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理世
やっぱさー、柚、あの転校生と何かあったんでしょ?
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放課後。いつも通り理世ちゃんと帰っていたら、いきなりそう訊かれた。
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やっぱ、って?
朝、私が月代くんに挨拶したとき、理世ちゃん、何も言ってこなかったのに。 -
理世
何?
私には言えないこと? -
言えない……わけでは、ない。
言ってみようか、理世ちゃんに、夢のこと。
引かれなければいいけど。 -
佐伯 柚
実は、ね
月代くんが転校してきた日、変な夢、見ちゃって -
理世
夢?
まさか転校生が出てきた、とか? -
佐伯 柚
うん
私の目の前で、月代くんが殺されちゃう夢 -
佐伯 柚
だから、正夢にならなきゃいいな、って
未来の私が目撃者なら、防げると思うんだ -
理世
未来……?
でも、未来とは限らないんじゃない -
佐伯 柚
まあ、そうだよね
ただの夢で終わるなら、それが一番いいんだけど -
理世
そうじゃなくて
前世、とか -
佐伯 柚
理世ちゃん、意外!
前世とか信じてるんだ! -
理世
信じてるってわけじゃないけど
仮にその夢が未来だとして、何でそれを柚が止めなきゃいけないの? -
理世
殺されるってことは、転校生を殺した犯人がいるんでしょ?
普通に危ないじゃん -
心配してくれてるんだと思う。
その気持ちは嬉しい、けど。 -
未来を知ってしまった以上、私は、私にできることをしたいよ。
月代くんが死なない未来を選びたい。 -
佐伯 柚
ありがと、理世ちゃん
大丈夫
私も、死なないように頑張るから -
できるだけ穏やかに微笑んでみたけど。
理世ちゃんは何か言いたそうな顔で、でも、何も言わない。 -
ごめんね、理世ちゃん。
ちょっとだけ無茶させて。 -
翌日、放課後
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今日もいつも通り、理世ちゃんと帰る。
――はずだったんだけど、スマホを忘れて、教室まで取りに戻る羽目になった。 -
何やってんだろ。
月代くんに帰りの挨拶をして、意識が軽くどっかに行ってたんだと思う。
つまり月代くんのせい。 -
月代 雪斗
ごめん
-
教室に入ろうとしたところで、中からそんな声が聞こえてきた。
慌てて立ち止まったけど。
中から誰か出てきて、ぶつかりそうになった。 -
佐伯 柚
ごめ――
-
ごめん、と、言わせてくれる雰囲気ではなかった。
クラスの女子がこれでもかと睨んでくる。
わざと私に体当たりして、そのまま通りすぎていく。 -
何があったのかわかってしまう。
そしてそれをしたのが、誰なのかも。 -
佐伯 柚
……月代くん
-
教室に入って声をかける。
振り向いた月代くんは、どこか呆れ顔だ。 -
月代 雪斗
帰ったんじゃなかったの、佐伯さん
-
佐伯 柚
ちょっと、忘れ物、して
-
月代 雪斗
ふーん
-
月代くんが転校してきて、まだ一週間、とか?
その短期間で好きになって、告白して、振られて。 -
どんな気持ちなんだろう。
私に、体当たりしてきたぐらいだ。
きっと、ちゃんと、悲しい。 -
佐伯 柚
月代くん
何で私の名前、知ってるの? -
月代 雪斗
……さっきの子が言ってた
佐伯さんと何の話してたの、って -
月代 雪斗
めんどくさいよ
関係ないじゃん
俺のこと、たいして好きでもないくせに -
そんなのわからない。
あの子の気持ちは、あの子にしかわからない。 -
こういうことの積み重ねなんじゃないの?
相手の気持ちを軽く見て、だから月代くんは、誰かに殺されちゃうんじゃないの? -
佐伯 柚
あの夢の中で、月代くんは、誰に殺されたの?
-
手がかりが欲しい。
誰が犯人なのか、わかれば。
その人を犯人にしなくて済む。 -
そう、思ったのに。
月代くんは力なく首を振る。横に。 -
月代 雪斗
少なくともこのクラスの人間じゃない
女子ってことはわかるんだけど -
やっぱ女子なんだ。
でも、さっきの子ではない。
少し安堵しつつ、じゃあ、いったい誰が。 -
月代 雪斗
これは俺の問題だから
佐伯さんには、関係ないから -
私を置いて教室から出て行く。
その言葉がどういう意味かわかってしまう。 -
ドライで、冷たくて、ひどい人だ、って。
思ったのに。
私、思っちゃったのに。 -
心配してくれてるんだ、月代くんは。
理世ちゃんみたいに、私のこと。 -
関係ない? なくないよ。
だって夢に近づいてるの、わかるの。 -
月代くんが私の、大切な人になり始めてる。
-
軽いかな。軽いよね。
軽い気持ちならいいんだけど、でも。
育っていくのがわかるの。
根を張って、しっかりと。 -
夢が近い。
逃げ場もない、くらいに。
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