09.いざ、尋常に
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3つくらいだろうか?暗闇の中で、幼い僕とハルが手を繋いでいる。
「そっちはダメ、こっちならいいよ」
『あっちがいい』
「ダメ、悪い奴らに捕まっちゃうよ?」
『いいよ。あたし、にくまれっこだから』
「ダメ。お願いだから、僕の言う事を聞いて?」
促す方とは逆の道へ行きたがる彼女を諭す。この時はまだハルの方が大きかったっけ。そしてこの頃から既に、ハルの性格は決まっていた。
『ハオは強いから、あたしがいなくなっても泣かないよね?』
「…どうかなぁ?」
『泣かないよ、だいじょーぶだよ!ねぇ~?』
場面が変わる。少しばかり成長したのか、この時も未だ弱冠ハルの身長に勝てていない僕が居た。それにしても。彼女は何を根拠にそんな事を言うのか、そもそも何故「居なくなる」を強調するのか。未だに分からない。
「何でハルは居なくなるの?」
『―、だから』
…此処だ。幾度となく繰り返し視てきた記憶(ゆめ)だが、この場面だけ何時も映像が途切れる。声も、そして彼女が普段魅せる笑顔の種類のどれとも異なる。そうして唐突に、それは終わりを告げる。不意に生暖かい嫌な風がハルを攫って行くのだ。まるで、初めから何も存在しなかったかのように―…
―――――
「……っ?!」
『あら、おはようさん』
気が付くと其処は見慣れた、仲間が寝泊まりするアジトの天井だった。何故こんな場所に、という疑問は目の前に広がる光景に直ぐに打ち消された。
「は、ハオ様!?」
「お、おはようございます!」
「お前達…何をしている?」
『見て分かんない?』
滅多に来ない僕の寝室、その床に座り込んで何処から持ってきたのか、卓を囲み更には座布団まで。加えて菓子をも持ち込む姿勢は正に用意周到と言ったところだ。
『なーんか、長期戦になりそうなんで』
ハルの手元には記号と数字の、言わばトランプ。散在されたそれらに埋もれて正の字が書かれた紙数枚と鉛筆が転がる。
「…遊ぶなら余所でやってくれないか?」
『いいじゃない、減るもんじゃなし…あ!やった1抜けー!』
「ギャアァアアァ!!」
「また、負けたー!」
『はーはっはっは!善良敗れたり!』
「………」
多分この状況はハルが言い出した事なのだろう。でなければ軽々しく、こんな場所でこんな事はしない。
「あーっと、だな…俺たちゃ揃って群馬の出なのよ」
「おう、元坊主だったんだぜ?」
『それもう聞いた、4回目の時に』
「そ、そうか!じゃあ俺の持ち霊は…」
『それも聞いた』
「ゆ、ユニット名は…」
『知ってる』
「だーっ!後何があるよ?」
『巫力は?』
「「400だ!」」
『わー、それって強い、のか?』
「(いや、弱いだろ)」
どうやら語るつもりが無いらしいので、入口から顔を覗かせたラキストにこうなった経緯を求めた。曰わく、気絶した僕を連れて来たハルに善良が勝負を仕掛けた。が、自分はシャーマンではないと言い張るので公平にトランプで、という流れになり今に至るという。別室で行わなかったのは、ハルに対する当たりが強いから。
「それから、あの勝負は連帯責任と言うお話です」
「は?」
何処まで本気なのかは分からない。けれど相手はハル、無効だと訴えても上手く言いくるめて逃げられるだろう。
「ハオさま!」
「やあオパチョ、僕が居ない間の留守番ありがとう」
「うん!」
彼の足元に居たオパチョを掬うように抱き上げ、ラキストに幾つか指示を出して寝床へ引き返し戸を閉める。
「全く、いい年した大人が何をやっているんだろうね」
「ハオさま、ハルさまつよい。ぜんりょう、ずっとまけ!」
「んな?!ずっとって言うなよ!」
「ほら、勝った事もあるんだぜ?!」
「10戦2勝8敗か…そろそろ話題が尽きて来たんじゃないか?」
「ご、ごもっともですハオ様!」
勝ったら負けた奴に好きに質問して、それを答えさせる。在り来たりなその提案を提示したのはハル、乗った善良にも問題は有るが、実際2勝した際にハルはきちんと役目を果たしたという。相手は善良、そしてハルは持ち霊を持たない。どころかシャーマンである事を否定する。まぁ、確かに公平と言えば公平か。
「ぐ…っ!」
「これだっ!」
ババ抜き、明らかに運はハルに傾いている。
『はい、上がり!オパチョ、善良に線1本追加ね』
「うん」
『ありがとう。じゃあ質問なんだけど、誰か助っ人呼んで来て。ラキストがいいな』
「僕がやろうか?」
『ラキストがいい』
「彼は昼食の用意で忙しいからね」
『じゃあ、オパチョ』
「オパチョはまだ分からないよ。それとも…僕じゃダメな理由でも?」
『公平じゃないじゃん、不公平じゃん』
「はは、こんな遊びにズルはしないよ」
怪しい怪しいと疑ってかかるハルを適当に言いくるめて、善にカードを配らせる。勝負は定番のババ抜き。2人だとつまらないので、善良も引き込んだ。
「勝ったら何でも好きにしていいんだよね?」
『違う違う、勝ったら負けた奴を労うんだよ。こう、肩揉み的な』
「いえ、…勝ったら負けた方に質問するだけです」
「負けた方は正直に答える、これが鉄則です」
「もし、話題がなければ?」
「頑張って捻り出してください」
『あ、もし無くなった暁にはオパチョを嫁にください!(キリッ)』
「だまらっしゃい」
「ハル様、流石にそれは犯罪です」
『ちぇっ』
この数時間で、ハルはこの場に随分溶け込んで居た。ラキストや僕にしか叩かなかった軽口を、目の前の善良相手に平然と。しかも気を許しているように見える。あんなに高く分厚い壁があったと思っていたのに、多分それを壊したのはハル本人なんだろうけど。
『次、善良が負けたらどうしよっかなぁ~』
「ちょ、俺ら負ける前提?!」
『よし、新曲持って勝負にGO!』
「ひでぇ、まだ勝負すらしてねぇのに!」
『お前(たち)はもう死んでいる』
「はぁ?!勝負はこれか…うっ!」
「(嗚呼、良にJOKERが行ったのか…)」
分かり易く動揺した2人を見て、彼女は子供のように笑う。どう見てもハルの方が年下なのに、ふとした場面で年月を感じてしまうのは彼女だからなのか、それとも別の何かが彼女に憑いているからなのか。その真相は、残念ながら未だ解明する気はないようで、僕の手札からハートの2を拐って行く少し日焼けした指が、目の前に決着の宣言を告げた。
「そっちはダメ、こっちならいいよ」
『あっちがいい』
「ダメ、悪い奴らに捕まっちゃうよ?」
『いいよ。あたし、にくまれっこだから』
「ダメ。お願いだから、僕の言う事を聞いて?」
促す方とは逆の道へ行きたがる彼女を諭す。この時はまだハルの方が大きかったっけ。そしてこの頃から既に、ハルの性格は決まっていた。
『ハオは強いから、あたしがいなくなっても泣かないよね?』
「…どうかなぁ?」
『泣かないよ、だいじょーぶだよ!ねぇ~?』
場面が変わる。少しばかり成長したのか、この時も未だ弱冠ハルの身長に勝てていない僕が居た。それにしても。彼女は何を根拠にそんな事を言うのか、そもそも何故「居なくなる」を強調するのか。未だに分からない。
「何でハルは居なくなるの?」
『―、だから』
…此処だ。幾度となく繰り返し視てきた記憶(ゆめ)だが、この場面だけ何時も映像が途切れる。声も、そして彼女が普段魅せる笑顔の種類のどれとも異なる。そうして唐突に、それは終わりを告げる。不意に生暖かい嫌な風がハルを攫って行くのだ。まるで、初めから何も存在しなかったかのように―…
―――――
「……っ?!」
『あら、おはようさん』
気が付くと其処は見慣れた、仲間が寝泊まりするアジトの天井だった。何故こんな場所に、という疑問は目の前に広がる光景に直ぐに打ち消された。
「は、ハオ様!?」
「お、おはようございます!」
「お前達…何をしている?」
『見て分かんない?』
滅多に来ない僕の寝室、その床に座り込んで何処から持ってきたのか、卓を囲み更には座布団まで。加えて菓子をも持ち込む姿勢は正に用意周到と言ったところだ。
『なーんか、長期戦になりそうなんで』
ハルの手元には記号と数字の、言わばトランプ。散在されたそれらに埋もれて正の字が書かれた紙数枚と鉛筆が転がる。
「…遊ぶなら余所でやってくれないか?」
『いいじゃない、減るもんじゃなし…あ!やった1抜けー!』
「ギャアァアアァ!!」
「また、負けたー!」
『はーはっはっは!善良敗れたり!』
「………」
多分この状況はハルが言い出した事なのだろう。でなければ軽々しく、こんな場所でこんな事はしない。
「あーっと、だな…俺たちゃ揃って群馬の出なのよ」
「おう、元坊主だったんだぜ?」
『それもう聞いた、4回目の時に』
「そ、そうか!じゃあ俺の持ち霊は…」
『それも聞いた』
「ゆ、ユニット名は…」
『知ってる』
「だーっ!後何があるよ?」
『巫力は?』
「「400だ!」」
『わー、それって強い、のか?』
「(いや、弱いだろ)」
どうやら語るつもりが無いらしいので、入口から顔を覗かせたラキストにこうなった経緯を求めた。曰わく、気絶した僕を連れて来たハルに善良が勝負を仕掛けた。が、自分はシャーマンではないと言い張るので公平にトランプで、という流れになり今に至るという。別室で行わなかったのは、ハルに対する当たりが強いから。
「それから、あの勝負は連帯責任と言うお話です」
「は?」
何処まで本気なのかは分からない。けれど相手はハル、無効だと訴えても上手く言いくるめて逃げられるだろう。
「ハオさま!」
「やあオパチョ、僕が居ない間の留守番ありがとう」
「うん!」
彼の足元に居たオパチョを掬うように抱き上げ、ラキストに幾つか指示を出して寝床へ引き返し戸を閉める。
「全く、いい年した大人が何をやっているんだろうね」
「ハオさま、ハルさまつよい。ぜんりょう、ずっとまけ!」
「んな?!ずっとって言うなよ!」
「ほら、勝った事もあるんだぜ?!」
「10戦2勝8敗か…そろそろ話題が尽きて来たんじゃないか?」
「ご、ごもっともですハオ様!」
勝ったら負けた奴に好きに質問して、それを答えさせる。在り来たりなその提案を提示したのはハル、乗った善良にも問題は有るが、実際2勝した際にハルはきちんと役目を果たしたという。相手は善良、そしてハルは持ち霊を持たない。どころかシャーマンである事を否定する。まぁ、確かに公平と言えば公平か。
「ぐ…っ!」
「これだっ!」
ババ抜き、明らかに運はハルに傾いている。
『はい、上がり!オパチョ、善良に線1本追加ね』
「うん」
『ありがとう。じゃあ質問なんだけど、誰か助っ人呼んで来て。ラキストがいいな』
「僕がやろうか?」
『ラキストがいい』
「彼は昼食の用意で忙しいからね」
『じゃあ、オパチョ』
「オパチョはまだ分からないよ。それとも…僕じゃダメな理由でも?」
『公平じゃないじゃん、不公平じゃん』
「はは、こんな遊びにズルはしないよ」
怪しい怪しいと疑ってかかるハルを適当に言いくるめて、善にカードを配らせる。勝負は定番のババ抜き。2人だとつまらないので、善良も引き込んだ。
「勝ったら何でも好きにしていいんだよね?」
『違う違う、勝ったら負けた奴を労うんだよ。こう、肩揉み的な』
「いえ、…勝ったら負けた方に質問するだけです」
「負けた方は正直に答える、これが鉄則です」
「もし、話題がなければ?」
「頑張って捻り出してください」
『あ、もし無くなった暁にはオパチョを嫁にください!(キリッ)』
「だまらっしゃい」
「ハル様、流石にそれは犯罪です」
『ちぇっ』
この数時間で、ハルはこの場に随分溶け込んで居た。ラキストや僕にしか叩かなかった軽口を、目の前の善良相手に平然と。しかも気を許しているように見える。あんなに高く分厚い壁があったと思っていたのに、多分それを壊したのはハル本人なんだろうけど。
『次、善良が負けたらどうしよっかなぁ~』
「ちょ、俺ら負ける前提?!」
『よし、新曲持って勝負にGO!』
「ひでぇ、まだ勝負すらしてねぇのに!」
『お前(たち)はもう死んでいる』
「はぁ?!勝負はこれか…うっ!」
「(嗚呼、良にJOKERが行ったのか…)」
分かり易く動揺した2人を見て、彼女は子供のように笑う。どう見てもハルの方が年下なのに、ふとした場面で年月を感じてしまうのは彼女だからなのか、それとも別の何かが彼女に憑いているからなのか。その真相は、残念ながら未だ解明する気はないようで、僕の手札からハートの2を拐って行く少し日焼けした指が、目の前に決着の宣言を告げた。