第七話 七月 都庁から来た少年

 深夜の生徒会寮。
 自室でエリーとライラが眠りに入っていた時だった。
『うあああああ!!』
 リタの悲痛な叫びが脳内に響き、二人はハッとして目を開ける。
 次には部屋の壁の向こうから、セーラが何事か言う声が聞こえてきて、リタのすすり泣く声が二人の頭の中に届き、静かになった。
 エリーが小さな声で呟く。
「…話には、聞いてたけど…。」
「ここまで、きつそうなモノだったんだな…。」
 ライラも隣室に続く壁を見る。
 二人はしばらく黙ってから、また寝に入った。

 七月。
 学園の放課後はにわかに活気づく。工具を使ってモノを作る音、明るい声での話し合い。
 学園では七月、文化祭が行われる。
 準備期間中の今は、そんな光景が学園中で見られるようになっていた。

 文化祭準備期間中の生徒会寮。
「…じゃ、お大事に。」
 食器が乗ったトレーを持ったエリーとライラは、遠慮がちに声をかけ、自分達の隣部屋のドアを閉めた。
「…あの…。」
 背後から声がかかり、二人は振り返る。小猫が居辛そうに立ち、二人を見上げていた。
「…クラガリ弟か。」
「どうした?」
「…小鳥姉ちゃんが…その、大きい先輩達に、謝りたいって…。」
 小猫がぎこちなく発した台詞に、エリーは黙って首を横に振った。ライラも言う。
「今は二人共、話聞ける状態じゃない。」

 エリー、ライラ、小猫の三人は生徒会寮のロビーで、テーブルを囲んで座っていた。
 エリーが小猫に話し出す。
「…リタ先輩の能力はな…『受心送心』っつって…相手の思考に自分の思考を接続して、相手の意志を読み取ったり、相手に意志を送ったり…場合によっちゃ、複数の人間の思念を一人に送る事も出来る能力なんだよ。」
 エリーの話に小猫は頷く。
「…あの時…ものすごい…悪意の心とか、感覚とか…そんなのが小鳥姉ちゃんに一気に流し込まれたの、感じたっす…。」
「オレ達も話に聞いただけだけど…。多分姉貴の方が喰らったのは『悪性思念攻撃ウイルスアタック』だ。…リタ先輩が使える最後の手段だ。」
 ライラは視線を落とし気味にして、話を続ける。
「リタ先輩の能力の有効範囲…半径二〇キロ圏内にいる全ての人間から、悪意のイメージをかき集めて相手にぶつける技だ。当然喰らった相手はトラウマもの、精神構造も無事じゃすまないかもしれない。…あらゆる人間からかき集めた悪意の思念を、自分の中で集束させたリタ先輩も当然、同じダメージを喰らう事になる…諸刃の剣だって、セーラ先輩は言った。」
「…そう、なんすか…。」
 エリーは更に口を開く。
「詳しいいきさつは聞かなかったけど、あの技はリタ先輩の、すげーキツいトラウマから生まれたモンらしいんだ。セーラ先輩が言うには…。」

「リタの受心送心の能力は強力だ。…昔、能力を上手くコントロール出来ず、受心も送心もめちゃくちゃだった時期があったらしい。意図せず相手の心が流れ込み、意図せず自分の心が伝わってしまう…。あいつの中に流れ込んだ心は、いいモノばかりではなかっただろうな…。」

 セーラが以前、自分達に語った事。エリーはそれを小猫に伝え、話を続ける。
「前に使っちまった時も、リタ先輩の精神状態めちゃくちゃになったらしくて、セーラ先輩ずっとついてたみてーだ。」
「ずっと…すか…。」
 小猫が呟くと、エリーとライラはわずかの間、顔を見合わせた。
「セーラ先輩はリタ先輩に出会ってから…ずっとリタ先輩を守ってる。」
「その事にセーラ先輩自身が救われてるんだ。…セーラ先輩もキツい事あったらしいから。」
 エリーとライラが続けると、小猫は何も言わずに俯いた。
「…こればかりは、時間が経つのを待つしかないんだ。」
 エリーとライラは立ち上がると、小猫に言葉を掛けた。
「焦らずに、今は待ってろ。」
「あの二人なら大丈夫。ちゃんと落ち着くから、落ち着いたらちゃんと謝れよ。」
「…はいっす。」
 小猫は二人を見上げ、深く頷いた。

 二年前の入学式開始前。
 会場の隅に、おどおどした様子の少年が一人いた。青い髪と大きな青い目を持つ少年は、怯えたように顔を強ばらせている。
 少年は会場の中心を見る。沢山の生徒が椅子に座っていた。少年はそちらの方に足を向けようと何度もしているが、結局踏み出せずに終わっている。
 …少年の近くに、背の高い別の少年がやって来た。長い黒髪を頭の上で束ねている。
 青い髪の少年は恐る恐る長身の少年を見上げる。青い髪の少年は思考した。
『…大きいんだ…。』
「…受心送心能力か…。」
 言葉が青い髪の少年の脳内に伝わって来た。青い少年がハッとすると、長身の少年が青い少年を見下ろしていた。
『! 今の…それに、僕の事…?』
 青い少年が戸惑っていると、長身の少年が穏やかな声をかけてきた。
「…すごいんだな、お前は。」
『…え、すごい? 僕が…?』
 青い少年が目を丸くすると、長身の少年は続けて言った。
「今、頭の中に聞こえたのは、お前の声だな…。」
『…僕の声だって、解るの…?』
「ああ。」
『…ごめん…気味、悪いよね…。』
 青い少年が視線を落とすと、長身の少年の心が聞こえた。
「いいや。とても安心する声だ。」
 その言葉に青い少年は顔を上げ、驚いたように目を見開いた。青い少年は長身の少年に伝えた。
『…君こそ、すごいね…!』
「…すごい? オレが…?」
 今度は長身の少年がひどく驚いたようだった。青い少年は一生懸命頷いた。
『…うん!』
 長身の少年は視線を緩め、問う。
「お前も新一年生か?」
『…うん。』
 青い少年が頷くと、長身の少年は穏やかな笑みを浮かべた。
「オレは聖。お前とはいい付き合いが出来そうだ。」
『…僕は、栗田…。よろしく…。』
 青い少年…栗田は小さく顔を綻ばせた。
「…そろそろ、式が始まるな。」
『…うん…。』
 栗田が不安げに人が集まっている会場を見やると、長身の少年…聖は栗田の手を取った。
「行こう。」
『…うん。』
 栗田は安心したように、聖の手を握った。

 薄暗がりの中で、リタは目を開けた。
 リタの身体はセーラに寄りかかっている。セーラは疲弊した様子で、部屋の壁に身体を預けていた。
 リタがしばらく、身体を縮こませて黙っていると、声が響いた。
「…リタ。」
 届いた声に反応してリタが顔を上げると、セーラの穏やかな眼差しがリタを見下ろしていた。
『…セーラ。』
 掠れた声で、リタがセーラの頭の中に語りかける。
『…夢…見たんだ…。』
「…そうか。」
『…入学式…僕達が出会った時の…夢…。』
「…懐かしいな。」
 二人は静かに会話を交わした。
『…ごめんね、セーラ…。もう大丈夫。』
 リタは涙の跡が痛々しく残る顔で、セーラに笑んで見せた。セーラもリタに応え、優しい笑みを浮かべた。

 文化祭当日。
「リタ先輩…。」
「大丈夫なんですか?」
 何週間ぶりに、リタはセーラと一緒に部屋から出てきた。エリーとライラが心配して声を掛けると、リタは二人を気遣うように笑んだ。
『…うん、大丈夫。心配かけてごめんね。』
「…いえ。」
「水臭い事言わないでくださいよ。」
 リタの笑顔を見、エリーとライラは眼差しを緩ませた。
 リタは不意に表情を曇らせた。
『…あの子は大丈夫?』
「大丈夫っす。あいつら、先輩心配してたっす。」
 エリーが言うと、リタは問うた。
『あの子、名前何ていうの?』
「姉貴の方が倉狩小鳥。弟の方が小猫っていいます。」
 ライラが答えを引き受けると、リタは頷いた。
『…あの子達、呼んでもらえるかな…?』

 エリーとライラがクラガリ姉弟を呼びに行くと、小猫は不安そうな顔をした。
「…怒ってるんすかね…やっぱり…。」
 その様子に先輩二人は苦笑した。
「とにかく、お前ら行って来い。先輩待ってっから。」
「は、はい…。」
 エリーの言葉に小猫が頷き、部屋を出ようとした時。
「教えとく。リタ先輩と話したい時は、ちゃんと顔向き合え。」
「リタ先輩、耳がほとんど聞こえないんだ。そうしないと会話出来ないからな。」
「後、リタ先輩に社交辞令は通じねえから、悪いと思っても本音でモノ言え。」
 エリーとライラのアドバイスに、小猫は頷いて部屋を出た。見送ったエリーとライラは、苦笑気味にため息をついた。

 セーラとリタの前に出てきたのは、不安げな顔をした小鳥だった。
「…あ…あの…っ。」
 小鳥はリタを前に、かなりぎこちなく言葉を発した。セーラは黙って事の次第を見守っている。
「私っ…先輩達に迷惑かけて…本当にごめんなさい!」
 一生懸命頭を下げた小鳥に、リタは伝えた。
『ごめんね。』
「…え?」
 小鳥が顔を上げる。目を丸くしている。目の前のリタは、気遣うように笑んでいた。
『すごく怖い思い、させちゃったと思うから…。本当にごめんね。』
「そ、そんな、私…。」
 小鳥が慌てていると、リタは優しく響かせた。
『知ってる? 今日は文化祭なんだよ。色んな催しやってるから…よかったら一緒に廻ろう?』
 リタはふわりと笑って見せた。セーラも笑んで頷いた。
 二人の笑顔を前に、小鳥は顔を綻ばせ、強く頷いた。
「…はいっ…!」

 文化祭を廻っていた生徒の一人が、首を傾げた。
「江利井…?」
「ほら、始末屋の…。」
 そばにいたもう一人が言うと、一人は気がついたようだった。
「あ、そうかエリー!」
「エリーなら、学園のどこか巡回してると思うけど…。」
 二人の生徒は、目の前にいる少年に言った。
「そうか、ありがとうな。後は自分で探す。」
 少年は不思議そうにしている生徒達に、にいと笑って見せると歩き出した。
「…エリー、か。」
 呟いて、少年は小さく笑んだ。

「あ、先輩! あれ何ですか!?」
 小鳥が模擬店の一つを指してはしゃいだ声を上げると、セーラとリタは笑った。
「くじ引きだな。」
『小鳥ちゃんはくじ運強い方?』
「運が絡むのは苦手ですー。小猫君は結構運がいいんですけど。」
『じゃあ引いてみようか、皆で。』
 明るい声で会話を交わしつつセーラとリタ、クラガリ姉弟は沢山の模擬店が連なる校内を廻っていた。
『あ、ポーチみたいなの当たった。』
「オレは野球帽か。」
「私は…パーティーメガネ? …え、小猫君もやりたい? …おいっちもやります! はい、三百円!」
 三人が文化祭を満喫しながら歩いていると、ライラが近くを通りかかった。
「あ、主人様!」
「ライラか。」
『お疲れさま。』
 ライラは三人からかかった声に気付くと、片手を挙げた。
「どーも。絶賛満喫中ですね。」
『始末屋は校内見回りしないといけないものね。』
 リタが苦笑し、それから小猫が問う。
「エリー主人様は?」
「さあ? 真面目なエリーさんはどっかで巡回してます。」
 意地が悪い笑みを浮かべて答えたライラに、セーラはため息まじりに言った。
「そうか。引き続き警戒を怠るな。浮かれて妙な行動に出る奴もいるからな。」
「解りました。それじゃ。」
 ライラが去っていくのを見送りながら、三人は話した。
「…一緒じゃ無いんすね、今日。」
「あいつらはな…。」
『こういう時くらい、一緒に行動したくないんだって。』

 校内を巡回していたエリーは、やがて体育館に出た。体育館は今回の文化祭では使われず、閑散としていた。
「…そっか、体育館では模擬店やってなかったか。」
 一人呟いて、エリーは引き返そうと振り返った。
 …視線の先に、染めていると思われる赤い髪を持ち、学園の物でない黒い服を着た少年が、いつの間にか立っていた。
「…お前は?」
 黒い瞳で真っ直ぐ見てくる少年に、エリーが問う。
 少年は口元で、にいと笑んでみせると問いで返した。
「…江利井っての、お前だよな?」
「…そうだぜ。…お前は? 学園じゃ見ない顔だな。」
 少し睨むようにエリーは少年を見た。少年は変わらず笑んで答える。
「…オレはあかつき真無しんむ。ここの流儀なら…『マナ』とでも呼んでくれればいい。都庁から来た。」
 マナと名乗った少年の言葉に、エリーは怪訝そうな顔をした。
「…? 都庁? あの…どっかにあって、世界をまとめてるっていう…何か、都市伝説の?」

 この世界には、いくつかの都市伝説が存在する。その一つが「都庁」だ。この世界のどこかに存在し、全てを統括しているという。
 だが、誰もその都庁の存在を確認した人間はいない。この世界では役所に当たる事は、学園都市が窓口になっている。

 マナは僅かばかり思考した。
「…やっぱり、全部忘れてんだな。」
「…? お前、何なんだ?」
 エリーが警戒するように睨みを強くすると、マナは苦笑する。
「ああ、悪い。単刀直入に言うとだ、三年前にあった事件の当事者に興味を持った。それだけだ。」
「…? 三年前?」
 エリーは考える。

 オレが、中等科二年の時…。
 あれ? オレ、その時何してたっけ…?
 …思い出せない…?

「三年前の事件の当事者…あの人の息子…『コミュニティ』の『重要戦力』。」
 マナの笑みが途端に鋭いモノになった。ターゲットを捕捉したような表情だった。
 マナの雰囲気が変わったのを察知し、エリーの思考が中断される。
 マナはエリーの元に歩んで近づいていき、手刀を繰り出した。エリーの手が手刀を掴み、受け止める。
「…宣戦布告はしたぜ。」
 マナはにいと口角を吊り上げた。
「…そうかよ!」
 エリーは身体に青い光を纏い、同時に右から拳を繰り出す。
 マナは拳の外側にステップを踏んでよける。左手で拳を握ると、側面からエリーの顔面横に素早く、小さな弧を描くパンチを喰らわせた。
「がっ!?」
 頭への衝撃にエリーの身体が揺らぐ。マナは拳を握ったまま笑った。
「硬化コーティング能力…ちょっと痛いな。」
「っの!」
 エリーは何とか踏ん張り、右の拳を握り、またパンチを喰らわせようとする。
 マナは頭を左腕でガードしつつ前に出る。エリーの攻撃をやり過ごし、そのまま左腕を回してエリーの右腕を押さえ込んだ。動けなくなったエリーの懐に、マナは思い切り拳を見舞う。
「…っ!」
 マナは間髪入れず、パンチの衝撃で曲がったエリーの上体を掴んで押し、更にエリーの足を自分に向けて思い切り蹴った。この足払いでエリーは床に叩き付けられる。
「だっ…!」
「喧嘩殺法…いや、殺法になってないか。」
 倒れたエリーの足首を、マナはかかとで踏む。
「っ!」
「これで動けない。…結構弱いな。これじゃなれないぜ。重要戦力になんて。」
 マナは言いながら、呆れたように笑んだ。

 ライラが見回りをしながら歩いていくと、体育館に出た。
「…ここは模擬店やってなかったよな、確か…。」
 などと言いつつ入っていくと、そこには顔を歪ませて倒れているエリーと、見知らぬ少年がいた。
「…何だ…?」
「…ああ、あの時のもう一人の当事者か。」
 ライラに気付いたマナが、さらりと言って笑った。ライラが訳が解らないと怪訝な顔をすると、マナは苦笑する。
「お前も全部忘れてるものな。…コミュニティの…『最重要警戒対象』?」
「…またお前、やられてるのか?」
 マナの言葉に構わず、ライラが顔を歪めて見下ろしたのはエリーだった。
「…悪かったなっ…。」
 エリーが後頭部を抑えながら、ライラに悪態をつく。
 ライラはマナを見、攻撃的ににやりと笑った。
「…何かめちゃくちゃむかつくんで、オレとも相手してもらえませんか?」
「…いいぜ、来てみろよ。」
 マナは歩いてエリーから離れ、ライラに向かい合った。
 ライラは手にザグナル(からすのくちばしのような切っ先を持った長いハンマーの一種)を握り、マナに向かって歩いていった。
「ふーん…。面白い得物使うな。」
 ライラの様子を見たマナは不敵に笑う。
 ライラが前に踏み出し、マナにザグナルの切っ先を向けて振る。マナは大きく前に出、ザグナルを振るライラの腕を自分の片腕で抱え込んだ。
「!」
 自由な方のマナの手が、驚くライラの顎に掌底を直撃させる。
「…っ!」
 更にマナがライラの懐に膝蹴りを喰らわせると、ライラも倒れた。
「っあ…!」
「…まあ、二人ともただの向こう見ず…てとこかな。」
 マナがため息を一つ付いた時。
「…何をしている?」
 声が掛かり、マナは振り向く。体育館の入り口に杖を構えたセーラ、後ろにはリタとクラガリ姉弟がいた。
 セーラがすうと目を薄くし、マナを見る。
「…事と次第によっては、お前の相手はオレがするが?」
 マナは苦笑し、セーラに向かって両手を軽く上げ、首を横に振った。
「…いいや。興味無い奴とまでやったら疲れる。騒がせて悪かった。」
「…てめえ…。」
 身体を起こしたエリーが、マナを睨む。マナはエリーを一瞥し、言葉を投げた。
「お前ら二人、もうちょっと強くなっといた方がいい。でないと、これから付いていけないぜ。」
 マナは歩き出し、セーラ達の横を通り過ぎ、体育館を出て行った。

 学園医務室。
「いってえ!!」
「ほら、動かないの!」
「は、はい…。」
 エリーとライラはまた、田村の元で手当てを受ける事になった。二人がマナに打たれた場所には、一様にやけどが出来ていた。
「打ち身は大した事無いけど、このやけどは放っておいたら水膨れになるから、明日もちゃんと医務室に来なさい?」
 田村がエリーの手当てをしながら言い聞かせると、エリーはぎこちなく返事をした。
「…はい…。」
 覇気が無い様子のエリーを見、リタが小さく笑う。
『エリー君、田村先生の前では大人しいね。』
「…女苦手な上に、優しくされるのに慣れてないんですよ、アイツは。」
 既に手当てを終えたライラが、エリーを見ながら言った。
「…よく知っているな。」
 苦笑気味にセーラが言葉をかけると、ライラは顔をしかめて無言で通した。
「でも、体術で倒されたのは解りますけど、何でやけど…?」
 小鳥が首を傾げると、セーラが返した。
「あの男の能力だ。」
『…あの子の能力「解析」したんだね。』
 リタがセーラを見上げて確認する。
 セーラの能力は、相手を見る事で有する能力を知る事が出来る『解析』だ。
 セーラは皆に説明する。
「あの男の能力は『発熱』…。自身や他の物から高温を出させ、それを攻撃に流用する事も出来るらしい。」
「それで…。」
「…ったく、何なんだ、あのマナって奴…。」
 手当てを終えたエリーは、忌々しげに口を開いた。
「都庁から来たとか、忘れてるだのなんだの…解らねえよ…。」
「…それは、私には全然解りませんけど…多分、あの人は…。」
 小鳥の声が真剣味を帯びて響いた。
「…解る。それくれえは。」
「…強い、だろ。あいつは。」
 エリーとライラが真っ直ぐに返した言葉に、小鳥は頷いた。
「…はい。」
 そんなやり取りをする始末屋の面々を、田村は黙って見つめていた。

 文化祭もたけなわの、学園の一角。生徒の立ち入りが禁じられている、職員室の近くだった。
 マナは目の前にいる、自分と容姿の似た少年に言った。
「お前も面白い事になってるな、兄弟よ。」
 目の前の少年は、眉一つ動かさず黙っている。マナは苦笑した。
「あいつらは強くなるな。それと共に世界も動く。…オレは帰るけど、ちゃんと役目頑張れよ、輝夜。」
 マナはどこか鋭く笑むと、歩いて少年の横を通り過ぎ、職員室の方向へ去っていった。
 灰色の髪と目以外、マナに似た容姿の少年…カグヤは無表情に黙ったまま、マナの方を見ずに歩き出し、その場を離れた。

 To Be Continued
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