第十八話 十一月 倉狩一門来襲 終幕
一瞬だった。
一瞬の内に、何日も過ごしていたような感覚を、エリーとライラは感じた。
狂い咲く桜。地面を叩く雨。血の海。
…そして、約束。
二人は一瞬後、現実に引き戻された。
目の前には血の海。傷を抑えて踞る生徒達。
それをはっきり認識したエリーが、身体と声を震わせる。
「…だからっ…オレは…。血を見るのが大嫌いだって、言ってんだろーが!!」
エリーは激昂して叫び、小春日を睨みつけ、拳を握りしめた。
小春日は怯む様子も無く、冷徹に返した。
「だから、何だ。」
「もうアンタの好きにはさせたくないって、こいつは言いたい訳だ。…オレもだけどな。」
ライラも小春日を睨み、構えの姿勢を取った。
小春日が黙って短剣を握る。エリーに向かって振りかぶり、投げた。エリーは青い光を身体に纏い、短剣を薙ぎ払った。
エリーは小春日に向かって突進する。小春日が短剣に繋がる鎖をぐいと引き寄せると、輪になった刃が小春日に飛んでくる。ライラが投げたチャクラム(輪になった刃の投擲武器)だ。
小春日はそれを軽くかわし、短剣を再び握ると、エリーの眼前に思い切り足を踏み出した。
「…重要戦力…最重要警戒対象…だが、所詮子供か。」
小春日が昏い笑みを浮かべる。エリーとライラが対応しようとした時には遅かった。
小春日は片手に握った短剣の柄で、エリーのこめかみを思い切り殴った。更にもう一歩踏み出し、一瞬でライラの前に現れると、もう片手の短剣でライラに切りつけた。
エリーは脳に来た衝撃で、ライラは切りつけられた痛みで、その場に崩れた。
「主人様あ!!」
小猫が叫び声を上げる。小春日は小猫に向き直り、嗤った。
「さあ、帰ろうか。小鳥、小猫…。」
…小猫は傷ついた生徒達を見た。小春日のそばに崩れた、苦悶の表情を浮かべているエリーとライラを見た。
小春日が嗤いながら言った。
「…この主人がいなくなった方が、お前はいいか…?」
小猫がかくりと視線を落とす。ぽつりと呟いた。
「…もう、疲れたよ…。小鳥姉ちゃん…。」
小猫は黙った。
やがて、掠れた声で呟いた。
「…ころさ、なきゃ…。」
顔を上げたのは、瞳から完全に感情が消えた小鳥だった。
小春日が顔を歪ませ嗤った、次の瞬間。
「がっ…!?」
小春日は体育館の壁に、身体を押し付けられていた。その胸には、小鳥の肘がめり込んでいた。
小春日が崩れ落ちるのを見、一門の男達は戦慄した。一人が怯えた声で叫ぶ。
「か、構えろ!! あいつが、来る!!」
「…ころさなきゃ…。」
小鳥の眼差しが、一門の人間達に向けられる。
それを見たジュリーは、シャーリーに叫んだ。
「シャーリー! 生徒達を連れて逃げろ!! 今すぐ!!」
シャーリーはハッとし、痛みを堪えて立ち上がると、生徒達を助け起こし、叫んだ。
「逃げよう!!」
生徒達は痛む身体を引きずり、シャーリーに続いて体育館から逃げ出した。
小鳥が大きく踏み出し、腕を大きく振り、男の一人にラリアットを喰らわせると、ボキボキと骨の砕ける音が響き、男の身体が大きく曲がった。男は声を上げる事も出来ず、その場に崩れる。
「う、うわああっ!」
混乱した別の男が、小鳥に武器の切っ先を向けると、小鳥は男に突撃する。男の頭を鷲掴み、思い切り床に叩き付けた。男が動かなくなると、小鳥はまた別の男に向かって行く。
「小鳥! 止めろ!!」
『小鳥ちゃん!!』
セーラとリタが叫んでも、小鳥の男達に対する暴虐は止まらない。
男達は完全に戦意を喪失し、逃げ惑う。それを小鳥は容赦なく攻撃し、沈めていく。
エリーとライラは痛みを堪え、身体を起こした。二人の目の前で繰り広げられているのは、小鳥の一方的な暴力。
エリーが声を震わせる。
「クラガリ姉っ…!」
「…ダメだ…。」
ライラは小さな、掠れた声で呟く。
「ダメだ…お前は…!」
「…ライラ…!」
ライラの呟きを聞いたエリーが、小鳥をキッと見た。
エリーとライラは、小鳥を止めるべく駆け出した。
「…駄目…殺さなきゃ、駄目…。」
ぼんやりと繰り返しながら、小鳥は暴虐の限りを尽くしていく。
「殺さなきゃ…。」
「クラガリ姉!!」
「止めろ!!」
エリーとライラが、両脇から小鳥の腕を抑え込んだ。
小鳥はなおも、男達に視線を向ける。
「殺さなきゃ…全部…。」
「もういいんだって!!」
ライラが叫んだ。
「…もう、終わった…。」
その時には既に、倉狩一門の男達の大半が小鳥によって沈められ、僅かに残った男達も怯え、腰を抜かして座り込んでいた。
小鳥はゆっくりとライラ、そしてエリーを見た。
かくん、と小鳥の身体から力が抜ける。
「クラガリ姉!!」
エリーとライラの腕の中で、小鳥は気絶していた。
「…あ…ああ…あ…っ…。」
不意に聞こえた声に、エリーとライラが振り向くと、小春日がふらふらと立ち上がっていた。
目の前の惨状に、小春日は割くような叫び声を上げた。
「あああああ!!」
エリーとライラが危機感を覚え、退こうとした時。
小春日が二人の方に視線を向けた。見開かれた瞳に二人はぞくりと寒気を覚え、動きを止めてしまった。
小春日は呟く。
「…ころす。」
短剣を握りしめ、エリーとライラの腕の中にいる、小鳥めがけて飛びかかった。
「…殺す!!」
エリーとライラが小鳥を庇うように抱きしめ、目をぎゅっとつぶった次の瞬間。
「…いい加減にしなさい、小春日!!」
エリーとライラの眼前に、田村の背中があった。田村は小春日の短剣の切っ先を掴み、血を流しながら小春日を睨んだ。
小春日は田村に叫ぶ。
「どけ詠!! こいつは、こいつは私の…!!」
「この子は小雨さんじゃない!!」
田村の渾身の叫び返しに、小春日はひゅ、と息を飲んだ。
田村は声を落とし、続ける。
「…この子は小雨さんじゃない。どうやっても、小雨さんにはならない。…あの頃には戻らない。戻れないのよ。…小雨さんは死んだの。…いい加減、受け入れなさい。」
田村の言葉を聞いた、小春日の瞳が震える。次いで身体も震え始め、顔をくしゃくしゃに歪ませる。ゆっくりとその場に尻餅をついた。
「……――――!!」
声にならない叫び声だった。声が発せられない叫びを上げ、小春日は泣いていた。
ジュリーが静かに小春日の背後に歩み寄り、首を打つ。小春日はゆっくりと、身体を倒した。
田村は呟くように、ジュリーに礼を言った。
「…ありがとう、琴織君。」
「…田村先生…。」
セーラが田村に声をかけると、田村は意識を無くした小春日の傍らに膝をつき、小さな声で語った。
「…こいつが、倉狩君を取り戻そうとしていたのは、一門の為なんかじゃない…。喪った大切なモノを、その子を使って、蘇らせようとしていただけ…。」
エリーとライラは田村の言葉を聞きながら、痛む顔をして、腕の中で眠っている小鳥を見た。
クラガリ姉弟が、がばっと身体を起こす。
姉弟は白いベッドに寝かされていた。…医務室だった。
「気がついたか、クラガリ。」
横から声をかけられ、姉弟が振り向くと、エリーとライラがいた。ライラが言った。
「あれから三日寝てたんだ、お前達。」
姉弟はエリーとライラを短い間、唖然とした顔で見ていたが、不意に瞳を潤ませた。
姉弟はベッドから降り、エリーとライラに背を向ける。小鳥が掠れた声で言葉を発した。
「…お別れです、ご主人さま。」
エリーとライラが黙っていると、小鳥は続けた。
「…私はあの時、沢山の人の血を流しました。多分、死んだ人も沢山いるでしょう。…ご主人さま達との約束を破ってしまった今、もうご主人さま達の僕として、ここにいる事は出来ません。」
「…お別れしてどうする気な訳、お前達。」
ライラが姉弟の背中に言葉を投げる。
「田村先生が言ってた。倉狩一門は事実上消滅。帰るトコ無いだろが。」
ひゅ、と息を飲んだ音が、僅かにした。姉弟は背中を縮込ませた。小猫が口を開く。
「…でも、おいっち達は、主人様達の…。」
「オレ達とか関係ないんだろ。お前達はもう何もかも、どうだっていいと思ってるだけだろ。自分達に関わる色んなモンを、自分達で潰しちまったから、自分達も潰れようと思ってるだけなんだろ?」
ライラは姉弟に言い放ち、ため息を吐いた。
「…オレ達みたいなのに、関わったのが間違いだったな。」
エリーとライラは僅か歩き、クラガリ姉弟の前に立った。
エリーがゆっくりと口を開く。
「…オレらは今、お前らを、オレらの下僕から解任する。」
姉弟の顔が泣きそうに歪む。エリーは続けてはっきりと発言した。
「で…お前らを大事な後輩として見てる、二人の先輩としてお前らに頼む。学園にオレらといてくれ。」
姉弟が驚き、顔を上げる。目を丸くして、エリーとライラを見た。小鳥が震える声を上げる。
「…そんなの…反則ですっ…。私達は…!」
ライラが吐き出すように姉弟に話す。
「オレ達は、お前達と一緒にいたいんだよ。お前達がオレ達といたくなくともな。言わせんな、こんな事。」
「…どうしてもオレらといたくねえなら、止めはしねえ。…オレの我が侭で、お前らの、家…帰る場所、潰す事になっちまって…本当に、悪かった…っ。」
エリーの絞り出すような謝罪の言葉に、クラガリ姉弟は改めて、エリーとライラの顔を見た。
姉弟の前に立つ先輩二人は、心の痛みに顔を歪ませていた。
姉弟の小さな肩が震えた。
「…一緒に…いたく、ない…?」
発せられた姉弟の声も、掠れて震えていた。
「あんな、場所に…未練なんて、無いっ…先輩達と…皆と…一緒に、いたくない訳…ないじゃないですかあああああ!!」
一人で二人の姉弟、小鳥と小猫は、エリーとライラに抱きついて大声で泣いた。二人は痛む表情のまま、姉弟の身体を受け止め、しっかりと抱き返した。
To Be Continued
一瞬の内に、何日も過ごしていたような感覚を、エリーとライラは感じた。
狂い咲く桜。地面を叩く雨。血の海。
…そして、約束。
二人は一瞬後、現実に引き戻された。
目の前には血の海。傷を抑えて踞る生徒達。
それをはっきり認識したエリーが、身体と声を震わせる。
「…だからっ…オレは…。血を見るのが大嫌いだって、言ってんだろーが!!」
エリーは激昂して叫び、小春日を睨みつけ、拳を握りしめた。
小春日は怯む様子も無く、冷徹に返した。
「だから、何だ。」
「もうアンタの好きにはさせたくないって、こいつは言いたい訳だ。…オレもだけどな。」
ライラも小春日を睨み、構えの姿勢を取った。
小春日が黙って短剣を握る。エリーに向かって振りかぶり、投げた。エリーは青い光を身体に纏い、短剣を薙ぎ払った。
エリーは小春日に向かって突進する。小春日が短剣に繋がる鎖をぐいと引き寄せると、輪になった刃が小春日に飛んでくる。ライラが投げたチャクラム(輪になった刃の投擲武器)だ。
小春日はそれを軽くかわし、短剣を再び握ると、エリーの眼前に思い切り足を踏み出した。
「…重要戦力…最重要警戒対象…だが、所詮子供か。」
小春日が昏い笑みを浮かべる。エリーとライラが対応しようとした時には遅かった。
小春日は片手に握った短剣の柄で、エリーのこめかみを思い切り殴った。更にもう一歩踏み出し、一瞬でライラの前に現れると、もう片手の短剣でライラに切りつけた。
エリーは脳に来た衝撃で、ライラは切りつけられた痛みで、その場に崩れた。
「主人様あ!!」
小猫が叫び声を上げる。小春日は小猫に向き直り、嗤った。
「さあ、帰ろうか。小鳥、小猫…。」
…小猫は傷ついた生徒達を見た。小春日のそばに崩れた、苦悶の表情を浮かべているエリーとライラを見た。
小春日が嗤いながら言った。
「…この主人がいなくなった方が、お前はいいか…?」
小猫がかくりと視線を落とす。ぽつりと呟いた。
「…もう、疲れたよ…。小鳥姉ちゃん…。」
小猫は黙った。
やがて、掠れた声で呟いた。
「…ころさ、なきゃ…。」
顔を上げたのは、瞳から完全に感情が消えた小鳥だった。
小春日が顔を歪ませ嗤った、次の瞬間。
「がっ…!?」
小春日は体育館の壁に、身体を押し付けられていた。その胸には、小鳥の肘がめり込んでいた。
小春日が崩れ落ちるのを見、一門の男達は戦慄した。一人が怯えた声で叫ぶ。
「か、構えろ!! あいつが、来る!!」
「…ころさなきゃ…。」
小鳥の眼差しが、一門の人間達に向けられる。
それを見たジュリーは、シャーリーに叫んだ。
「シャーリー! 生徒達を連れて逃げろ!! 今すぐ!!」
シャーリーはハッとし、痛みを堪えて立ち上がると、生徒達を助け起こし、叫んだ。
「逃げよう!!」
生徒達は痛む身体を引きずり、シャーリーに続いて体育館から逃げ出した。
小鳥が大きく踏み出し、腕を大きく振り、男の一人にラリアットを喰らわせると、ボキボキと骨の砕ける音が響き、男の身体が大きく曲がった。男は声を上げる事も出来ず、その場に崩れる。
「う、うわああっ!」
混乱した別の男が、小鳥に武器の切っ先を向けると、小鳥は男に突撃する。男の頭を鷲掴み、思い切り床に叩き付けた。男が動かなくなると、小鳥はまた別の男に向かって行く。
「小鳥! 止めろ!!」
『小鳥ちゃん!!』
セーラとリタが叫んでも、小鳥の男達に対する暴虐は止まらない。
男達は完全に戦意を喪失し、逃げ惑う。それを小鳥は容赦なく攻撃し、沈めていく。
エリーとライラは痛みを堪え、身体を起こした。二人の目の前で繰り広げられているのは、小鳥の一方的な暴力。
エリーが声を震わせる。
「クラガリ姉っ…!」
「…ダメだ…。」
ライラは小さな、掠れた声で呟く。
「ダメだ…お前は…!」
「…ライラ…!」
ライラの呟きを聞いたエリーが、小鳥をキッと見た。
エリーとライラは、小鳥を止めるべく駆け出した。
「…駄目…殺さなきゃ、駄目…。」
ぼんやりと繰り返しながら、小鳥は暴虐の限りを尽くしていく。
「殺さなきゃ…。」
「クラガリ姉!!」
「止めろ!!」
エリーとライラが、両脇から小鳥の腕を抑え込んだ。
小鳥はなおも、男達に視線を向ける。
「殺さなきゃ…全部…。」
「もういいんだって!!」
ライラが叫んだ。
「…もう、終わった…。」
その時には既に、倉狩一門の男達の大半が小鳥によって沈められ、僅かに残った男達も怯え、腰を抜かして座り込んでいた。
小鳥はゆっくりとライラ、そしてエリーを見た。
かくん、と小鳥の身体から力が抜ける。
「クラガリ姉!!」
エリーとライラの腕の中で、小鳥は気絶していた。
「…あ…ああ…あ…っ…。」
不意に聞こえた声に、エリーとライラが振り向くと、小春日がふらふらと立ち上がっていた。
目の前の惨状に、小春日は割くような叫び声を上げた。
「あああああ!!」
エリーとライラが危機感を覚え、退こうとした時。
小春日が二人の方に視線を向けた。見開かれた瞳に二人はぞくりと寒気を覚え、動きを止めてしまった。
小春日は呟く。
「…ころす。」
短剣を握りしめ、エリーとライラの腕の中にいる、小鳥めがけて飛びかかった。
「…殺す!!」
エリーとライラが小鳥を庇うように抱きしめ、目をぎゅっとつぶった次の瞬間。
「…いい加減にしなさい、小春日!!」
エリーとライラの眼前に、田村の背中があった。田村は小春日の短剣の切っ先を掴み、血を流しながら小春日を睨んだ。
小春日は田村に叫ぶ。
「どけ詠!! こいつは、こいつは私の…!!」
「この子は小雨さんじゃない!!」
田村の渾身の叫び返しに、小春日はひゅ、と息を飲んだ。
田村は声を落とし、続ける。
「…この子は小雨さんじゃない。どうやっても、小雨さんにはならない。…あの頃には戻らない。戻れないのよ。…小雨さんは死んだの。…いい加減、受け入れなさい。」
田村の言葉を聞いた、小春日の瞳が震える。次いで身体も震え始め、顔をくしゃくしゃに歪ませる。ゆっくりとその場に尻餅をついた。
「……――――!!」
声にならない叫び声だった。声が発せられない叫びを上げ、小春日は泣いていた。
ジュリーが静かに小春日の背後に歩み寄り、首を打つ。小春日はゆっくりと、身体を倒した。
田村は呟くように、ジュリーに礼を言った。
「…ありがとう、琴織君。」
「…田村先生…。」
セーラが田村に声をかけると、田村は意識を無くした小春日の傍らに膝をつき、小さな声で語った。
「…こいつが、倉狩君を取り戻そうとしていたのは、一門の為なんかじゃない…。喪った大切なモノを、その子を使って、蘇らせようとしていただけ…。」
エリーとライラは田村の言葉を聞きながら、痛む顔をして、腕の中で眠っている小鳥を見た。
クラガリ姉弟が、がばっと身体を起こす。
姉弟は白いベッドに寝かされていた。…医務室だった。
「気がついたか、クラガリ。」
横から声をかけられ、姉弟が振り向くと、エリーとライラがいた。ライラが言った。
「あれから三日寝てたんだ、お前達。」
姉弟はエリーとライラを短い間、唖然とした顔で見ていたが、不意に瞳を潤ませた。
姉弟はベッドから降り、エリーとライラに背を向ける。小鳥が掠れた声で言葉を発した。
「…お別れです、ご主人さま。」
エリーとライラが黙っていると、小鳥は続けた。
「…私はあの時、沢山の人の血を流しました。多分、死んだ人も沢山いるでしょう。…ご主人さま達との約束を破ってしまった今、もうご主人さま達の僕として、ここにいる事は出来ません。」
「…お別れしてどうする気な訳、お前達。」
ライラが姉弟の背中に言葉を投げる。
「田村先生が言ってた。倉狩一門は事実上消滅。帰るトコ無いだろが。」
ひゅ、と息を飲んだ音が、僅かにした。姉弟は背中を縮込ませた。小猫が口を開く。
「…でも、おいっち達は、主人様達の…。」
「オレ達とか関係ないんだろ。お前達はもう何もかも、どうだっていいと思ってるだけだろ。自分達に関わる色んなモンを、自分達で潰しちまったから、自分達も潰れようと思ってるだけなんだろ?」
ライラは姉弟に言い放ち、ため息を吐いた。
「…オレ達みたいなのに、関わったのが間違いだったな。」
エリーとライラは僅か歩き、クラガリ姉弟の前に立った。
エリーがゆっくりと口を開く。
「…オレらは今、お前らを、オレらの下僕から解任する。」
姉弟の顔が泣きそうに歪む。エリーは続けてはっきりと発言した。
「で…お前らを大事な後輩として見てる、二人の先輩としてお前らに頼む。学園にオレらといてくれ。」
姉弟が驚き、顔を上げる。目を丸くして、エリーとライラを見た。小鳥が震える声を上げる。
「…そんなの…反則ですっ…。私達は…!」
ライラが吐き出すように姉弟に話す。
「オレ達は、お前達と一緒にいたいんだよ。お前達がオレ達といたくなくともな。言わせんな、こんな事。」
「…どうしてもオレらといたくねえなら、止めはしねえ。…オレの我が侭で、お前らの、家…帰る場所、潰す事になっちまって…本当に、悪かった…っ。」
エリーの絞り出すような謝罪の言葉に、クラガリ姉弟は改めて、エリーとライラの顔を見た。
姉弟の前に立つ先輩二人は、心の痛みに顔を歪ませていた。
姉弟の小さな肩が震えた。
「…一緒に…いたく、ない…?」
発せられた姉弟の声も、掠れて震えていた。
「あんな、場所に…未練なんて、無いっ…先輩達と…皆と…一緒に、いたくない訳…ないじゃないですかあああああ!!」
一人で二人の姉弟、小鳥と小猫は、エリーとライラに抱きついて大声で泣いた。二人は痛む表情のまま、姉弟の身体を受け止め、しっかりと抱き返した。
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