08.何処までも深い

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ヒロイン


まるで隠れ鬼だな。
それがラキストから受けた報告の応えだった。「探せ」とはまた何とも幼稚な挑発である。


「全く、ハルの相手は骨が折れるね」


人間でもシャーマンでも気配を辿ればいい、本来なら。だが当たり前が通用しない、それが彼女だ。


「如何致しましょう?」


直接確認はしてはいないが、ハルがシャーマンである事は先ず間違いなさそうだ。


「せっかくの誘いだ、僕が行こう」

「ハオさま」

「オパチョ、ラキストと一緒にお留守番を頼めるかい?」

「ハオさま…」

「すぐに戻るよ、ハルを連れてね」

「…うん」

「いい子だ」


腰を落とし、視線をオパチョに合わせて言い聞かせる。不安そうに揺れる大きな眼(まなこ)に僕が映ったのを確認すると、返事を待って頭を撫でた。

―――――


『お、よく此処が分かったね』

「伊達に長生きしていないんでね」


闇雲に捜すより、以前彼女が来たがっていた場所へと向かった。京都は鞍馬にある貴船神社。霊媒体質で善からぬ者に憑依され易い事を考慮して、無闇に稲荷に近付くなと釘を刺していたつもりだったが、


「そんなに憑かれたいの?」

『まぁ、そこは大丈夫なんじゃない?知り合い(トゥエガ)居るし』

「クラオカミ?」

『いいや?』


鳥居の前に見慣れた姿を見咎めて、潜る前に引き留める。意識を此方に向けさせ、それ以上立ち入らないように。


「ラキストを撒いたらしいね」

『撒いた、つもりはない』

「でも君が突然姿を現し、また消えた瞬間もラキストが目撃しているけど、これに関してどう説明する?」

『そうだねぇ、"百聞は一見に如かず"なんだけどねぇ。あんたはシャーマンだから見えないんだろうね』

「シャーマンだから見えない、というのは可笑しな話だね」


普通逆だろう?
突いて出た言葉に彼女は笑う。「普通ならね」とか、今に始まった訳ではないし、確かにハルの頭は普通じゃないが。


『そもそも普通って何だろう?』

「…可笑しな事聞くね」


一歩後退る彼女に咄嗟に手を伸ばす。それ以上はいけない。例えハルが普通ではなくても、鳥居の内側は神域だ。外界から切り離された、言わば異世界。奉られる神にもよるが、貴船の祭神は有名故に位も高い。どういう経緯で知り合ったかは知らないが、余り踏み込み過ぎるのは頂けない。


『あ、そうだった。ウルヴァをご存知?』

「………何故君が、その名を知っている?」

『例の妖怪ハゲチラカシ、それがウルヴァだよ』


覚えてる?、なんて当たり前だろう。あれでも一応、僕が生きた時代のパッチ族族長だったのだから。


『来週末辺りに戻って来るから、相手宜しく』

「…何処から?」

『地獄?』

「……は?」


予期せぬ言葉に素っ頓狂な声を出してしまった。地獄…地獄だって?


「…ハル、君は何者なんだ」

『シャーマンじゃない一般人』

「それは認めない、君は間違いなくシャーマンだよ」

『違う、あたしはシャーマンじゃない』

「じゃあ、仮にシャーマンじゃないとして。スピリット・オブ・ファイアと会話が成り立つのは何故だ?」

『…それは、あたしが』

「お!スピリット・オブ・ファイヤじゃないか!懐かしいな!」

『違う。"ヤ"じゃない、"ア"』

「まぁ、細かい事は気にするなって」

「…………誰だ?」

「ん?俺が見えるって事は、お前が500年前パッチだったって奴だな?俺はトゥエガ、2000年前に十祭司やってた男(もん)だ」

「…にせん?」

「そ!いやぁ、それにしてもデカくなったなぁ!」


ハルの身体を透過して突然現れ、意気揚々と語る奴の姿は確かにパッチ族の伝統的な衣装のそれだった。S・O・Fの事も。だが、それがどうした。


「十祭司のなり損ないの間違いだろう?」

「違うって!まぁ、いきなり出て来て、理解は出来ないだろうけどさぁ…」

『"百聞は一見に如かず"をバッサリ否定された気分だねぇ』

「まぁ、初会はこんなもんか」


僕とハルの間に深く細い線が見えた。境界線、それは在るべき場所を頒(わか)つ為に引かれたモノ。無色透明な壁が切り立っているようにも見える。


『王様になったら分かるんでしょう?』

「…分からないかも知れないんだろ?」

『ははっ!』


全く何が可笑しいのか。今の僕は、一体君の瞳にどんな風に映っているのだろうか?


『ハオ』


目線より高い位置にある僕の頭に、彼女の手が乗った。名前を呼ばれた事と、ハルの言動に驚いていれば悪戯が成功したと言わんばかりな、したり顔を浮かべた後


『うん、外見相応の顔になったね』


…なんて不意に笑うものだから、何処か懐かしいその表情に、言い知れない感情が沸き上がり、慌てて目を逸らした。
そんな僕を見て冷やかす事なく、尚も微笑み続ける。その様は何時か記憶の中に見た、母上そっくりだった。

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