第一〇話 八月 夏休みのある一日 セーラとリタ編
夏休みが始まったばかりの、八月の早朝。
静まり返った学園内の道場に、気合いを入れる声が響く。道着を身につけ、杖を振るうセーラの姿がそこにあった。
一通り型を終えると、セーラは一礼をし、息をついた。
「…こうしてここで朝練が出来るのも、半年とわずかか…。」
セーラは感慨深げに呟くと、道場の窓から差してくる陽の光に目を細める。陽の光が朝練を始めた時より強いのを感じつつ、額の汗を拭った。
「リタも、そろそろ起きている頃か。」
同じ頃。リタは生徒会寮の食堂、調理室にいた。
エプロンを身に着けたリタの目の前には、いくつかの弁当箱。生徒会役員や、始末屋のメンバー達のものだった。
『…よし。』
リタは気合いが入った様子で頷くと、冷蔵庫を開けた。中にはリタが自分で調達した食材が入っている。
『…あれ?』
リタの視界に紙切れが入って来た。リタが冷蔵庫の奥から、紙切れを取り出して見る。短く文章が書いてあった。
「よかったらこの食材使っちゃって! 食堂のおばちゃん一同」
食堂の調理師達から、リタへの手紙だった。リタが度々調理室を使う事を知っている調理師達は、時折余った食材をリタに提供している。
冷蔵庫の奥の方には、消費期限が近くなっていると思われる豆腐やこんにゃくが入っていた。
『…うん。煮物にしちゃおう。』
リタは笑んで頷くと、食材を取り出した。
衣類を抱えた小鳥が、食堂の前を通りかかる。流れてくる料理の匂いに気付き、食堂を覗く。中ではリタが弁当のおかずを作っていた。
「ふあー…いい匂い…。リタ先輩、おはようございますー…。」
『おはよう。小鳥ちゃん。早いね。』
ほわほわとした小鳥の挨拶に気付いたリタが、小鳥に笑みを向けた。小鳥も笑って頷いてみせた。
「今日、晴れるっていうからお洗濯しようと思っててー…。」
『そっか。今いつもの用意してるから、楽しみにしててね。』
リタの言葉に小鳥は嬉しそうに破顔し、また頷いた。
「はい!」
セーラとリタの自室。
セーラが着替えを終えたところに、控えめなノックの音が響く。
「開いている。」
慣れた調子でセーラが返すと、弁当を作り終えたリタが部屋に入ってきた。セーラは笑み、挨拶する。
「おはよう、リタ。」
『おはよう、セーラ。』
リタも笑顔で朝の挨拶を返した。
『朝練お疲れさま。…後で髪、結い直していい?』
リタがセーラの頭を見上げて言うと、セーラは黒髪を結い上げている頭を抑えて苦笑した。
「…また曲がっているか?」
『うん。僕も着替えようかな。』
リタは自分のクロゼットから制服を取り出し、弁当を作る時に着ていたTシャツを脱いだ。
セーラがリタの背中を黙って見つめる。リタはセーラの視線に気付き、首を傾げた。
『どうしたの?』
「…相変わらず、傷跡が酷いな。」
深い声でセーラは口にする。リタの背中には、刃物で切りつけられたような大きな傷跡があった。
リタはセーラの言葉に苦笑した。
『セーラ、しょっちゅうそれ言うよね。』
「…何でも無いと気を使われるのも嫌だろう?」
『うん。セーラにはそれされたくないな。』
セーラと会話を交わしながら、リタは制服に着替え終わった。
着替え終わったセーラとリタは、生徒会寮の食堂にいた。
エリーとライラが食堂の前に来たのを見つけ、セーラは声をかける。
「おはよう。エリー、ライラ。」
「おはよっす。セーラ先輩、リタ先輩。」
「おはようございます。」
二人が気付き、食堂に入って来た。エリー、ライラの順で挨拶を返されると、リタは笑みを見せ、早朝に作った弁当を手渡した。
『おはよう二人とも。はい、これ。』
「お、弁当。早速食おう。」
「いつもありがとした。いただきまーす。」
ライラとエリーの言葉に、リタは苦笑した。
『朝食にしちゃうんだ…。』
続けて食堂に入って来たのは、小猫だった。
「おはよっす、主人様達、にーさん達!」
「クラガリ弟か。おっす。」
『おはよう。小猫君これ。』
エリーが小猫に挨拶を返し、リタが続けて小猫に弁当箱を差し出すと、小猫は満面の笑みを見せた。
「あ、弁当! いつもありがとうございます、リタにーさん! 腹減ったー!」
「お前も朝食にする気か…。」
セーラが呆れたように声をかけると、小猫はカラカラと笑った。
「ちゃんと昼に食いますって! これから生徒会のにーさん達が朝食作るっしょ?」
「じゃ、オレは今日はこれから出掛けるんで。」
「てめえもかよ…。」
ライラとエリーは言い合うと、食堂から出た。
『気をつけてね。』
二人の後ろ姿にリタは送心した。
午後になり、今日分の宿題を済ませたセーラとリタは、自室の掃除をしていた。
ベッドのシーツを取り替えながら、リタがセーラに笑んでみせる。
『ごめんね、セーラ。いつも付き合わせて。』
「いいや。いい経験だ。…実家ではやらせても貰えなかったからな。」
掃除機を動かしながら、セーラは穏やかな声で返した。
『…そうだったね。』
リタが寂しそうに笑んだ時、部屋にノックの音が響き、続けて声が聞こえた。
「セーラ先輩、リタ先輩。いますか?」
二人の部屋に来たのは小鳥だった。
「え?」
『田村先生が?』
小鳥は先輩二人に、一年生のプール監視役である医務室教諭の田村が、風邪を引いて監視役が出来なくなっている話をした。
「はい、風邪引いちゃったって…。プールの監視は別の先生にお願いしたんですけど、田村先生心配で…。」
セーラとリタはお互いに頷き合うと、小鳥に言った。
「…解った。お前達はプールに戻っていろ。」
『田村先生のところには僕達が行くから。』
「はい、解りました。」
小鳥はホッとしたように頷き、部屋を出た。
「…三日寝ていたとなると…何がいるだろう。」
『…食堂に卵粥の材料あったかな?』
二人はそれぞれに行動を開始した。
教師寮の田村の部屋。
小綺麗にされた部屋で、田村が前に座っているセーラとリタに礼を言った。
「ありがとう、聖君、栗田君。ご飯持って来てくれたばかりか、部屋の掃除とか着替えの用意とか色々してくれて…教師として嬉しい限りだわ…。」
「困った時にはお互い様です、でも…。」
言いながらセーラとリタは、田村の格好を見た。
『田村先生も、そんな服持ってたんだなって…芋ジャージ…?』
田村が着ているのは、赤い生地に白い線が入ったジャージだ。
「パジャマは全部着ちゃって、プールの監視に着てくのしかなかったのよ!!」
「それを着て…。」
『プールの監視に行くつもりだったんですね…。』
田村の半ばヤケになった言葉に、セーラとリタのぎこちない声が返された。
夕方の生徒会寮。
セーラとリタ、ジュリー、クラガリ姉弟が二階の窓から下を見ていると、出掛けていたエリーとライラが紅白まんじゅうをぱくつきながら帰って来た。
二人が寮に入ったのを見て、リタは顔を上げた。
『エリー君とライラ君も帰って来たし…。』
「さて、今夜はオレ達が皆の飯を作る当番だな。」
セーラも言いながら窓から離れた。
「あ、そっすね。食堂の人達夏休みだ。」
小猫は気がついたように声を上げた。
セーラ、リタ、エリー、ライラ、クラガリ姉弟は調理場に立っている。
「リタにーさん、いつもながら上手いっすね!」
するするとジャガイモの皮を剥くリタの手元を見て、小猫が感嘆の声を上げると、リタは小さく笑んで見せた。
『料理はね、好きだよ。実家でいつもやってたから、ここ来たばかりのときは料理出来ないって、結構ストレスだった。』
「にーさんの実家って、どんなとこなんすか?」
小猫の問いに、リタが一瞬動きを止めた。リタの様子を見たセーラが米を研いでいた手を止め、小猫に声をかける。
「…小猫。下から鍋を出してくれないか?」
「え、はい。」
小猫は素直に頷き、流しの下の棚を開け、鍋を探す。
エリーとライラは食材を切りながらその様子を見ていたが、ライラが小さな声で呟いた。
「…マジ過保護…。」
『…そうだよね。』
リタの声が脳裏に響き、エリーとライラはハッとする。
「! 先輩。」
『セーラには聞こえてないから、しっ。僕が料理出来ないってストレス感じてた時、何かやりたい事あるかって聞いて来て、食堂の人に「ここ使わせてくれ」ってお願いしてくれたものね。ホントに過保護だよね。』
リタはエリーとライラに聞かせながら、穏やかな笑みを浮かべ、手を動かし続けた。
エリーとライラは短い間、顔を見合わせたが、お互いにため息をつくと作業に戻った。
セーラが風呂から上がり、自室に戻ってくると、リタは椅子から立ち上がった。手にはドライヤーを持っている。気遣うようにリタはセーラに笑んで見せる。
『セーラ。セーラの髪、乾かしていい?』
「ああ、頼む。」
セーラは穏やかに頷き、自分の椅子に腰を下ろした。リタはセーラの後ろに立ち、セーラの髪を手に取る。髪にドライヤーの風を丁寧に当てていった。
セーラがしみじみとした声で話した。
「いつも上手いな。」
『痛かったら言ってね。』
「…お前はいつも丁寧だから、それは気にしすぎなくていい。…過保護のオレが、言えた義理ではないがな。」
セーラの言葉に、リタは一瞬だけハッとした顔をして、その後苦笑した。
『…やっぱり、解ってた。』
夕食を作っていた時の事を思い出し、リタが小さく響かせると、セーラは笑んだ。
「三年の付き合いは濃いな。」
セーラはしばし黙って、リタに髪を乾かされていたが、不意に呟くように口にした。
「…今は、過保護でいさせてくれ。…今は…。」
『…うん。』
セーラの言葉を受け取ったリタは、小さく頷くとドライヤーのスイッチを切った。
『髪乾いたよ。』
「ありがとう。…今日はそろそろ休むか。」
セーラが立ち上がると、リタはまた気遣うように笑んだ。
『うん。何か、今日も色々あったね。』
「そうだな。」
セーラは静かに頷いた。
セーラは二段ベッドの上、リタは下に入った。布団を被り、落ち着いたところでセーラが部屋の明かりを消す。
『…明日もよろしくね。おやすみ。』
「ああ。おやすみ。」
暗闇の中、言葉を交わしてセーラとリタは眠りについた。
To Be Continued
静まり返った学園内の道場に、気合いを入れる声が響く。道着を身につけ、杖を振るうセーラの姿がそこにあった。
一通り型を終えると、セーラは一礼をし、息をついた。
「…こうしてここで朝練が出来るのも、半年とわずかか…。」
セーラは感慨深げに呟くと、道場の窓から差してくる陽の光に目を細める。陽の光が朝練を始めた時より強いのを感じつつ、額の汗を拭った。
「リタも、そろそろ起きている頃か。」
同じ頃。リタは生徒会寮の食堂、調理室にいた。
エプロンを身に着けたリタの目の前には、いくつかの弁当箱。生徒会役員や、始末屋のメンバー達のものだった。
『…よし。』
リタは気合いが入った様子で頷くと、冷蔵庫を開けた。中にはリタが自分で調達した食材が入っている。
『…あれ?』
リタの視界に紙切れが入って来た。リタが冷蔵庫の奥から、紙切れを取り出して見る。短く文章が書いてあった。
「よかったらこの食材使っちゃって! 食堂のおばちゃん一同」
食堂の調理師達から、リタへの手紙だった。リタが度々調理室を使う事を知っている調理師達は、時折余った食材をリタに提供している。
冷蔵庫の奥の方には、消費期限が近くなっていると思われる豆腐やこんにゃくが入っていた。
『…うん。煮物にしちゃおう。』
リタは笑んで頷くと、食材を取り出した。
衣類を抱えた小鳥が、食堂の前を通りかかる。流れてくる料理の匂いに気付き、食堂を覗く。中ではリタが弁当のおかずを作っていた。
「ふあー…いい匂い…。リタ先輩、おはようございますー…。」
『おはよう。小鳥ちゃん。早いね。』
ほわほわとした小鳥の挨拶に気付いたリタが、小鳥に笑みを向けた。小鳥も笑って頷いてみせた。
「今日、晴れるっていうからお洗濯しようと思っててー…。」
『そっか。今いつもの用意してるから、楽しみにしててね。』
リタの言葉に小鳥は嬉しそうに破顔し、また頷いた。
「はい!」
セーラとリタの自室。
セーラが着替えを終えたところに、控えめなノックの音が響く。
「開いている。」
慣れた調子でセーラが返すと、弁当を作り終えたリタが部屋に入ってきた。セーラは笑み、挨拶する。
「おはよう、リタ。」
『おはよう、セーラ。』
リタも笑顔で朝の挨拶を返した。
『朝練お疲れさま。…後で髪、結い直していい?』
リタがセーラの頭を見上げて言うと、セーラは黒髪を結い上げている頭を抑えて苦笑した。
「…また曲がっているか?」
『うん。僕も着替えようかな。』
リタは自分のクロゼットから制服を取り出し、弁当を作る時に着ていたTシャツを脱いだ。
セーラがリタの背中を黙って見つめる。リタはセーラの視線に気付き、首を傾げた。
『どうしたの?』
「…相変わらず、傷跡が酷いな。」
深い声でセーラは口にする。リタの背中には、刃物で切りつけられたような大きな傷跡があった。
リタはセーラの言葉に苦笑した。
『セーラ、しょっちゅうそれ言うよね。』
「…何でも無いと気を使われるのも嫌だろう?」
『うん。セーラにはそれされたくないな。』
セーラと会話を交わしながら、リタは制服に着替え終わった。
着替え終わったセーラとリタは、生徒会寮の食堂にいた。
エリーとライラが食堂の前に来たのを見つけ、セーラは声をかける。
「おはよう。エリー、ライラ。」
「おはよっす。セーラ先輩、リタ先輩。」
「おはようございます。」
二人が気付き、食堂に入って来た。エリー、ライラの順で挨拶を返されると、リタは笑みを見せ、早朝に作った弁当を手渡した。
『おはよう二人とも。はい、これ。』
「お、弁当。早速食おう。」
「いつもありがとした。いただきまーす。」
ライラとエリーの言葉に、リタは苦笑した。
『朝食にしちゃうんだ…。』
続けて食堂に入って来たのは、小猫だった。
「おはよっす、主人様達、にーさん達!」
「クラガリ弟か。おっす。」
『おはよう。小猫君これ。』
エリーが小猫に挨拶を返し、リタが続けて小猫に弁当箱を差し出すと、小猫は満面の笑みを見せた。
「あ、弁当! いつもありがとうございます、リタにーさん! 腹減ったー!」
「お前も朝食にする気か…。」
セーラが呆れたように声をかけると、小猫はカラカラと笑った。
「ちゃんと昼に食いますって! これから生徒会のにーさん達が朝食作るっしょ?」
「じゃ、オレは今日はこれから出掛けるんで。」
「てめえもかよ…。」
ライラとエリーは言い合うと、食堂から出た。
『気をつけてね。』
二人の後ろ姿にリタは送心した。
午後になり、今日分の宿題を済ませたセーラとリタは、自室の掃除をしていた。
ベッドのシーツを取り替えながら、リタがセーラに笑んでみせる。
『ごめんね、セーラ。いつも付き合わせて。』
「いいや。いい経験だ。…実家ではやらせても貰えなかったからな。」
掃除機を動かしながら、セーラは穏やかな声で返した。
『…そうだったね。』
リタが寂しそうに笑んだ時、部屋にノックの音が響き、続けて声が聞こえた。
「セーラ先輩、リタ先輩。いますか?」
二人の部屋に来たのは小鳥だった。
「え?」
『田村先生が?』
小鳥は先輩二人に、一年生のプール監視役である医務室教諭の田村が、風邪を引いて監視役が出来なくなっている話をした。
「はい、風邪引いちゃったって…。プールの監視は別の先生にお願いしたんですけど、田村先生心配で…。」
セーラとリタはお互いに頷き合うと、小鳥に言った。
「…解った。お前達はプールに戻っていろ。」
『田村先生のところには僕達が行くから。』
「はい、解りました。」
小鳥はホッとしたように頷き、部屋を出た。
「…三日寝ていたとなると…何がいるだろう。」
『…食堂に卵粥の材料あったかな?』
二人はそれぞれに行動を開始した。
教師寮の田村の部屋。
小綺麗にされた部屋で、田村が前に座っているセーラとリタに礼を言った。
「ありがとう、聖君、栗田君。ご飯持って来てくれたばかりか、部屋の掃除とか着替えの用意とか色々してくれて…教師として嬉しい限りだわ…。」
「困った時にはお互い様です、でも…。」
言いながらセーラとリタは、田村の格好を見た。
『田村先生も、そんな服持ってたんだなって…芋ジャージ…?』
田村が着ているのは、赤い生地に白い線が入ったジャージだ。
「パジャマは全部着ちゃって、プールの監視に着てくのしかなかったのよ!!」
「それを着て…。」
『プールの監視に行くつもりだったんですね…。』
田村の半ばヤケになった言葉に、セーラとリタのぎこちない声が返された。
夕方の生徒会寮。
セーラとリタ、ジュリー、クラガリ姉弟が二階の窓から下を見ていると、出掛けていたエリーとライラが紅白まんじゅうをぱくつきながら帰って来た。
二人が寮に入ったのを見て、リタは顔を上げた。
『エリー君とライラ君も帰って来たし…。』
「さて、今夜はオレ達が皆の飯を作る当番だな。」
セーラも言いながら窓から離れた。
「あ、そっすね。食堂の人達夏休みだ。」
小猫は気がついたように声を上げた。
セーラ、リタ、エリー、ライラ、クラガリ姉弟は調理場に立っている。
「リタにーさん、いつもながら上手いっすね!」
するするとジャガイモの皮を剥くリタの手元を見て、小猫が感嘆の声を上げると、リタは小さく笑んで見せた。
『料理はね、好きだよ。実家でいつもやってたから、ここ来たばかりのときは料理出来ないって、結構ストレスだった。』
「にーさんの実家って、どんなとこなんすか?」
小猫の問いに、リタが一瞬動きを止めた。リタの様子を見たセーラが米を研いでいた手を止め、小猫に声をかける。
「…小猫。下から鍋を出してくれないか?」
「え、はい。」
小猫は素直に頷き、流しの下の棚を開け、鍋を探す。
エリーとライラは食材を切りながらその様子を見ていたが、ライラが小さな声で呟いた。
「…マジ過保護…。」
『…そうだよね。』
リタの声が脳裏に響き、エリーとライラはハッとする。
「! 先輩。」
『セーラには聞こえてないから、しっ。僕が料理出来ないってストレス感じてた時、何かやりたい事あるかって聞いて来て、食堂の人に「ここ使わせてくれ」ってお願いしてくれたものね。ホントに過保護だよね。』
リタはエリーとライラに聞かせながら、穏やかな笑みを浮かべ、手を動かし続けた。
エリーとライラは短い間、顔を見合わせたが、お互いにため息をつくと作業に戻った。
セーラが風呂から上がり、自室に戻ってくると、リタは椅子から立ち上がった。手にはドライヤーを持っている。気遣うようにリタはセーラに笑んで見せる。
『セーラ。セーラの髪、乾かしていい?』
「ああ、頼む。」
セーラは穏やかに頷き、自分の椅子に腰を下ろした。リタはセーラの後ろに立ち、セーラの髪を手に取る。髪にドライヤーの風を丁寧に当てていった。
セーラがしみじみとした声で話した。
「いつも上手いな。」
『痛かったら言ってね。』
「…お前はいつも丁寧だから、それは気にしすぎなくていい。…過保護のオレが、言えた義理ではないがな。」
セーラの言葉に、リタは一瞬だけハッとした顔をして、その後苦笑した。
『…やっぱり、解ってた。』
夕食を作っていた時の事を思い出し、リタが小さく響かせると、セーラは笑んだ。
「三年の付き合いは濃いな。」
セーラはしばし黙って、リタに髪を乾かされていたが、不意に呟くように口にした。
「…今は、過保護でいさせてくれ。…今は…。」
『…うん。』
セーラの言葉を受け取ったリタは、小さく頷くとドライヤーのスイッチを切った。
『髪乾いたよ。』
「ありがとう。…今日はそろそろ休むか。」
セーラが立ち上がると、リタはまた気遣うように笑んだ。
『うん。何か、今日も色々あったね。』
「そうだな。」
セーラは静かに頷いた。
セーラは二段ベッドの上、リタは下に入った。布団を被り、落ち着いたところでセーラが部屋の明かりを消す。
『…明日もよろしくね。おやすみ。』
「ああ。おやすみ。」
暗闇の中、言葉を交わしてセーラとリタは眠りについた。
To Be Continued