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千宏
柚さ~、もしかして、あいつのことタイプなの?
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昼休み。
いつも通り理世ちゃんとお弁当を食べていたら、千宏くんがパン片手にそんなことを言い出した。 -
あいつって、たぶん、あの転校生のことだよね。
クラスの女子に囲まれている彼を見やる。
目が合ったら困るから、一瞬だけ。 -
佐伯 柚
え……
そんなふうに見えた? -
千宏
だって今日ずーっとチラチラ見てない?
あいつのこと -
理世
それ言えるのは柚のことずーっと見てるチヒロンぐらいだよね
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千宏
うるせーバァカ
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理世
図星だからって小学生に戻らんでも
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千宏くんの言う通り、たしかに、私は転校生をチラチラ見てる。
だって見てしまう、夢で見たあの人と同じだから。 -
正直に言う?
「夢の中で死んだ人だから気になる」って?
……さすがに気味悪がられないかな。 -
千宏
向こうも柚のことチラチラ見てるし
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佐伯 柚
え……?
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千宏くんにつられて彼を見たら、目が合ってしまった。
でもすぐ逸らされて、なんか、その様子が変で。 -
もしかして彼も、同じ夢を見た、とか?
私の目の前で死ぬ夢を? -
そんな、そんなことってあり得る?
夢で見た人が現実に現れただけでもビックリなのに、その人と同じ夢を見た、なんて。 -
……ないでしょ、ないない。
素敵な夢ならまだしも、あんな夢。
ただのホラーだ。 -
理世
チヒロンが悪口言うから転校生逃げたじゃん
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理世ちゃんの言葉通り、立ち上がって教室から出て行く転校生。
まだ女子が何か言ってるのに無視。
私のことも、無視。 -
千宏
はー?
俺のせいじゃねーだろ、あいつら群がってっから、うざくなって出てったんだろ -
……無視? 本当に?
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彼が教室から出て行ったのは、女子に囲まれるのが嫌だったわけでも、千宏くんの話が聞こえたからでもなくて。
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私から、逃げたんじゃないの?
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思わず教室から飛び出て、彼を追いかけていた。
廊下の向こう、灰色がかった髪の彼が、遠ざかる。 -
名前を呼ばなきゃ。
彼の名前を。 -
佐伯 柚
……月代くん!
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彼の足が止まる。
でも、振り向いてはくれない。
なんとなく足音を立てないようにして、彼に近づく。 -
佐伯 柚
はじめまして
で、いいのかな? -
怖い。確かめるのが。
怖い。もし、あの夢が、現実になったら。 -
佐伯 柚
驚かないで聞いてほしいんだけど
今朝、変な夢、見ちゃって -
ただの夢ならいい。
明日には忘れている、そんな夢なら。 -
佐伯 柚
私の、目の前で、月代くんが……
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月代 雪斗
俺はそんな夢、知らない
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言い終わる前に月代くんが振り向いたから。
その「知らない」は、「知っている」という意味だから。 -
佐伯 柚
月代くんも、見たんだ、同じ夢
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しまったという顔をして、もう一度私に背を向けて、去っていく月代くんを。
私から逃げる、月代くんを。 -
私はただ、見ていることしかできなかった。
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