Scar, Curse, Perdition

SCP-2207(時空切断ナイフ)の実験記録②


日付:01/??/2003
実験#:71
探索#:2
種類:Dクラス職員のみ。標準回収ハーネスとケーブル、延長無線/ビデオ機器、レベルC PPE(個人防護服)、レベル2探索キットを装備
実験時間:4時間26分
概要:
宇宙-61の切点は、基軸世界より[編集済み]に位置する並行世界の、1985年のレッドグレイブ市であった場所に位置します。
実験時当該土地は廃墟と化しており、[編集済み]による重度の大気汚染及び[編集済み]による土壌汚染から、生物の生存が不可能となっています。
これに対し宇宙-61に存在する財団は、カバーストーリー『隕石による都市壊滅』を実行し、財団以外の人間等が当該土地に立ち入ることを制限しています。
当財団は宇宙-61の財団の協力のもと、当該土地を探索し、宇宙-61の1983年から1984にかけて発生したインシデントを記録した小学校教師ソフィア・ダーリングの日記の一部を画像データとして記録しました。
以下はその内容です。





04/??/1983
今日はアレックスと一緒にアンジュ・ノワールへ行った。
予算はだいぶオーバーだったけど、アレックスの就職祝いだもの。
こんな時くらい奮発しなきゃね。
彼、とっても喜んでくれたんだけど、私達、コース料理なんて滅多に食べないから、どのフォークを使うかだとか、ワインを頼むタイミングはどうするだとか、ずっとそんなことばっかり話してたの。
お陰で肝心の料理の味なんてさっぱり。
お店を出た後は肩や腰がすっかり凝っちゃって。
結局いつものドロテアのダイナーでストロベリーサンデーを食べたわ。
まあ、締めが初デートのお店っていうのも悪くはないんじゃないかしら。
帰り際、ドロテアがアレックスに言ったの。
「警官になったからって、調子に乗ってドーナッツを集りに来るんじゃないよ」
ってね。
だからアレックスはこう言ったの。
「わかった、週5で手を打つよ」
って!



07/??/1983
久しぶりにサマンサおばさんが来た。
施設に入っているおばあちゃんに会いに来たの。
飛行機の距離とはいえ、前はしょっちゅう来てたのに、最近は間隔が開くようになってる。
忙しいのかなと思ったけれど、どうも違うみたい。
サマンサおばさんが言うには、このところ飛行機の欠航がよくでるらしいの。
欠航の時は、決まって北の空が真っ黒になって、風が少し強くなるんだって。
でも天気予報を見ても、特に嵐が来るなんて話題はないらしくて、サマンサおばさんも首をかしげてたわ。
私も不思議に思って、おばさんが帰った後アレックスに電話で話してみたの。
そうしたらね、アレックスったら「最近例のお屋敷跡に、突然不思議な白い木が生えてたろ?UFOも珍しがって、観光にでも来たんだよ」なんて言うのよ?
だから私も言ってやったの。
「ここはレッドグレイブ、ロズウェルじゃないわ」
ってね。
アレックスは大笑いして、しばらくまともに話せなかったわ。
全く、アレックスの笑い癖って、ホント呆れちゃう。
なんでもないことですぐに笑いだすんだもの。
まあ、アレックスの笑う声は好きだから、別にこのままでも……



10/1?/1983
うちの小学校で、変な都市伝説が流行ってるみたい。
生徒達が夢中なのは、背中に大きな瘤のある、黒と青の悪魔の話。
細かい違いはあるけど、大まかな見た目は大体同じ。
背は小さくて、|金槌頭《ハンマーヘッド》に蝙蝠みたいな翼、手には大きい剣を持ってるんですって。
いかにも男の子が好きそうよね。
その悪魔は話しかけても返事もしないで、ふわふわ空に浮かんでるらしいわ。
うちのクラスの子に、「その子は空で何してるの」って聞いたら、ある子は「何かを探してるみたい」って言うし、ある子は「きっとどこかに行こうとしてるんだ」って言う。
本当、好き放題言い過ぎよね。
多分アニメか何か、元になった話かキャラがあるんだろうけど……一体なんなのかしら?



12/25/1983
やった!
ああ、なんて最高なの!
広場にクリスマスツリーを見に行った帰り道、アレックスがプロポーズしてくれた!
今度の日曜に指輪を買いに行こうって!
この日をずっと待ってたの!
小さい頃から、ずっと!ずっと!
今私、すっごく幸せ。
アレックス、愛してるわ!



03/??/1984
中々いい物件が見つからない。
久しぶりにアレックスが休みが取れたから、不動産屋巡りをしたけど全部空振り。
折角二人で暮らそうって決めたのに。
バレンタインの頃はもっと選択肢があった。
あの時早く決めていれば……
不動産屋の人が言うには、最近たくさん人が越して来てるみたい。
特に北からの人が多いんですって。
原因は……やっぱり先月の『嵐』。
ニュースで見ただけだけど、いくつもの街が酷いことになってた。
人もたくさん……
あんな状況なら、こっちに逃げてこようって気持ちになっても、仕方がないことなのかも。
でも、本当にそうなのかしら。
みんな噂してる。
単なる『嵐』で、あんなことになるわけない。
もしかしたら、もっと恐ろしい何かが来たんじゃないかって。
……ただの取り越し苦労ならいいんだけど。



04/0?/1984
ああ、何てこと。
何てことなの。
だってみんな言ってたの。
もし噂が本当でも、来るなら北の方からだって。
サマンサおばさんだって言ってたわ。
まずはおばさんの街から。
レッドグレイブはそれからずっと後になるだろうって。
みんな、みんな言ってたの。
だからこんなことになるなんて。
私ちっとも思ってなかった。
もうすぐ来る。
もう目と鼻の先まで来てる。
怖い。
怖い。
怖い。
どうしてレッドグレイブなの。
私達、どうなるの。
神様、こんなのってないわ。
誰か、誰かお願い。
どうか



04/2?/1984
アレックスがやっと帰ってきた。
二週間ぶりに会えたのに、彼は少しも笑ってくれない。
髭が伸び放題になっているけど、頬がこけているのがわかる。
テレビやラジオでは、もうずっと『嵐』の話で持ち切りだ。
軍隊が入って一月経つのに、事態はちっともよくならない。
いくら戦車や爆弾を注ぎ込んでも、『嵐』が止まる気配はないし、街はどんどん壊れていく。
アレックスも州軍の応援と一緒に、あちこち駆けずり回ってるみたいだけど……
街中の店は閉まったまま。
学校も休校が延長された。
連絡が取れない生徒もいるけれど、ロックダウンが解かれるまでは、訪ねに行くことだってできやしない。
私にできるのは、じっとこの家に篭って、アレックスを出迎えて、また送り出すことだけ。
ああ、ドロテアのダイナーでサンデーを食べたい。
学校でクラスのみんなに会いたい。

アレックスを、抱き締めたい。



05/0?/1984
また、リビングで電話が鳴ってる。
署からの呼び出しだと思う。
アレックスは今夜も出かけなければならない。
ボロボロの身体を引き摺って。
真っ赤に泣き腫らした目を擦って。
それでもアレックスは言う。
みんなが待ってる。
僕達が助けなきゃって。
そう言ってアレックスはいつも出掛ける。
何かしてあげたい。
アレックスに何かを。
大好きな、大好きな私のアレックス。


でも私は、何もしてあげられない。
結局いつも口先だけ。
何もできない役立たず。
アレックスが本当に求めてることなんて、きっと何もしてあげられていない。

ああ、私はなんて、なんて無力なんだろう。



05/1?/1984
[文字が滲んで解読不能]



05/2?/1984
黙示録が来たなんて言う人もいるけど、きっと違う。
前にアレックスが言ってたもの。
始まりは、終末のラッパじゃなかった。
始まりは、一発の銃弾だったって。
今年の年明け、ある部隊が『嵐』の駆除のために銃を撃ったの。
『嵐』は弾が当たっても、何も言わずに浮いたまま、南へ、南へ流れていった。
だからその部隊は更に銃で『嵐』を撃ったんですって。
それでも『嵐』は黙ったまま、ずっと空を漂ってた。
だけど一発——たった一発だけ、『嵐』の背にある瘤に弾が当たったの。
それから『嵐』は、狂ったように叫びだして
それから
それから


この話を教えてくれた軍の人も、『嵐』に飲まれて死んでしまった。
そう話してくれたアレックスも、もういない。



05/2?/1984
アレックス
会いたい
あなたに会いたい



05/2?/1984
アレックス
こわい
とてもこわいの

アレックス



06/0?/1984

あらしが  きた
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