序章
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遠くで人知を超えた大きな獣が吠えている。肌を焼くような高密度の空気がこの里に充満している。その光景に茫然と立ち竦んでいた。
頭の中に流れ込んでくる、今日までの私が知らない人生に避難する足もとまってしまった。
なぜ今まで忘れていたのか。いや、本来覚えていない物なのだ。言い換えるべきは、思い出してしまったのか。
獣の、九尾の大きな腕が振り下ろされ、多くの忍が死ぬ。攻撃によって、いや、九尾にとっては攻撃でもない動きで大きな岩が飛び、大木も建物も容易く潰す。
この厄災を目の前にして、自分にできることなど何一つとして無い。今ここにいるこの自分はまだ四年しか生きていない。
目の奥に赤い空気が焼き付いていく。
世界がニ度目をなぞる。
必死に逃げて、ただ自分の無事だけを祈った。自分だけが、いつ死ぬかも分からない。
----#---
両親が戦死したという報せが入ったのはあの日を一月半も過ぎた午前中だった。
訃報を持ってきたのは以前に何度か食事を共にしたことがある、父の同僚だった。その人は私に、君の父は実に立派な忍だったのだと繰り返した。そして遅くなってしまって申し訳ないとも。
この事件で多くの人が住む場所を失った。保護者と逸れたり私のように亡くしてしまった子供も多く、それらは私を含めまだ被害の少ない里の外れに建てられたプレハブに保護されている。
忍に限らず大人たちは里の復興に忙しく、自分たちのことも優先しなければならないだろう。それに、両親が死んでしまったことに対して大声で泣きだしてしまうような子供の心は、あの日に前世を思い出した私の中にはもう無い。
「お報せありがとうございました。」
忍であるはずのその人は酷く悲しそうな顔をしていた。
自分の無力さを痛感し、身を守るだけの力が欲しいと忍術の練習を始めることとした。とはいっても生前両親がお遊び程度に教えてくれた修行に取り組むしかできない。身近にすぐ頼れる大人はいないため、知っている限りの知識で進めるしかない。
幸いにも自分の持つチャクラというエネルギーを自覚してある程度扱えることがここ何日かで分かった。身体に巡らせれば子供ながらに常人離れした跳躍もできるし、早く走ることもできる。
プレハブから少し距離を取った森の中で二週間も訓練すれば手を使わずに木を登ることも、水面を歩くこともできるようになった。
あと出来る事といえば何だろうか。
目を伏せる。凪いだ水面はその上に立つ私を中心に丸い波紋を立てている。前世の記憶がある自分は罰当たりな人間なんだろう。
憂鬱な気分になって重く息を吐く。地面に手足を投げ出して寝転ぶと、太陽の光を透かす木の葉が風にそよいでいた。近頃は日中であっても寒さを感じる。
「捗っておるのう。」
突然背後から声をかけられて飛び起きる。その人物がここにいることにあまりにも驚いて土を払うことさえ忘れていた。
「三代目火影様!なぜ、こんなところに…」
「視察に来てみれば一人いないというのでな。」
ホッホッと柔らかい表情を浮かべる火影様は本当に人が良さそうに見える。まだ里内の復興も十分ではないのだから火影のこの人が忙しくないわけがない。だというのにわざわざ自分子ども一人の迎えに上がらせてしまった。さすがに申し訳無さがある。
さあ帰ろう、とプレハブに戻る背中に続く。決して大柄ではないのに広い背中だと思った。
普段なら小走りに行くので帰るまで五分とかからない。でも今日は迷惑とわかりつつも少しゆっくりと歩きたくなる。
「忍者を志しているのかな?」
先を行く火影様に名前を呼ばれて、施設にいるのだから名簿を確認しているか施設の大人にでも聞いたのだろうと合点する。
肝心のその問いかけには言葉に詰まる。
「正直、分かりません。一ヶ月半前にたくさんの忍が死ぬのを見ました。両親も、忍じゃない人もたくさん死にました。身を守れなければ死んでしまう、私は臆病なだけなんだと思います。」
三代目は立ち止まって振り返る。私は足元を見て歩いていたので、一歩遅れて立ち止まった。温かでシワのある手で頭を撫でられる。
「そうじゃな。儂も死ぬのは怖い。そしてこの里の皆が死んでしまうのはもっと怖い。
忍になるという決断は、今すぐ下さなくてはいけないものではない。焦らないことじゃ。」
こちらを真っ直ぐに見つめる瞳の奥に、揺るがない意志が燃えている。炎に飲まれたように皮膚が熱い。
忍は、たった一人で兵器としての性能は拳銃よりもずっと高い。自分はこの先どう生きていくべきか。
それを知るにはもっとこの里を知るべきだ。火影様に会って強く思った。
頭の中に流れ込んでくる、今日までの私が知らない人生に避難する足もとまってしまった。
なぜ今まで忘れていたのか。いや、本来覚えていない物なのだ。言い換えるべきは、思い出してしまったのか。
獣の、九尾の大きな腕が振り下ろされ、多くの忍が死ぬ。攻撃によって、いや、九尾にとっては攻撃でもない動きで大きな岩が飛び、大木も建物も容易く潰す。
この厄災を目の前にして、自分にできることなど何一つとして無い。今ここにいるこの自分はまだ四年しか生きていない。
目の奥に赤い空気が焼き付いていく。
世界がニ度目をなぞる。
必死に逃げて、ただ自分の無事だけを祈った。自分だけが、いつ死ぬかも分からない。
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両親が戦死したという報せが入ったのはあの日を一月半も過ぎた午前中だった。
訃報を持ってきたのは以前に何度か食事を共にしたことがある、父の同僚だった。その人は私に、君の父は実に立派な忍だったのだと繰り返した。そして遅くなってしまって申し訳ないとも。
この事件で多くの人が住む場所を失った。保護者と逸れたり私のように亡くしてしまった子供も多く、それらは私を含めまだ被害の少ない里の外れに建てられたプレハブに保護されている。
忍に限らず大人たちは里の復興に忙しく、自分たちのことも優先しなければならないだろう。それに、両親が死んでしまったことに対して大声で泣きだしてしまうような子供の心は、あの日に前世を思い出した私の中にはもう無い。
「お報せありがとうございました。」
忍であるはずのその人は酷く悲しそうな顔をしていた。
自分の無力さを痛感し、身を守るだけの力が欲しいと忍術の練習を始めることとした。とはいっても生前両親がお遊び程度に教えてくれた修行に取り組むしかできない。身近にすぐ頼れる大人はいないため、知っている限りの知識で進めるしかない。
幸いにも自分の持つチャクラというエネルギーを自覚してある程度扱えることがここ何日かで分かった。身体に巡らせれば子供ながらに常人離れした跳躍もできるし、早く走ることもできる。
プレハブから少し距離を取った森の中で二週間も訓練すれば手を使わずに木を登ることも、水面を歩くこともできるようになった。
あと出来る事といえば何だろうか。
目を伏せる。凪いだ水面はその上に立つ私を中心に丸い波紋を立てている。前世の記憶がある自分は罰当たりな人間なんだろう。
憂鬱な気分になって重く息を吐く。地面に手足を投げ出して寝転ぶと、太陽の光を透かす木の葉が風にそよいでいた。近頃は日中であっても寒さを感じる。
「捗っておるのう。」
突然背後から声をかけられて飛び起きる。その人物がここにいることにあまりにも驚いて土を払うことさえ忘れていた。
「三代目火影様!なぜ、こんなところに…」
「視察に来てみれば一人いないというのでな。」
ホッホッと柔らかい表情を浮かべる火影様は本当に人が良さそうに見える。まだ里内の復興も十分ではないのだから火影のこの人が忙しくないわけがない。だというのにわざわざ自分子ども一人の迎えに上がらせてしまった。さすがに申し訳無さがある。
さあ帰ろう、とプレハブに戻る背中に続く。決して大柄ではないのに広い背中だと思った。
普段なら小走りに行くので帰るまで五分とかからない。でも今日は迷惑とわかりつつも少しゆっくりと歩きたくなる。
「忍者を志しているのかな?」
先を行く火影様に名前を呼ばれて、施設にいるのだから名簿を確認しているか施設の大人にでも聞いたのだろうと合点する。
肝心のその問いかけには言葉に詰まる。
「正直、分かりません。一ヶ月半前にたくさんの忍が死ぬのを見ました。両親も、忍じゃない人もたくさん死にました。身を守れなければ死んでしまう、私は臆病なだけなんだと思います。」
三代目は立ち止まって振り返る。私は足元を見て歩いていたので、一歩遅れて立ち止まった。温かでシワのある手で頭を撫でられる。
「そうじゃな。儂も死ぬのは怖い。そしてこの里の皆が死んでしまうのはもっと怖い。
忍になるという決断は、今すぐ下さなくてはいけないものではない。焦らないことじゃ。」
こちらを真っ直ぐに見つめる瞳の奥に、揺るがない意志が燃えている。炎に飲まれたように皮膚が熱い。
忍は、たった一人で兵器としての性能は拳銃よりもずっと高い。自分はこの先どう生きていくべきか。
それを知るにはもっとこの里を知るべきだ。火影様に会って強く思った。
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