10.送り火を一つ
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「君の、その運は誰譲り?」
愚弟にそう言わしめる程の圧勝を経て、あたしは今必要な情報だけを得る事に成功した。
SF予選が中盤な事、終わり次第すぐ開会式が行われる事、愚弟の下にパッチが居る事、愚弟が三大勢力の一つである事などなど。
対してあたしが渡した情報なんて殆ど無い。ただ「あっち」や「こっち」、「そっち」は一体何を指す言葉なのかを教えたのみだった。
「君とパッチ、どう繋がるんだろうね」
それについては笑って誤魔化した。
あたしが口を酸っぱくして言う「シャーマンじゃない」発言を信じるなら、一体どの経由からパッチと結び付くのであろうかと。旅先で知り合ったにしては、少し無理があるかも知れない。
「王になるのは、この僕だ」
『うんうん、頑張ってね』
特に何とも思ってないという風に簡単にあしらう自分を見て、愚弟は渋い顔をした。泣きはしないが、表情がコロコロ変わって面白い。例え中身はジジイでも身体は未だ若いんだから…
「君の場合は全てにおいて幼いよね」
『…その幼いガキんちょに負けたのは誰だろう?』
「ただの札遊びに本気にはならないだろう?」
『そうね、ズルしてなかったもんね』
「……ハルも、ね」
失礼な、あたしのは愚弟の言うズルとはひと味もふた味も異なるって言うのに。まぁ、説明した所で今は理解出来ないだろうし、それはまた別の機会にでも。
ーーーーー
すっかり暗くなってしまった山道を、素直に降りもせず、フラフラ道無き道へ。獣道とも呼べる狭い場所を、只今(ひたすら)に突き進んで行く。明らかに自ら迷子になりに行くような行為である事は承知の上。ともすれば、一体何処へ向かおうというのか、この足は。
『どうしたの?』
徐(おもむろ)に落とした声に、気配が際立つ。それは誰に対しての疑問符だったのだろうか?それは果たして、誰に向けられたものであろうか? …その答えを知るのは、問われた者のみぞ知る。
「ハッ、気づいてたんだねぇ」
「善良みたいなバカじゃないって事は確かみたい」
「……」
三人娘が現れた。愚弟の臣下、花組である。ずっと意味深な視線を向けられていたのは知っていたし、感じていた。でも何もして来ないし、特別害が有る訳ではなかったから、知らんぷりをしていたのも事実。元々好かれては居なかったから(00話参照)、お互いに一定以上の距離を保っていたのもまた事実。
『ご用件は?』
「あんたがハオ様の姉に相応しいかどうか、試させて貰うと思ってね」
「しょーじき、あたしらはアンタと関わりたくないんだけど…ハオ様があんたを姉と呼ぶ以上は、仕方ないじゃん?」
「…マリ、面白くない」
『わー、3対1ってイジメか』
「イジメ、イジメねぇ…」
「その割りに全っ然怖がってるようには見えないんだけど?」
『まぁ、なーんも見えませんからなぁ』
霊の被害には遭わない。なのでシャーマンだろうが何だろうが、その全てを無効化してしまう自分にとっては、彼女らの行動に恐怖する必要が無いのも事実。ならば言葉だけで精神的に追い詰めようとしても、残念ながらそんな柔なか細い神経していないので、それもまた難しい。
「やってみなくちゃ、わかんないじゃない?」
「無効化するって、ただの口先だけかも知れないし?」
『あー、お試しですね。どーぞ』
全く緊張感の欠片もない、などと背後でトゥエガが申しておりますが、気にしない。何時もの事だし。
上手く聞き取れなかったけど、OSを発動させた彼女たちが自分に向かって何かを叫ぶ。トゥエガの実況だと、老齢の鎧と刃物を持ったカボチャと拳銃を携えた人形が襲いかかって来ているらしい。まるっと西洋感ぷんぷんな匂いですね。
「応戦するか?」
『要らん。此処でトゥエガが出張ったら、やっぱシャーマンだったんだって嘘つきになるやん』
「嗚呼…それもそうか」
何も出来ないって公言してるんだから、何もしないが一番良いんだって。これで何か出来たら、それこそ本当に嘘つきになるだろ?あたし、泥棒って言われるの嫌いなんだよねー。
「じゃあ、せめて…こういう時にアレ、したらどうだ?」
『あかん。あたし彼女らの事、結構好きだし』
「はは、マジか。…俺もだ」
二人でこそこそ内緒話。その間も、三人の攻撃は止む気配はない。
風は感じる、けれどそれだけだ。痛いとか、動けないとか、苦しいとか、そんな事は一切無くて。ただ、ぼけーっと「晩御飯何にしよー」とか呑気に考えていられる、そんな感想。
「な、何なのアンタ…」
『いやぁー、すみませんなぁ』
あははのはー。場違いな自分の対応に、彼女らは怒りを通り越して呆れ顔。肩で息をする程の攻撃を、全て平然な顔で流されたら、そりゃあ誰だってそうなるというもので。
「なーんにも出来ない癖に、なんでハオ様はアンタの事気に入ってんの?!」
『あたしに言われても、ねぇ?』
「くっそー、腹立つ!!」
『あー…じゃあ、いっこだけね?』
せめて、場の雰囲気が穏やかになれば。そんな願いを込めて、一発の光を打ち上げた。
『たーまやー!』
ドンッ、と一つ。お腹に響くような心地良い音が空気を震わせる。
「は、なび…?」
『ご名答。まぁ、一旦落ち着きましょうや』
誰の態度のせいでこうなったんだ、と愚痴るトゥエガを無視して、降ってきた残り火を見送る。嗚呼、春の花火も乙なものだなぁ。
愚弟にそう言わしめる程の圧勝を経て、あたしは今必要な情報だけを得る事に成功した。
SF予選が中盤な事、終わり次第すぐ開会式が行われる事、愚弟の下にパッチが居る事、愚弟が三大勢力の一つである事などなど。
対してあたしが渡した情報なんて殆ど無い。ただ「あっち」や「こっち」、「そっち」は一体何を指す言葉なのかを教えたのみだった。
「君とパッチ、どう繋がるんだろうね」
それについては笑って誤魔化した。
あたしが口を酸っぱくして言う「シャーマンじゃない」発言を信じるなら、一体どの経由からパッチと結び付くのであろうかと。旅先で知り合ったにしては、少し無理があるかも知れない。
「王になるのは、この僕だ」
『うんうん、頑張ってね』
特に何とも思ってないという風に簡単にあしらう自分を見て、愚弟は渋い顔をした。泣きはしないが、表情がコロコロ変わって面白い。例え中身はジジイでも身体は未だ若いんだから…
「君の場合は全てにおいて幼いよね」
『…その幼いガキんちょに負けたのは誰だろう?』
「ただの札遊びに本気にはならないだろう?」
『そうね、ズルしてなかったもんね』
「……ハルも、ね」
失礼な、あたしのは愚弟の言うズルとはひと味もふた味も異なるって言うのに。まぁ、説明した所で今は理解出来ないだろうし、それはまた別の機会にでも。
ーーーーー
すっかり暗くなってしまった山道を、素直に降りもせず、フラフラ道無き道へ。獣道とも呼べる狭い場所を、只今(ひたすら)に突き進んで行く。明らかに自ら迷子になりに行くような行為である事は承知の上。ともすれば、一体何処へ向かおうというのか、この足は。
『どうしたの?』
徐(おもむろ)に落とした声に、気配が際立つ。それは誰に対しての疑問符だったのだろうか?それは果たして、誰に向けられたものであろうか? …その答えを知るのは、問われた者のみぞ知る。
「ハッ、気づいてたんだねぇ」
「善良みたいなバカじゃないって事は確かみたい」
「……」
三人娘が現れた。愚弟の臣下、花組である。ずっと意味深な視線を向けられていたのは知っていたし、感じていた。でも何もして来ないし、特別害が有る訳ではなかったから、知らんぷりをしていたのも事実。元々好かれては居なかったから(00話参照)、お互いに一定以上の距離を保っていたのもまた事実。
『ご用件は?』
「あんたがハオ様の姉に相応しいかどうか、試させて貰うと思ってね」
「しょーじき、あたしらはアンタと関わりたくないんだけど…ハオ様があんたを姉と呼ぶ以上は、仕方ないじゃん?」
「…マリ、面白くない」
『わー、3対1ってイジメか』
「イジメ、イジメねぇ…」
「その割りに全っ然怖がってるようには見えないんだけど?」
『まぁ、なーんも見えませんからなぁ』
霊の被害には遭わない。なのでシャーマンだろうが何だろうが、その全てを無効化してしまう自分にとっては、彼女らの行動に恐怖する必要が無いのも事実。ならば言葉だけで精神的に追い詰めようとしても、残念ながらそんな柔なか細い神経していないので、それもまた難しい。
「やってみなくちゃ、わかんないじゃない?」
「無効化するって、ただの口先だけかも知れないし?」
『あー、お試しですね。どーぞ』
全く緊張感の欠片もない、などと背後でトゥエガが申しておりますが、気にしない。何時もの事だし。
上手く聞き取れなかったけど、OSを発動させた彼女たちが自分に向かって何かを叫ぶ。トゥエガの実況だと、老齢の鎧と刃物を持ったカボチャと拳銃を携えた人形が襲いかかって来ているらしい。まるっと西洋感ぷんぷんな匂いですね。
「応戦するか?」
『要らん。此処でトゥエガが出張ったら、やっぱシャーマンだったんだって嘘つきになるやん』
「嗚呼…それもそうか」
何も出来ないって公言してるんだから、何もしないが一番良いんだって。これで何か出来たら、それこそ本当に嘘つきになるだろ?あたし、泥棒って言われるの嫌いなんだよねー。
「じゃあ、せめて…こういう時にアレ、したらどうだ?」
『あかん。あたし彼女らの事、結構好きだし』
「はは、マジか。…俺もだ」
二人でこそこそ内緒話。その間も、三人の攻撃は止む気配はない。
風は感じる、けれどそれだけだ。痛いとか、動けないとか、苦しいとか、そんな事は一切無くて。ただ、ぼけーっと「晩御飯何にしよー」とか呑気に考えていられる、そんな感想。
「な、何なのアンタ…」
『いやぁー、すみませんなぁ』
あははのはー。場違いな自分の対応に、彼女らは怒りを通り越して呆れ顔。肩で息をする程の攻撃を、全て平然な顔で流されたら、そりゃあ誰だってそうなるというもので。
「なーんにも出来ない癖に、なんでハオ様はアンタの事気に入ってんの?!」
『あたしに言われても、ねぇ?』
「くっそー、腹立つ!!」
『あー…じゃあ、いっこだけね?』
せめて、場の雰囲気が穏やかになれば。そんな願いを込めて、一発の光を打ち上げた。
『たーまやー!』
ドンッ、と一つ。お腹に響くような心地良い音が空気を震わせる。
「は、なび…?」
『ご名答。まぁ、一旦落ち着きましょうや』
誰の態度のせいでこうなったんだ、と愚痴るトゥエガを無視して、降ってきた残り火を見送る。嗚呼、春の花火も乙なものだなぁ。