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教師からその話をされたとき、やっとか。という言葉が頭に浮かんだ。その内容は今度行われる卒業試験を受けてみないか、というものだった。
最初こそ忍者になることへの迷いが強かったものの、すでに何度も何度も熟考を重ねている問題である。いつだったか施設長に言われた"忍者にならない道"というのも当然頭の中にあるし、この里の子供のうち忍者を目指す子の方が少ないことも分かっている。それでもアカデミーに通い、里の過去と未来について考え、自身の中で覚悟を決めたのだ。
当然その場ですぐに、受けます。と返事をした。
その数週の後、挑んだ卒業試験には難なく合格しその場で額当てを受け取った。正直こんなに簡単な試験内容で忍者にしてしまうのかと拍子抜けしてしまうほど。
いくら下忍が簡単な任務をのみ振り分けられる言っても、教育が足りてないのではないか。卒業試験に合格した子供たちは皆、嬉しそうな表情をしていた。
どうにも晴れないモヤモヤを抱えたまま、受け取った額当てを握りしめて共同墓地へと向かう。心の中で何を思おうと、アカデミーを合格したことには変わりない。忍者への一歩を踏み出せたらまずは両親に報告しようと、施設長に連れられて花を供えたときから決めていた。
両親の名が列なる墓石を前にやっと、ずっと握りしめていた額当てを頭に巻いた。
気が引き締まる。
本当に忍者になるんだ。どうか、どうか。見守っていてください。
いつもの森で修行でもしようかと考えたが、どうにも足が向かない。仕方なく施設に戻ると、施設長が直々に出迎えてくれた。
「遅かったな。その額当て、分かってはいたが試験に合格したんだな。」
「両親の墓に行っていました。最初に報告したくて。」
「そうか。……おめでとう。」
その言葉に思わず眉が下がる。もちろん嬉しいのだけど、たくさんの感情が混ざり合って溢れてしまいそうになる。忍は涙を見せてはいけない、長く息を吐いてなんとか感情の波を落ち着かせた。
施設長はそんな私を見て頬を掻く。
「本当なら今日一日はゆっくり祝ってやりたいところなんだが、そうもいかなくてな。実はお前に火影邸に来るよう伝言を仰せつかっている。」
「火影邸ですか?」
「ああ。なんでも三代目からお前に伝えたいことがあると。」
伝えたいこと、いくつか予想は立つが、三代目火影が直々に伝えたいこととはなんだろう。分かりました、と答えてすぐに向かうことにした。
火影邸に着くとその場にいた忍者に声をかけられ、ある一室へ連れられる。そこが火影の執務室であると知ったのは、両脇を忍者が守る扉を開けてからだった。
「来たか。」
「ご無沙汰しております。」
どう振る舞うのが正解なのかは分からないが、腰から曲げて深く頭を下げた。
よい、と声をかけられて姿勢を正す。
「なんじゃ、アカデミーを卒業したというのに浮かない顔をしておるの。」
「いえ。……何故ここに呼ばれたのか、考えていました。」
「なに、深い意味はない。一度ゆっくり時間を取って話しておこうかと思ってのう。」
「一端のアカデミー生に、ですか?」
「ワシはこの里の皆と言葉を交わしておる。お主が別段特別、というわけではないぞ。」
そう、なのだろうか。
私の緊張を解そうとしているだけなのか、はたまた本当に里にいる全員と言葉を重ねているのか、すぐに判断できないところが三代目が忍者だけでなく一般に慕われている所以でもある。
「オホン。みよしうゆう、お主をここに呼び立てたのは話したいこともあるが、色々と確認したいこともあっての。」
「はい。」
「まず一つ、今は保護施設で暮らしておろう。そこの規定に下忍に上がった者は施設を出て自立して生活するよう書いてある。じゃがそれはアカデミーを卒業する十二歳を超えることを前提としてワシが取り決めたことじゃ。」
なるほど。そういえばいつだか、職員室にいる教員たちがそんなことを言っていた。アカデミーは六年在籍制が最近になって決められたのだと。
戦争も九尾の事件も落ち着いてきて、これからはむやみに忍者を補充するよりも質の高い人材を育成する方向に舵を切るのだとか。
「私は、施設を出たとしても生活できます。」
「うむ。いやなに、そう答えることはわかっておった。」
こちらを真っ直ぐに見通す瞳に射竦められて首筋が凍るようだ。その視線は鋭いのにどこか温かみがあって目の前がチカチカした。
「ひとつ、お伺いしたいことがあります。」
「なにかな。何でも申してみよ。」
「なぜ、新しい六年在籍制度を導入したばかりなのに私やイタチのような特例を排出したのですか。特に、イタチはたったの一年で卒業なんて……。」
「ふむ……。そうか、フガクと接点もあればイタチとも当然交流もあろうか。」
「私のことはまあ、良いのです。時間をかけて覚悟を決めたつもりです。
でも、イタチは。七歳の子供が、忍者になるのはあまりにも救いがなさ過ぎると思うのです。何歳なら良いと言うわけではありませんが、……いかに優れていようとも、幼いうちに人を殺すこと選択肢に入れさせてはいけないと考えます。」
親しい友人のことを考えれば、言葉は次から次へと湧いてくる。アカデミーに六年在籍したとしても十二歳だ。それでも子供の時間と精神の健康からして不十分だと思う。
平和を知る前世の私がこんなことを考えさせる。ここはかつて生きた平和な国ではない。それでも、やるせないのだ。モヤモヤとした心の奥から感情が浮き上がる。前世を憶えてからずっと水と油のように交わらなかった二つの感情、その根源。
目に力が入る。
知らずに背けていた視線を無理に戻して、そして、力んでいた筋肉が弛緩した。
「ワシとて、幼い子どもを戦場に送るのは心が苦しい。」
いつも朗らかな、優しい表情の三代目が、僅かではあるが顔を歪めていた。忍の中の忍と評されるこの人が、である。
「すみません、出過ぎたことを言いました。無礼を働いた自覚もあります。その上で今のすべての発言を聞かなかったことにしてくださいませんか。」
「いや、ワシはすべてを受け止める。受け止めた上でお主に、そしてイタチにも懇願しよう。……忍者になってはくれまいか、と。」
私は間違って考えていたのだ。この里の忍者たちが必死に守った国が、前世の平和だと思って生きていた国が、多くの犠牲の上に成り立っていることを当前認識していたのに直視することを避けた。
その結果がこれだ。自分の感情を優先して、表に出すべきではなかった考えを浅慮のもとにぶちまけた。覆水は盆に返らないというのに。
「今の事で分かった。九尾の事件があった後にお主が迷っていた理由も、そして忍になると言った決意の固さも。」
随分と時間を取ってしまった。すっかり冷静を取り戻した私は居たたまれずすぐにも逃げ出したい気持ちになっていた。
お前は猪突猛進なところがある、といつだかイルカに言われた事を思い出した。全くそのとおりだ。
いくつか言葉を交わし、三代目は一つ大きく頷いた。
「話せてよかった。内に秘めていた考えを吐露したことを後悔しておるだろうが、それに向き合って覚悟を決めたお主は良い忍者になろう。」
「火影様にそう言っていただけるのは光栄です。」
スウ、と肺に大きく息を吸う。頭の中も同時に新しく入れ替わった気がする。
感謝を伝えて、退室する。
扉の横に控えていた忍者に、オイ、と声をかけられた。動物を象った面を着けていてその顔は見えないが、きれいな銀髪には覚えがあった。
「お前、忍者に向いてないよ。」
「今日、痛感しました。でも、やっぱり忍者になります。」
「……フン。俺に言ったところで事実は変わるものじゃない。」
「肝に銘じます。」
頭を下げる。背を向けて一歩を踏み出した。忍者になった最初の一歩である。
最初こそ忍者になることへの迷いが強かったものの、すでに何度も何度も熟考を重ねている問題である。いつだったか施設長に言われた"忍者にならない道"というのも当然頭の中にあるし、この里の子供のうち忍者を目指す子の方が少ないことも分かっている。それでもアカデミーに通い、里の過去と未来について考え、自身の中で覚悟を決めたのだ。
当然その場ですぐに、受けます。と返事をした。
その数週の後、挑んだ卒業試験には難なく合格しその場で額当てを受け取った。正直こんなに簡単な試験内容で忍者にしてしまうのかと拍子抜けしてしまうほど。
いくら下忍が簡単な任務をのみ振り分けられる言っても、教育が足りてないのではないか。卒業試験に合格した子供たちは皆、嬉しそうな表情をしていた。
どうにも晴れないモヤモヤを抱えたまま、受け取った額当てを握りしめて共同墓地へと向かう。心の中で何を思おうと、アカデミーを合格したことには変わりない。忍者への一歩を踏み出せたらまずは両親に報告しようと、施設長に連れられて花を供えたときから決めていた。
両親の名が列なる墓石を前にやっと、ずっと握りしめていた額当てを頭に巻いた。
気が引き締まる。
本当に忍者になるんだ。どうか、どうか。見守っていてください。
いつもの森で修行でもしようかと考えたが、どうにも足が向かない。仕方なく施設に戻ると、施設長が直々に出迎えてくれた。
「遅かったな。その額当て、分かってはいたが試験に合格したんだな。」
「両親の墓に行っていました。最初に報告したくて。」
「そうか。……おめでとう。」
その言葉に思わず眉が下がる。もちろん嬉しいのだけど、たくさんの感情が混ざり合って溢れてしまいそうになる。忍は涙を見せてはいけない、長く息を吐いてなんとか感情の波を落ち着かせた。
施設長はそんな私を見て頬を掻く。
「本当なら今日一日はゆっくり祝ってやりたいところなんだが、そうもいかなくてな。実はお前に火影邸に来るよう伝言を仰せつかっている。」
「火影邸ですか?」
「ああ。なんでも三代目からお前に伝えたいことがあると。」
伝えたいこと、いくつか予想は立つが、三代目火影が直々に伝えたいこととはなんだろう。分かりました、と答えてすぐに向かうことにした。
火影邸に着くとその場にいた忍者に声をかけられ、ある一室へ連れられる。そこが火影の執務室であると知ったのは、両脇を忍者が守る扉を開けてからだった。
「来たか。」
「ご無沙汰しております。」
どう振る舞うのが正解なのかは分からないが、腰から曲げて深く頭を下げた。
よい、と声をかけられて姿勢を正す。
「なんじゃ、アカデミーを卒業したというのに浮かない顔をしておるの。」
「いえ。……何故ここに呼ばれたのか、考えていました。」
「なに、深い意味はない。一度ゆっくり時間を取って話しておこうかと思ってのう。」
「一端のアカデミー生に、ですか?」
「ワシはこの里の皆と言葉を交わしておる。お主が別段特別、というわけではないぞ。」
そう、なのだろうか。
私の緊張を解そうとしているだけなのか、はたまた本当に里にいる全員と言葉を重ねているのか、すぐに判断できないところが三代目が忍者だけでなく一般に慕われている所以でもある。
「オホン。みよしうゆう、お主をここに呼び立てたのは話したいこともあるが、色々と確認したいこともあっての。」
「はい。」
「まず一つ、今は保護施設で暮らしておろう。そこの規定に下忍に上がった者は施設を出て自立して生活するよう書いてある。じゃがそれはアカデミーを卒業する十二歳を超えることを前提としてワシが取り決めたことじゃ。」
なるほど。そういえばいつだか、職員室にいる教員たちがそんなことを言っていた。アカデミーは六年在籍制が最近になって決められたのだと。
戦争も九尾の事件も落ち着いてきて、これからはむやみに忍者を補充するよりも質の高い人材を育成する方向に舵を切るのだとか。
「私は、施設を出たとしても生活できます。」
「うむ。いやなに、そう答えることはわかっておった。」
こちらを真っ直ぐに見通す瞳に射竦められて首筋が凍るようだ。その視線は鋭いのにどこか温かみがあって目の前がチカチカした。
「ひとつ、お伺いしたいことがあります。」
「なにかな。何でも申してみよ。」
「なぜ、新しい六年在籍制度を導入したばかりなのに私やイタチのような特例を排出したのですか。特に、イタチはたったの一年で卒業なんて……。」
「ふむ……。そうか、フガクと接点もあればイタチとも当然交流もあろうか。」
「私のことはまあ、良いのです。時間をかけて覚悟を決めたつもりです。
でも、イタチは。七歳の子供が、忍者になるのはあまりにも救いがなさ過ぎると思うのです。何歳なら良いと言うわけではありませんが、……いかに優れていようとも、幼いうちに人を殺すこと選択肢に入れさせてはいけないと考えます。」
親しい友人のことを考えれば、言葉は次から次へと湧いてくる。アカデミーに六年在籍したとしても十二歳だ。それでも子供の時間と精神の健康からして不十分だと思う。
平和を知る前世の私がこんなことを考えさせる。ここはかつて生きた平和な国ではない。それでも、やるせないのだ。モヤモヤとした心の奥から感情が浮き上がる。前世を憶えてからずっと水と油のように交わらなかった二つの感情、その根源。
目に力が入る。
知らずに背けていた視線を無理に戻して、そして、力んでいた筋肉が弛緩した。
「ワシとて、幼い子どもを戦場に送るのは心が苦しい。」
いつも朗らかな、優しい表情の三代目が、僅かではあるが顔を歪めていた。忍の中の忍と評されるこの人が、である。
「すみません、出過ぎたことを言いました。無礼を働いた自覚もあります。その上で今のすべての発言を聞かなかったことにしてくださいませんか。」
「いや、ワシはすべてを受け止める。受け止めた上でお主に、そしてイタチにも懇願しよう。……忍者になってはくれまいか、と。」
私は間違って考えていたのだ。この里の忍者たちが必死に守った国が、前世の平和だと思って生きていた国が、多くの犠牲の上に成り立っていることを当前認識していたのに直視することを避けた。
その結果がこれだ。自分の感情を優先して、表に出すべきではなかった考えを浅慮のもとにぶちまけた。覆水は盆に返らないというのに。
「今の事で分かった。九尾の事件があった後にお主が迷っていた理由も、そして忍になると言った決意の固さも。」
随分と時間を取ってしまった。すっかり冷静を取り戻した私は居たたまれずすぐにも逃げ出したい気持ちになっていた。
お前は猪突猛進なところがある、といつだかイルカに言われた事を思い出した。全くそのとおりだ。
いくつか言葉を交わし、三代目は一つ大きく頷いた。
「話せてよかった。内に秘めていた考えを吐露したことを後悔しておるだろうが、それに向き合って覚悟を決めたお主は良い忍者になろう。」
「火影様にそう言っていただけるのは光栄です。」
スウ、と肺に大きく息を吸う。頭の中も同時に新しく入れ替わった気がする。
感謝を伝えて、退室する。
扉の横に控えていた忍者に、オイ、と声をかけられた。動物を象った面を着けていてその顔は見えないが、きれいな銀髪には覚えがあった。
「お前、忍者に向いてないよ。」
「今日、痛感しました。でも、やっぱり忍者になります。」
「……フン。俺に言ったところで事実は変わるものじゃない。」
「肝に銘じます。」
頭を下げる。背を向けて一歩を踏み出した。忍者になった最初の一歩である。
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