序章
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遠くで人知を超えた大きな獣が吠えている。肌を焼くような高密度の空気がこの里に充満している。その光景に茫然と立ち竦んでいた。
近くを走り過ぎる皆は傷だらけで、どこかを目指して走っていく。道の中央に立つ私を、言わずとも表情が邪魔だと語る。
場面は切り替わり、もう住み慣れたプレハブの扉の前にいる。忍服を着た男性が私を見下ろしていて、両親は亡くなったと何度も何度も、
何度も繰り返す。
ーーー夢だ。
ハッとして目を覚ますと、まだ深夜のようだった。起き上がったベッドの上で、部屋を見渡す。特に変化はない、やはり夢だった。
無意識に止まっていた息が抜ける。なんだか二度寝する気にもなれなくて、静かに部屋を抜け出した。
こんな深夜に出歩くのは初めてだ。半分よりも少し太った、猫の目のような月が柔い光で照らしている。道は明るいが、影となるところはよく目を凝らさないと真っ黒に見える。
プレハブの経つ場所は里の外れなので普段から多く人が通る道でもないが、こんなにも誰の気配もしないのは不思議な感じだ。知らない世界に迷い込んだような感覚、否、そのとおりなのだけれど。
九尾を見たときに思い出したこの世界の記憶は、私の中では水と油を混ぜるような強烈な違和感でもあった。一年経った今では慣れてきたつもりではいるのだが、火影様やうみのイルカと話しているとどうにも馴染まない感じがするのだ。
誰かに見つかるかもしれない里の主要機関が並ぶ顔岩の方は避けて、あまり用のない外れの方へ。まあ、里内の道は地図をみて覚えたので、注意散漫になりすぎなければ大丈夫だ。もしものときは顔岩を目指せば知ってる道に出るだろうし。
そんな考えのもと、月を見上げながらどこを目指すでもなく適当に歩いていく。
ぼんやりと前世のことを思い出す。
実をいうとあんまり詳しいことは覚えていないのだ。何歳まで生きたとか、普段何をしていたとか、家族の事とか。全てが濃いモヤに包まれているかのようにハッキリしない。あまりにも強烈な九尾のチャクラで記憶の底からわずかに浮き上がった、というのが感覚としては近い。
海底に沈めた文字を読むような、と例えたら分かりやすいだろうか。事細かなことを思い出すことはできない。もしかしたらこの体がそのまま忘れさせようとしているのかも。
「こんな時間に一人で何をしている。」
油断しているところに背後から声をかけられ、心臓が弾けた。というのは比喩だが、その場から飛び上がって振り返ると、大人、いや忍者が三人こちらを見下ろしていた。声をかけられるまで気配など少しも感じなかった。これが本物の忍者なのか。
「あ、あの。ねむ、れなくて、すこし、散歩。」
「この先はうちはの集落があるだけだぞ。それに、お前のような子供が深夜に一人で出歩くなど、親はどうしているんだ。」
全く呆れた。と大きなくため息をつかれてしまった。当然である。
「仕方ないな…。子供を送ってくる。お前らは先に戻れ。」
「隊長……、いえ、承知。」
三人の中で彼が一番偉いのだろう、二人は一瞬目配せをしたが頭を下げて歩き去る。三人ともから威圧感を感じてはいたが、正直この隊長と呼ばれた人が一番コワい。体が強ばっているがうまく力を抜くことができずにいた。
「送ると言っただろう。家はどこだ。」
「はひ……、」
喉が締まってうまく話せなかった。その様子に忍者の隊長は眉を顰める。その様をみてただでさえ早鐘を打つ心臓が口から出てきそう。
辛うじてあっちから来ました、と言う意味で指でさし示すと、体を開いて「行くぞ」とだけ言われる。
緊張してうまく道を説明できず、またもう説明する気力もなくなった私は僅かに前を歩きつつわずかに冷静になった。
さっき隊長の背中に見えた赤い団扇のマーク、それと先程の会話で彼がこの里で有名なうちは一族の偉い人だということは察した。何かの任務のあとなのかどうかは聞かないとわからないが、この時間の散歩が見つかってしまってとても迷惑をかけたことは確認するまでもない。
歩きだしてすぐ、体の力が抜けたのか、しゃっくりが出始めた。隣を歩く隊長を見ると、目があう。何とか止めることはできないかと立ち止まって息を止めたり、鼻をつまんだりしてみるも、なぜかしゃっくりは大きくなっていく。本当に最悪である。
「しゃッ、くりが止まらなッ、止められなくなっちゃッて、ごめんなさッ」
「落ち着け、ただの吃逆だろう、無理に止めるものでもない。」
「止めなッ、止めなきゃ帰れないんでッ、」
こんなに大きいしゃっくりをしていたら、忍者じゃなくてもすぐに分かる。そして規則を破って深夜の里を徘徊していたこともバレる。
規則を破ったのは自分自身なので怒られるのは別に受け入れられるが、もしなにか対策を取られるとか、外出を制限されるとかになるとかなり面倒なので、できればコッソリ部屋に戻りたい。
ヒック、なんてそんな可愛い音ではなく、ヒュ、ヒュ、と半分過呼吸のようにして蹲いはじめた子供を前にさすがに慌てたのか抱きかかえられて、ぎこちなさのある手で背中を一定の間隔で叩かれる。
「焦るから酷くなる。落ち着いてゆっくり呼吸するんだ。」
大人の肩に頭を預け、堪えるように背を丸めていれば少し落ち着いてきた。身を包まれるような体温と背を叩く手の大きさに感じる心地よさに体がふと柔らかくなる。
「落ち着いたか?」
「だいぶよくなりまし……ッ、ありがとうございます……。」
「そうか。完全に落ち着くまでそうしているといい。」
名前はとか、どうして出歩いていたのかとか、一つずつ質問されて、ゆっくりと呼吸をしながら答えていく。
「両親はいません。九尾と戦って、それで。……殉職したと。今は保護施設で暮らしてます。」
「ああ、三代目火影のやってる事業か。……たしかいくつか孤児院と建物でやっていたな。」
「今日は夢見が悪くて…、最近は、良かったんですけど、」
「お前が住んでいるのはどこの施設だ、………、」
子供らしく大人に抱っこされるのはかなり久々なことだ。どうしたって抗えない眠気に意識を持っていかれる。
フッと力が抜けた子供を抱えて、隊長、ーーうちはフガクは言葉をやめた。
近くを走り過ぎる皆は傷だらけで、どこかを目指して走っていく。道の中央に立つ私を、言わずとも表情が邪魔だと語る。
場面は切り替わり、もう住み慣れたプレハブの扉の前にいる。忍服を着た男性が私を見下ろしていて、両親は亡くなったと何度も何度も、
何度も繰り返す。
ーーー夢だ。
ハッとして目を覚ますと、まだ深夜のようだった。起き上がったベッドの上で、部屋を見渡す。特に変化はない、やはり夢だった。
無意識に止まっていた息が抜ける。なんだか二度寝する気にもなれなくて、静かに部屋を抜け出した。
こんな深夜に出歩くのは初めてだ。半分よりも少し太った、猫の目のような月が柔い光で照らしている。道は明るいが、影となるところはよく目を凝らさないと真っ黒に見える。
プレハブの経つ場所は里の外れなので普段から多く人が通る道でもないが、こんなにも誰の気配もしないのは不思議な感じだ。知らない世界に迷い込んだような感覚、否、そのとおりなのだけれど。
九尾を見たときに思い出したこの世界の記憶は、私の中では水と油を混ぜるような強烈な違和感でもあった。一年経った今では慣れてきたつもりではいるのだが、火影様やうみのイルカと話しているとどうにも馴染まない感じがするのだ。
誰かに見つかるかもしれない里の主要機関が並ぶ顔岩の方は避けて、あまり用のない外れの方へ。まあ、里内の道は地図をみて覚えたので、注意散漫になりすぎなければ大丈夫だ。もしものときは顔岩を目指せば知ってる道に出るだろうし。
そんな考えのもと、月を見上げながらどこを目指すでもなく適当に歩いていく。
ぼんやりと前世のことを思い出す。
実をいうとあんまり詳しいことは覚えていないのだ。何歳まで生きたとか、普段何をしていたとか、家族の事とか。全てが濃いモヤに包まれているかのようにハッキリしない。あまりにも強烈な九尾のチャクラで記憶の底からわずかに浮き上がった、というのが感覚としては近い。
海底に沈めた文字を読むような、と例えたら分かりやすいだろうか。事細かなことを思い出すことはできない。もしかしたらこの体がそのまま忘れさせようとしているのかも。
「こんな時間に一人で何をしている。」
油断しているところに背後から声をかけられ、心臓が弾けた。というのは比喩だが、その場から飛び上がって振り返ると、大人、いや忍者が三人こちらを見下ろしていた。声をかけられるまで気配など少しも感じなかった。これが本物の忍者なのか。
「あ、あの。ねむ、れなくて、すこし、散歩。」
「この先はうちはの集落があるだけだぞ。それに、お前のような子供が深夜に一人で出歩くなど、親はどうしているんだ。」
全く呆れた。と大きなくため息をつかれてしまった。当然である。
「仕方ないな…。子供を送ってくる。お前らは先に戻れ。」
「隊長……、いえ、承知。」
三人の中で彼が一番偉いのだろう、二人は一瞬目配せをしたが頭を下げて歩き去る。三人ともから威圧感を感じてはいたが、正直この隊長と呼ばれた人が一番コワい。体が強ばっているがうまく力を抜くことができずにいた。
「送ると言っただろう。家はどこだ。」
「はひ……、」
喉が締まってうまく話せなかった。その様子に忍者の隊長は眉を顰める。その様をみてただでさえ早鐘を打つ心臓が口から出てきそう。
辛うじてあっちから来ました、と言う意味で指でさし示すと、体を開いて「行くぞ」とだけ言われる。
緊張してうまく道を説明できず、またもう説明する気力もなくなった私は僅かに前を歩きつつわずかに冷静になった。
さっき隊長の背中に見えた赤い団扇のマーク、それと先程の会話で彼がこの里で有名なうちは一族の偉い人だということは察した。何かの任務のあとなのかどうかは聞かないとわからないが、この時間の散歩が見つかってしまってとても迷惑をかけたことは確認するまでもない。
歩きだしてすぐ、体の力が抜けたのか、しゃっくりが出始めた。隣を歩く隊長を見ると、目があう。何とか止めることはできないかと立ち止まって息を止めたり、鼻をつまんだりしてみるも、なぜかしゃっくりは大きくなっていく。本当に最悪である。
「しゃッ、くりが止まらなッ、止められなくなっちゃッて、ごめんなさッ」
「落ち着け、ただの吃逆だろう、無理に止めるものでもない。」
「止めなッ、止めなきゃ帰れないんでッ、」
こんなに大きいしゃっくりをしていたら、忍者じゃなくてもすぐに分かる。そして規則を破って深夜の里を徘徊していたこともバレる。
規則を破ったのは自分自身なので怒られるのは別に受け入れられるが、もしなにか対策を取られるとか、外出を制限されるとかになるとかなり面倒なので、できればコッソリ部屋に戻りたい。
ヒック、なんてそんな可愛い音ではなく、ヒュ、ヒュ、と半分過呼吸のようにして蹲いはじめた子供を前にさすがに慌てたのか抱きかかえられて、ぎこちなさのある手で背中を一定の間隔で叩かれる。
「焦るから酷くなる。落ち着いてゆっくり呼吸するんだ。」
大人の肩に頭を預け、堪えるように背を丸めていれば少し落ち着いてきた。身を包まれるような体温と背を叩く手の大きさに感じる心地よさに体がふと柔らかくなる。
「落ち着いたか?」
「だいぶよくなりまし……ッ、ありがとうございます……。」
「そうか。完全に落ち着くまでそうしているといい。」
名前はとか、どうして出歩いていたのかとか、一つずつ質問されて、ゆっくりと呼吸をしながら答えていく。
「両親はいません。九尾と戦って、それで。……殉職したと。今は保護施設で暮らしてます。」
「ああ、三代目火影のやってる事業か。……たしかいくつか孤児院と建物でやっていたな。」
「今日は夢見が悪くて…、最近は、良かったんですけど、」
「お前が住んでいるのはどこの施設だ、………、」
子供らしく大人に抱っこされるのはかなり久々なことだ。どうしたって抗えない眠気に意識を持っていかれる。
フッと力が抜けた子供を抱えて、隊長、ーーうちはフガクは言葉をやめた。
