Our Dear Sons
|生命《いのち》営みというものは、飽く程に目の当たりにしてきた。
それは、戦場で散る生命であったり。
それは、魔帝が創る生命であったり。
幾千もの年月を生きる中で、スパーダは様々な生命の形を見届けてきた。
だからスパーダはわかっているはずだった。
こんな時、どう振る舞うのが適切なのかを。
「あなた」
白い光の中、ベッドで微笑むエヴァが呼んだ。
スパーダは呼ばれるがまま、外が見えるようにと窓際に設えたベッドに向かう。
「ほら、見て」
少し疲労が見えるものの、幸福で満たされたエヴァの瞳が映すもの。
それは腕の中で微睡む、小さな、小さな、ふたつの生命。
「今眠ったところ」
静かにエヴァが囁いた。
「かわいいでしょう」
スパーダは、そのふたつの生命を覗き込む。
ひとつは、穏やかな寝息を立てながら、ぐっすりと眠りについている。
ひとつは、やはり眠ってはいるが、鼻をしきりに啜り、顔をくしゃくしゃにしている。
不思議なものだ、とスパーダは思った。
悪魔は生まれた時から、完璧な生命として生まれる。
しかし目の前の生命は、|自分《悪魔》を起源とする筈なのに、酷く未熟で脆弱に見えた。
「私達の子よ」
エヴァの言葉に、ああ、とスパーダは得心した。
そうだ。
この生命は、自分の子供達ではない。
自分とエヴァの子供達なのだ、と。
「ほら、抱いてあげて」
そう言うとエヴァはスパーダへと子供達を差し出した。
スパーダは素直にふたつの、いや、ふたりの子供を腕に抱く。
驚く程軽く、けれど温かな身体。
赤ん坊を抱いたことがない訳ではないが、過去に経験したものとは明らかに違う感覚に、スパーダは戸惑う。
剣や魔具よりずっと扱いやすいだろうに、どうすべきかわからない。
こんな場面で、人間はどう振る舞うのだったか。
記憶のページを繰ればそれらしき情報は出てくるものの、どうも体が動かない。
「よかったわね、パパに抱っこしてもらえて」
——パパ。
よく耳にする、だのに初めて聞いたような響きに、スパーダは面を食らう。
パパ。
比肩する者のない魔界の剣士たる自分が、パパ。
混乱の余りスパーダは、ブラッドゴイルよろしく固まってしまった。
そんな姿にエヴァはぷっと吹き出し、くすくすと肩を振るわせ笑い出す。
「伝説の魔剣士も形無しね」
ぐうの音も出ない。
スパーダは顔を苦め、どうしたものかと途方に暮れる。
「そんなに難しく考えなくていいのよ」
エヴァが優しく語りかける。
「ほら、名前を呼んであげて」
スパーダは仕方なしに腕の中を見る。
そこにいるのは、ただ眠るだけのふたりの赤ん坊。
何も恐れず、何も憂えず。
安らぎきった様子で、夢を見ている幼子だ。
スパーダは、躊躇いつつも名前を呼ぶ。
「——バージル」
か弱く、壊れてしまいそう程無垢で——愛おしい存在の名を。
「ダンテ」
気付けばスパーダは、ふたりの額に唇を落としていた。
無意識にそうした自分に、スパーダ自身驚きを禁じ得ない。
しかしどうしても、そうしたかった。
そうせずにはいられなかったのだ。
我に返ったスパーダは、まずかったか、と少し不安になり、おずおずとエヴァの方を見た。
エヴァは咲き乱れる花のような笑みを浮かべていた。
「ねえ、スパーダ」
エヴァは言った。
「私今、本当に幸せ」
スパーダは一瞬、言葉を失う。
——なんと美しいのだろう。
スパーダはそう嘆息し、目を伏せる。
じわり、と胸に何かが滲んだ。
熱と呼ぶには甘やかで、痛みと呼ぶには柔らかい。
温もりとでもう言うべきか。
不慣れな、けれど離し難い感覚を、スパーダは密かに噛み締める。
「ああ、エヴァ」
スパーダはバージルとダンテを抱き締め、真っ直ぐエヴァを見つめ直す。
人はこの胸の温度を、きっとこう呼ぶのだろう。
「私も幸せだ」
スパーダの口元は、いつの間にか綻んでいた。
それは、戦場で散る生命であったり。
それは、魔帝が創る生命であったり。
幾千もの年月を生きる中で、スパーダは様々な生命の形を見届けてきた。
だからスパーダはわかっているはずだった。
こんな時、どう振る舞うのが適切なのかを。
「あなた」
白い光の中、ベッドで微笑むエヴァが呼んだ。
スパーダは呼ばれるがまま、外が見えるようにと窓際に設えたベッドに向かう。
「ほら、見て」
少し疲労が見えるものの、幸福で満たされたエヴァの瞳が映すもの。
それは腕の中で微睡む、小さな、小さな、ふたつの生命。
「今眠ったところ」
静かにエヴァが囁いた。
「かわいいでしょう」
スパーダは、そのふたつの生命を覗き込む。
ひとつは、穏やかな寝息を立てながら、ぐっすりと眠りについている。
ひとつは、やはり眠ってはいるが、鼻をしきりに啜り、顔をくしゃくしゃにしている。
不思議なものだ、とスパーダは思った。
悪魔は生まれた時から、完璧な生命として生まれる。
しかし目の前の生命は、|自分《悪魔》を起源とする筈なのに、酷く未熟で脆弱に見えた。
「私達の子よ」
エヴァの言葉に、ああ、とスパーダは得心した。
そうだ。
この生命は、自分の子供達ではない。
自分とエヴァの子供達なのだ、と。
「ほら、抱いてあげて」
そう言うとエヴァはスパーダへと子供達を差し出した。
スパーダは素直にふたつの、いや、ふたりの子供を腕に抱く。
驚く程軽く、けれど温かな身体。
赤ん坊を抱いたことがない訳ではないが、過去に経験したものとは明らかに違う感覚に、スパーダは戸惑う。
剣や魔具よりずっと扱いやすいだろうに、どうすべきかわからない。
こんな場面で、人間はどう振る舞うのだったか。
記憶のページを繰ればそれらしき情報は出てくるものの、どうも体が動かない。
「よかったわね、パパに抱っこしてもらえて」
——パパ。
よく耳にする、だのに初めて聞いたような響きに、スパーダは面を食らう。
パパ。
比肩する者のない魔界の剣士たる自分が、パパ。
混乱の余りスパーダは、ブラッドゴイルよろしく固まってしまった。
そんな姿にエヴァはぷっと吹き出し、くすくすと肩を振るわせ笑い出す。
「伝説の魔剣士も形無しね」
ぐうの音も出ない。
スパーダは顔を苦め、どうしたものかと途方に暮れる。
「そんなに難しく考えなくていいのよ」
エヴァが優しく語りかける。
「ほら、名前を呼んであげて」
スパーダは仕方なしに腕の中を見る。
そこにいるのは、ただ眠るだけのふたりの赤ん坊。
何も恐れず、何も憂えず。
安らぎきった様子で、夢を見ている幼子だ。
スパーダは、躊躇いつつも名前を呼ぶ。
「——バージル」
か弱く、壊れてしまいそう程無垢で——愛おしい存在の名を。
「ダンテ」
気付けばスパーダは、ふたりの額に唇を落としていた。
無意識にそうした自分に、スパーダ自身驚きを禁じ得ない。
しかしどうしても、そうしたかった。
そうせずにはいられなかったのだ。
我に返ったスパーダは、まずかったか、と少し不安になり、おずおずとエヴァの方を見た。
エヴァは咲き乱れる花のような笑みを浮かべていた。
「ねえ、スパーダ」
エヴァは言った。
「私今、本当に幸せ」
スパーダは一瞬、言葉を失う。
——なんと美しいのだろう。
スパーダはそう嘆息し、目を伏せる。
じわり、と胸に何かが滲んだ。
熱と呼ぶには甘やかで、痛みと呼ぶには柔らかい。
温もりとでもう言うべきか。
不慣れな、けれど離し難い感覚を、スパーダは密かに噛み締める。
「ああ、エヴァ」
スパーダはバージルとダンテを抱き締め、真っ直ぐエヴァを見つめ直す。
人はこの胸の温度を、きっとこう呼ぶのだろう。
「私も幸せだ」
スパーダの口元は、いつの間にか綻んでいた。
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