第十四話 十月 波乱の生徒会選挙!

 十月。
 この時期、学園でにわかに忙しくなるのは、生徒会と選挙管理委員会だ。
 学園では十月中に生徒会選挙が行われ、生徒会の新体制が作られる事になる。彼らは選挙の準備や生徒会の引き継ぎの準備に追われる事になるのだ。
 生徒会庶務でもある始末屋は、生徒会の引き継ぎ準備を手伝いながら、普段の仕事をする日々を送っていたのだが。

「始末屋あ!!」
 二年三組の教室で大声で迫られ、エリーは半分引きながらやっと問うた。
「…何、だ?」
 エリーとライラに迫って来たのは、二年三組の生徒数名。彼らはエリーとライラに訴えた。
「あいつら何とかしてくれ!!」
「あいつらって…何?」
 ライラが疑問符を投げかけると、生徒達は言った。
「あの野郎!! シャーリーの対抗馬!!」
「シャーリーの? …ああ、二年一組の久米田くめた光一こういちとかいう?」
 ライラの答えにクラスメイト達は頷き、声を上げた。
「あいつとその支持者が、シャーリーの根も葉もない悪い噂流してんだよ!!」

 学園の生徒会選挙の候補者は、自分から立候補する生徒と一定人数に推薦されて候補者になる生徒の二パターンがある。
 シャーリーは今回の生徒会選挙で、生徒会長に推薦されている。
 推薦の方が多少有利に事を運べるのだが、今回シャーリーに対抗して生徒会長に立候補した候補者が、シャーリーの悪い噂を流し、票集めを妨害しようとしている…とシャーリーの支持をしているクラスメイト達は言いたいらしい。

 シャーリーの支持者達は口々に訴える。
「何とかしてくれよ始末屋!!」
「これじゃあシャーリーが!!」
 迫ってくるクラスメイト達に、エリーは戸惑いながら口にする。
「んな事言っても、始末屋は選挙運動には参加出来ねえし…。」
 始末屋は強過ぎる権限を持っている為、こういった公平を期する行事では、特定の誰かの支持は一切出来ない事になっている。
「ま、まあ、落ち着いて。」
 ヒートアップするクラスメイト達を宥めたのは、シャーリーの声だった。シャーリーは苦笑しながらクラスメイト達に聞かせた。
「選挙はいわば勝負だから、こんな事があっても不思議じゃない。これは僕の選挙姿勢で解ってもらうしか無いから。」
「シャーリー…。」
 頭に血を上らせていたクラスメイト達がひとまず落ち着くと、エリーとライラはほっと息をついた。

 放課後の学園校舎。
 人気の無い廊下で、話している生徒達がいた。
「どうにかして、シャーリー候補の弱み握れないもんかな…。」
「あいつ意外と隙無いんだよな…。」
「色々悪い評判考えて流してるけど、それも限界あるしな…。」
「でも久米田が当選すれば、オレ達次期始末屋にしてもらえるっていうもんな!」
「始末屋か…俄然やる気わいてくるよなー!」
 エリーは話をしている生徒達を背後から見て、音もなくその場を離れた。

 同じ放課後。
 先程とは違う場所で、別の生徒達が話をしている。
「そうだな…。テストでカンニングしてたとかは?」
「それってどうすんだ?」
「適当にカンペ作って、シャーリー候補の机から見つけたとか言えば…。」
「ああ、そうか。」
「久米田もシャーリー候補の妨害、徹底するよなあ。」
「シャーリー候補、推薦だからな。あいつの方が有利だから、必死なんだろ。落選すりゃタダの生徒だし。」
「でも久米田当選したら、オレ達生徒会役員に抜擢してもらえるんだもんな。」
「それは美味しいよなー。」
 ライラは話を物陰から一通り聞き、姿を消した。

 エリーとライラの自室。
 カーペットの上で向かい合って座る二人の目の前には、録音機能付きのテープレコーダー数個。
 中のテープに入っていたのは全て、エリーとライラがそれぞれ聞いて録音した、久米田の支持者達の会話だった。
 全て聞き終わり、エリーとライラは重いため息を吐いた。
「まさかここまでとは思わなかった…。」
「嫌になるなマジで。」
 数々の会話の中身をまとめると。
 久米田が自身の支持者達に、選挙に関するシャーリーへの妨害工作を、思いついたそばから次々やるよう指示しているらしい事と、自身が当選した暁には、支持者を始末屋や生徒会役員に取り立てると支持者全員に吹き込んでいるらしい…という事だった。
 ライラが呆れたように口を開く。
「シャーリーの悪い噂、支持者を優遇するって話…。」
「…明らかに嘘誇張ばらまいてやがる。」
 エリーが吐き捨てると、ライラは苛立たしげに髪を掻き揚げた。
「二枚どころか、三枚四枚舌がある訳だ。」
「これはなんつーか…フェアじゃねえな。」
 エリーの感想に、ライラは眉間にしわを寄せた。
「今更何言ってんだ。オレ達のタブーに触れないギリギリの線で、皆に解らせるのが、今回の仕事だろうが。」
「解ってら…。特定の人間の支持をしねえで…って奴だろ。」
 二人は思考に入った。
 エリーが口元に手を当て、考えながら話す。
「…この妨害工作その他、全校生徒の前で証明するったらな…。」
「リタ先輩の力借りて、久米田の脳内情報送心とかしてもいいかもだけど、それじゃつまらないし。」
「流石この性悪。…まあ、つまらねえのは確かだけど。」
 ライラの言葉に、エリーは悪態をつきながらも頷いた。
 二人はまたしばし考える。
「…何か、そいつの本性を全校生徒に披露出来る作戦ねえかな。」
 エリーの言葉にライラはぽんと手を叩いた。
「お、脳筋エリーにしては頭回ってる。」
「脳筋が余計なんだよ。」
 エリーが睨むのに構わずライラは頷いた。
「でもそれだな。…あ、そうだ。あいつに協力頼んでみるか。」

 そして日にちは過ぎ、生徒会選挙当日。
 生徒達は体育館に集まっていた。今は最後の演説会が行われている。
 壇上では久米田がマイクの前で、生徒会長の公約を演説している。
「僕が生徒会長に立候補したのは、この学園を公明正大な、より良い場所にしたいからです! 僕はこの学園の生徒達を守り、生徒達が安心して生活出来る場所を作りたいと願っています!」
「よく言いやがる…。」
 生徒達の中に混じっているエリーが、渋い顔をして呟いた。
 久米田が一礼するとまばらな拍手の音が聞こえ、久米田は後ろにある自分と支持者代表達の席に腰を下ろした。
 会場アナウンスが響く。
「次は、斜里幸人候補の公約です。」
「はい。」
 シャーリーが立ち上がり、壇上の中心に立つ。
 生徒達の中にいるライラは、体育館の天井に目配せをした。
 シャーリーはゆっくりと口を開いた。
「…僕が生徒会長の推薦を承諾したのは、この学園が楽しいからです。素晴らしい仲間達と過ごす事が出来て、僕はとても満たされています。…でもこの学園はどこか、閉鎖的な気がしたんです。」
 話を聞く生徒達の間に流れる空気が僅かに変わる。澄んだ様に。
 シャーリーは話し続ける。
「具体的に、何処が閉鎖的なのかは僕にも解りません。今、僕がいる視点からは、解らない事だと思うんです。だから視点を変えてみたい。僕の自分勝手に思われるでしょう。でも出来る事なら僕は、この学園の詰まった空気のある場所を、開かれた場所にしてみたい。そうすれば、学園は新たなステージに進めるかもしれない。僕はそう思うんです。皆さんにそれを手伝って欲しいんです。どうか…手伝ってもらえませんか。」
「…どんな公約だ…。」
 壇上の席で久米田が嘲笑しながら呟いた。シャーリーは一礼し、マイクから離れる。
 拍手の後、アナウンスが流れる。
「斜里候補、ありがとうございました。これで…。? これより、学園始末屋からの推薦演説…?」
 戸惑った様子のアナウンスに、生徒達も首を傾げる。
「始末屋?」
「始末屋って、選挙運動に参加出来ないんじゃ?」
「推薦演説?」
 その時だった。
「…詠唱完了!!」
 体育館中に声が響く。
 次の瞬間、暗い体育館内でスポットライトに照らされたのは、体育館天井の梁を跨ぎ、突撃銃二挺を構える小猫だった。
 小猫は銃口をシャーリーの支持者と、久米田の支持者に向ける。シャーリー、久米田、両者の支持者達が驚きに目を見開く中、小猫は攻撃的に笑み、遠慮なく引き金を引いた。
 乾いた銃声がひっきりなしに鳴り、弾が床を貫く音が響き渡る。突然の事態に、体育館の一般生徒達は大混乱に陥った。
 拡声器を持ったライラが、間延びした声で響かせる。
「落ち着いてくださーい。あれであいつも多少は冷静です。一般生徒には発砲しませーん。」
「…つってもなあ…。」
 ライラの隣で、エリーは半ば呆れたような顔をしている。
 体育館後ろでスポットライトを操作しているセーラは、言葉が無い様子で騒動を見やっている。
『小猫君…目がちょっとイっちゃってる…。』
 同じくスポットライトを操作しているリタは、笑って引き金を引き続ける小猫を見て、かなりぎこちなく笑んでいた。
 銃撃がぴたりと止む。スポットライトが壇上を照らす。支持者達のそばの床には、いくつもの銃弾の痕があった。怯えて縮こまっていた支持者達は恐る恐る目を開け、ハッとした。
 支持者達の前に、彼らを庇わんとしてシャーリーが立っていた。シャーリーはぎこちなく支持者の方を振り返り、問うた。
「…み…みんな、無事…?」
「シャーリー…!」
 シャーリーの支持者達は思わず目を潤ませた。
 久米田の支持者達が気がつくと。
「…あ!」
 スポットライトが久米田を照らす。久米田は壇上から遙か遠くに逃げ、身を小さくして震えていた。
「流石シャーリー。一筋縄じゃいかない奴。」
 作戦の結果を見、ライラは満足そうににやりと笑う。
 全校生徒がその光景を目の当たりにしたのを確認し、エリーは拡声器を持つと、大きな声で発言した。
「…以上の結果を踏まえて、投票お願いします!! 学園始末屋より!!」

 その後投票が行われ、選挙管理委員会による開票作業が始まった。
 委員達は苦笑しながら、作業を進めていく。
「わー、大変だ。」
「久米田候補の票全然無い。」
「シャーリー候補の票ばかり伸びてく。」

 生徒会選挙の結果は、久米田候補に三倍以上の差を付けて、シャーリーが生徒会長に当選した。
 選挙から一週間後、生徒会の引き継ぎが正式に行われ、生徒会長の権限がジュリーからシャーリーに移譲されることになった。

 生徒会引き継ぎを翌日に控えた夕暮れ時。
「…シャーリー。」
 ジュリーが生徒会室で、シャーリーに話し始める。
「お前が生徒会長になるおかげで、また面白くなりそうだ。」
「そうですか? だといいんですけど。」
 シャーリーが笑うと、ジュリーは笑み返した。
「お前の公約には、前から興味があったんだ。…この学園の閉鎖的な部分…。」
「僕が勝手に感じてる事かもしれないですけど。」
 シャーリーが苦笑すると、ジュリーは首を横に振る。
「いいや。皆、薄々感じている事だ。だが皆、具体的には解らない。口にする事も無い。それを口に出したお前に、オレは期待しているんだ。…閉鎖的な部分が、何なのか解る事を。」
 ジュリーの深い声での言葉に、シャーリーは穏やかに返した。
「…僕だけでは解らないと思います。多分、皆の力を借りる事になると思うんです。特にエリーとライラとか。」
「当分は、あいつらのお守りに追われる事になるだろうがな。」
 ジュリーは肩を揺らして笑うと、改めてシャーリーに向き直る。
「…頼んだぞ、生徒会長。」
 ジュリーが鋭い眼差しでかけた言葉に、シャーリーは真っ直ぐに頷いた。
「…はい。」

 そして翌日。
「新会長、おめでとう。」
「おめでとさん、シャーリー。」
 生徒会室でエリーとライラは、シャーリーに祝辞を送った。シャーリーは笑んで応える。
「ありがとう。エリー、ライラ。」
「まさかシャーリーも、生徒会の一員になるなんてなー。」
「オレら始末屋になったばかりの頃は、考えてなかったな。」
 ライラとエリーの感慨深気な言葉に、シャーリーは頷いてニカッと笑った。
「今日僕、生徒会寮に引っ越しだから、手伝ってな。始末屋。」
「お前がオレ達を顎で使える隣人になるのか…。」
 ライラが渋い顔をすると、シャーリーはにっこり笑って返した。
「うん。おかげでますます楽しくなりそうだよ、学園生活。」
 不意にエリーが思い出したように口にした。
「ところで、生徒会長の最初の仕事…。」
「ああ、そうだった。」
 シャーリーが頷くと、ノックの音がした。
「失礼しまーす。」
「入って。」
 シャーリーが声をかけると、小猫がドアを開けて入って来た。
 緊張した面持ちで小猫がシャーリーを見ると、シャーリーは穏やかに笑いかけてみせた。
「よく来たね、倉狩小猫、倉狩小鳥。」
 その台詞に小猫は、盛大に驚きを見せた。
「…知ってるんすか!? …主人様達に?」
 クラガリ姉弟は学籍を小猫の名前で入れており、女性人格の小鳥の存在は一般生徒には伏せられている。
 シャーリーは頷き、話し出した。
「前から行動見てて、君とは違う何かがあるなあって、ずっと思ってたんだ。さっきエリーとライラに聞いてみたら、やっぱり二重人格だったんだなあって。」
「…感づいてた、ですか…?」
 戸惑いながら尋ねたのは、小鳥の方だった。
「エリーとライラが推す、始末屋候補だったからね。見てたら面白そうだと思って、気にかけてたんだ。」
 シャーリーは穏やかに笑むと居住まいを正し、クラガリ姉弟を真っ直ぐに見、発言した。
「今までの始末屋候補としての生活態度、実績を吟味して、君達には十分にその資質があると判断する。本日君達を、学園来年度始末屋に指名する。」
 クラガリ姉弟は、目を丸くしてシャーリーを見た。
 シャーリーは悪戯っぽい笑みを見せ、クラガリ姉弟に言った。
「これからまたしばらくは、エリーとライラに振り回されるだろうけど、頑張って。」
 クラガリ姉弟は笑顔で頷いた。
「はい! よろしくお願いします!」
「主人様達、放っておけないっすからね!」
「何だよ、そのオレらが頭痛の種みてえな言い草…。」
「そうだろ。お前はな。」
「てめえに言われたかねえよ!!」
 ライラの軽口とエリーの怒鳴り声で、また始まった喧嘩を見ながら、シャーリーとクラガリ姉弟は笑った。

 To Be Continued
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