鸞と林檎



初めは分からなかった。
何故そうしたのか。
ただなんとなく、軽い気持ちだったのは確かだ。

鎧を脱ぎ、黒の軽装衣に久しく腕を通す。赤い帯を締め、再び光を失った玉を手に取れば、意識が反転。遠くから声が聞こえる。




ーーやれ、強欲な男よ。
未だ太平の世は成らずとも、天下に英雄を見出し、時に歴史を変え、数多の無双の強者を懐に仕舞うお前は、まだ足りぬと申すか。



ーん。これは…?



一体どういう事だ。



………成程、それが天の意思ならば。



汝、太平の要よ。お前は真に何を望む?





偉丈夫と共に関を抜けたあと、焚き火を二人で囲う。暫く話している内に、夜も更けた。無名は今日あった出来事を思い返す。
病の父親を気遣う幼い子供を助けた後の官軍との戦闘にどこか思う事があった。
戦う事自体には慣れている。自分はそれを糧にしているのだから特に問題はないのだが、初めて官軍と戦ったはずなのに、過去に経験した事がある、2度目の余裕のようなものを感じたのだ。
焚き火を見つめながら考えていたら、いつの間にか眠りについた。

夢の中で見た桃の花が咲く人里が炎に包まれ、頭痛が走れば、失ったものかもわからない記憶の断片が過ぎていく。

『天下、久しく別れれば必ず合す。久しく合すれば必ず別れる。』

『しかして、天の意は明らか。これより世が大いに乱れるのは避けられぬ。』

『ゆえに「太平の世をつくる」のだ。』

『導きの光は、すでに汝の元にある。』

『汝、太平の要よ。行くがよい。』

子供の姿をしたこの人間は、もの言いたげな表情を見せると姿を消し、目が覚める。

関羽はひと足先に歩を進めていた。
その横を昨日関で共闘した集団がすれ違う。関羽も無名も立ち止まり、彼らを見送る。



プロローグ・終

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