03.ただいま
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「あー、はらへったぁ~」
玄関で電池切れとばかりに突っ伏したオイラを見て、台所から顔を覗かせた姉ちゃんは笑った。「おかえりー」と間延びした声を聞いて、へらりと笑い返す。靴を脱いで手洗いを済ませて姉ちゃんの元へ向かう。
「ごめんなー姉ちゃん、遅くなっちまって」
『ううん、あたしも実はさっき帰ったとこなんだ』
知り合いと会って駄弁(だべ)ってるうちに暗くなったらしい。1人は物騒だと言えば、責任感じたらしい相手に近くまで送って貰ったんだとか。
「あ、予備の茶碗とご飯、あったりしない?」
『あるけど…』
不思議に思いながら手渡してくれた茶碗にご飯を装う。そこに叔父さんの物っぽい箸を差して位牌を置いた。
「出て来ていいぞ、阿弥陀丸」
「かたじけない」
麦茶を張ったガラスコップの縁を、スプーンで鳴らす。チーンと綺麗な高音にドロンと姿を出した阿弥陀丸、名前を呼んで初めて合点がいったらしい姉ちゃんは、最初驚いてたけど「ありがとう」と微笑んでくれた。
「姉ちゃん、オイラの隣に居るのは友達で持ち霊の阿弥陀丸。阿弥陀丸、さっき話したオイラの姉ちゃんだ」
『嗚呼、見えなくてごめんねぇ。気配とかもサッパリだから大変申し訳ない話だけど…』
「あ、いや…気にして御座らん!顔を上げて下され!」
「姉ちゃん、阿弥陀丸が気にしてないって」
『はは、葉に通訳して貰わないとサッパリだ』
阿弥陀丸には予め、「姉ちゃんはオイラの従姉妹だけどシャーマンじゃない」って話しておいた。勿論びっくりしてたけど、オイラが話す姉ちゃんの印象を聞いて「会ってみたい、楽しみだ」と言ってくれたのには、正直有り難い話だった。
んで今、オイラを通して会話する。くすぐったい気持ちになるし、照れる事もあるけど、それでも。阿弥陀丸が笑う、姉ちゃんが笑う、この関係に心が暖かくなった。
―――――
『って事は喪助さんにも会ったんだねぇ』
片付けをしながら背中越しに話しかけて来た姉ちゃんの言葉に、思わず阿弥陀丸と振り向く。居間でテレビを見ながら、まったりしてた時に爆弾発言の投下である。
「何で姉ちゃんが喪助知ってんだ?」
『葉よりも長生きしてるからじゃない?』
「あ、そっか…成る程」
「そうでは御座らん!」
資料館には春雨の説明に「喪助」の名前はなかった。啜り泣く声も、喪助の姿も、シャーマンじゃない姉ちゃんには分からない事だ。
『葉、忘れてない?』
「何を?」
『うちの両親がシャーマンだって話』
「…あ」
水音が止まった。熱い緑茶を2人分おぼんに乗せて、居間に来るとオイラの向かい側に座る。おやつに、と置かれたそれに手を伸ばした。季節的に炬燵は無いけど、ミカンは年中旨い。
『喪助さんが春雨に憑いてるって事まで知ってたんだ、でもね…』
乱雑に置いたゴミを纏めると、ミカンの皮を捨てる為に持って来たらしい新聞紙を広げて其処に積み上げる。
『父さんも母さんもシャーマンだけど、憑依ってのは出来なくてさ。春雨を打ち直せなかったんだって』
申し訳なさそうに眉を下げて笑う姉ちゃんに、阿弥陀丸は何も言わなかった。話を訊いて「どうにかしたい」と思っても、姉ちゃんにはどうする事も出来なかった。
『何時か誰かが何とかしてくれるんじゃないかって、未だ見ぬ誰かに願うしかなかった』
だからあの時姉ちゃんが「ありがとう」って。言われた時は良く分からんかったけど、今漸く分かった。
『阿弥陀に出逢ったのが葉で良かった。何とかしてくれたのが葉で良かった。葉の姉ちゃんで良かった』
「っ! 姉ちゃんそれ、絶対大袈裟だって…///」
『あはは、でもこれがあたしの本音だよ?』
「も、もう分かったから!///」
「葉殿、顔赤いで御座るぞ?///」
「あ、阿弥陀だって!///」
『ふふ…』
あー未だ春だってのに、まるで今夜だけ夏みたいだ。
玄関で電池切れとばかりに突っ伏したオイラを見て、台所から顔を覗かせた姉ちゃんは笑った。「おかえりー」と間延びした声を聞いて、へらりと笑い返す。靴を脱いで手洗いを済ませて姉ちゃんの元へ向かう。
「ごめんなー姉ちゃん、遅くなっちまって」
『ううん、あたしも実はさっき帰ったとこなんだ』
知り合いと会って駄弁(だべ)ってるうちに暗くなったらしい。1人は物騒だと言えば、責任感じたらしい相手に近くまで送って貰ったんだとか。
「あ、予備の茶碗とご飯、あったりしない?」
『あるけど…』
不思議に思いながら手渡してくれた茶碗にご飯を装う。そこに叔父さんの物っぽい箸を差して位牌を置いた。
「出て来ていいぞ、阿弥陀丸」
「かたじけない」
麦茶を張ったガラスコップの縁を、スプーンで鳴らす。チーンと綺麗な高音にドロンと姿を出した阿弥陀丸、名前を呼んで初めて合点がいったらしい姉ちゃんは、最初驚いてたけど「ありがとう」と微笑んでくれた。
「姉ちゃん、オイラの隣に居るのは友達で持ち霊の阿弥陀丸。阿弥陀丸、さっき話したオイラの姉ちゃんだ」
『嗚呼、見えなくてごめんねぇ。気配とかもサッパリだから大変申し訳ない話だけど…』
「あ、いや…気にして御座らん!顔を上げて下され!」
「姉ちゃん、阿弥陀丸が気にしてないって」
『はは、葉に通訳して貰わないとサッパリだ』
阿弥陀丸には予め、「姉ちゃんはオイラの従姉妹だけどシャーマンじゃない」って話しておいた。勿論びっくりしてたけど、オイラが話す姉ちゃんの印象を聞いて「会ってみたい、楽しみだ」と言ってくれたのには、正直有り難い話だった。
んで今、オイラを通して会話する。くすぐったい気持ちになるし、照れる事もあるけど、それでも。阿弥陀丸が笑う、姉ちゃんが笑う、この関係に心が暖かくなった。
―――――
『って事は喪助さんにも会ったんだねぇ』
片付けをしながら背中越しに話しかけて来た姉ちゃんの言葉に、思わず阿弥陀丸と振り向く。居間でテレビを見ながら、まったりしてた時に爆弾発言の投下である。
「何で姉ちゃんが喪助知ってんだ?」
『葉よりも長生きしてるからじゃない?』
「あ、そっか…成る程」
「そうでは御座らん!」
資料館には春雨の説明に「喪助」の名前はなかった。啜り泣く声も、喪助の姿も、シャーマンじゃない姉ちゃんには分からない事だ。
『葉、忘れてない?』
「何を?」
『うちの両親がシャーマンだって話』
「…あ」
水音が止まった。熱い緑茶を2人分おぼんに乗せて、居間に来るとオイラの向かい側に座る。おやつに、と置かれたそれに手を伸ばした。季節的に炬燵は無いけど、ミカンは年中旨い。
『喪助さんが春雨に憑いてるって事まで知ってたんだ、でもね…』
乱雑に置いたゴミを纏めると、ミカンの皮を捨てる為に持って来たらしい新聞紙を広げて其処に積み上げる。
『父さんも母さんもシャーマンだけど、憑依ってのは出来なくてさ。春雨を打ち直せなかったんだって』
申し訳なさそうに眉を下げて笑う姉ちゃんに、阿弥陀丸は何も言わなかった。話を訊いて「どうにかしたい」と思っても、姉ちゃんにはどうする事も出来なかった。
『何時か誰かが何とかしてくれるんじゃないかって、未だ見ぬ誰かに願うしかなかった』
だからあの時姉ちゃんが「ありがとう」って。言われた時は良く分からんかったけど、今漸く分かった。
『阿弥陀に出逢ったのが葉で良かった。何とかしてくれたのが葉で良かった。葉の姉ちゃんで良かった』
「っ! 姉ちゃんそれ、絶対大袈裟だって…///」
『あはは、でもこれがあたしの本音だよ?』
「も、もう分かったから!///」
「葉殿、顔赤いで御座るぞ?///」
「あ、阿弥陀だって!///」
『ふふ…』
あー未だ春だってのに、まるで今夜だけ夏みたいだ。