二つ依って巴
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一人きりだったわたしが、気まぐれで繋がりを作った話。
たった数週間。長くはないが短くもない時間を、二人で過ごした。
幼い頃から戦場は身近にあるものである。
戦火で赤く染まる空や、流れる血でぬかるむ地面は、自分がたった一人であるという事実を忘れるほどに追い立ててくれる。死のかおりがすぐそこにあると死にたくないと自覚させてくれるのだ。
それにあっちの城がどうとか誰が内通しているだとか、面白い話を聞けるし。慣れてしまえばいい値で売れそうな情報が転がり込む場所でもある。
情報を売って、代わりに報酬といくつかの怪我をもらって、今回得た金銭で節制すればひと月は保つだろう。今回は割のいい仕事だった。そう上機嫌で戦場を撤退する。
戦というのは主に兵による武力の衝突であり、基本的には明るい時間に行われるものである。太陽が沈んで隣にいる人間の顔が判別しにくくなるこの時間には両陣ともに引き上げぽっかりと静かになる。
ふと違和感を感じて足を止めた。
兵は引き上げているとはいえここは戦場。罠が仕掛けられているかもしれないし、闇夜に潜んだ何者かがいるかも。なにより夜は死体をあさりに来る獣のほうが脅威になる。どんな理由があれども、私のような非力はすぐにこの場を離れるのがいいだろう。
夕闇から薄っすらとした月明かりに移り変わり目が闇になれると、その違和感をようやく視界に捉えることができた。
子供である。年齢は私よりいくつか下だろうか。小さな袋を握りしめている。
何があったのかは分からないが、また変なところで行き倒れたものだ。
普段なら見知らぬ誰かがどこかで死ぬのも何とも思わないのだけど、今日は懐に少し余裕があった。
寝食を過ごしているのは山を少し登ったところにある小屋である。本当に粗末な出来で、壁と屋根があるだけのもの。しかし親のいない子供には部屋も借りられない。風雨がしのげるだけで立派だ。
連れ帰った子供を藁編みの筵に転がし、自分も少し離れて眠りについた。
ーーーー
「煮えたっすよ。」
「食べよ、いただきます。」
野草と、米、粟を炊いた鍋に少し味噌を溶いたもの。それをそれぞれの器によそい分ける。質素ではあるが腹を満たすには十分だ。
「どう?足の具合は。」
「おかげでほぼ治ったっす。」
「そ、なら良かった。」
どうしてあんな場所で倒れていたのか聞けば、なんでも戦場で小銭稼ぎしていたところ何かで頭を打ったらしい。何かが銃弾でも砲弾でもなかったのだから運のいいことで。
足もひねっていたらしいが連れ帰ったのが夜だったため手当が遅れてしまったのだ。治りが悪そうだったが、この調子ならあと十日もせずに完治するだろう。
「今日は次のバイト受けに行くんすか?」
「そうだね。いい話があればいいけど。」
「うゆうさん話しつけるの下手っすもんね。」
「うるさい。」
ここ数日で露呈した交渉力の弱さを指摘され、ムッとして睨みつけてやると、お椀を持ったまま後退った。
頭にくる物言いだが嘘ではないので短くため息をついて矛を収める。
「そうとなりゃオレが一肌脱ぎましょう!」
「きり丸が?」
「この天才アルバイターにお任せ下さい!」
この子供の商売根性はひと目から透けて見えていた。どうあれ自分で話をつけるよりも要領よく進めてくれそうなので異論はない。
食事後早速町におりると、きり丸はあっという間にアルバイトの話をもぎ取ってきた。その仕事の速さには目を見張ったほどだ。自身を""天才""と評したのも今なら頷ける。
蓙に商品として売る不用品を並べる。割れた茶碗だったり、竹を割っただけの簡素な枕だったり、古い箒だったり。高く売れば売るだけ私らの取り分も増やしてくれるらしいが、そもそもはたしてこんなものを売れるのだろうか。
「よし、これから呼び込んでくるんで店番お願いしますよ。」
「分かった。」
そこからはなかなか大変だった。
きり丸が呼び込みをするおかげでそこそこな頻度で人が足を止める。
値段の交渉で足を見られることも多々あったが、フォローに入ってくれたきり丸の活躍もあり未の刻にはそれなりの銭に変えることができたのだ。
「すごい。」
今日一日活躍をしたきり丸に向けた一言は、銭棒を握って表情を崩す本人には届かなかった。
太陽が頭のてっぺんを過ぎる。ここから日が暮れるまでに食べ物を確保して、寝床を整えたい。できれば今過ごしている小屋から別の場所に移動したいのだが、きり丸がいるしなぁ。
「さっさと戻ろう。きり丸、背中乗る?」
「いーっす、歩けます。」
「つまらん奴。」
カア、カア、とカラスが山へ帰っていく。
仮初の宿でしかないおんぼろ山小屋だが、いつもより少しだけ帰る足取りは軽やかだった。
たった数週間。長くはないが短くもない時間を、二人で過ごした。
幼い頃から戦場は身近にあるものである。
戦火で赤く染まる空や、流れる血でぬかるむ地面は、自分がたった一人であるという事実を忘れるほどに追い立ててくれる。死のかおりがすぐそこにあると死にたくないと自覚させてくれるのだ。
それにあっちの城がどうとか誰が内通しているだとか、面白い話を聞けるし。慣れてしまえばいい値で売れそうな情報が転がり込む場所でもある。
情報を売って、代わりに報酬といくつかの怪我をもらって、今回得た金銭で節制すればひと月は保つだろう。今回は割のいい仕事だった。そう上機嫌で戦場を撤退する。
戦というのは主に兵による武力の衝突であり、基本的には明るい時間に行われるものである。太陽が沈んで隣にいる人間の顔が判別しにくくなるこの時間には両陣ともに引き上げぽっかりと静かになる。
ふと違和感を感じて足を止めた。
兵は引き上げているとはいえここは戦場。罠が仕掛けられているかもしれないし、闇夜に潜んだ何者かがいるかも。なにより夜は死体をあさりに来る獣のほうが脅威になる。どんな理由があれども、私のような非力はすぐにこの場を離れるのがいいだろう。
夕闇から薄っすらとした月明かりに移り変わり目が闇になれると、その違和感をようやく視界に捉えることができた。
子供である。年齢は私よりいくつか下だろうか。小さな袋を握りしめている。
何があったのかは分からないが、また変なところで行き倒れたものだ。
普段なら見知らぬ誰かがどこかで死ぬのも何とも思わないのだけど、今日は懐に少し余裕があった。
寝食を過ごしているのは山を少し登ったところにある小屋である。本当に粗末な出来で、壁と屋根があるだけのもの。しかし親のいない子供には部屋も借りられない。風雨がしのげるだけで立派だ。
連れ帰った子供を藁編みの筵に転がし、自分も少し離れて眠りについた。
ーーーー
「煮えたっすよ。」
「食べよ、いただきます。」
野草と、米、粟を炊いた鍋に少し味噌を溶いたもの。それをそれぞれの器によそい分ける。質素ではあるが腹を満たすには十分だ。
「どう?足の具合は。」
「おかげでほぼ治ったっす。」
「そ、なら良かった。」
どうしてあんな場所で倒れていたのか聞けば、なんでも戦場で小銭稼ぎしていたところ何かで頭を打ったらしい。何かが銃弾でも砲弾でもなかったのだから運のいいことで。
足もひねっていたらしいが連れ帰ったのが夜だったため手当が遅れてしまったのだ。治りが悪そうだったが、この調子ならあと十日もせずに完治するだろう。
「今日は次のバイト受けに行くんすか?」
「そうだね。いい話があればいいけど。」
「うゆうさん話しつけるの下手っすもんね。」
「うるさい。」
ここ数日で露呈した交渉力の弱さを指摘され、ムッとして睨みつけてやると、お椀を持ったまま後退った。
頭にくる物言いだが嘘ではないので短くため息をついて矛を収める。
「そうとなりゃオレが一肌脱ぎましょう!」
「きり丸が?」
「この天才アルバイターにお任せ下さい!」
この子供の商売根性はひと目から透けて見えていた。どうあれ自分で話をつけるよりも要領よく進めてくれそうなので異論はない。
食事後早速町におりると、きり丸はあっという間にアルバイトの話をもぎ取ってきた。その仕事の速さには目を見張ったほどだ。自身を""天才""と評したのも今なら頷ける。
蓙に商品として売る不用品を並べる。割れた茶碗だったり、竹を割っただけの簡素な枕だったり、古い箒だったり。高く売れば売るだけ私らの取り分も増やしてくれるらしいが、そもそもはたしてこんなものを売れるのだろうか。
「よし、これから呼び込んでくるんで店番お願いしますよ。」
「分かった。」
そこからはなかなか大変だった。
きり丸が呼び込みをするおかげでそこそこな頻度で人が足を止める。
値段の交渉で足を見られることも多々あったが、フォローに入ってくれたきり丸の活躍もあり未の刻にはそれなりの銭に変えることができたのだ。
「すごい。」
今日一日活躍をしたきり丸に向けた一言は、銭棒を握って表情を崩す本人には届かなかった。
太陽が頭のてっぺんを過ぎる。ここから日が暮れるまでに食べ物を確保して、寝床を整えたい。できれば今過ごしている小屋から別の場所に移動したいのだが、きり丸がいるしなぁ。
「さっさと戻ろう。きり丸、背中乗る?」
「いーっす、歩けます。」
「つまらん奴。」
カア、カア、とカラスが山へ帰っていく。
仮初の宿でしかないおんぼろ山小屋だが、いつもより少しだけ帰る足取りは軽やかだった。
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