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  • 千宏

    ちょっと話あるんだけど、いい?

  • 千宏くんに話しかけられたのは、帰りのホームルームが終わってすぐのことだった。

  • あのキスから何日か、経って。
    私はなんとなく千宏くんのことも、月代くんのことも避けてしまっていた。

  • 理世

    私も一緒だけど、いい?
    チヒロン

  • 後ろから理世ちゃんが加勢してくれて、ちょっと心強い。
    あのキスを目撃しても変わらない理世ちゃんは強い。

  • 千宏

    うん……
    あと、月代も

  • ここで月代くんの名前が出るとは思わなかった。
    月代くんも同じ気持ちのようで、千宏くんからすぐ目を逸らす。

  • 誰よりも困っているのは月代くんだろう。
    でも、千宏くんは。

  • あのキスから――というより、いま思えば、キスの前から。
    千宏くんは元気がない。
    元気なのが千宏くんなのに。

  • どんどんクラスのみんながいなくなって、私たち四人だけになった。
    千宏くんが話し始めるのを、ただ待つ。

  • 千宏

    何から謝ればいいんだろうな……
    やっぱ、時系列順?

  • 千宏くんに謝られるようなこと、なんて。
    月代くんはまだしも、私にはない。

  • 千宏

    その前に、今の俺の状況を説明しとかなきゃだな

  • 千宏

    最近、急に、前世の記憶――でいいのかな
    とにかく思い出したんだよ、全部

  • 前世?
    思いがけない切り口に、思わず月代くんと顔を見合わせてしまう。

  • 千宏

    ビックリだよな
    俺も本当ビックリして、いまだにちょっと半信半疑なんだけど

  • 千宏

    月代が転校してきて、変な夢、見るようになって

  • 千宏

    夢の中でまで月代に嫉妬してて、我ながらきもいなって思ってたんだけど、違くて

  • 千宏

    俺が嫉妬してたのは――前世の俺が嫉妬してたのは、柚で

  • 私?
    千宏くんは私と目を合わせてから、少しだけ微笑んだ。
    悲しい、優しい笑顔だ。

  • 千宏

    私は、月代の許嫁で
    でも月代の気持ちは、柚にあって

  • 千宏

    嫉妬って人を壊すんだな
    俺――私は、この手で月代を殺した

  • 私の夢を覆い隠していたはずのモヤが、晴れようとする。
    待って、嫌だ、そんなの。

  • 正夢になるかもしれないと思った、あの夢は。
    未来じゃなくて、前世だったの?

  • 千宏

    柚、月代、ごめん
    謝って済むことじゃないけど

  • 頭を下げられて、どうすればいいのかわからない。
    困惑した月代くんと顔を見合わせる。

  • 千宏

    それから……月代
    勝手にキスしてごめんな

  • 顔を上げた千宏くんが、月代くんを見る。
    その視線に含まれているのは、どういう感情なんだろう。

  • 千宏

    思い出してほしくてさ
    俺の――私のこと

  • 泣きそうな顔で笑う千宏くん。
    まるで愛しさが、溢れたみたいに。
    この話に真実味が増していく。

  • あの夢が前世なら。
    未来じゃ、ないのなら。

  • 月代くんに危険は及ばないし、私も、月代くんを助けるために無茶しなくて済む。
    だから、よかった。

  • ――よかった?

  • 月代 雪斗

    何だ、それ
    前世……?
    そんなのあるわけない

  • 月代くんが教室から出て行く。
    私たち三人を置いて。

  • 信じるのが難しいのは、わかるよ。
    でも千宏くんが、こんな嘘をつくとは思えない。

  • だったら信じる以外ないでしょ。

  • 月代くんを追いかけるべきか、迷う。
    追いかけてどうするの?
    もう月代くんのこと、心配しなくていいんだよ?

  • 頑張って月代くんに声かけてたのだって、あのキス以降やめてしまった。
    じゃあ、もう、このまま離れればいいじゃない。

  • なんでか泣きそうで、泣きたくないのに、泣きそうで。
    どうすればいいのかわからなくなっていたら、誰かに抱きしめられた。

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