04.ともだち
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「全く…甘いなぁ、葉は」
我が弟ながら考え方が異なるその甘さに苦笑い。友達ごっこも良いけど、もっと強くなって貰わないと。
「ハオさま」
「ふふ、よく眠れたかな?」
「うん」
テントの中でお昼寝をしていたこの子はオパチョ。小さな歩幅で僕に追い付こうとする、その姿が何とも可愛らしい。
「きょうはハルさまこない?」
「多分ね、僕が迎えに行かない限りは此処に用はないんじゃないかな?」
僕達は四六時中ずっと、近くに居る訳じゃない。旅の途中でばったり出会す事はあれど、それ以外の状況で彼女が僕に会いに来る事は先ず無い。
「ハルさま、なかま?」
「ん―…仲間じゃないかな」
自他共に認める弱さだし、何より自称シャーマンじゃない。殺そうと思えば何時でも殺せる。何も、S・O・Fに頼むまでもない。方法は幾らでもある。
「オパチョ、ハルさまわかんねぇ」
「うん?」
「ハルさま、ふしぎ。シャーマンちがう、でもシャーマンにてる。いつもハオさまのうしろみてはなす、だからハオさまみてないの」
「嗚呼…スピリット・オブ・ファイアと話せるみたいだから、多分それでだろう」
「?」
「そうだとは断言しなかったけど、ほぼ確実な情報だね」
「??」
「可笑しな奴だろう?それでもまだ、シャーマンじゃないって言い張るんだから」
S・O・Fの媒介は空気中に在る酸素。その辺のシャーマンには到底真似出来ない所業を、彼女はやってのけた。一瞬だったが、ハルは間違いなくS・O・FをO・Sした。僕と同じ方法で。
ただの人間じゃない、シャーマンの血を色濃く継いだ僕の子孫だ。何時か不意に、能力が覚醒しても何ら不思議な事ではない。だから、もしそれが彼女の能力なら近い将来必ず僕の役に立ってくれる。否定しても、認めざるを得ない状況に持って行けば、後はこっちのもの。
「ハオさま」
「ん?」
「あっち」
指差す方角に見知った気配。渦中の人物が、直ぐ其処に居る。生憎姿は見えないが、こんな場所で一体何を…
「だれかといっしょ」
「……みたいだね、全く」
オパチョの言う誰かが、親しい間柄ではない事くらい確認しなくても分かる。彼女に向けられた殺気が、ハルを追い詰めて行く。
つい先日、問題は起こすなと忠告しておいた筈なんだけど。
「留守番してるかい?」
「オパチョも、いく」
即答された返事に意外性を感じながら、S・O・Fを顕現させる。…さて、この時代で僕の身内にあたるハルに、敵意を向ける奴らの顔でも拝みに行こうか。
―――――
「…で、何がどうしてこうなった?」
『散歩してたらストーキングされてました、まる』
何時か見た光景。突き出されたナイフを避けたまではいい。だが、結局足を滑らせ崖から落下。その途中でハルを拾った。咄嗟に手首を掴んだ為に宙に投げ出された状態の彼女には、もっと危機感を持って貰いたいところだ。
「僕が居なかったらどうなってたかくらいは分かるよね?」
『死んでました?』
「余程運が良くない限りはね」
僕はこのままでも別に良いけど、S・O・Fを擦り抜けるハルの腕がタダじゃ済まないだろう。ほら、掴んだ手首が鬱血しかかっている。
『腕、離していいよ』
「…死ぬ気かい?」
『ううん、此処から下の地面まで約5秒。その間に上の連中どっかやって』
「別にこのままでも問題ないと思うけど?腕が痛い?」
『そうじゃなくて、あいつらが陣取る付近に探し物が有りそうなの』
「探し物?」
『時間がないの。だから、お願い…』
彼女が願った対象は僕じゃなかった。突然揺れた足下に咄嗟にオパチョを抱えたが、反対の手は空を掴んだ。
「…っ、スピリット・オブ・ファイア!」
頭上を、炎が走る。奴らがどうなったかなんて、今は確認する時間も惜しい。
「ハオさま!」
(あと何秒だ?今、何秒経った?!)
殺そうと思えば何時でも、その言葉に嘘はない。けれど今はまだ、その時じゃない。
(間に合え…!)
こんなにも必死になるのは、誰かの為に心が砕かれる想いに駆られるのは、今のところハルだけだ。
何せハルには霊障が効かない。という事は、僕の得意とする治癒・蘇生術が一切通用しない事を意味する。つまり彼女が不慮の事故で死んでも、生き返らせる事が出来ない。
加えて、気掛かりな事を以前口にしていた手前、迂闊に彼女から目を離す事も出来ない。難儀な話だ。
「くっ!」
『ぐえっ!』
精一杯伸ばした手が、背中の洋服を掴む。地面に出来た昨夜の空の残り香に、彼女の姿が僅かに刻まれる程の距離。言わば、寸前の所で何とか間に合った。
「…ハル」
『あだっ!?』
繋がる部分を掴んだ事で、首が締まるだの苦しいだのと、脳天気で騒がしいハルに頭突きをしておいた。余りの痛さに疼くまる彼女を地面に転がせば、一連の流れを見ていたオパチョがS・O・Fから降りて来た。
「ハルさまあぶねぇ!」
「全くだよ、もっと言ってやりな」
「ハルさまバカ!」
「うんうん」
「ハルさましんだら、ハオさまなく!」
「………うん?」
いや、泣きはしないだろう。死んだ奴と話せるのはシャーマンの特権だし、万が一ハルが死んでも金輪際会えないという訳でもない。…まぁ、今のハルがそうとは限らないけど。
『あー、死ぬかと思った…』
「…僕に何か言う事は?」
『あざーす』
「心が籠もってない!」
『ぃだっ!!』
出来の悪い子供を叱っている気分だ。これでも過去に二度子を成したが、時代の背景も加担して、どちらも聞き分けのいい子に育った筈だ。対して彼女はどうだ、誰が育てた誰が。
『先祖の根性が捻り曲がってたから、とか?』
「へぇ…君はそんなに早死にしたいんだね?」
『誰もまだ名前言ってな…ぃでっ!』
「君の為に痛くしてるんだ、当然だろう?」
『この…ドS陰陽師っ!』
「何とでも言え」
足元で喚く姿に溜め息。悔しいがこれがハルでは無かったら、助けようなんて気さえ起きなかっただろう。
『そう言えば、さっきの連中は?』
「さぁ?燃えたんじゃない?」
確認してはないけど。S・O・Fの炎をまともに喰らったんだ、骨すら残ってはいまい。現にハルを抱えて崖上まで戻ると、其処には何も無かった。
『あ―…逃げたかもねぇ』
「スピリット・オブ・ファイアの業火を喰らって?」
『逃げ足だけは速いのよ、それが"こっち"の特徴』
("こっち"?)
『"そっち"にも居るかもだけど、あいつらは"こっち"サイドだから』
("そっち"?)
ハルが言う、言葉の意味が分からない。何を指すものなのか、また何をもってそう例えるのか。それについて彼女は、また口を閉ざす。
『現時点で、あたしの一存じゃあ何も言えない。あいつの、許可がないと』
彼女は笑う。何でもないと言って、自分の心に蓋をする。嗚呼せめて言葉として、強く心で形にしてくれたら…、そう思う僕の気持ちに、何時か気付いてくれる事を願う。
我が弟ながら考え方が異なるその甘さに苦笑い。友達ごっこも良いけど、もっと強くなって貰わないと。
「ハオさま」
「ふふ、よく眠れたかな?」
「うん」
テントの中でお昼寝をしていたこの子はオパチョ。小さな歩幅で僕に追い付こうとする、その姿が何とも可愛らしい。
「きょうはハルさまこない?」
「多分ね、僕が迎えに行かない限りは此処に用はないんじゃないかな?」
僕達は四六時中ずっと、近くに居る訳じゃない。旅の途中でばったり出会す事はあれど、それ以外の状況で彼女が僕に会いに来る事は先ず無い。
「ハルさま、なかま?」
「ん―…仲間じゃないかな」
自他共に認める弱さだし、何より自称シャーマンじゃない。殺そうと思えば何時でも殺せる。何も、S・O・Fに頼むまでもない。方法は幾らでもある。
「オパチョ、ハルさまわかんねぇ」
「うん?」
「ハルさま、ふしぎ。シャーマンちがう、でもシャーマンにてる。いつもハオさまのうしろみてはなす、だからハオさまみてないの」
「嗚呼…スピリット・オブ・ファイアと話せるみたいだから、多分それでだろう」
「?」
「そうだとは断言しなかったけど、ほぼ確実な情報だね」
「??」
「可笑しな奴だろう?それでもまだ、シャーマンじゃないって言い張るんだから」
S・O・Fの媒介は空気中に在る酸素。その辺のシャーマンには到底真似出来ない所業を、彼女はやってのけた。一瞬だったが、ハルは間違いなくS・O・FをO・Sした。僕と同じ方法で。
ただの人間じゃない、シャーマンの血を色濃く継いだ僕の子孫だ。何時か不意に、能力が覚醒しても何ら不思議な事ではない。だから、もしそれが彼女の能力なら近い将来必ず僕の役に立ってくれる。否定しても、認めざるを得ない状況に持って行けば、後はこっちのもの。
「ハオさま」
「ん?」
「あっち」
指差す方角に見知った気配。渦中の人物が、直ぐ其処に居る。生憎姿は見えないが、こんな場所で一体何を…
「だれかといっしょ」
「……みたいだね、全く」
オパチョの言う誰かが、親しい間柄ではない事くらい確認しなくても分かる。彼女に向けられた殺気が、ハルを追い詰めて行く。
つい先日、問題は起こすなと忠告しておいた筈なんだけど。
「留守番してるかい?」
「オパチョも、いく」
即答された返事に意外性を感じながら、S・O・Fを顕現させる。…さて、この時代で僕の身内にあたるハルに、敵意を向ける奴らの顔でも拝みに行こうか。
―――――
「…で、何がどうしてこうなった?」
『散歩してたらストーキングされてました、まる』
何時か見た光景。突き出されたナイフを避けたまではいい。だが、結局足を滑らせ崖から落下。その途中でハルを拾った。咄嗟に手首を掴んだ為に宙に投げ出された状態の彼女には、もっと危機感を持って貰いたいところだ。
「僕が居なかったらどうなってたかくらいは分かるよね?」
『死んでました?』
「余程運が良くない限りはね」
僕はこのままでも別に良いけど、S・O・Fを擦り抜けるハルの腕がタダじゃ済まないだろう。ほら、掴んだ手首が鬱血しかかっている。
『腕、離していいよ』
「…死ぬ気かい?」
『ううん、此処から下の地面まで約5秒。その間に上の連中どっかやって』
「別にこのままでも問題ないと思うけど?腕が痛い?」
『そうじゃなくて、あいつらが陣取る付近に探し物が有りそうなの』
「探し物?」
『時間がないの。だから、お願い…』
彼女が願った対象は僕じゃなかった。突然揺れた足下に咄嗟にオパチョを抱えたが、反対の手は空を掴んだ。
「…っ、スピリット・オブ・ファイア!」
頭上を、炎が走る。奴らがどうなったかなんて、今は確認する時間も惜しい。
「ハオさま!」
(あと何秒だ?今、何秒経った?!)
殺そうと思えば何時でも、その言葉に嘘はない。けれど今はまだ、その時じゃない。
(間に合え…!)
こんなにも必死になるのは、誰かの為に心が砕かれる想いに駆られるのは、今のところハルだけだ。
何せハルには霊障が効かない。という事は、僕の得意とする治癒・蘇生術が一切通用しない事を意味する。つまり彼女が不慮の事故で死んでも、生き返らせる事が出来ない。
加えて、気掛かりな事を以前口にしていた手前、迂闊に彼女から目を離す事も出来ない。難儀な話だ。
「くっ!」
『ぐえっ!』
精一杯伸ばした手が、背中の洋服を掴む。地面に出来た昨夜の空の残り香に、彼女の姿が僅かに刻まれる程の距離。言わば、寸前の所で何とか間に合った。
「…ハル」
『あだっ!?』
繋がる部分を掴んだ事で、首が締まるだの苦しいだのと、脳天気で騒がしいハルに頭突きをしておいた。余りの痛さに疼くまる彼女を地面に転がせば、一連の流れを見ていたオパチョがS・O・Fから降りて来た。
「ハルさまあぶねぇ!」
「全くだよ、もっと言ってやりな」
「ハルさまバカ!」
「うんうん」
「ハルさましんだら、ハオさまなく!」
「………うん?」
いや、泣きはしないだろう。死んだ奴と話せるのはシャーマンの特権だし、万が一ハルが死んでも金輪際会えないという訳でもない。…まぁ、今のハルがそうとは限らないけど。
『あー、死ぬかと思った…』
「…僕に何か言う事は?」
『あざーす』
「心が籠もってない!」
『ぃだっ!!』
出来の悪い子供を叱っている気分だ。これでも過去に二度子を成したが、時代の背景も加担して、どちらも聞き分けのいい子に育った筈だ。対して彼女はどうだ、誰が育てた誰が。
『先祖の根性が捻り曲がってたから、とか?』
「へぇ…君はそんなに早死にしたいんだね?」
『誰もまだ名前言ってな…ぃでっ!』
「君の為に痛くしてるんだ、当然だろう?」
『この…ドS陰陽師っ!』
「何とでも言え」
足元で喚く姿に溜め息。悔しいがこれがハルでは無かったら、助けようなんて気さえ起きなかっただろう。
『そう言えば、さっきの連中は?』
「さぁ?燃えたんじゃない?」
確認してはないけど。S・O・Fの炎をまともに喰らったんだ、骨すら残ってはいまい。現にハルを抱えて崖上まで戻ると、其処には何も無かった。
『あ―…逃げたかもねぇ』
「スピリット・オブ・ファイアの業火を喰らって?」
『逃げ足だけは速いのよ、それが"こっち"の特徴』
("こっち"?)
『"そっち"にも居るかもだけど、あいつらは"こっち"サイドだから』
("そっち"?)
ハルが言う、言葉の意味が分からない。何を指すものなのか、また何をもってそう例えるのか。それについて彼女は、また口を閉ざす。
『現時点で、あたしの一存じゃあ何も言えない。あいつの、許可がないと』
彼女は笑う。何でもないと言って、自分の心に蓋をする。嗚呼せめて言葉として、強く心で形にしてくれたら…、そう思う僕の気持ちに、何時か気付いてくれる事を願う。