歩章
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目が覚めたその日のうちに鎮痛剤を用いつつも要点をまとめて報告書を作成した。憶測の域を出ないことは報告できない。そのためその男の容姿と、手裏剣や体術が体を貫通してしまったこと、強力な幻術を使ったことくらいしか書けていない。
あの仮面の下に隠した写輪眼のことはどうにも書く気になれなかった。ただでさえうちは一族は不安定な状態なのに、無闇に不安要素を重ねる必要もない。
報告書を暗部の使者に託した翌日には、火影様に直接呼ばれた。三代目から大名護衛の任務が失敗したことについてお咎めはなく、労いの言葉すらかけてもらった。
「報告書は確認させてもらった。他の部隊からの報告とも相違無く、信用に足る情報であると判断した。」
頭を低くして言葉の続きを待つ。
「うゆうにとっては命を賭ける戦闘は初めてあったはずじゃが、間違いないかな。」
「はい、そうなります。正面を切っての接敵は初めての経験でした。」
「明確な敵意と対峙してみてどう感じたのか、思ったとおりに申してみよ。」
「報告書に上げたとおり、あの男は陽炎のように攻撃が当たりませんでしたが、私を掴もうとする仕草を見せました。憶測の域を出ませんので断言はできかねますが、私達の見た姿は幻影ではなく実体があり、攻撃が当たらないよう一時的に避けているだけであったと推測します。」
報告書に書かなかった部分を伝えると、三代目は困ったように眉を下げた。
面の男と実際に交戦したわたしからその詳しい内容を知りたいのかと思っての発言であったが、どうやら知りたい情報ではなかったらしい。それ以上に知りたがっている事など想像がつかず、もしかしてあの眼の報告が誰かから上がっているのかもしれないなと当たりをつける。だとしたらわざわざ私を呼びつけた理由は何だろうか。
僅かな時間だったが、思考を巡らせたのを見過ごさなかった三代目はオホン。と咳払いをする。
「いや、その報告は確かに重要だな、頭に留めておこう。しかして、儂が聞きたかったのはお主の、うゆうの心の内じゃ。」
「心、ですか。」
「お主の班の男子が二人とも忍を辞すと報告が上がっている。」
はた、と頭の中の時間が止まった。
あの二人はたしかに忍者という職業に憧れを抱いていた。今回の任務では接敵した場には立ち合わせなかったし、下忍のいくつかの班の中ではそれなりの功績を残してきたメンバーである。それこそ大名の護衛に携わるほどには実力が認められている。
上忍師から任務が言い渡された日のことを思い出した。私は彼らに、命を捨てる覚悟を問うた。もし考えが変わったのなら、あの会話がきっかけになったに違いない。
「私には忍者をやめるという選択肢はありません。怪我を負うこと、任務の中で他人を殺めること、自分が死ぬことも、可能性の一つとして考えています。その上で決断したことです。」
「そうか。……試すようなことを聞いたな。」
言葉にして謝る、ということは立場上できないことは分かる。その気持ちを汲み取って礼を述べた。
三代目が私に対して気にかける理由は何だろう。両親がいない子供で、忍者になる者は多くはなくとも絶対にいるはずだ。
もしかしたら記憶のことを言動や所作の端から感じ取ってしまうのかもしれない。忍者という存在は他人の機微に敏い者が多い。そうではなくとも気を引き締めなくてはいけないのだ。肺の中の空気を入れ替える。
下がって良い。三代目には丁寧に頭を下げて退出した。
火影邸を出ると太陽の眩しさに目を細めた。送り迎えをするために担当上忍が控えていた。
「チームメイトの二人が忍者を辞めると告げられました。」
「……ああ。お前の見舞いに来たときに決めたらしい。」
「残念ですが、安心もしています。あの二人は明るいから、忍者として命を危険に晒さないほうがいい。」
「それはお前にも言えることだろ。」
「私は二人が安心して暮らせるように任務に励みます。」
「そうか。なら、早く病院に戻って残りの治療を受けなきゃな。」
「はい。」
うゆうは前を見据える。
上忍師はその横顔を流し見て口を引き結んだ。
あの仮面の下に隠した写輪眼のことはどうにも書く気になれなかった。ただでさえうちは一族は不安定な状態なのに、無闇に不安要素を重ねる必要もない。
報告書を暗部の使者に託した翌日には、火影様に直接呼ばれた。三代目から大名護衛の任務が失敗したことについてお咎めはなく、労いの言葉すらかけてもらった。
「報告書は確認させてもらった。他の部隊からの報告とも相違無く、信用に足る情報であると判断した。」
頭を低くして言葉の続きを待つ。
「うゆうにとっては命を賭ける戦闘は初めてあったはずじゃが、間違いないかな。」
「はい、そうなります。正面を切っての接敵は初めての経験でした。」
「明確な敵意と対峙してみてどう感じたのか、思ったとおりに申してみよ。」
「報告書に上げたとおり、あの男は陽炎のように攻撃が当たりませんでしたが、私を掴もうとする仕草を見せました。憶測の域を出ませんので断言はできかねますが、私達の見た姿は幻影ではなく実体があり、攻撃が当たらないよう一時的に避けているだけであったと推測します。」
報告書に書かなかった部分を伝えると、三代目は困ったように眉を下げた。
面の男と実際に交戦したわたしからその詳しい内容を知りたいのかと思っての発言であったが、どうやら知りたい情報ではなかったらしい。それ以上に知りたがっている事など想像がつかず、もしかしてあの眼の報告が誰かから上がっているのかもしれないなと当たりをつける。だとしたらわざわざ私を呼びつけた理由は何だろうか。
僅かな時間だったが、思考を巡らせたのを見過ごさなかった三代目はオホン。と咳払いをする。
「いや、その報告は確かに重要だな、頭に留めておこう。しかして、儂が聞きたかったのはお主の、うゆうの心の内じゃ。」
「心、ですか。」
「お主の班の男子が二人とも忍を辞すと報告が上がっている。」
はた、と頭の中の時間が止まった。
あの二人はたしかに忍者という職業に憧れを抱いていた。今回の任務では接敵した場には立ち合わせなかったし、下忍のいくつかの班の中ではそれなりの功績を残してきたメンバーである。それこそ大名の護衛に携わるほどには実力が認められている。
上忍師から任務が言い渡された日のことを思い出した。私は彼らに、命を捨てる覚悟を問うた。もし考えが変わったのなら、あの会話がきっかけになったに違いない。
「私には忍者をやめるという選択肢はありません。怪我を負うこと、任務の中で他人を殺めること、自分が死ぬことも、可能性の一つとして考えています。その上で決断したことです。」
「そうか。……試すようなことを聞いたな。」
言葉にして謝る、ということは立場上できないことは分かる。その気持ちを汲み取って礼を述べた。
三代目が私に対して気にかける理由は何だろう。両親がいない子供で、忍者になる者は多くはなくとも絶対にいるはずだ。
もしかしたら記憶のことを言動や所作の端から感じ取ってしまうのかもしれない。忍者という存在は他人の機微に敏い者が多い。そうではなくとも気を引き締めなくてはいけないのだ。肺の中の空気を入れ替える。
下がって良い。三代目には丁寧に頭を下げて退出した。
火影邸を出ると太陽の眩しさに目を細めた。送り迎えをするために担当上忍が控えていた。
「チームメイトの二人が忍者を辞めると告げられました。」
「……ああ。お前の見舞いに来たときに決めたらしい。」
「残念ですが、安心もしています。あの二人は明るいから、忍者として命を危険に晒さないほうがいい。」
「それはお前にも言えることだろ。」
「私は二人が安心して暮らせるように任務に励みます。」
「そうか。なら、早く病院に戻って残りの治療を受けなきゃな。」
「はい。」
うゆうは前を見据える。
上忍師はその横顔を流し見て口を引き結んだ。
