーマンの一族に産まれながら、能力を持たない一般人。もしそれが事実ならば、彼女にとっての居心地は最悪であろう。
シャーマンではない、けれどシャーマンの素質は十二分にある。この血がサラブレッドと例えられるものではないが、鳶が鷹を生むとも言うし。
シャーマンでなければ、シャーマンであれば、シャーマンであったなら。何度悔いた事か。待望の初孫の誕生にどれ程喜んだ事か。だが、いざ産まれてみれば、対面したその孫がこのザマだ。暴言の1つや2つ、言いたくなるものである。
触れるどころか、近寄る事も、視界に入れる事も避けた。自分の記憶から、麻倉の一族には無い者として見捨てた。その孫が、今同じ敷地内に居る。切り捨てたのも自分。呼び戻したのも、また己の判断なのだ。どの面下げて、これからその孫に向き合おうというのか。
「"葉明様!あの、大変です!"」
普段大人しいたまおが、何やらバタバタと騒がしい。何事かとそちらを向けば、血相を変えて走り寄る。
「"あの、ハル様が…ハル様が牢にいらっしゃいません!"」
「何?!しかし、鍵が…!」
「"はい…鍵は外からしっかり施錠されて…"」
「どういう事じゃ、あの牢に抜け穴を掘ったというのか?!」
「"分かりません!しかし、そのようなものは何処にも…!"」
たまおは嘘をつかん。隠し事を出来るような性格ではないし、何より正直者である。そんな少女が虚言を言い振らすはずはない。
真っ先に向かった石牢、明かりは等間隔に灯された蝋燭の火のみ。そんな中、道具も何も無い状態で脱出など到底出来るものではない。例えシャーマンであっても、難しいだろう。
だが、其処は見事にもぬけの殻。入り口を見張らせていた小鬼に確認するも、おろおろと動揺するのみであった。
「馬鹿な、一体何処へ…?!」
其処でふと、以前葉が放った言葉を思い出した。
「本当かどうか分からんけど、姉ちゃんが言うには…神様の知り合いがいるらしいんよ」
どうにも信じられない話だが、確かに葉は受話器の向こうでそう話していた。
(神様に知り合い…?)
無論、当時は冗談だと思って聞き流していた。そういうのはシャーマンであってこその特権であるし、例えシャーマンでも神と御近づきになれる程の実力なり信頼は、なかなか得られるものではないと。現に麻倉の者で神と称した精霊を持ち霊としているのは幹久くらいだろう。だが、山神とて実際に神としての系譜を連ねる者であるかと聞かれれば、否と答えるはずだ。
では神様とは一体何を表しているのか?
…これは、まさかの事態かも知れん。ひょっとしたら、という可能性が無い訳ではない。だからこそ、儂はハルを呼び戻したのだ。シャーマンではないと突っぱねる孫と、シャーマンとして頑張る孫、どちらを信じるかなんて、火を見るより明らか。
「"あ、あの…葉明様…?"」
「…たまお、この家の何処かに潜むハルを見つけ出せ。家事や掃除は二の次で構わん!」
「は、はい!」
証拠など何処にもないが。それでも儂の信じる孫を信じてみようじゃないか。
それでもし違っていたとしても、この家に住まわせ、シャーマンのなんたるかを叩き込み、シャーマンとしての素質を開花させればいい。荒情事になるが、致し方あるまい。
それが、麻倉の宿命なのだから。
それは遡る事、3日前ー…
「また、腕を上げたようだな」
「"そ、そんな…!あ、ありがとうございます!"」
味を褒めると、途端に顔を赤らめ、必死で指を動かす様を見て笑った。この性格が何時か改善された暁には、たまおにもこの麻倉の秘密を教えてやってもいいんだが…生憎、未だその時ではないようだ。
「"あ、あの…葉明様!"」
「ん?何じゃ?」
「"朝食を…ハル様にも…その、お持ちしてもいいでしょうか?"」
「(ハル様?)…奴を敬う必要はない」
「"しかし、麻倉の者ですし…"」
「未だそうとは決まっておらん」
およそ10年ぶりに会った孫の顔に、昔見た僅かな面影はあるものの、その姿は儂の身長も上回る1人の女性へと成長していた。
伏せられた目蓋の裏に潜む眼は、果たしてこの状況をどう捉えるのだろうかと密かに思う。シャーマンの一族に産まれながら、能力を持たない一般人。もしそれが事実ならば、彼女にとっての居心地は最悪であろう。
シャーマンではない、けれどシャーマンの素質は十二分にある。この血がサラブレッドと例えられるものではないが、鳶が鷹を生むとも言うし。
シャーマンでなければ、シャーマンであれば、シャーマンであったなら。何度悔いた事か。待望の初孫の誕生にどれ程喜んだ事か。だが、いざ産まれてみれば、対面したその孫がこのザマだ。暴言の1つや2つ、言いたくなるものである。
触れるどころか、近寄る事も、視界に入れる事も避けた。自分の記憶から、麻倉の一族には無い者として見捨てた。その孫が、今同じ敷地内に居る。切り捨てたのも自分。呼び戻したのも、また己の判断なのだ。どの面下げて、これからその孫に向き合おうというのか。
「"葉明様!あの、大変です!"」
普段大人しいたまおが、何やらバタバタと騒がしい。何事かとそちらを向けば、血相を変えて走り寄る。
「"あの、ハル様が…ハル様が牢にいらっしゃいません!"」
「何?!しかし、鍵が…!」
「"はい…鍵は外からしっかり施錠されて…"」
「どういう事じゃ、あの牢に抜け穴を掘ったというのか?!」
「"分かりません!しかし、そのようなものは何処にも…!"」
たまおは嘘をつかん。隠し事を出来るような性格ではないし、何より正直者である。そんな少女が虚言を言い振らすはずはない。
真っ先に向かった石牢、明かりは等間隔に灯された蝋燭の火のみ。そんな中、道具も何も無い状態で脱出など到底出来るものではない。例えシャーマンであっても、難しいだろう。
だが、其処は見事にもぬけの殻。入り口を見張らせていた小鬼に確認するも、おろおろと動揺するのみであった。
「馬鹿な、一体何処へ…?!」
其処でふと、以前葉が放った言葉を思い出した。
「本当かどうか分からんけど、姉ちゃんが言うには…神様の知り合いがいるらしいんよ」
どうにも信じられない話だが、確かに葉は受話器の向こうでそう話していた。
(神様に知り合い…?)
無論、当時は冗談だと思って聞き流していた。そういうのはシャーマンであってこその特権であるし、例えシャーマンでも神と御近づきになれる程の実力なり信頼は、なかなか得られるものではないと。現に麻倉の者で神と称した精霊を持ち霊としているのは幹久くらいだろう。だが、山神とて実際に神としての系譜を連ねる者であるかと聞かれれば、否と答えるはずだ。
では神様とは一体何を表しているのか?
…これは、まさかの事態かも知れん。ひょっとしたら、という可能性が無い訳ではない。だからこそ、儂はハルを呼び戻したのだ。シャーマンではないと突っぱねる孫と、シャーマンとして頑張る孫、どちらを信じるかなんて、火を見るより明らか。
「"あ、あの…葉明様…?"」
「…たまお、この家の何処かに潜むハルを見つけ出せ。家事や掃除は二の次で構わん!」
「は、はい!」
証拠など何処にもないが。それでも儂の信じる孫を信じてみようじゃないか。
それでもし違っていたとしても、この家に住まわせ、シャーマンのなんたるかを叩き込み、シャーマンとしての素質を開花させればいい。荒情事になるが、致し方あるまい。
それが、麻倉の宿命なのだから。