第二十四話 二月 強き意志の捨て駒達 前編
闇の中、坂を滑り降りていたエリー達を衝撃が襲った。
「ぐわっ!!」
「でっ!!」
何かに叩き付けられたエリー達は、よろよろと身体を起こす。
「何だよ…。」
「…ここが、都庁。」
カグヤの声に、皆周りを見回す。
少しずつ闇に目が慣れてくると、皆は床に叩き付けられたらしいことが解った。
「…ここが都庁…。」
その場所は仄暗く、コンクリートの壁とむき出しになった鉄骨が絡み合う、空気の冷たい場所だった。エリーとライラが感想を述べる。
「…なんつーか…。」
「あまりいい気分はしない場所だな。」
「お前達が侵犯者か。」
低い声が周囲に響いた。全員身体を緊張させる。
前方からこつ、こつと音を立て、コンクリートの床を歩いてくる大きな人影が見えた。近づいて来るにつれ、身体の大きな青年である事が解った。
青年はエリーとライラ達を見下ろし、口を開いた。
「…よりにもよって『重要戦力』と『最重要警戒対象』だとはな…。お前も厄介な事をしたな、輝夜。」
低く冷徹な声で放たれた言葉に、カグヤは何も返さなかった。
エリーは青年を睨み、カグヤに問う。
「…こいつが、その?」
「…都庁防衛システムの、一人。『無慈 』。」
カグヤに無慈と呼ばれた大柄の青年は、言い放つ。
「お前達には、ここで死んでもらう。」
「カグヤ。」
セーラが囁き声をかけた。
「エリーとライラ達を連れて、先に行けるか。」
カグヤが僅かに目を見開く。エリーは思わず声を上げた。
「先輩…!」
『ここは僕達に任せて。君達は先に。』
リタの思念が、エリー達の脳裏に響いた。
「でも…!」
セーラはエリー達にそれ以上返さず、無慈の前に進み出る。
「…ほう。」
無慈がセーラを見、嘲笑を含んだ声を漏らした。
『…早く行って! 今の内に!』
リタはエリー達を叱咤するように送心した。
「…行く。」
カグヤが小さな声で短く言うと、ライラは苦い表情で頷いた。エリーは顔を辛そうに歪ませた。
カグヤが走り出す。エリー、ライラ、ジュリー、クラガリ姉弟はそれに続いて部屋の奥、その先の通路へ突き進む。
無慈は一瞬後ろを振り返ったが、またセーラとリタに向き直った。
「…まあいい。後の方にも、防衛システムは控えている。…オレはお前達を確実に殺す事にする。」
セーラは皆の背中が遠くなっていくのを確認し、リタに目配せをする。
「行くぞ、リタ。」
『うん!』
リタは頷き、表情を引き締めた。
無慈は嘲るように笑み、呟く。
「フィールド、展開。」
瞬間、セーラの脳内を衝撃が襲った。その次に流れ込んで来たのは。
【…なす術なしだよ、本当に!】
【何でこんな奴が、当主の息子に産まれたんだろうな!!】
セーラの過去の光景があまりにも鮮明に、眼前に蘇った。
セーラが思わずリタの方を向くと、リタは目を見開き、表情を固くしている。
瞬間、向かってくる敵意を感じ、セーラは過去の光景を無理矢理に振り払った。杖を構え、敵意を受け止める。杖にぶつかって来たのは、離れた位置にいる無慈の拳だった。無慈の腕はセーラに向かい、常人には無い長さで伸ばされている。
「リタ!」
セーラがリタを叱咤する。リタはハッと我に返った。
『気をつけて、セーラ! これは…!』
「ああ。…精神干渉だな…!」
セーラが無慈を睨む。無慈は長く伸ばしていた腕を戻し、冷徹に嗤った。
「解るか。ここまで来る、無謀な奴らだけの事はあるか。」
無慈は更に能力を放出する。
『…セーラっ…!』
「リタの送心が…っ!」
セーラの脳内に、リタの意志が上手く届かなくなった。ノイズがかかったように聞こえにくくなっている。
リタは必死に意識を集中し、セーラに届かせようとするが、無慈の能力が邪魔をする。
リタの脳内にも過去の光景が流れ込んでくる。
【よお、気持ち悪い奴。】
【お前が人の心勝手に覗き見るからだろ、クズ!】
『…っあ…!』
脳裏に鮮明に蘇る、彼らのトラウマの過去。
その中に紛れ込んで来たのは、何者かの足下で冷たくなって倒れている、誰かの映像。
ぼろぼろに傷つき、血を流し、無惨な姿で倒れている…ジュリー、クラガリ姉弟、エリーとライラ。
『…妨害雑念!!』
リタが無慈に思念をぶつけると、無慈は一瞬だけ怯み、二人への精神干渉が止まった。
「…なるほど、お前もか。」
「リタ!」
セーラがホッとした様子で声を掛けると、リタは辛そうに頭を押さえていた。
『ごめんっ…相手の技がジャミングになって、これが精一杯…。』
「だが、脆弱と見える。」
セーラとリタの視界が再び、無慈の送り続ける思念攻撃でちらつき始める。ちらつく視界の向こうで、無慈が嗤う。
「このフィールドは敵の思考を外から遮断して行く。お前達にはマイナスの過去と未来しか見えなくなる。その壁に穴は無い。」
ぐらつく頭を抑えながら、セーラが無慈を睨む。
「肉体技も特異な上に…悪質な精神干渉術か…!」
『セーラっ…。』
脳内をトラウマの過去、無惨な未来が駆け巡る中、二人は必死に意志を繋ぐ。
セーラは唇を結んだ。リタに視線を向け、小さな声をかける。
「リタ。何とかして時間を稼げるか。」
『え…?』
「オレには精神干渉を無効化する力は、一つしか無い。」
その言葉を受心し、リタはハッと思い至る。
『…理性を捨てる…「狂戦士」…。』
セーラは無慈を見据え、はっきりと口にする。
「オレ達のトラウマ…『過去』はいい。だが…!」
『…マイナスの未来…エリー君とライラ君を死なせるわけにはいかない…!』
リタは攻撃を仕掛けんと腕を構える無慈を、きっと睨んだ。
『思念結界!』
無慈の手が止まる。無慈がまた、呟いた。
「…ほう、近づこうとする意志を乱す技か…。」
『セーラ…!』
リタはセーラの様子を横目で見る。セーラは意識を集中し、自己暗示をかけている。
「…無力は壁となり、壁は火となり、火は無我の渦となる…。」
深く呼吸を繰り返し、やがてセーラは無言になった。
「…やはり、脆弱だ。」
リタの脳内に衝撃がぶつかってくる。無慈の精神攻撃でリタの思念結界が解かれた。
「脆弱だが、厄介そうだな。」
無慈はリタに向き直る。拳を構え、思い切り撃ち出す。
リタが思わず目を瞑った時、セーラの杖が無慈の拳を叩き落とした。
セーラは思い切り踏み出し、無慈の前に出る。容赦なく杖を振るい、無慈を打ち据える。
セーラの突然の豹変に無慈は怯む。その間にもセーラの連続打は続く。
「…っあ!」
セーラの渾身の一撃に、無慈の身体はぐらりと傾く。
「な…こいつ…! ぐほ!」
セーラの杖の先が、無慈のみぞおちにめり込む。続けてセーラは一撃を喰らわせ、無慈の身体を床に叩き付ける。無慈はなす術も無く、セーラの攻撃を受け続けた。
「がっ、ぐあ、あ、あ…!」
セーラが渾身の力を込めた一撃を打つ。無慈はぐったりと動かなくなった。
セーラは黙って、息を切らせて立っている。
『…セーラ。』
リタはセーラのそばに駆け寄る。セーラが振り返ると、リタは小さな声で響かせた。
『…解るよね、僕の事…。』
「…リタ。」
セーラはリタに向かって笑むと、一瞬動きを止めた。
その一瞬にリタが疑問符を浮かべると、セーラは笑んだまま、リタの身体を突き飛ばした。
途端、セーラの身体を無慈の手刀が貫いた。
『…え?』
「…攻撃に関しては、何の能力も無いと見える。」
倒れたままの無慈が伸ばした腕を引き抜く。胸に穴の開いたセーラの身体が地面に崩れた。
『…セーラ?』
尻餅をついたリタは目を見開き、その光景を呆然と見る。ゆっくりと、起こった事を理解した。
『セーラあ!!』
リタはセーラに縋り、心で叫びながら、動かないセーラの身体を揺さぶる。
『セーラ、セーラ!! こんなのって、ないよ、ないよね、セーラ!!』
「…残るは、お前だけか…。」
無慈はよろよろと立ち上がる。リタはセーラに縋ったまま、身体を震わせていた。
『ごめんね、セーラあ…僕に、僕にもっと…力が…!』
立ち上がろうとした無慈の身体が、がくんと膝をつく。セーラの攻撃で受けたダメージの為だった。
「ちっ…後一撃がせいぜいか…だが、一撃で十分だ。」
無慈は手刀を構える。リタに向かい、思い切り撃ち出した。手刀がリタをも貫こうとした次の瞬間、無慈は驚愕した。
無慈の手刀がリタを貫く事は無かった。もはや意識も無いセーラの手が、寸前で無慈の手首を掴んでいた。
リタはハッと我に帰り、その場から逃れた。無慈は大いに動揺を見せる。
「な!? こいつ…! …もう、意識は無い筈…何故…!!」
リタが目の辺りをぐい、と拭った。
『…ありがとう、セーラ…。』
一瞬後。
「ぐあああああああっ!?」
無慈が頭を抱え、狂ったような叫び声を上げた。身も心も圧殺せんとする、大量の悪意の塊が無慈を襲う。
「ば、かな…! このフィールドで、オレへの、思念攻撃、など…!!」
無慈がやっとの思いでリタを見ると、リタは怒りに燃えた目で無慈を見ていた。
『…穴だよ…今の動揺が…このフィールドに穴を開けた…!! こんな技、お前だってよっぽど集中してないと使えない…だから、ほんのちょっと心を乱せば…!!』
脳内を破裂させるかのように、悪意の思念、感覚を流し込まれ、無慈の視界も精神も、何もかも壊れ崩れていく。
「がああああ!! 止めろ、やめろおおおお!!」
『お前は絶対に許さないし生かさない!! ここで…僕達と消えるんだ!!』
リタは思い切り叫び、最期の攻撃を送り込んだ。
『壊れろ――――!!』
「ああああああ、…………。」
無慈の絶叫が不意に止まり、巨体がその場に崩れ落ちた。
リタもふらりとその場に倒れたが、力を振り絞り、倒れているセーラのそばへと這っていった。
『…せー…ら…。ごめん、ね…あり、が、と…。』
セーラのそばまで来ると、リタはもう一度だけ、集中する。
『…もう、一度…。皆…。』
集中を解くと、リタはセーラの顔を見て、小さく笑んだ。
『…これで、いい、よ、ね…せ…ら…。』
リタはかくりと首を落とす。
並んで倒れるセーラとリタの瞳には、既に光はなかった。
To Be Continued
「ぐわっ!!」
「でっ!!」
何かに叩き付けられたエリー達は、よろよろと身体を起こす。
「何だよ…。」
「…ここが、都庁。」
カグヤの声に、皆周りを見回す。
少しずつ闇に目が慣れてくると、皆は床に叩き付けられたらしいことが解った。
「…ここが都庁…。」
その場所は仄暗く、コンクリートの壁とむき出しになった鉄骨が絡み合う、空気の冷たい場所だった。エリーとライラが感想を述べる。
「…なんつーか…。」
「あまりいい気分はしない場所だな。」
「お前達が侵犯者か。」
低い声が周囲に響いた。全員身体を緊張させる。
前方からこつ、こつと音を立て、コンクリートの床を歩いてくる大きな人影が見えた。近づいて来るにつれ、身体の大きな青年である事が解った。
青年はエリーとライラ達を見下ろし、口を開いた。
「…よりにもよって『重要戦力』と『最重要警戒対象』だとはな…。お前も厄介な事をしたな、輝夜。」
低く冷徹な声で放たれた言葉に、カグヤは何も返さなかった。
エリーは青年を睨み、カグヤに問う。
「…こいつが、その?」
「…都庁防衛システムの、一人。『
カグヤに無慈と呼ばれた大柄の青年は、言い放つ。
「お前達には、ここで死んでもらう。」
「カグヤ。」
セーラが囁き声をかけた。
「エリーとライラ達を連れて、先に行けるか。」
カグヤが僅かに目を見開く。エリーは思わず声を上げた。
「先輩…!」
『ここは僕達に任せて。君達は先に。』
リタの思念が、エリー達の脳裏に響いた。
「でも…!」
セーラはエリー達にそれ以上返さず、無慈の前に進み出る。
「…ほう。」
無慈がセーラを見、嘲笑を含んだ声を漏らした。
『…早く行って! 今の内に!』
リタはエリー達を叱咤するように送心した。
「…行く。」
カグヤが小さな声で短く言うと、ライラは苦い表情で頷いた。エリーは顔を辛そうに歪ませた。
カグヤが走り出す。エリー、ライラ、ジュリー、クラガリ姉弟はそれに続いて部屋の奥、その先の通路へ突き進む。
無慈は一瞬後ろを振り返ったが、またセーラとリタに向き直った。
「…まあいい。後の方にも、防衛システムは控えている。…オレはお前達を確実に殺す事にする。」
セーラは皆の背中が遠くなっていくのを確認し、リタに目配せをする。
「行くぞ、リタ。」
『うん!』
リタは頷き、表情を引き締めた。
無慈は嘲るように笑み、呟く。
「フィールド、展開。」
瞬間、セーラの脳内を衝撃が襲った。その次に流れ込んで来たのは。
【…なす術なしだよ、本当に!】
【何でこんな奴が、当主の息子に産まれたんだろうな!!】
セーラの過去の光景があまりにも鮮明に、眼前に蘇った。
セーラが思わずリタの方を向くと、リタは目を見開き、表情を固くしている。
瞬間、向かってくる敵意を感じ、セーラは過去の光景を無理矢理に振り払った。杖を構え、敵意を受け止める。杖にぶつかって来たのは、離れた位置にいる無慈の拳だった。無慈の腕はセーラに向かい、常人には無い長さで伸ばされている。
「リタ!」
セーラがリタを叱咤する。リタはハッと我に返った。
『気をつけて、セーラ! これは…!』
「ああ。…精神干渉だな…!」
セーラが無慈を睨む。無慈は長く伸ばしていた腕を戻し、冷徹に嗤った。
「解るか。ここまで来る、無謀な奴らだけの事はあるか。」
無慈は更に能力を放出する。
『…セーラっ…!』
「リタの送心が…っ!」
セーラの脳内に、リタの意志が上手く届かなくなった。ノイズがかかったように聞こえにくくなっている。
リタは必死に意識を集中し、セーラに届かせようとするが、無慈の能力が邪魔をする。
リタの脳内にも過去の光景が流れ込んでくる。
【よお、気持ち悪い奴。】
【お前が人の心勝手に覗き見るからだろ、クズ!】
『…っあ…!』
脳裏に鮮明に蘇る、彼らのトラウマの過去。
その中に紛れ込んで来たのは、何者かの足下で冷たくなって倒れている、誰かの映像。
ぼろぼろに傷つき、血を流し、無惨な姿で倒れている…ジュリー、クラガリ姉弟、エリーとライラ。
『…妨害雑念!!』
リタが無慈に思念をぶつけると、無慈は一瞬だけ怯み、二人への精神干渉が止まった。
「…なるほど、お前もか。」
「リタ!」
セーラがホッとした様子で声を掛けると、リタは辛そうに頭を押さえていた。
『ごめんっ…相手の技がジャミングになって、これが精一杯…。』
「だが、脆弱と見える。」
セーラとリタの視界が再び、無慈の送り続ける思念攻撃でちらつき始める。ちらつく視界の向こうで、無慈が嗤う。
「このフィールドは敵の思考を外から遮断して行く。お前達にはマイナスの過去と未来しか見えなくなる。その壁に穴は無い。」
ぐらつく頭を抑えながら、セーラが無慈を睨む。
「肉体技も特異な上に…悪質な精神干渉術か…!」
『セーラっ…。』
脳内をトラウマの過去、無惨な未来が駆け巡る中、二人は必死に意志を繋ぐ。
セーラは唇を結んだ。リタに視線を向け、小さな声をかける。
「リタ。何とかして時間を稼げるか。」
『え…?』
「オレには精神干渉を無効化する力は、一つしか無い。」
その言葉を受心し、リタはハッと思い至る。
『…理性を捨てる…「狂戦士」…。』
セーラは無慈を見据え、はっきりと口にする。
「オレ達のトラウマ…『過去』はいい。だが…!」
『…マイナスの未来…エリー君とライラ君を死なせるわけにはいかない…!』
リタは攻撃を仕掛けんと腕を構える無慈を、きっと睨んだ。
『思念結界!』
無慈の手が止まる。無慈がまた、呟いた。
「…ほう、近づこうとする意志を乱す技か…。」
『セーラ…!』
リタはセーラの様子を横目で見る。セーラは意識を集中し、自己暗示をかけている。
「…無力は壁となり、壁は火となり、火は無我の渦となる…。」
深く呼吸を繰り返し、やがてセーラは無言になった。
「…やはり、脆弱だ。」
リタの脳内に衝撃がぶつかってくる。無慈の精神攻撃でリタの思念結界が解かれた。
「脆弱だが、厄介そうだな。」
無慈はリタに向き直る。拳を構え、思い切り撃ち出す。
リタが思わず目を瞑った時、セーラの杖が無慈の拳を叩き落とした。
セーラは思い切り踏み出し、無慈の前に出る。容赦なく杖を振るい、無慈を打ち据える。
セーラの突然の豹変に無慈は怯む。その間にもセーラの連続打は続く。
「…っあ!」
セーラの渾身の一撃に、無慈の身体はぐらりと傾く。
「な…こいつ…! ぐほ!」
セーラの杖の先が、無慈のみぞおちにめり込む。続けてセーラは一撃を喰らわせ、無慈の身体を床に叩き付ける。無慈はなす術も無く、セーラの攻撃を受け続けた。
「がっ、ぐあ、あ、あ…!」
セーラが渾身の力を込めた一撃を打つ。無慈はぐったりと動かなくなった。
セーラは黙って、息を切らせて立っている。
『…セーラ。』
リタはセーラのそばに駆け寄る。セーラが振り返ると、リタは小さな声で響かせた。
『…解るよね、僕の事…。』
「…リタ。」
セーラはリタに向かって笑むと、一瞬動きを止めた。
その一瞬にリタが疑問符を浮かべると、セーラは笑んだまま、リタの身体を突き飛ばした。
途端、セーラの身体を無慈の手刀が貫いた。
『…え?』
「…攻撃に関しては、何の能力も無いと見える。」
倒れたままの無慈が伸ばした腕を引き抜く。胸に穴の開いたセーラの身体が地面に崩れた。
『…セーラ?』
尻餅をついたリタは目を見開き、その光景を呆然と見る。ゆっくりと、起こった事を理解した。
『セーラあ!!』
リタはセーラに縋り、心で叫びながら、動かないセーラの身体を揺さぶる。
『セーラ、セーラ!! こんなのって、ないよ、ないよね、セーラ!!』
「…残るは、お前だけか…。」
無慈はよろよろと立ち上がる。リタはセーラに縋ったまま、身体を震わせていた。
『ごめんね、セーラあ…僕に、僕にもっと…力が…!』
立ち上がろうとした無慈の身体が、がくんと膝をつく。セーラの攻撃で受けたダメージの為だった。
「ちっ…後一撃がせいぜいか…だが、一撃で十分だ。」
無慈は手刀を構える。リタに向かい、思い切り撃ち出した。手刀がリタをも貫こうとした次の瞬間、無慈は驚愕した。
無慈の手刀がリタを貫く事は無かった。もはや意識も無いセーラの手が、寸前で無慈の手首を掴んでいた。
リタはハッと我に帰り、その場から逃れた。無慈は大いに動揺を見せる。
「な!? こいつ…! …もう、意識は無い筈…何故…!!」
リタが目の辺りをぐい、と拭った。
『…ありがとう、セーラ…。』
一瞬後。
「ぐあああああああっ!?」
無慈が頭を抱え、狂ったような叫び声を上げた。身も心も圧殺せんとする、大量の悪意の塊が無慈を襲う。
「ば、かな…! このフィールドで、オレへの、思念攻撃、など…!!」
無慈がやっとの思いでリタを見ると、リタは怒りに燃えた目で無慈を見ていた。
『…穴だよ…今の動揺が…このフィールドに穴を開けた…!! こんな技、お前だってよっぽど集中してないと使えない…だから、ほんのちょっと心を乱せば…!!』
脳内を破裂させるかのように、悪意の思念、感覚を流し込まれ、無慈の視界も精神も、何もかも壊れ崩れていく。
「がああああ!! 止めろ、やめろおおおお!!」
『お前は絶対に許さないし生かさない!! ここで…僕達と消えるんだ!!』
リタは思い切り叫び、最期の攻撃を送り込んだ。
『壊れろ――――!!』
「ああああああ、…………。」
無慈の絶叫が不意に止まり、巨体がその場に崩れ落ちた。
リタもふらりとその場に倒れたが、力を振り絞り、倒れているセーラのそばへと這っていった。
『…せー…ら…。ごめん、ね…あり、が、と…。』
セーラのそばまで来ると、リタはもう一度だけ、集中する。
『…もう、一度…。皆…。』
集中を解くと、リタはセーラの顔を見て、小さく笑んだ。
『…これで、いい、よ、ね…せ…ら…。』
リタはかくりと首を落とす。
並んで倒れるセーラとリタの瞳には、既に光はなかった。
To Be Continued