100m(mytgmy)
五十八面体(mytg)
トガシの顔を思い浮かべたり、大切に思ったり、怪我をしていないか、今日は無事に帰ってくるかなどと心配したり、用事がなくてもキスをしてみたり、すれ違いざまに抱きしめてみたり、明るいうちにセックスをしてみたりする。会えない時は電話をしたり、しなかったりする。小宮はトガシを美しいと思う。それは肉体、顔の成り立ち、指の長さ、背骨、さまざま。小宮はトガシを愛おしいと思う。それは精神性の高さ、驚きの低さ、くしゃくしゃに丸めたティッシュのような顔で泣く顔、さまざま。
トガシの周りには必ずあらゆる虫がくっついている。お邪魔虫というやつである。虫は逃げ足が早く、小宮が捕まえようとする時にはもういない。そして小宮が見ていない隙にまたくっつき、トガシにちょっかいをかけている。ちょっかいにも段階があり、憧れています。ならばまだ良し、好きです。もギリギリまだ良し、小宮のそのときの気分次第ではあるが大体は良し。どさくさに紛れて触ろうとするのは悪し、食事に誘うのは尚悪し。虫の分際でである。しかしトガシは決してそれを追い払ったりせず、なんなら共生しようという態度を見せる。虫に慈悲をかける。それが小宮にはわからない。なにせ虫である。小宮だって無駄な殺生はしたくない。いちおう人の心があり、道徳心もある。しかしやはり邪魔である。なぜならトガシは小宮にとって最愛である。小宮はいろんな人を満遍なく愛せない。トガシひとりだけを深く愛すことに意義があると思う。そしてかなり嫉妬深いことを自覚している。小宮がトガシを愛する時、トガシにも小宮を愛して欲しい。そこにはただ二人の愛だけがあれば良い。虫一匹でも入ってこようものなら、興は冷め、愛の言葉は出てこず、ただ眠くなり、いいだけ寝て、朝ぼんやりと目が覚めるだけである。だからこそ虫に慈悲をかけることはできない。小宮はそう思うのである。
虫に気を取られていると街で躓くし、スーパーで何を買えば良いのかをド忘れする。トガシがスマホを熱心に覗いているのが気になって仕方がなくなり、自分のスマホが鳴っていることには気づかなくなる。そうして大事な用件を聞けず、所属団体から「小宮さんは電話に出てくれないのですが、山の中で修行かなにかされているのですか?」とやんわり問い詰められたりする。山で修行できるならしたい、と返すと、それは引退してからにしてくださいと嗜められる。小宮は足が速い。あまりにも速すぎて、いろんな大会で優勝する。日本代表でも活躍する。海外にも行き、俊足を披露する。無精髭が歴戦のサムライだの落武者だの言われるが、そんなことはどうでもいい。小宮はいつもトガシにくっつきそうな虫を探し、居場所を突き止め、そいつが足が速そうならば速さでねじ伏せ、それ以外はもう殺すしかないと思っている。歴戦のサムライならば真正面から潔く行けばよし、落武者ならば恨み節のひとつでも唄いながらじわじわ絞め上げればよし、そこが母国だろうが異国だろうが、トガシのまわりをうろつく虫は、何がなんでも成敗しなくてはいけないという使命感が小宮にはある。
とまぁ散々物騒なことを考えるが小宮は行動に移せないわけで、それがなぜかと言えば、トガシに怒られたくないからである。ただそれだけである。街を歩くとトガシはよく声をかけられた。「ずっとファンでした」といって感極まる女性とか、「トガシだ!」と遠くで指をさす大学生の集団とか、やけに馴れ馴れしく距離感のおかしい中年男性とか、ちぎれそうなくらい尻尾を振っている犬とか、とにかく多種多彩である。小宮は隣でひっそりと人畜無害そうな顔で立っているが、実際にはただ監視しているだけであり、ファンと選手の交流をほほえましく眺めているわけではない。その監視、正しくはトガシに気安く喋るな触るな近寄るなという主張は小宮の肉体からオーラとしてまがまがしく放たれており、それをトガシは薄目で黙認している。黙認しているというより、半ば呆れている。小宮は二十五歳の大人で、すでに最愛の人間から呆れられるようなことをしている。自覚もある。しかしそれは愛故であり、できることならトガシにも理解してほしいと願う。それなのにこれ以上のことをして怒られてしまったとしたら、まるで立ち直る自信がない。二十五を過ぎて大号泣してしまうかもしれない。
どうすれば、トガシにまとわりつく虫を追い払うことができるだろうか。ガラスケースか何かに大切にしまって、トガシの美しい四肢や顔などをうっとり眺めたりしたらどうかと考え、でもそうするとセックスが出来ないのでこの案は没となる。大したアイデアもなくただ街を練り歩くだけの日、だいたいそういうくだらないことしか考えない日に限って、財津が現れる。小宮はいつも一抹の不安を覚える。財津は細く笑いながら「トガシくんは元気かい」と聞いてくる。小宮は財津のことをお邪魔虫と表現することはできない。しかし微笑んだときの真っ黒な瞳がまるで小宮とトガシの生活を覗いているようで気が抜けない。陸上の神様であろうと、はたまた仏であろうと、何人たりとも小宮とトガシの世界に立ち入ることはあってはならない。財津に情報を与えるということは何故か海棠にもそれが伝わるということであり、海棠に伝わるということはトガシも「小宮は元気かよ」と尋ねられるわけであり、家に帰ると決まってトガシが「海棠さんがニヤニヤしていた」と報告してくる。このパイプラインについては一切のことが不明だが、いつもそういう流れになってしまう。プライバシーもへったくれもない。
「何か考えごとをしている顔だね」
「そんなふうに見えますか」
「見えるし、わかるよ」
預言者。占い師。武器商人。財津が現れるのは、小宮の心が定まってない時、迷いがある時、信念が揺らぎそうな時。小宮のどこかしらをえぐり、ぽっかりと空いたところに言葉を投げてくる。そしてそれが小宮の身体中をおもしろいくらい反響して、棲みつき、離れない。財津の放つ言葉は、それがどんな金言でもくだらない文字の羅列でも、良くも悪くも小宮のうすぼんやりした脳みそを目覚めさせる。それをいつも不服に思い、だからといって抗うこともできずにここまで来た。例に漏れず今もである。
「いい虫除けを探しています」
「山登りでもするのかい」
「しません」
「だろうね」
「僕は真面目に聞いています」
財津は小宮を見る。笑ったと思うと目を閉じて息をひとつ吐き腕組みをする。小宮は財津に抗えない。財津がこの次にどんなことを言うのかどんな行動に出るのか、それが一体小宮のためになるのかならぬのか。小宮は固唾を飲んで見守るしかない。今のこの停滞感や焦燥感から一刻も早く抜け出して、トガシとめくるめく愛の世界を駆け回りたい。それはどんな大きい大会の決勝でも見ることのできない、小宮とトガシの、ただの人間としての純粋な走りなのだ。小宮はそう思わずにはいられない。だからここに財津がいて、薄ら笑ってこちらを見ているならば、何か助言のひとつでも欲しいのが本音である。
「そうだな……ダイヤモンドはどうだい」
「ダイヤモンドですか」
「あれは一種の虫除けだ。というより魔除けかな」
「そんなに仰々しくなくていいのですが」
「あの輝きを見たら、虫も魔も何もかも寄りつかないと思うけどね」
ダイヤモンドなんて言う名前の選手がいただろうかと一瞬よぎって消え、さらにそのダイヤモンドがどういう形だったかも案外はっきりせず、しかし財津がそう言うので、小宮は二の句を継ぐのをやめた。世間に疎すぎる小宮でさえ、その響きそのものが美しいことくらいは知っていた。
「今、メモをメッセージで送るから。あとでちゃんと読むように」
小宮が阿呆みたいなことを考えている間に、財津はスマホを片手にすいすいやっている。小宮の額のあたりにある霧はまだ晴れない。さすがに漠然としすぎていないだろうか。ダイヤモンドという、あの五角形だか六角形だかのやつが本当に虫除けや魔除けとして機能するのだろうか。それをまるで紋所のように見せつけたら、トガシの周りをうろつくこの世のあらゆる虫という虫が一目散に逃げ出すとでもいうのだろうか。やがて平和が訪れ、周りには花が咲き、お花畑の中で小宮はトガシの笑顔を見ることが出来るのだろうか。想像の範疇を軽々超えてきて、小宮には一切がわからない。
「じゃ、私はもう行くよ」
「財津さん」
「幸運を祈るよ」
財津はいつもの感じで、最後にこちらに視線だけ残すようにしながら向こうへ振り返り、白っぽい手をひらひらと小宮へ向けた。
「トガシ君によろしく」
事故のような出会いは数分となく終わり、財津はまたたく間に街中に消えた。
小宮は想像する。虫一匹殺さず、うまいこと共生し、まま許されざることにも目を瞑り、小宮自身は今まで以上に走りを極め、しかし監視を怠らず、トガシをがっちりと抱き、決して怒られたりせず、煙たがられたりもせず穏やかに暮らす日々を想像する。
そしてその安寧は財津のいう「ダイヤモンド」とやらに懸かっている。小宮はさらに街を歩く。歩きながら、やはりトガシのことを考える。小宮がこんな殺気立って虫除けを探している同時刻、いったい何をしているのだろうか。小宮が隣にいないのをいいことに、いつも以上に虫が寄ってたかっているんではなかろうか。思わず躓きそうになる。だとしたら、こんな所でふらふらしている場合ではない。
トガシに連絡をしようと小宮はスマホをポケットから取り出す。所属団体からの連絡はないが、一件の通知が表示されており、それは財津からだった。
メッセージアプリを開く。
財津からのメッセージはこうだ。
「結婚指輪
ブリリアントカットのダイヤモンド
彼の薬指のサイズを忘れず聞くように
あとは海棠さんが場所を教えてくれる」
トガシの顔を思い浮かべたり、大切に思ったり、怪我をしていないか、今日は無事に帰ってくるかなどと心配したり、用事がなくてもキスをしてみたり、すれ違いざまに抱きしめてみたり、明るいうちにセックスをしてみたりする。会えない時は電話をしたり、しなかったりする。小宮はトガシを美しいと思う。それは肉体、顔の成り立ち、指の長さ、背骨、さまざま。小宮はトガシを愛おしいと思う。それは精神性の高さ、驚きの低さ、くしゃくしゃに丸めたティッシュのような顔で泣く顔、さまざま。
トガシの周りには必ずあらゆる虫がくっついている。お邪魔虫というやつである。虫は逃げ足が早く、小宮が捕まえようとする時にはもういない。そして小宮が見ていない隙にまたくっつき、トガシにちょっかいをかけている。ちょっかいにも段階があり、憧れています。ならばまだ良し、好きです。もギリギリまだ良し、小宮のそのときの気分次第ではあるが大体は良し。どさくさに紛れて触ろうとするのは悪し、食事に誘うのは尚悪し。虫の分際でである。しかしトガシは決してそれを追い払ったりせず、なんなら共生しようという態度を見せる。虫に慈悲をかける。それが小宮にはわからない。なにせ虫である。小宮だって無駄な殺生はしたくない。いちおう人の心があり、道徳心もある。しかしやはり邪魔である。なぜならトガシは小宮にとって最愛である。小宮はいろんな人を満遍なく愛せない。トガシひとりだけを深く愛すことに意義があると思う。そしてかなり嫉妬深いことを自覚している。小宮がトガシを愛する時、トガシにも小宮を愛して欲しい。そこにはただ二人の愛だけがあれば良い。虫一匹でも入ってこようものなら、興は冷め、愛の言葉は出てこず、ただ眠くなり、いいだけ寝て、朝ぼんやりと目が覚めるだけである。だからこそ虫に慈悲をかけることはできない。小宮はそう思うのである。
虫に気を取られていると街で躓くし、スーパーで何を買えば良いのかをド忘れする。トガシがスマホを熱心に覗いているのが気になって仕方がなくなり、自分のスマホが鳴っていることには気づかなくなる。そうして大事な用件を聞けず、所属団体から「小宮さんは電話に出てくれないのですが、山の中で修行かなにかされているのですか?」とやんわり問い詰められたりする。山で修行できるならしたい、と返すと、それは引退してからにしてくださいと嗜められる。小宮は足が速い。あまりにも速すぎて、いろんな大会で優勝する。日本代表でも活躍する。海外にも行き、俊足を披露する。無精髭が歴戦のサムライだの落武者だの言われるが、そんなことはどうでもいい。小宮はいつもトガシにくっつきそうな虫を探し、居場所を突き止め、そいつが足が速そうならば速さでねじ伏せ、それ以外はもう殺すしかないと思っている。歴戦のサムライならば真正面から潔く行けばよし、落武者ならば恨み節のひとつでも唄いながらじわじわ絞め上げればよし、そこが母国だろうが異国だろうが、トガシのまわりをうろつく虫は、何がなんでも成敗しなくてはいけないという使命感が小宮にはある。
とまぁ散々物騒なことを考えるが小宮は行動に移せないわけで、それがなぜかと言えば、トガシに怒られたくないからである。ただそれだけである。街を歩くとトガシはよく声をかけられた。「ずっとファンでした」といって感極まる女性とか、「トガシだ!」と遠くで指をさす大学生の集団とか、やけに馴れ馴れしく距離感のおかしい中年男性とか、ちぎれそうなくらい尻尾を振っている犬とか、とにかく多種多彩である。小宮は隣でひっそりと人畜無害そうな顔で立っているが、実際にはただ監視しているだけであり、ファンと選手の交流をほほえましく眺めているわけではない。その監視、正しくはトガシに気安く喋るな触るな近寄るなという主張は小宮の肉体からオーラとしてまがまがしく放たれており、それをトガシは薄目で黙認している。黙認しているというより、半ば呆れている。小宮は二十五歳の大人で、すでに最愛の人間から呆れられるようなことをしている。自覚もある。しかしそれは愛故であり、できることならトガシにも理解してほしいと願う。それなのにこれ以上のことをして怒られてしまったとしたら、まるで立ち直る自信がない。二十五を過ぎて大号泣してしまうかもしれない。
どうすれば、トガシにまとわりつく虫を追い払うことができるだろうか。ガラスケースか何かに大切にしまって、トガシの美しい四肢や顔などをうっとり眺めたりしたらどうかと考え、でもそうするとセックスが出来ないのでこの案は没となる。大したアイデアもなくただ街を練り歩くだけの日、だいたいそういうくだらないことしか考えない日に限って、財津が現れる。小宮はいつも一抹の不安を覚える。財津は細く笑いながら「トガシくんは元気かい」と聞いてくる。小宮は財津のことをお邪魔虫と表現することはできない。しかし微笑んだときの真っ黒な瞳がまるで小宮とトガシの生活を覗いているようで気が抜けない。陸上の神様であろうと、はたまた仏であろうと、何人たりとも小宮とトガシの世界に立ち入ることはあってはならない。財津に情報を与えるということは何故か海棠にもそれが伝わるということであり、海棠に伝わるということはトガシも「小宮は元気かよ」と尋ねられるわけであり、家に帰ると決まってトガシが「海棠さんがニヤニヤしていた」と報告してくる。このパイプラインについては一切のことが不明だが、いつもそういう流れになってしまう。プライバシーもへったくれもない。
「何か考えごとをしている顔だね」
「そんなふうに見えますか」
「見えるし、わかるよ」
預言者。占い師。武器商人。財津が現れるのは、小宮の心が定まってない時、迷いがある時、信念が揺らぎそうな時。小宮のどこかしらをえぐり、ぽっかりと空いたところに言葉を投げてくる。そしてそれが小宮の身体中をおもしろいくらい反響して、棲みつき、離れない。財津の放つ言葉は、それがどんな金言でもくだらない文字の羅列でも、良くも悪くも小宮のうすぼんやりした脳みそを目覚めさせる。それをいつも不服に思い、だからといって抗うこともできずにここまで来た。例に漏れず今もである。
「いい虫除けを探しています」
「山登りでもするのかい」
「しません」
「だろうね」
「僕は真面目に聞いています」
財津は小宮を見る。笑ったと思うと目を閉じて息をひとつ吐き腕組みをする。小宮は財津に抗えない。財津がこの次にどんなことを言うのかどんな行動に出るのか、それが一体小宮のためになるのかならぬのか。小宮は固唾を飲んで見守るしかない。今のこの停滞感や焦燥感から一刻も早く抜け出して、トガシとめくるめく愛の世界を駆け回りたい。それはどんな大きい大会の決勝でも見ることのできない、小宮とトガシの、ただの人間としての純粋な走りなのだ。小宮はそう思わずにはいられない。だからここに財津がいて、薄ら笑ってこちらを見ているならば、何か助言のひとつでも欲しいのが本音である。
「そうだな……ダイヤモンドはどうだい」
「ダイヤモンドですか」
「あれは一種の虫除けだ。というより魔除けかな」
「そんなに仰々しくなくていいのですが」
「あの輝きを見たら、虫も魔も何もかも寄りつかないと思うけどね」
ダイヤモンドなんて言う名前の選手がいただろうかと一瞬よぎって消え、さらにそのダイヤモンドがどういう形だったかも案外はっきりせず、しかし財津がそう言うので、小宮は二の句を継ぐのをやめた。世間に疎すぎる小宮でさえ、その響きそのものが美しいことくらいは知っていた。
「今、メモをメッセージで送るから。あとでちゃんと読むように」
小宮が阿呆みたいなことを考えている間に、財津はスマホを片手にすいすいやっている。小宮の額のあたりにある霧はまだ晴れない。さすがに漠然としすぎていないだろうか。ダイヤモンドという、あの五角形だか六角形だかのやつが本当に虫除けや魔除けとして機能するのだろうか。それをまるで紋所のように見せつけたら、トガシの周りをうろつくこの世のあらゆる虫という虫が一目散に逃げ出すとでもいうのだろうか。やがて平和が訪れ、周りには花が咲き、お花畑の中で小宮はトガシの笑顔を見ることが出来るのだろうか。想像の範疇を軽々超えてきて、小宮には一切がわからない。
「じゃ、私はもう行くよ」
「財津さん」
「幸運を祈るよ」
財津はいつもの感じで、最後にこちらに視線だけ残すようにしながら向こうへ振り返り、白っぽい手をひらひらと小宮へ向けた。
「トガシ君によろしく」
事故のような出会いは数分となく終わり、財津はまたたく間に街中に消えた。
小宮は想像する。虫一匹殺さず、うまいこと共生し、まま許されざることにも目を瞑り、小宮自身は今まで以上に走りを極め、しかし監視を怠らず、トガシをがっちりと抱き、決して怒られたりせず、煙たがられたりもせず穏やかに暮らす日々を想像する。
そしてその安寧は財津のいう「ダイヤモンド」とやらに懸かっている。小宮はさらに街を歩く。歩きながら、やはりトガシのことを考える。小宮がこんな殺気立って虫除けを探している同時刻、いったい何をしているのだろうか。小宮が隣にいないのをいいことに、いつも以上に虫が寄ってたかっているんではなかろうか。思わず躓きそうになる。だとしたら、こんな所でふらふらしている場合ではない。
トガシに連絡をしようと小宮はスマホをポケットから取り出す。所属団体からの連絡はないが、一件の通知が表示されており、それは財津からだった。
メッセージアプリを開く。
財津からのメッセージはこうだ。
「結婚指輪
ブリリアントカットのダイヤモンド
彼の薬指のサイズを忘れず聞くように
あとは海棠さんが場所を教えてくれる」
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