第二話 四月 月末一日戦争!
四月の第四土曜日。
夕方の生徒会室に、三人の学生がいた。
一人はジュリー生徒会長。もう一人は黒い長髪を高く結わえ、得物の杖を携えた長身の青年。最後の一人は青いショートヘア、穏やかな青い大きな目をした青年だった。
「ジュリー、お前があの二人を本気で始末屋にするとはな。」
長身の侍然とした青年に言われ、ジュリーは口角を吊り上げてみせる。
「そうか? あの二人を今の始末屋に据えたのは、お前達二人でもあるだろう? それにオレは有言実行型のつもりだが? セーラ?」
「まあそうだな。」
長身の青年…「セーラ」こと学園三年生の聖 羅衣 はため息まじりに返した。
「ところで、相変わらず仕事をしない生徒会長だな。」
「仕事ならしている。…この学園を『見る』。まずオレの仕事はそれだ。」
『…それだけが、君の力じゃないけどね。』
少し控えめな声が鼓膜を通すことなく、ジュリーとセーラの脳内に直接響いた。二人が青い髪の青年の方を見ると、彼は気遣うように笑った。
ジュリーは頷いて口を開いた。
「…そうだな、リタ。あれは自分でもよく解らない能力だから、乱用はしないが。」
青い髪の青年…「リタ」こと同じく学園三年生、栗田 広喜 はセーラと顔を見合わせ、苦笑した。
「今週もそろそろ終わるか。」
ジュリーは大きく伸びをした。セーラが頷く。
「今月も終わるな。…ん?」
『今月がそろそろ終わる…?』
三人は気がついたようにわずかの間考えてから、同じ結論に至った。
「「『…明日の日曜日か…。』」」
ジュリーは呆れたように笑い、セーラは眉間にしわを寄せ、リタは困ったような笑みを浮かべた。
時間は過ぎて、第四土曜日の午後十一時五十八分の生徒会寮、エリーとライラの部屋。
エリーは宿題を終えてベッドの中。ライラは部屋のカーペットに寝そべって、本を読んでいた。
「む…。」
寝ぼけた声を上げ、ベッドの中のエリーが目を開いた。起きていたライラに声をかける。
「…なあ…今、何時…?」
ライラは本の文字を追いながら、答えた。
「…あとジャスト一分で零時。」
「…ん…。」
時計が零時までのカウントダウンを始める。
五、四、三、二、一…。
零時を迎え、四月最後の日曜日になった瞬間。豪快な音を立てて、二人の部屋の扉が跳ね開けられた。
「この野郎ライラあ!!」
エリーがライラに向かって蹴りを出せば、
「何だこのエリー!!」
ライラはメイス(西洋の鉄製棍棒)を出してきてエリーの攻撃を受け止め、更には一撃を喰らわせようとする。
「大体お前いつも生理的にむかつくんだよ!!」
「生理的にだあ!? てめえなんざ生理的以前にどう見てもいけ好かねえんだよ!!」
「ていうかお前またオレの武器コレクション勝手に壊したな!!」
「この凶器マニアが!! ただの正当防衛だ! てめえあの何とかいう武器は何だよ! 危ねーだろが!!」
「安心しろ! 大半お前限定で使ってんだ! お前相手にするにはどんどん新しいの仕入れるしかないんだっての!!」
「だったらなおさら壊すしかねえ!! 根こそぎぶっ壊す!!」
「そっちがそうなら、今日こそ、その首切り飛ばす!!」
「やれるもんならやってみろ!! 今日こそ半殺しにしてやらあ!!」
などと怒鳴り合い、どつき合いながら、二人は生徒会寮の廊下を駆けていった。
嵐のような声が遠くなっていくと、エリーとライラの隣室からセーラとリタが顔を出した。
セーラはため息交じりに口にする。
「…相変わらず凄まじいな…。」
エリーとライラは月の最後の日曜日、日頃から始末屋の仕事で常に一緒にいる事から来る鬱憤を晴らす為、学園全部を舞台に一日いっぱい本気で喧嘩を繰り広げる。
二人が前年度の十月に今年度の始末屋に指名され、前年度の始末屋の元で仮に活動していた頃からの恒例行事である。
セーラとリタが廊下を見る。床にはライラがエリーに使った武器が所狭しと散らばっている。
『これ、何だろ…。』
リタが武器の一つのそばでかがむと、セーラが制止した。
「リタ、近づくな。危ない。」
『ライラ君、この散らかってる武器全部、服の中にしまってたのかな…。』
「これがウォーハンマー…これがチャクラム…何だこれは。」
セーラはリタを一歩後ろに下げ、武器の数々を見下ろし渋い顔をする。ジュリーも起きてきて、ライラの武器を覗き込んだ。
「ハッダド…確かどっかの投げナイフだな…。」
「ライラはこれらをどこから…リタ、お前は猫車か何かを持ってきてくれ。片付ける。」
「あいつらはいいが、これを放っておくと役員がケガをしかねないからな。」
セーラとジュリーはライラの武器を拾い始めた。
他の生徒会役員の部屋では、役員達は眠りについていた。
「…むう…何かウルセーな…。」
「…ほら…月末の日曜だから…んー…。」
「あー…エリーとライラか…。」
寝ぼけ声で毎月恒例となった会話を交わし、役員達はまた寝に入った。
夜が明けた学園高等部校舎。
「この! いい加減喰らえエリー!」
「冗談じゃねえよ!! てめえこそ今日はぼこってやらあ!!」
舞台を寮から校舎に移し、二人は夜中から変わらず喧嘩を続けていた。
「うわっ!!」
エリーの拳が校舎に来ていたシャーリーに当たりそうになり、エリーは慌てて拳を引っ込めた。
「おっと、シャーリー!」
「シャーリーおはよ! じゃ!」
エリーとライラは、シャーリーの横を走り去ってから、またケンカを再開する。
「隙ありー!!」
「あってたまるかー!!」
「エリー、ライラ! あまり無茶するなよー!! …て、聞こえてないか…。」
遠くなっていくエリーとライラを見送り、シャーリーは苦笑した。
午後。生徒会寮のジュリーの部屋。
寮内の片付けを終えたジュリー、セーラ、リタがいた。
ジュリーは集中した様子で目を閉じており、そんな彼にセーラが問う。
「今、あいつらはどの辺だ?」
「…二階の視聴覚室あたりだな…。!!」
突然、ジュリーの表情が一気に鬼のように歪んだ。リタの声が気後れ気味に響く。
『…ジュリー君?』
「あいつらまたやりやがったー!!」
ジュリーが立ち上がり、寮中に響くような叫び声を上げた。
「…やったか…。」
その様子にセーラは頭を抑え、リタは困ったように笑んだ。
「だあっ!」
ライラが重り付きチェーンをエリーに向かって投げる。
「うおっ!」
「まだまだ!!」
エリーが避けると、ライラはチェーンをぐいと引き、先端の重りをエリーに更に向かわせる。
「ちいっ!」
エリーが何とか避けた途端、何かが割れる音がした。学園に飾ってあった美術品が派手に壊れた音だった。
エリーは思わず叫ぶ。
「あー! やりやがったなあ!!」
「お前が大人しく喰らってりゃ壊れないっての!」
「っの、や、ろう――――!!」
エリーの拳がライラの懐にマトモに入り、吹っ飛ばし、そばの教室のドアをへこませる。
「っ、い、つは――――!!」
ライラはそれでも立ち上がり、今度は手裏剣を構えた。
夜を迎え。
「今日のあいつらのバトル見たか?」
「見た見た!」
「あれ見ると月末だなあって気がするよなー。」
などと一般の学生寮で二、三年生が話している様子に、一年生が首を傾げていた。
『エリー君とライラ君、まだやってるよね…多分。』
エリー、ライラの自室の隣。
寝る支度をしていたセーラの頭の中に、リタの声が響いてきた。
「ああ、そうだろうな。…もうすぐ日付が変わるな。」
リタに向き直ってから、セーラは壁にかかっている時計を見た。リタは困ったように笑み、
『…ジュリー君、ずっと頭に来てたね。』
「毎度のことだが、あいつらも懲りない。」
『いつも思うけど…よく人的被害出ないね…。』
「その為の日曜日指定だからな。あいつらもお互い以外を傷つけるのは、不本意のようだ。」
二人は会話を交わしつつ、寝間着に着替え終わった。
夜十一時を過ぎて、喧嘩の舞台は校庭になっていた。
「このっ…息上がってんな脳筋…。」
「てめえこそ…この性悪っ…。」
息を切らせながら、エリーは全身を青い光でコーティングして拳を構え、ライラはバトルアックス(戦闘用の両手斧)を握りしめた。
エリーが突撃する。ライラはアックスの柄を盾にして受け止める。退いて距離を取り、ライラはアックスを思いきり平行に振った。アックスの先端がエリーに迫るが、エリーはそれを硬化コーティングされた素手で受け止めた。
ライラが動きを止めたところで、エリーは地面を蹴るとライラの顔面横に蹴りを入れようとしたが、ライラは身を低くしてかわす。
一歩も引かない攻防戦を繰り広げている内に、日付が変わろうとしていた。
校舎の時計が、午前零時までのカウントダウンを始めた。
五、四、三、二、一…。
エリーとライラがお互いに向かって行こうとした時。
「止めろ。」
声と共に、エリーとライラの頭が鷲掴みにされた。
「っ!!」
「…ジュリー会長…!」
二人の間に入ったのは、ジュリーだった。
「…もしかして…。」
「…もう、月曜日…?」
エリーとライラの問いに、ジュリーはゆっくりと頷く。二人の頭を掴んだまま見下ろし、口を開いた。
「…お前らが、月一で戦争するのを止める気は、全く無いんだが…。」
そこまで言うとジュリーは大きく深呼吸し、
「学園の備品と建物は壊すなと何度言えば解る!! お前らが自爆するのは勝手だがオレ達に迷惑かけるな!!」
「あ…。」
ジュリーが怒鳴った内容に、エリーとライラの顔が一気に気まずいモノになった。
二人の頭を掴むジュリーの手に力が籠る。
「お前らが悪意に満ちてるこの時しか、オレのこの能力はお前らには効かないからな…!」
「か、かいちょ…。」
「あ、いや、その…。」
「祈れ。」
ジュリーが呟いた瞬間、エリーとライラの絶叫が響いた。
エリーとライラが生徒会寮に帰ってきた時には、もう夜が明けようとしていた。
二人の身体はぼろぼろで、足下もおぼつかない状態だった。
「いってえ…。」
「流石会長…恐ろしい断罪だった…。」
「しかもその後…てめえの武器回収、延々やらされてよ…。」
「お前…根こそぎ壊しながら回収しやがって…。」
「更にこの後、普通に授業じゃねえか…。」
「あー、それというのもお前がむかつくからだって…。」
「……。」
「…何。」
挑発に乗らず黙ったエリーに、ライラがむくれた様子で問うと、エリーはぼんやりと口にした。
「…むかつく…何でオレら、こうなってんだ?」
「だからお前がむかつくから…。」
「そうじゃねえよ。何がどうなってオレらこういう…むかつく事になったんだっけってことだ。」
エリーの言葉に、ライラは頭をひねりながら返す。
「中等科時代からウマが合わなくて喧嘩してたから…じゃ無かったっけ?」
「…そうだっけか?」
言いながら、エリーは二人の部屋のドアを開けた。
「…おかえり。」
不意に聞こえた抑揚の無い声。エリーとライラが部屋の中に目を向けると、部屋の真ん中にカグヤが座っていた。
「え、カグヤ起きてたのか?」
「うん。…ご飯、ある。」
無表情で頷いたカグヤの前には、おにぎりが二つずつ置かれていた。
「ええ!! マジ!?」
「…リタ、先輩…から。」
「うわー、腹減ったー!!」
エリーとライラはおにぎりに飛びつき、ほおばり始めた。
「…おかわりも、ある。」
二人の食べっぷりを静かに見ながら、カグヤはまたいくつかのおにぎりをタッパーから取り出した。
To Be Continued
夕方の生徒会室に、三人の学生がいた。
一人はジュリー生徒会長。もう一人は黒い長髪を高く結わえ、得物の杖を携えた長身の青年。最後の一人は青いショートヘア、穏やかな青い大きな目をした青年だった。
「ジュリー、お前があの二人を本気で始末屋にするとはな。」
長身の侍然とした青年に言われ、ジュリーは口角を吊り上げてみせる。
「そうか? あの二人を今の始末屋に据えたのは、お前達二人でもあるだろう? それにオレは有言実行型のつもりだが? セーラ?」
「まあそうだな。」
長身の青年…「セーラ」こと学園三年生の
「ところで、相変わらず仕事をしない生徒会長だな。」
「仕事ならしている。…この学園を『見る』。まずオレの仕事はそれだ。」
『…それだけが、君の力じゃないけどね。』
少し控えめな声が鼓膜を通すことなく、ジュリーとセーラの脳内に直接響いた。二人が青い髪の青年の方を見ると、彼は気遣うように笑った。
ジュリーは頷いて口を開いた。
「…そうだな、リタ。あれは自分でもよく解らない能力だから、乱用はしないが。」
青い髪の青年…「リタ」こと同じく学園三年生、
「今週もそろそろ終わるか。」
ジュリーは大きく伸びをした。セーラが頷く。
「今月も終わるな。…ん?」
『今月がそろそろ終わる…?』
三人は気がついたようにわずかの間考えてから、同じ結論に至った。
「「『…明日の日曜日か…。』」」
ジュリーは呆れたように笑い、セーラは眉間にしわを寄せ、リタは困ったような笑みを浮かべた。
時間は過ぎて、第四土曜日の午後十一時五十八分の生徒会寮、エリーとライラの部屋。
エリーは宿題を終えてベッドの中。ライラは部屋のカーペットに寝そべって、本を読んでいた。
「む…。」
寝ぼけた声を上げ、ベッドの中のエリーが目を開いた。起きていたライラに声をかける。
「…なあ…今、何時…?」
ライラは本の文字を追いながら、答えた。
「…あとジャスト一分で零時。」
「…ん…。」
時計が零時までのカウントダウンを始める。
五、四、三、二、一…。
零時を迎え、四月最後の日曜日になった瞬間。豪快な音を立てて、二人の部屋の扉が跳ね開けられた。
「この野郎ライラあ!!」
エリーがライラに向かって蹴りを出せば、
「何だこのエリー!!」
ライラはメイス(西洋の鉄製棍棒)を出してきてエリーの攻撃を受け止め、更には一撃を喰らわせようとする。
「大体お前いつも生理的にむかつくんだよ!!」
「生理的にだあ!? てめえなんざ生理的以前にどう見てもいけ好かねえんだよ!!」
「ていうかお前またオレの武器コレクション勝手に壊したな!!」
「この凶器マニアが!! ただの正当防衛だ! てめえあの何とかいう武器は何だよ! 危ねーだろが!!」
「安心しろ! 大半お前限定で使ってんだ! お前相手にするにはどんどん新しいの仕入れるしかないんだっての!!」
「だったらなおさら壊すしかねえ!! 根こそぎぶっ壊す!!」
「そっちがそうなら、今日こそ、その首切り飛ばす!!」
「やれるもんならやってみろ!! 今日こそ半殺しにしてやらあ!!」
などと怒鳴り合い、どつき合いながら、二人は生徒会寮の廊下を駆けていった。
嵐のような声が遠くなっていくと、エリーとライラの隣室からセーラとリタが顔を出した。
セーラはため息交じりに口にする。
「…相変わらず凄まじいな…。」
エリーとライラは月の最後の日曜日、日頃から始末屋の仕事で常に一緒にいる事から来る鬱憤を晴らす為、学園全部を舞台に一日いっぱい本気で喧嘩を繰り広げる。
二人が前年度の十月に今年度の始末屋に指名され、前年度の始末屋の元で仮に活動していた頃からの恒例行事である。
セーラとリタが廊下を見る。床にはライラがエリーに使った武器が所狭しと散らばっている。
『これ、何だろ…。』
リタが武器の一つのそばでかがむと、セーラが制止した。
「リタ、近づくな。危ない。」
『ライラ君、この散らかってる武器全部、服の中にしまってたのかな…。』
「これがウォーハンマー…これがチャクラム…何だこれは。」
セーラはリタを一歩後ろに下げ、武器の数々を見下ろし渋い顔をする。ジュリーも起きてきて、ライラの武器を覗き込んだ。
「ハッダド…確かどっかの投げナイフだな…。」
「ライラはこれらをどこから…リタ、お前は猫車か何かを持ってきてくれ。片付ける。」
「あいつらはいいが、これを放っておくと役員がケガをしかねないからな。」
セーラとジュリーはライラの武器を拾い始めた。
他の生徒会役員の部屋では、役員達は眠りについていた。
「…むう…何かウルセーな…。」
「…ほら…月末の日曜だから…んー…。」
「あー…エリーとライラか…。」
寝ぼけ声で毎月恒例となった会話を交わし、役員達はまた寝に入った。
夜が明けた学園高等部校舎。
「この! いい加減喰らえエリー!」
「冗談じゃねえよ!! てめえこそ今日はぼこってやらあ!!」
舞台を寮から校舎に移し、二人は夜中から変わらず喧嘩を続けていた。
「うわっ!!」
エリーの拳が校舎に来ていたシャーリーに当たりそうになり、エリーは慌てて拳を引っ込めた。
「おっと、シャーリー!」
「シャーリーおはよ! じゃ!」
エリーとライラは、シャーリーの横を走り去ってから、またケンカを再開する。
「隙ありー!!」
「あってたまるかー!!」
「エリー、ライラ! あまり無茶するなよー!! …て、聞こえてないか…。」
遠くなっていくエリーとライラを見送り、シャーリーは苦笑した。
午後。生徒会寮のジュリーの部屋。
寮内の片付けを終えたジュリー、セーラ、リタがいた。
ジュリーは集中した様子で目を閉じており、そんな彼にセーラが問う。
「今、あいつらはどの辺だ?」
「…二階の視聴覚室あたりだな…。!!」
突然、ジュリーの表情が一気に鬼のように歪んだ。リタの声が気後れ気味に響く。
『…ジュリー君?』
「あいつらまたやりやがったー!!」
ジュリーが立ち上がり、寮中に響くような叫び声を上げた。
「…やったか…。」
その様子にセーラは頭を抑え、リタは困ったように笑んだ。
「だあっ!」
ライラが重り付きチェーンをエリーに向かって投げる。
「うおっ!」
「まだまだ!!」
エリーが避けると、ライラはチェーンをぐいと引き、先端の重りをエリーに更に向かわせる。
「ちいっ!」
エリーが何とか避けた途端、何かが割れる音がした。学園に飾ってあった美術品が派手に壊れた音だった。
エリーは思わず叫ぶ。
「あー! やりやがったなあ!!」
「お前が大人しく喰らってりゃ壊れないっての!」
「っの、や、ろう――――!!」
エリーの拳がライラの懐にマトモに入り、吹っ飛ばし、そばの教室のドアをへこませる。
「っ、い、つは――――!!」
ライラはそれでも立ち上がり、今度は手裏剣を構えた。
夜を迎え。
「今日のあいつらのバトル見たか?」
「見た見た!」
「あれ見ると月末だなあって気がするよなー。」
などと一般の学生寮で二、三年生が話している様子に、一年生が首を傾げていた。
『エリー君とライラ君、まだやってるよね…多分。』
エリー、ライラの自室の隣。
寝る支度をしていたセーラの頭の中に、リタの声が響いてきた。
「ああ、そうだろうな。…もうすぐ日付が変わるな。」
リタに向き直ってから、セーラは壁にかかっている時計を見た。リタは困ったように笑み、
『…ジュリー君、ずっと頭に来てたね。』
「毎度のことだが、あいつらも懲りない。」
『いつも思うけど…よく人的被害出ないね…。』
「その為の日曜日指定だからな。あいつらもお互い以外を傷つけるのは、不本意のようだ。」
二人は会話を交わしつつ、寝間着に着替え終わった。
夜十一時を過ぎて、喧嘩の舞台は校庭になっていた。
「このっ…息上がってんな脳筋…。」
「てめえこそ…この性悪っ…。」
息を切らせながら、エリーは全身を青い光でコーティングして拳を構え、ライラはバトルアックス(戦闘用の両手斧)を握りしめた。
エリーが突撃する。ライラはアックスの柄を盾にして受け止める。退いて距離を取り、ライラはアックスを思いきり平行に振った。アックスの先端がエリーに迫るが、エリーはそれを硬化コーティングされた素手で受け止めた。
ライラが動きを止めたところで、エリーは地面を蹴るとライラの顔面横に蹴りを入れようとしたが、ライラは身を低くしてかわす。
一歩も引かない攻防戦を繰り広げている内に、日付が変わろうとしていた。
校舎の時計が、午前零時までのカウントダウンを始めた。
五、四、三、二、一…。
エリーとライラがお互いに向かって行こうとした時。
「止めろ。」
声と共に、エリーとライラの頭が鷲掴みにされた。
「っ!!」
「…ジュリー会長…!」
二人の間に入ったのは、ジュリーだった。
「…もしかして…。」
「…もう、月曜日…?」
エリーとライラの問いに、ジュリーはゆっくりと頷く。二人の頭を掴んだまま見下ろし、口を開いた。
「…お前らが、月一で戦争するのを止める気は、全く無いんだが…。」
そこまで言うとジュリーは大きく深呼吸し、
「学園の備品と建物は壊すなと何度言えば解る!! お前らが自爆するのは勝手だがオレ達に迷惑かけるな!!」
「あ…。」
ジュリーが怒鳴った内容に、エリーとライラの顔が一気に気まずいモノになった。
二人の頭を掴むジュリーの手に力が籠る。
「お前らが悪意に満ちてるこの時しか、オレのこの能力はお前らには効かないからな…!」
「か、かいちょ…。」
「あ、いや、その…。」
「祈れ。」
ジュリーが呟いた瞬間、エリーとライラの絶叫が響いた。
エリーとライラが生徒会寮に帰ってきた時には、もう夜が明けようとしていた。
二人の身体はぼろぼろで、足下もおぼつかない状態だった。
「いってえ…。」
「流石会長…恐ろしい断罪だった…。」
「しかもその後…てめえの武器回収、延々やらされてよ…。」
「お前…根こそぎ壊しながら回収しやがって…。」
「更にこの後、普通に授業じゃねえか…。」
「あー、それというのもお前がむかつくからだって…。」
「……。」
「…何。」
挑発に乗らず黙ったエリーに、ライラがむくれた様子で問うと、エリーはぼんやりと口にした。
「…むかつく…何でオレら、こうなってんだ?」
「だからお前がむかつくから…。」
「そうじゃねえよ。何がどうなってオレらこういう…むかつく事になったんだっけってことだ。」
エリーの言葉に、ライラは頭をひねりながら返す。
「中等科時代からウマが合わなくて喧嘩してたから…じゃ無かったっけ?」
「…そうだっけか?」
言いながら、エリーは二人の部屋のドアを開けた。
「…おかえり。」
不意に聞こえた抑揚の無い声。エリーとライラが部屋の中に目を向けると、部屋の真ん中にカグヤが座っていた。
「え、カグヤ起きてたのか?」
「うん。…ご飯、ある。」
無表情で頷いたカグヤの前には、おにぎりが二つずつ置かれていた。
「ええ!! マジ!?」
「…リタ、先輩…から。」
「うわー、腹減ったー!!」
エリーとライラはおにぎりに飛びつき、ほおばり始めた。
「…おかわりも、ある。」
二人の食べっぷりを静かに見ながら、カグヤはまたいくつかのおにぎりをタッパーから取り出した。
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