第十五話 十一月 倉狩一門来襲 始末屋分断
…今日は、いつもと同じ夢を見た。
目の前に、オレに背を向けて傷だらけでいるちっこい子供がいる。
オレも子供と同じ位にちっこい。
そいつはオレに、何て言って…?
オレはそれで、何を思った…?
…何でオレには…あるんだろう…。
十一月になったある日の午後。今にも雨粒が落ちてきそうな、暗い曇り空の下。
生徒会の用事で学園都市へ買い出しに出ていたエリー、セーラ、クラガリ姉弟は学園への帰路についていた。
エリーはふと、道端の樹に目を向けた。
「…セーラ先輩。」
エリーは立ち止まり、樹に目をやったままセーラを呼んだ。
「…今、十一月っすよね。」
「そうだな。」
「…桜って、今でも咲くんすね。」
エリーが見ていたのは桜の樹だった。樹は枝の所々に、薄紅色の花を咲かせている。
「そうだな。温かい日が続いたからな。狂い咲きか。」
セーラが感慨深気に返すと、エリーは桜を睨んだ。
「…何か、胸くそ悪い。」
「エリー?」
「早く帰りましょーよ!」
エリーの唐突な台詞にセーラは疑問符を浮かべたが、小猫の声が前から聞こえた為、歩を進めた。
学園に残っていたライラとリタは、生徒会寮のロビーにいた。
椅子に座っていたライラが何かに目を留め、顔をしかめる。
『…ライラ君?』
リタは不思議そうに、ライラの頭の中に問うた。
「あっち、桜咲いてますね。」
ライラの視線の先には、学園に植えられている桜の樹。その桜にもまた、花が見られた。
『狂い咲きって奴だね。』
リタの言葉に、ライラは一層不機嫌そうに顔をしかめて返した。
「…やな感じですね。」
リタがまた疑問符を浮かべた瞬間、ライラとリタの目の前が暗転した。
ライラとリタの視界に光が戻ると、ライラとリタ、ジュリー、シャーリー、生徒会役員達は体育館にいた。
「…何だ…?」
ライラが狐につままれたような顔をしていると、あちこちから声が聞こえた。ライラが周りを見回す。
「な、何で!?」
「オレ達寮にいたのに…!?」
体育館には学園中の一般生徒達も集まっていた。皆一様に戸惑い、驚いている。
「何だ…!?」
「一体…!?」
ライラとジュリーが困惑していた時。
「騒ぐな。」
その冷徹な響きは、一瞬で場の空気を凍り付かせた。皆が身体を強ばらせる。
冷徹な声の主は、医務室教諭の田村と同年代だろうか、がりがりに痩せた白髪の女性だった。
女性は従えている沢山の男達に問う。
「見つからんのか。」
「…はい。」
様々な武器で武装した男達は、女性に忠実に頷いた。
「…探せ。」
「はい。」
女性の命令を受け、男達が学園内に散っていく。
女性は生徒達に向き直った。にたりと嗤い、先程と変わらぬ冷徹な声で口を開いた。
「…今、学園は『倉狩一門』が占拠している。」
エリー、セーラ、クラガリ姉弟の視界に、学園校門が見えて来た。
「やっと学園だー。」
「待て、小猫。」
歩を進めていた小猫の肩を、セーラが掴んだ。
「? セーラ先輩?」
エリーが疑問符を浮かべてセーラを見ると、セーラは緊張した面持ちで校門に目を向けていた。
「…様子がおかしい。」
「…貴方達は…!」
医務室に踏み込んできた男達を睨み、田村は問う。
「…あいつ、この学園に来たの?」
男達は刀や長刀を田村に向け、黙っている。
「…そう、答える気はないのね。」
田村は立ち上がり、ゆらりと光る眼差しで男達を射抜く。その眼差しに男達は一瞬怯んだ。
田村は淡々とした声で口にした。
「…あいつは貴方達に、私の事を言わなかったのね。」
エリー、セーラ、クラガリ姉弟は学園の裏側に回った。
「…何なんだ? あいつら…?」
エリーが困惑気味に呟く。
学園の敷地内ではあらゆる場所に見知らぬ男達が立ち、目を光らせていた。
「…あの男達…只者ではない…!」
男達を見て、セーラはまた顔を緊張させる。エリーは敷地内を睨んだ。
「まさかあいつら、学園乗っ取ってるとか…?」
「…逃げて、くださいっ…。」
震える声がすぐそばで聞こえ、エリーとセーラが振り返ると、小猫が身体を小刻みに震わせている。
「…どうした? クラガリ弟。」
震える小猫の目は、恐怖に見開いていた。
「…来たんだ…あの人、この学園に…!」
体育館に集められた生徒達は、怯えた様子で押し黙っている。
ジュリーが顔を上げ、目の前にいる女性に向かって口を開いた。
「…質問を受け付ける気はありますか。」
「…質問?」
女性がジュリーを見下ろす。ジュリーは女性を見返し、続ける。
「…オレ達は何も知らされていません。」
「お前らが知る必要なぞ無いだろうが…まあいい、すぐ見つかるだろうしな。あいつらが見つかるまでなら、答えてやらんでも無い。…何を聞きたい?」
女性が嗤いながら承諾すると、ジュリーは緊張した面持ちで問いを投げかけた。
「…オレ達はなぜいつの間に、ここに集められたのですか。」
「瞬間的にガスで眠らせ、部下達に運ばせた。集めた理由は、私達があいつらを探しやすくする為だ。」
「…あいつらとは?」
ジュリーが言い終わるかという瞬間。女性が、腰に付けていた長い鎖のついている短剣を投げた。その短剣はリタのそばに突き刺さった。
リタが顔を強ばらせると、女性は背筋が凍るような声で言い放った。
「何をしようとしているのか知らんが、下手な真似はしない方が良いぞ?」
「…リタ、先輩…!?」
ライラが緊張した声をリタにかけると、リタは困惑した顔でライラに頷いた。
リタの様子にライラが疑問符を浮かべていると、ジュリーは張りつめた顔を女性に向け、また問うた。
「…質問を変えます。…貴方の名は。」
女性はジュリー達生徒に向き直り、にたりと嗤うと名を言った。
「…倉狩 小春日 。」
震えている小猫を見て、エリーは問う。
「…お前、あいつらの事知ってるのか?」
小猫は何も言わず、震えて縮こまっている。
「…リタから何も送心が来ない。何かあったのかもしれない。…オレは行く。」
立ち上がろうとしたセーラを見、小猫は慌てて声を上げた。
「ま、待ってくださいにーさんっ! あいつらの目的はおいっち達…!!」
「あいつらの目的は、お前なのか…?」
小猫の言葉にエリーが驚き、再び問うと、小猫と交代した小鳥が微かに震える声で話し出した。
「…あいつらは『倉狩一門』…。私達の、実家の人間達です…。」
「クラガリ姉…?」
「…あいつらの目的は…私達を家に連れ戻す事です…。おそらく学園は今、一門の人間達に占拠されています…。」
「お前を家に連れ戻すって…それでこんな…!? 何で…!」
エリーが混乱した様子を見せる。話す小鳥の手は膝の上で握りしめられ、真っ白になっていた。
「…あの人は…一門の長、私達の母親、小春日は…手段を問わない人間です…。あの人だからここまでするとしか、言い様がありませんっ…。」
話を聞いていたセーラが、学園校舎を見やった。
「…一旦、ここから離れよう。」
「…下手な事はするな、ライラ。」
小春日が部下達に意識を向けている間に、ジュリーがライラに囁くと、ライラは頷いた。
「解ってます。…解りますよ。こいつらは普通じゃない。」
リタは緊張した面持ちでジュリーとライラを見ながら、ずっと黙っている。
「見つからない…? 何をやっている!! あいつらはどこへ行った!!」
小春日は声を荒げ、部下の一人を殴りつけた。生徒達、他の部下達は怒声と光景に身を強ばらせた。
「解った。私も探してやる。無能はここで見張りでもしていろ!!」
小春日は部下に言い捨てると、体育館を出て行った。
体育館内はしばし静まり返っていたが。
「…何なんだよ一体!!」
突然、生徒の一人が声を上げて立ち上がった。男達が一斉に生徒に武器を向ける。
「落ち着いて!!」
シャーリーが生徒を、男達の武器から庇うように抱きしめた。
「今取り乱したら、本当に取り返しのつかない事になる!!」
シャーリーが叫び、生徒を抱きしめ続けていると、生徒は脱力したように座り込んだ。
ライラ、リタ、ジュリーはホッと息を吐いた。
ライラは呟く。
「…あのバカは、何やってんだ…。」
「どういう理屈かは解らないが、リタが送心しようとすると、あの女にバレる…。外のあいつらと連絡の付け様が無い…。」
言うとジュリーはきり、と歯噛みした。
学園裏手の林の中にエリー、セーラ、クラガリ姉弟は潜んでいた。
「…リタ先輩から送心が来ないのは、小春日の能力のせいです…。あの人の能力は『能力感知』…。人が能力を使っていることや、能力を使っている人の居場所を、全て把握出来るんです。小春日が牽制したんだと思います。下手に能力を使えば…と。」
小鳥が説明すると、セーラは顔を歪ませた。
「そうか…。中の様子が解らない、あらゆる場所にあの男達がいる…。どうすればいい…!」
「…簡単な事です。」
小鳥から発せられた声は、とても冷静に響いた。
「…私が小春日のところに行けばいい事です。家に…帰ります。」
小鳥は立ち上がった。
「…これ以上、ご主人さまや先輩達、学園の皆に迷惑をかけられません。」
「…一つ聞きてえ。」
不意に発せられたエリーの声に、小鳥は思わず疑問符を浮かべる。エリーは小鳥に真っ直ぐに問うた。
「クラガリ。お前らは家に帰りてえのか?」
小鳥がひゅ、と息を飲み、エリーを見る。エリーは続けた。
「前に言ってたよな、お前らの生業の話。それってあいつら…お前らの家の事なんだよな。」
クラガリ姉弟は黙っている。エリーは重ねて言葉を投げかける。
「お前らは殺したくねえのに、殺してたんだよな。それは家がそうだったからなんだよな。」
「でも、私達が帰らないと…。」
戸惑いを見せる小鳥に、エリーは更に続ける。
「オレはお前らを、今の状態で家に帰したくねえ。お前らがまた傷つくの解ってる場所に帰したくねえ。…もう一度聞く。…クラガリ。お前らは、家に帰りてえのか?」
クラガリ姉弟はまたしばらく黙っていたが、不意に顔をくしゃくしゃにした。涙に声を震わせて、姉弟は訴えた。
「…帰りたくない…! あんな場所に、帰りたく、ない…っ…!」
泣く姉弟に、エリーははっきりと言った。
「なら、帰る事ねえ。…でも、めちゃくちゃな事言ってるの承知で、お前らに頼む。…皆助けんの、手伝って欲しい。」
「…あの男達の事も、お前達の母親という人間の事も、お前達の方が知っているだろうからな。…オレからも頼みたい。」
セーラも姉弟に頭を下げた。
姉弟が涙を拭う。挙げられた顔には決意が宿っていた。
「…はい。」
姉弟は強く頷いてみせた。
外から音が聞こえて来た。
「…雨か…。」
ジュリーが外を見やると、雨粒が外の地面を強く叩いているのが見えた。
「…エリー達、大丈夫かな…。」
シャーリーはぽつりと呟く。
ライラは顔をしかめていた。ライラの視線は体育館の外、雨に散る桜の花に向けられていた。
ライラは吐き捨てるように、独りごつ。
「…何で、あのバカの事が頭ん中、ちらつくんだ…。」
「…あいつらは強いっすよ。何たって戦闘のプロ達っす。主人様達が真正面から行っても、勝てる相手じゃないっす。」
雨の林の中、小猫が前にいる先輩達を見据えると、セーラは難しい顔をした。
「だが、学園中にあの男達がいる…。あいつらに見つからずに学園に侵入するのは…。」
「その事なんすけど…心当たりあるんすよ。見つからずに入る方法。」
「え?」
エリーの発言にセーラと小猫が疑問符を浮かべると、エリーは林の中からある場所を見やった。
「…一人だけ、倒せねえかな?」
皆しばし、思考した。
学園の裏手、校舎に隣接している物置のそば。
見張りに倉狩一門の男が一人、立っている。
男は物置の影から、かたかたという音がするのに気がついた。
男が確認の為に物置の影に向かった時、男の首を激しい衝撃が襲った。倒れた男の背後に、杖を持ったセーラが立っていた。
物置の影から、エリーと小猫が出てくる。
「案外簡単に回り込めたっすね。」
「で、どうする気だ、エリー。」
「物置入ってください。」
エリーが物置の中に入る。セーラと小猫も続いた。
「確かこの辺だった…。」
物置の中で荷物をどけながら、エリーは何かを探している。
「ここに何があるんだ、エリー。」
セーラが問うと、エリーは話した。
「ライラの野郎が見つけた侵入ルートっす。」
「ライラ主人様が?」
「…一年生ん時、ライラと喧嘩してて、ここまであの野郎追っかけて来たら見失って…突然後ろから武器攻撃喰らったんだよ。で、後で調べてみたら…あった。」
エリーが壁側の荷物を移動させると、物置の壁に穴が空いていた。
「ここの壁、校舎とくっついてる。ここ入れば校舎の床下に出られんだよ。」
「ライラはここを通って校舎に入り、エリーの背後に回り込んだ訳か。…行こう。」
「ここから先、能力は絶対使ったらダメっすよ。小春日に気づかれるっす。」
小猫が注意すると、エリーとセーラは黙って頷き、穴の中に入った。
To Be Continued
目の前に、オレに背を向けて傷だらけでいるちっこい子供がいる。
オレも子供と同じ位にちっこい。
そいつはオレに、何て言って…?
オレはそれで、何を思った…?
…何でオレには…あるんだろう…。
十一月になったある日の午後。今にも雨粒が落ちてきそうな、暗い曇り空の下。
生徒会の用事で学園都市へ買い出しに出ていたエリー、セーラ、クラガリ姉弟は学園への帰路についていた。
エリーはふと、道端の樹に目を向けた。
「…セーラ先輩。」
エリーは立ち止まり、樹に目をやったままセーラを呼んだ。
「…今、十一月っすよね。」
「そうだな。」
「…桜って、今でも咲くんすね。」
エリーが見ていたのは桜の樹だった。樹は枝の所々に、薄紅色の花を咲かせている。
「そうだな。温かい日が続いたからな。狂い咲きか。」
セーラが感慨深気に返すと、エリーは桜を睨んだ。
「…何か、胸くそ悪い。」
「エリー?」
「早く帰りましょーよ!」
エリーの唐突な台詞にセーラは疑問符を浮かべたが、小猫の声が前から聞こえた為、歩を進めた。
学園に残っていたライラとリタは、生徒会寮のロビーにいた。
椅子に座っていたライラが何かに目を留め、顔をしかめる。
『…ライラ君?』
リタは不思議そうに、ライラの頭の中に問うた。
「あっち、桜咲いてますね。」
ライラの視線の先には、学園に植えられている桜の樹。その桜にもまた、花が見られた。
『狂い咲きって奴だね。』
リタの言葉に、ライラは一層不機嫌そうに顔をしかめて返した。
「…やな感じですね。」
リタがまた疑問符を浮かべた瞬間、ライラとリタの目の前が暗転した。
ライラとリタの視界に光が戻ると、ライラとリタ、ジュリー、シャーリー、生徒会役員達は体育館にいた。
「…何だ…?」
ライラが狐につままれたような顔をしていると、あちこちから声が聞こえた。ライラが周りを見回す。
「な、何で!?」
「オレ達寮にいたのに…!?」
体育館には学園中の一般生徒達も集まっていた。皆一様に戸惑い、驚いている。
「何だ…!?」
「一体…!?」
ライラとジュリーが困惑していた時。
「騒ぐな。」
その冷徹な響きは、一瞬で場の空気を凍り付かせた。皆が身体を強ばらせる。
冷徹な声の主は、医務室教諭の田村と同年代だろうか、がりがりに痩せた白髪の女性だった。
女性は従えている沢山の男達に問う。
「見つからんのか。」
「…はい。」
様々な武器で武装した男達は、女性に忠実に頷いた。
「…探せ。」
「はい。」
女性の命令を受け、男達が学園内に散っていく。
女性は生徒達に向き直った。にたりと嗤い、先程と変わらぬ冷徹な声で口を開いた。
「…今、学園は『倉狩一門』が占拠している。」
エリー、セーラ、クラガリ姉弟の視界に、学園校門が見えて来た。
「やっと学園だー。」
「待て、小猫。」
歩を進めていた小猫の肩を、セーラが掴んだ。
「? セーラ先輩?」
エリーが疑問符を浮かべてセーラを見ると、セーラは緊張した面持ちで校門に目を向けていた。
「…様子がおかしい。」
「…貴方達は…!」
医務室に踏み込んできた男達を睨み、田村は問う。
「…あいつ、この学園に来たの?」
男達は刀や長刀を田村に向け、黙っている。
「…そう、答える気はないのね。」
田村は立ち上がり、ゆらりと光る眼差しで男達を射抜く。その眼差しに男達は一瞬怯んだ。
田村は淡々とした声で口にした。
「…あいつは貴方達に、私の事を言わなかったのね。」
エリー、セーラ、クラガリ姉弟は学園の裏側に回った。
「…何なんだ? あいつら…?」
エリーが困惑気味に呟く。
学園の敷地内ではあらゆる場所に見知らぬ男達が立ち、目を光らせていた。
「…あの男達…只者ではない…!」
男達を見て、セーラはまた顔を緊張させる。エリーは敷地内を睨んだ。
「まさかあいつら、学園乗っ取ってるとか…?」
「…逃げて、くださいっ…。」
震える声がすぐそばで聞こえ、エリーとセーラが振り返ると、小猫が身体を小刻みに震わせている。
「…どうした? クラガリ弟。」
震える小猫の目は、恐怖に見開いていた。
「…来たんだ…あの人、この学園に…!」
体育館に集められた生徒達は、怯えた様子で押し黙っている。
ジュリーが顔を上げ、目の前にいる女性に向かって口を開いた。
「…質問を受け付ける気はありますか。」
「…質問?」
女性がジュリーを見下ろす。ジュリーは女性を見返し、続ける。
「…オレ達は何も知らされていません。」
「お前らが知る必要なぞ無いだろうが…まあいい、すぐ見つかるだろうしな。あいつらが見つかるまでなら、答えてやらんでも無い。…何を聞きたい?」
女性が嗤いながら承諾すると、ジュリーは緊張した面持ちで問いを投げかけた。
「…オレ達はなぜいつの間に、ここに集められたのですか。」
「瞬間的にガスで眠らせ、部下達に運ばせた。集めた理由は、私達があいつらを探しやすくする為だ。」
「…あいつらとは?」
ジュリーが言い終わるかという瞬間。女性が、腰に付けていた長い鎖のついている短剣を投げた。その短剣はリタのそばに突き刺さった。
リタが顔を強ばらせると、女性は背筋が凍るような声で言い放った。
「何をしようとしているのか知らんが、下手な真似はしない方が良いぞ?」
「…リタ、先輩…!?」
ライラが緊張した声をリタにかけると、リタは困惑した顔でライラに頷いた。
リタの様子にライラが疑問符を浮かべていると、ジュリーは張りつめた顔を女性に向け、また問うた。
「…質問を変えます。…貴方の名は。」
女性はジュリー達生徒に向き直り、にたりと嗤うと名を言った。
「…
震えている小猫を見て、エリーは問う。
「…お前、あいつらの事知ってるのか?」
小猫は何も言わず、震えて縮こまっている。
「…リタから何も送心が来ない。何かあったのかもしれない。…オレは行く。」
立ち上がろうとしたセーラを見、小猫は慌てて声を上げた。
「ま、待ってくださいにーさんっ! あいつらの目的はおいっち達…!!」
「あいつらの目的は、お前なのか…?」
小猫の言葉にエリーが驚き、再び問うと、小猫と交代した小鳥が微かに震える声で話し出した。
「…あいつらは『倉狩一門』…。私達の、実家の人間達です…。」
「クラガリ姉…?」
「…あいつらの目的は…私達を家に連れ戻す事です…。おそらく学園は今、一門の人間達に占拠されています…。」
「お前を家に連れ戻すって…それでこんな…!? 何で…!」
エリーが混乱した様子を見せる。話す小鳥の手は膝の上で握りしめられ、真っ白になっていた。
「…あの人は…一門の長、私達の母親、小春日は…手段を問わない人間です…。あの人だからここまでするとしか、言い様がありませんっ…。」
話を聞いていたセーラが、学園校舎を見やった。
「…一旦、ここから離れよう。」
「…下手な事はするな、ライラ。」
小春日が部下達に意識を向けている間に、ジュリーがライラに囁くと、ライラは頷いた。
「解ってます。…解りますよ。こいつらは普通じゃない。」
リタは緊張した面持ちでジュリーとライラを見ながら、ずっと黙っている。
「見つからない…? 何をやっている!! あいつらはどこへ行った!!」
小春日は声を荒げ、部下の一人を殴りつけた。生徒達、他の部下達は怒声と光景に身を強ばらせた。
「解った。私も探してやる。無能はここで見張りでもしていろ!!」
小春日は部下に言い捨てると、体育館を出て行った。
体育館内はしばし静まり返っていたが。
「…何なんだよ一体!!」
突然、生徒の一人が声を上げて立ち上がった。男達が一斉に生徒に武器を向ける。
「落ち着いて!!」
シャーリーが生徒を、男達の武器から庇うように抱きしめた。
「今取り乱したら、本当に取り返しのつかない事になる!!」
シャーリーが叫び、生徒を抱きしめ続けていると、生徒は脱力したように座り込んだ。
ライラ、リタ、ジュリーはホッと息を吐いた。
ライラは呟く。
「…あのバカは、何やってんだ…。」
「どういう理屈かは解らないが、リタが送心しようとすると、あの女にバレる…。外のあいつらと連絡の付け様が無い…。」
言うとジュリーはきり、と歯噛みした。
学園裏手の林の中にエリー、セーラ、クラガリ姉弟は潜んでいた。
「…リタ先輩から送心が来ないのは、小春日の能力のせいです…。あの人の能力は『能力感知』…。人が能力を使っていることや、能力を使っている人の居場所を、全て把握出来るんです。小春日が牽制したんだと思います。下手に能力を使えば…と。」
小鳥が説明すると、セーラは顔を歪ませた。
「そうか…。中の様子が解らない、あらゆる場所にあの男達がいる…。どうすればいい…!」
「…簡単な事です。」
小鳥から発せられた声は、とても冷静に響いた。
「…私が小春日のところに行けばいい事です。家に…帰ります。」
小鳥は立ち上がった。
「…これ以上、ご主人さまや先輩達、学園の皆に迷惑をかけられません。」
「…一つ聞きてえ。」
不意に発せられたエリーの声に、小鳥は思わず疑問符を浮かべる。エリーは小鳥に真っ直ぐに問うた。
「クラガリ。お前らは家に帰りてえのか?」
小鳥がひゅ、と息を飲み、エリーを見る。エリーは続けた。
「前に言ってたよな、お前らの生業の話。それってあいつら…お前らの家の事なんだよな。」
クラガリ姉弟は黙っている。エリーは重ねて言葉を投げかける。
「お前らは殺したくねえのに、殺してたんだよな。それは家がそうだったからなんだよな。」
「でも、私達が帰らないと…。」
戸惑いを見せる小鳥に、エリーは更に続ける。
「オレはお前らを、今の状態で家に帰したくねえ。お前らがまた傷つくの解ってる場所に帰したくねえ。…もう一度聞く。…クラガリ。お前らは、家に帰りてえのか?」
クラガリ姉弟はまたしばらく黙っていたが、不意に顔をくしゃくしゃにした。涙に声を震わせて、姉弟は訴えた。
「…帰りたくない…! あんな場所に、帰りたく、ない…っ…!」
泣く姉弟に、エリーははっきりと言った。
「なら、帰る事ねえ。…でも、めちゃくちゃな事言ってるの承知で、お前らに頼む。…皆助けんの、手伝って欲しい。」
「…あの男達の事も、お前達の母親という人間の事も、お前達の方が知っているだろうからな。…オレからも頼みたい。」
セーラも姉弟に頭を下げた。
姉弟が涙を拭う。挙げられた顔には決意が宿っていた。
「…はい。」
姉弟は強く頷いてみせた。
外から音が聞こえて来た。
「…雨か…。」
ジュリーが外を見やると、雨粒が外の地面を強く叩いているのが見えた。
「…エリー達、大丈夫かな…。」
シャーリーはぽつりと呟く。
ライラは顔をしかめていた。ライラの視線は体育館の外、雨に散る桜の花に向けられていた。
ライラは吐き捨てるように、独りごつ。
「…何で、あのバカの事が頭ん中、ちらつくんだ…。」
「…あいつらは強いっすよ。何たって戦闘のプロ達っす。主人様達が真正面から行っても、勝てる相手じゃないっす。」
雨の林の中、小猫が前にいる先輩達を見据えると、セーラは難しい顔をした。
「だが、学園中にあの男達がいる…。あいつらに見つからずに学園に侵入するのは…。」
「その事なんすけど…心当たりあるんすよ。見つからずに入る方法。」
「え?」
エリーの発言にセーラと小猫が疑問符を浮かべると、エリーは林の中からある場所を見やった。
「…一人だけ、倒せねえかな?」
皆しばし、思考した。
学園の裏手、校舎に隣接している物置のそば。
見張りに倉狩一門の男が一人、立っている。
男は物置の影から、かたかたという音がするのに気がついた。
男が確認の為に物置の影に向かった時、男の首を激しい衝撃が襲った。倒れた男の背後に、杖を持ったセーラが立っていた。
物置の影から、エリーと小猫が出てくる。
「案外簡単に回り込めたっすね。」
「で、どうする気だ、エリー。」
「物置入ってください。」
エリーが物置の中に入る。セーラと小猫も続いた。
「確かこの辺だった…。」
物置の中で荷物をどけながら、エリーは何かを探している。
「ここに何があるんだ、エリー。」
セーラが問うと、エリーは話した。
「ライラの野郎が見つけた侵入ルートっす。」
「ライラ主人様が?」
「…一年生ん時、ライラと喧嘩してて、ここまであの野郎追っかけて来たら見失って…突然後ろから武器攻撃喰らったんだよ。で、後で調べてみたら…あった。」
エリーが壁側の荷物を移動させると、物置の壁に穴が空いていた。
「ここの壁、校舎とくっついてる。ここ入れば校舎の床下に出られんだよ。」
「ライラはここを通って校舎に入り、エリーの背後に回り込んだ訳か。…行こう。」
「ここから先、能力は絶対使ったらダメっすよ。小春日に気づかれるっす。」
小猫が注意すると、エリーとセーラは黙って頷き、穴の中に入った。
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