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アカデミーに入学して二年、相変わらず私の生活には図書館と修行ばかりが幅を取っている。時間があれば施設長が修行を見てくれるし、たまにイルカにも会いに行くし、この間はクラスメイトを茶屋に誘い団子を食べた。他人との繋がりがないわけではない。
どんよりとした厚い雲の下、ひたすらに手裏剣を投げる。手裏剣術はもうかなり上達したと自負していて、的は六つ八つ、と着実に数を増やし、ワイヤーを用いた変則的な忍具も手に馴染みつつある。
この体はまだ八歳だというのに、あちこち痣だらけで手もマメができたり皮が厚くなったりしている。平和だった前世からは考えられないほど厳しい環境だ。
ピリッとした痛みを感じて見てみると、手裏剣を挟んだ指の脇が擦れて皮がめくれてしまっていた。忍具は大人の忍向けに作られているので、今の私が扱うには少し重すぎるのだ。
こういうちょっとした怪我は水で流してしばらく圧迫しておけばいい。十分だけ小休憩を兼ねて止血することにする。樹に背中を預け、まだ血が流れる指を抑えながら葉の裏を眺める。
「あれ、休憩中か?」
樹上にいつの間にか現れた彼に内心驚いたが、できるだけ平常を保って名前を呼ぶ。
「……、シスイさん。」
よう、とにこやかに片手を上げてそれから音もなく地上に着地する。身のこなしが軽く、目元の印象も相まって猫のようだなと思った。
「シスイさんの活躍はたまに聞きますよ。」
「さては施設長さん絡みだろう。あの人は戦線を離れて長いのに忍からの信頼が厚いからな。」
「はい。知り合いが褒められると嬉しいものなんですね。」
彼が照れたように頭をかく。こんなに優しそうな彼が、名前だけで敵も退く忍者という事実が意外に思える。
私が傷口を抑えているのに気が付いて、シスイはその手を取った。
「怪我をしたのか。」
「ちょっとした擦り傷ですよ。傷口は洗ったから抑えておけば血もすぐ止まります。」
「そうかもしれないけどさ、……たしか軟膏を持っていたはずだからちょっと待ってな。」
腰につけたポーチから小瓶を取り出して、クリーム状の軟膏を指のまたに薄く塗る。手を支える彼の手はまだ幼いのにとても大きくて、自分の手とは比べられないくらい皮も厚い。里を守る戦忍の手だ。
傷に薬が滲みてピリピリする。塗り終わった後そのままパッチを貼ってテープで固定までしてくれた。
「これでよし。女の子なんだから、痕が残っても大変だろ?」
「ふふ、今更ですよ。でもありがとう。」
「前々から思っていたことだが、うゆうはやっぱり変なやつだな。オレよりも年下なのにたまに…、ずっと年上の人と話してる気分になる。」
「考えが古いってこと?……私も前々からシスイさんはデリカシーにかけるなって思ってたよ。」
「わるい、そういう事じゃないんだ。なんて言ったらいいのか分からないんだけど……。」
困ったように首をひねる様子が面白くて、つい吹き出してしまった。
「からかうなよ!俺が言ってるのはそういうところだぞ。」
「ふふ、一般に女の子のほうが精神の成熟が早いとか言いますよね。」
「ちょっと違う気もするけど、そういう事なのか。」
冷や、としたのは上手くはぐらかせたようだ。シスイは空を見上げる。
「雨が降りそうだな。家まで送っていってやるよ。」
「ええ、いいよ。雨が降るならシスイもすぐ帰らなきゃならないでしょ。」
「気にするなって。俺は足が早いからさ。」
そういうことなら、と的に刺さったままの手裏剣を回収する。一層暗くなった空が今にも崩れそうだな、と思った。
どんよりとした厚い雲の下、ひたすらに手裏剣を投げる。手裏剣術はもうかなり上達したと自負していて、的は六つ八つ、と着実に数を増やし、ワイヤーを用いた変則的な忍具も手に馴染みつつある。
この体はまだ八歳だというのに、あちこち痣だらけで手もマメができたり皮が厚くなったりしている。平和だった前世からは考えられないほど厳しい環境だ。
ピリッとした痛みを感じて見てみると、手裏剣を挟んだ指の脇が擦れて皮がめくれてしまっていた。忍具は大人の忍向けに作られているので、今の私が扱うには少し重すぎるのだ。
こういうちょっとした怪我は水で流してしばらく圧迫しておけばいい。十分だけ小休憩を兼ねて止血することにする。樹に背中を預け、まだ血が流れる指を抑えながら葉の裏を眺める。
「あれ、休憩中か?」
樹上にいつの間にか現れた彼に内心驚いたが、できるだけ平常を保って名前を呼ぶ。
「……、シスイさん。」
よう、とにこやかに片手を上げてそれから音もなく地上に着地する。身のこなしが軽く、目元の印象も相まって猫のようだなと思った。
「シスイさんの活躍はたまに聞きますよ。」
「さては施設長さん絡みだろう。あの人は戦線を離れて長いのに忍からの信頼が厚いからな。」
「はい。知り合いが褒められると嬉しいものなんですね。」
彼が照れたように頭をかく。こんなに優しそうな彼が、名前だけで敵も退く忍者という事実が意外に思える。
私が傷口を抑えているのに気が付いて、シスイはその手を取った。
「怪我をしたのか。」
「ちょっとした擦り傷ですよ。傷口は洗ったから抑えておけば血もすぐ止まります。」
「そうかもしれないけどさ、……たしか軟膏を持っていたはずだからちょっと待ってな。」
腰につけたポーチから小瓶を取り出して、クリーム状の軟膏を指のまたに薄く塗る。手を支える彼の手はまだ幼いのにとても大きくて、自分の手とは比べられないくらい皮も厚い。里を守る戦忍の手だ。
傷に薬が滲みてピリピリする。塗り終わった後そのままパッチを貼ってテープで固定までしてくれた。
「これでよし。女の子なんだから、痕が残っても大変だろ?」
「ふふ、今更ですよ。でもありがとう。」
「前々から思っていたことだが、うゆうはやっぱり変なやつだな。オレよりも年下なのにたまに…、ずっと年上の人と話してる気分になる。」
「考えが古いってこと?……私も前々からシスイさんはデリカシーにかけるなって思ってたよ。」
「わるい、そういう事じゃないんだ。なんて言ったらいいのか分からないんだけど……。」
困ったように首をひねる様子が面白くて、つい吹き出してしまった。
「からかうなよ!俺が言ってるのはそういうところだぞ。」
「ふふ、一般に女の子のほうが精神の成熟が早いとか言いますよね。」
「ちょっと違う気もするけど、そういう事なのか。」
冷や、としたのは上手くはぐらかせたようだ。シスイは空を見上げる。
「雨が降りそうだな。家まで送っていってやるよ。」
「ええ、いいよ。雨が降るならシスイもすぐ帰らなきゃならないでしょ。」
「気にするなって。俺は足が早いからさ。」
そういうことなら、と的に刺さったままの手裏剣を回収する。一層暗くなった空が今にも崩れそうだな、と思った。
