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理世
女子だけど、うちのクラスにはいない
――そう、転校生が言ってたの? -
昼休み。今日は屋上で理世ちゃんとランチ。
人に聞かれたら困るから、屋上。 -
佐伯 柚
うん……
クラスの子が犯人じゃないのはよかったんだけど、じゃあ、誰を疑えばいいんだろ -
理世
転校生、他に何か言ってなかった?
相手の服装とか、どんな場所だったとか -
そっか、そういうこと、ちゃんと訊けばよかった。
理世ちゃんってば頭がいいなぁ。 -
そう思う反面。
転校生、転校生って。
なんか月代くんを遠ざけてるみたいで、モヤモヤ。 -
佐伯 柚
今度、訊いてはみるけど
私もよく覚えてないし、月代くんも覚えてないかも -
月代くんが転校してきて、もう一週間以上経ってる。
あの夢を思い出そうとすると、なんだかモヤでもかかってるみたいで。
うまく思い出せない。 -
ただの夢なのかな。
それならそれで、いいんだけど。 -
理世
あれ、チヒロンじゃん
-
理世ちゃんが言うのでそちらを見れば、千宏くんが屋上に入ってくるところだった。
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少し間を空けて、月代くんも入ってきた。
不思議な組み合わせに、思わず理世ちゃんと顔を見合わせる。 -
月代 雪斗
話って何?
-
ちょうど死角になってて、私たちがいることに気づいてないみたいだ。
どうしよう、盗み聞きになっちゃう。 -
月代 雪斗
もしかして、佐伯さんのこと?
だったら何もないから
佐伯さんのこと、何とも思ってないし -
私がいることに気づいてないから、仕方ないんだけど。
でも、わざわざそんな、ハッキリ言わないでよ。 -
千宏くんは黙っている。
月代くんに背を向けたまま、黙っている。 -
月代 雪斗
それとも佐伯さんから、夢の話でも聞いたの?
-
月代 雪斗
あんなの、ただの変な夢だから
気にすることじゃないって、佐伯さんにも言っといて -
千宏くんが何も言わないからだろう。
勝手に言うだけ言って、月代くんは屋上から立ち去ろうとした。 -
だんまりを決め込んでいた千宏くんが、月代くんを追いかけて。
-
――私は今、何を見ているんだろう。
動揺が止まらない。
だって。 -
千宏くん、私が好きなんじゃなかったの。
いや、違うかもとか思ったけど。
本当は理世ちゃんが好きなんじゃないのかなって、思ったけど。 -
千宏くんが月代くんを好き、だなんて。
想像してなかったから。 -
月代くんが千宏くんを突き飛ばす。
キス、されたから。
千宏くんが月代くんに、キスしたから。 -
そのまま屋上から出て行く月代くん。
千宏くんはただ呆然と、その場に立ち尽くしている。 -
盗み聞き、なんてレベルではなかった。
とんでもないものを見てしまった。 -
今どき男同士だからって何も思わないけど。
私を好きだと思っていた人が、私の好きな人に―― -
え? 好き?
ちょっと待って、私、やっぱり月代くんのこと好きなの? -
理世
なんか、えらいもん見ちゃったね……
大丈夫? 柚 -
千宏くんもいなくなって、だから理世ちゃんは声をかけてくれたんだろう。
とっさに笑顔を作る。 -
佐伯 柚
だっ、大丈夫!
私たちもそろそろ戻らなきゃだよね! -
理世
転校生がイケメンなのはわかるけど、まさかチヒロンまでなー
-
……転校生。
月代くんだよ、って、言い直したくなるけど。
私にそんなことを言う権限はない。 -
月代くんは私のこと、何とも思ってないみたいだし。
勝手に月代くんを助けたいって、あの夢を正夢にしたくないから、って。 -
どっちが先だったんだろう。
夢と、私の気持ち。
――考えるまでもない。 -
あとから生まれたこの気持ちは。
この、軽い気持ちは。 -
きっとすぐ消える。
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