序章

 その場所が熱と炎と爆風に襲われる直前に、二人の少年と一人の青年が言葉を交わした。

「…オレ達は一緒に居たらいけないって、みんなが言うんです。」
 無造作な、くすんだ赤色の髪を後ろで束ねている少年が小さな声で言うと、少し伸び気味の黒髪に青い瞳の青年は穏やかに問うた。
「みんなって、誰が?」
「親も、教師も…クラスメイトも。」
 赤い髪の少年がまた小さな声を発する。青みがかったショートヘアの、もう一人いる少年が忌々しげに吐き出した。
「『人でなし』と真面目一辺倒だからな。端から見ればおかしいんだろ。」
「オレ達は…一緒に居たら、よくないのかな。」
 ひどく気落ちした赤色の少年と、何も言えずにいる青い少年に向かい、青年は落ち着いた声でまた問うた。
「君達自身は、どう思う?」
「どうって…。」
 青い少年が戸惑っていると、赤い髪の少年がゆっくりと、だがはっきりとした声で口にした。
「オレは…和泉いずみと一緒にいるのが、安心して嬉しいから、一緒に居たい。」
ほむら…。」
「和泉」と呼ばれた青い少年は驚きに目を開き、赤い髪の少年を「焔」と呼んだ。
 焔の答えを聞いた青年は、目を細めて笑むと頷いた。
「…そうか。だったら、オレが望むよ。」
 二人の少年が疑問符を浮かべていると、青年ははっきりと宣言した。
「オレが、君たちが共にあることを望む。」
「見ず知らずの人間にそんなこと言われてもな…。」
 和泉が訝しげに青年を見ても、青年は二人を真っ直ぐに見て態度を変えなかった。
「でも望む。君達はお互いに大切な人だと思うから。それを否定されるのがすごく嫌だと思うから。君達は一緒に生きてる。そのことをオレが望む。…許されなくても、大丈夫だよ。」
 和泉は黙って青年を見返した。焔は少し思うように沈黙してから青年に問うた。
「…あなたは、何ていう名前なんですか。」
「オレの名前? …ほし。」
「星、さん…。」
「星」という青年の名を焔が復唱すると、青年は泣きそうな顔で笑んでみせた。
「…君達みたいにいつか、オレも大切な友達と…一緒にいられたら…。」
「焔!!」
 怒りを隠さない女性の声が響いた。焔はびくりと体を引きつらせ、和泉は苛立ちのままに眉間にしわを寄せた。
 二人が振り返ると、いきり立った様子の女性がずんずんと歩いてきていた。
 和泉は反対の方角に振り向く。やる気のなさそうな女性が面倒臭そうに歩いてきていた。
 二人の女性が三人のそばに来た瞬間、その場所は熱と炎と爆風に襲われた。
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