それでも歩くことを辞めなかったあの日のきみへ
これは、夢なんだろう。
ダンテはそう思った。
目が痛くなるほど、青くて高い空が見える場所。
そこにダンテは、バージルと二人で立っていた。
対峙するバージルは随分と若く、ずっと昔、『塔』の上で大喧嘩をした頃の姿をしていた。
一方のダンテといえば、特に変わった様子もなく。
くたびれたシャツに、くすんだ赤のコート。
顎に手をやればざらりと髭が指を刺す。
その感覚に、やっぱりこれは夢なんだとダンテは思う。
「ダンテ。」
いつもより高い声は懐かしく、けれどやっぱり聞きなれない。
体つきさえもまだ細く、背丈も殆ど変わらなかった。
再会したばかりの頃は、どんな敵よりも強大に見え、悔しいかな、恐ろしさすら感じていたのに。
今では呑気に、可愛いじゃないか、などという感想すら浮かんでくる。
「何をしている。」
こちらに向けられる眼差し。
そう。
あの時のバージルは、こんな目をしていた。
馬鹿みたいに真っ直ぐで。
怖いくらいに澄んでいて。
そんな目だったと、かつてのダンテは思っていた。
けれど今は、少し違う。
切なくなるほど頑なで。
痛々しいほど張り詰めている。
そういう、寂しい目に見えた。
「早く構えろ。」
バージルは腰を深く落とし、柄に手をかける。
「ははっ、夢でもそうくるか?参ったね。」
唐突な、けれどバージルらしい姿に、ダンテは思わず苦笑する。
「そうだよな、お前はそういう奴だった。」
す、と手を肩の辺りに掲げる。
「小さい頃は本ばっかりで遊んじゃくれなかったし、その癖久しぶりに会ったらいきなり殺し合いだ。」
魂の欠片が、掌で少しずつ形を作っていく。
「いつだって一人で突っ走って、挙句に取り返しのつかねえ馬鹿やって。とんでもねえ野郎だよ、お前は。」
ダンテは赤い光を見て思う。
これは夢だ。
現実ではない。
それなら少しくらい、『寝言』を言っても許されるはずだ。
「……なあ。お前、本当は力なんていらなかったろ。」
ちき、と鯉口を切る音がする。
「力が無ければ、何も守れない。」
やっぱりな、とダンテは目を閉じる。
今ならわかる。
奪うだの寄越せだの、物騒なことを散々言っておいて、結局バージルの本音は『守りたい』だった。
力が『欲しい』と言わず、『必要だ』と言っていた理由が、あの頃のダンテにはわからなかった。
仮にわかったとしても、自分には何かをしてやれる勇気もなかった。
それでも、もしも。
「———あのさ。」
ダンテの頭にまた『寝言』が浮かぶ。
ダンテはぽつりぽつりと呟いた。
「お前さ、辞めちまえよ。力だのなんだの、お前がひとりでやろうとしてること。俺が一緒に行ってやるからさ。二人なら、きっと他にもいいやり方がある。」
答えはわかりきっている。
それでもダンテは言わずにいられなかった。
あの時言えなかったことを、あの時のバージルに。
「下らん。」
よく響く、気持ちのいい声だった。
「俺は俺の道を行く。」
「———そうだな。」
光が凝結し、ダンテの手の中で剣となる。
「お前はさ、クソみたいに不器用だから、そうやってひとりで、真っ直ぐにしか歩けなかったんだよな。」
煮え滾る溶岩を鍛えたような刀身は、ダンテに呼応するように静かに光っていた。
「———いっそ全部放り出して、さっさと終わっちまえばよかったのに。それでもお前は、終わらなかったんだよな。」
透明で脆い癖に、汚れることも、砕かれることも恐れない。
自分にはない、バージルのそんなところにイライラして、そしてどうしようもなく惹かれていた。
胸の奥にしまい込んでいたその感情に、ダンテはこっそり鼻を啜る。
「言いたいことはそれだけか!」
空気が爆ぜる音。
遅れて激しい金属音が鳴る。
閻魔刀と魔剣が交錯したのだ。
受ける剣の重さに、ダンテは堪らず空を仰いだ。
青い青いその空へ、ダンテは思い切り剣を突き上げる。
バージルが体勢を崩した瞬間、ダンテは手にした剣を霧散させた。
赤い光が溶ける中、ダンテはバージルを抱きしめる。
「離せっ………!」
「なあ、バージル。」
逃れようともがくバージルの耳元で、ダンテはそっと囁く。
「真っ直ぐ来いよ。その道は間違ってるし、お前は何度も立ち止まる。何度も地べたを這いずって、吐いた血反吐を啜らなきゃならないことだってあるはずだ。だけど俺は、その先で待っててやる。俺だけは絶対お前を待ってて、ちゃんとお前をぶっ飛ばしやるから。」
昔、怖くてできなかった悔しさを込めて。
ダンテは強く抱きしめる。
腕の中のバージルは、ダンテの腕を掴んではいるものの、引き剥がすような素振りはない。
服越しに指が食い込む痛みに、ダンテはなんだかホッとした。
「———そうだな、ぶっ飛ばすだけじゃ味気ない。ご褒美だってくれてやるよ。俺のとっておきの秘密だ。最高だろ?」
「何を………」
首筋の辺りが、そわそわする。
何となく、そろそろこの夢は終わってしまうんだとわかった。
腕の中のバージルは、一体どんな顔をしているのだろう。
覗き込もうかとも考えたが、やめておいた。
知ってしまえば、夢から醒めたくなくなってしまう気がしたからだ。
ならばせめて、とダンテは思った。
「だからさ、バージル。」
あの時には戻れない。
それでもこのバージルに。
ひとりぼっちだった大切な兄に。
この青い空の下で。
ダンテはきちんと、伝えたいと思った。
「———だからもう、そんな目すんなよ。」
そう、伝えたかった。
肩が熱い。
痛みだと知覚したのは、一拍置いてからだ。
眦が裂けるほど、大きく目を開ける。
「やっと起きたか、愚弟が。」
ダンテの目に入ったのは、見慣れた顔のバージルだった。
ぼやける目を巡らせる。
血染めの大地。
肩をそこに縫い止めるのは閻魔刀だ。
剣を持つ手は封じられ、ダンテはバージルに組み伏せられていた。
黒い雲と赤い靄に覆われた空を見て、そこでやっと、ここは魔界だと思い出す。
バージルとの『喧嘩』の最中、隙を突かれて倒れたのだ。
「まだ寝惚けているのか?寝汚なさは相変わらずだな。」
バージルは笑っている。
意地悪く、けれど楽しそうに。
その笑顔が、夢は終わったのだとダンテに告げた。
肩の痛みを忘れ、ほっ、と息を吐く。
「———約束、だもんな。」
ダンテは剣を手放した。
そして肩の刀をそのままに、バージルの腕を支えにひて、ずり、と身体を起こした。
「何を……」
バージルは微かに狼狽しているようで、閻魔刀を握る手が僅かに緩んだ。
けれどダンテは構わず進む。
今の自分は歳をとり、昔よりもずっと強くなった。
もうあの頃の、何もできなかった意気地なしのクソガキではない。
だから今度こそ、バージルに伝えなければならなかった。
「お前はずっと知らなかっただろうけどさ。」
少しずつ、少しずつ。
ずり、ずり、と刃を辿り、やっと鍔に至った時。
ダンテは漸くバージルの首へと腕を回し、力を込めて抱き締めた。
あのひとりぼっちだったバージルとの、最後の約束を果たすために。
「俺はお前のこと、ずっと好きだったんだぜ。」
少し荒くなった息を抑えて、小さく耳打ちする。
バージルはぴくりともしない。
「お前は迷惑な奴だし、許してやるつもりなんて更々ねえけどさ。それでも俺は、お前のクソみたいなところも全部ひっくるめて、ずっとずっと好きなんだ。今までも、これからも。………多分な。」
背中で何かが動く気配がした。
そろそろと何かが近づいてくる。
きっとそれは、バージルの手だ。
殺気も何もない。
臆病でいて、酷く勇敢なその手に、ダンテは胸が暖かくなる。
今バージルは、どんな顔をしているのだろうか。
ダンテからは見えないが、多分あの頃とは違う顔をしているはずだ。
ダンテは軽く膝を曲げ、バージルの腹へと足を掛ける。
「だからさ、バージル。」
ダンテはもう一度、名前を呼んだ。
「———だからもう、あんな目すんなよ。」
「ダン——……?」
ぐ、と足に力を込め、ダンテは思い切りバージルを蹴飛ばした。
不意を突かれたバージルは、後方の岩へと叩きつけられる。
「ハッハー!油断したな、バージル!」
ダンテはのろのろと立ち上がると、わざと大きな声でそう叫んだ。
「クソっ!貴様っ……!」
砕けた岩にまみれながら、バージルはわなわなと立ち上がる。
「愛の告白にときめいちまったか?魔王様よ!」
「何だと?」
「俺の人生最大最高の秘密を教えてやったんだ。蹴りの一つくらい安いもんだろ。」
肩の閻魔刀を抜き、バージルへと放り投げる。
バージルは乱暴にそれをひったくると、鞘に納めて構えを取った。
「訳のわからないことを……覚悟はできているんだろうな?ダンテ!」
「覚悟?」
ダンテは手に光を集め、赤く光る魔剣を取る。
「ああ、あるぜ。40年ものの、とびっきりのやつがな!」
ダンテは流し目にバージル見た。
そこに、あの空の下で、寂しそうな目をした青年の姿はない。
「さあ、湿っぽいのはこれで終わりだ。後は二人で、気が済むまで遊ぼうぜ。」
ダンテは笑う。
剣を片手に、溢れる喜びを込めて。
「なあ、バージル?」
ダンテは剣を担ぐように構えると、ざり、と足を踏み締める。
バージルも呼応するように、ダンテをじろりと睨め付けた。
その目は鋭く、そしてあの青空よりもずっとずっと晴れやかで、ダンテはとても綺麗だと思った。
(———ああ、この目がいい。)
ダンテは密かに嘆息した。
(この目の方が、ずっといい。)
青い視線を独り占めする幸せを胸に。
ダンテは力いっぱい大地を蹴って、バージルへと駆け出した。
ダンテはそう思った。
目が痛くなるほど、青くて高い空が見える場所。
そこにダンテは、バージルと二人で立っていた。
対峙するバージルは随分と若く、ずっと昔、『塔』の上で大喧嘩をした頃の姿をしていた。
一方のダンテといえば、特に変わった様子もなく。
くたびれたシャツに、くすんだ赤のコート。
顎に手をやればざらりと髭が指を刺す。
その感覚に、やっぱりこれは夢なんだとダンテは思う。
「ダンテ。」
いつもより高い声は懐かしく、けれどやっぱり聞きなれない。
体つきさえもまだ細く、背丈も殆ど変わらなかった。
再会したばかりの頃は、どんな敵よりも強大に見え、悔しいかな、恐ろしさすら感じていたのに。
今では呑気に、可愛いじゃないか、などという感想すら浮かんでくる。
「何をしている。」
こちらに向けられる眼差し。
そう。
あの時のバージルは、こんな目をしていた。
馬鹿みたいに真っ直ぐで。
怖いくらいに澄んでいて。
そんな目だったと、かつてのダンテは思っていた。
けれど今は、少し違う。
切なくなるほど頑なで。
痛々しいほど張り詰めている。
そういう、寂しい目に見えた。
「早く構えろ。」
バージルは腰を深く落とし、柄に手をかける。
「ははっ、夢でもそうくるか?参ったね。」
唐突な、けれどバージルらしい姿に、ダンテは思わず苦笑する。
「そうだよな、お前はそういう奴だった。」
す、と手を肩の辺りに掲げる。
「小さい頃は本ばっかりで遊んじゃくれなかったし、その癖久しぶりに会ったらいきなり殺し合いだ。」
魂の欠片が、掌で少しずつ形を作っていく。
「いつだって一人で突っ走って、挙句に取り返しのつかねえ馬鹿やって。とんでもねえ野郎だよ、お前は。」
ダンテは赤い光を見て思う。
これは夢だ。
現実ではない。
それなら少しくらい、『寝言』を言っても許されるはずだ。
「……なあ。お前、本当は力なんていらなかったろ。」
ちき、と鯉口を切る音がする。
「力が無ければ、何も守れない。」
やっぱりな、とダンテは目を閉じる。
今ならわかる。
奪うだの寄越せだの、物騒なことを散々言っておいて、結局バージルの本音は『守りたい』だった。
力が『欲しい』と言わず、『必要だ』と言っていた理由が、あの頃のダンテにはわからなかった。
仮にわかったとしても、自分には何かをしてやれる勇気もなかった。
それでも、もしも。
「———あのさ。」
ダンテの頭にまた『寝言』が浮かぶ。
ダンテはぽつりぽつりと呟いた。
「お前さ、辞めちまえよ。力だのなんだの、お前がひとりでやろうとしてること。俺が一緒に行ってやるからさ。二人なら、きっと他にもいいやり方がある。」
答えはわかりきっている。
それでもダンテは言わずにいられなかった。
あの時言えなかったことを、あの時のバージルに。
「下らん。」
よく響く、気持ちのいい声だった。
「俺は俺の道を行く。」
「———そうだな。」
光が凝結し、ダンテの手の中で剣となる。
「お前はさ、クソみたいに不器用だから、そうやってひとりで、真っ直ぐにしか歩けなかったんだよな。」
煮え滾る溶岩を鍛えたような刀身は、ダンテに呼応するように静かに光っていた。
「———いっそ全部放り出して、さっさと終わっちまえばよかったのに。それでもお前は、終わらなかったんだよな。」
透明で脆い癖に、汚れることも、砕かれることも恐れない。
自分にはない、バージルのそんなところにイライラして、そしてどうしようもなく惹かれていた。
胸の奥にしまい込んでいたその感情に、ダンテはこっそり鼻を啜る。
「言いたいことはそれだけか!」
空気が爆ぜる音。
遅れて激しい金属音が鳴る。
閻魔刀と魔剣が交錯したのだ。
受ける剣の重さに、ダンテは堪らず空を仰いだ。
青い青いその空へ、ダンテは思い切り剣を突き上げる。
バージルが体勢を崩した瞬間、ダンテは手にした剣を霧散させた。
赤い光が溶ける中、ダンテはバージルを抱きしめる。
「離せっ………!」
「なあ、バージル。」
逃れようともがくバージルの耳元で、ダンテはそっと囁く。
「真っ直ぐ来いよ。その道は間違ってるし、お前は何度も立ち止まる。何度も地べたを這いずって、吐いた血反吐を啜らなきゃならないことだってあるはずだ。だけど俺は、その先で待っててやる。俺だけは絶対お前を待ってて、ちゃんとお前をぶっ飛ばしやるから。」
昔、怖くてできなかった悔しさを込めて。
ダンテは強く抱きしめる。
腕の中のバージルは、ダンテの腕を掴んではいるものの、引き剥がすような素振りはない。
服越しに指が食い込む痛みに、ダンテはなんだかホッとした。
「———そうだな、ぶっ飛ばすだけじゃ味気ない。ご褒美だってくれてやるよ。俺のとっておきの秘密だ。最高だろ?」
「何を………」
首筋の辺りが、そわそわする。
何となく、そろそろこの夢は終わってしまうんだとわかった。
腕の中のバージルは、一体どんな顔をしているのだろう。
覗き込もうかとも考えたが、やめておいた。
知ってしまえば、夢から醒めたくなくなってしまう気がしたからだ。
ならばせめて、とダンテは思った。
「だからさ、バージル。」
あの時には戻れない。
それでもこのバージルに。
ひとりぼっちだった大切な兄に。
この青い空の下で。
ダンテはきちんと、伝えたいと思った。
「———だからもう、そんな目すんなよ。」
そう、伝えたかった。
肩が熱い。
痛みだと知覚したのは、一拍置いてからだ。
眦が裂けるほど、大きく目を開ける。
「やっと起きたか、愚弟が。」
ダンテの目に入ったのは、見慣れた顔のバージルだった。
ぼやける目を巡らせる。
血染めの大地。
肩をそこに縫い止めるのは閻魔刀だ。
剣を持つ手は封じられ、ダンテはバージルに組み伏せられていた。
黒い雲と赤い靄に覆われた空を見て、そこでやっと、ここは魔界だと思い出す。
バージルとの『喧嘩』の最中、隙を突かれて倒れたのだ。
「まだ寝惚けているのか?寝汚なさは相変わらずだな。」
バージルは笑っている。
意地悪く、けれど楽しそうに。
その笑顔が、夢は終わったのだとダンテに告げた。
肩の痛みを忘れ、ほっ、と息を吐く。
「———約束、だもんな。」
ダンテは剣を手放した。
そして肩の刀をそのままに、バージルの腕を支えにひて、ずり、と身体を起こした。
「何を……」
バージルは微かに狼狽しているようで、閻魔刀を握る手が僅かに緩んだ。
けれどダンテは構わず進む。
今の自分は歳をとり、昔よりもずっと強くなった。
もうあの頃の、何もできなかった意気地なしのクソガキではない。
だから今度こそ、バージルに伝えなければならなかった。
「お前はずっと知らなかっただろうけどさ。」
少しずつ、少しずつ。
ずり、ずり、と刃を辿り、やっと鍔に至った時。
ダンテは漸くバージルの首へと腕を回し、力を込めて抱き締めた。
あのひとりぼっちだったバージルとの、最後の約束を果たすために。
「俺はお前のこと、ずっと好きだったんだぜ。」
少し荒くなった息を抑えて、小さく耳打ちする。
バージルはぴくりともしない。
「お前は迷惑な奴だし、許してやるつもりなんて更々ねえけどさ。それでも俺は、お前のクソみたいなところも全部ひっくるめて、ずっとずっと好きなんだ。今までも、これからも。………多分な。」
背中で何かが動く気配がした。
そろそろと何かが近づいてくる。
きっとそれは、バージルの手だ。
殺気も何もない。
臆病でいて、酷く勇敢なその手に、ダンテは胸が暖かくなる。
今バージルは、どんな顔をしているのだろうか。
ダンテからは見えないが、多分あの頃とは違う顔をしているはずだ。
ダンテは軽く膝を曲げ、バージルの腹へと足を掛ける。
「だからさ、バージル。」
ダンテはもう一度、名前を呼んだ。
「———だからもう、あんな目すんなよ。」
「ダン——……?」
ぐ、と足に力を込め、ダンテは思い切りバージルを蹴飛ばした。
不意を突かれたバージルは、後方の岩へと叩きつけられる。
「ハッハー!油断したな、バージル!」
ダンテはのろのろと立ち上がると、わざと大きな声でそう叫んだ。
「クソっ!貴様っ……!」
砕けた岩にまみれながら、バージルはわなわなと立ち上がる。
「愛の告白にときめいちまったか?魔王様よ!」
「何だと?」
「俺の人生最大最高の秘密を教えてやったんだ。蹴りの一つくらい安いもんだろ。」
肩の閻魔刀を抜き、バージルへと放り投げる。
バージルは乱暴にそれをひったくると、鞘に納めて構えを取った。
「訳のわからないことを……覚悟はできているんだろうな?ダンテ!」
「覚悟?」
ダンテは手に光を集め、赤く光る魔剣を取る。
「ああ、あるぜ。40年ものの、とびっきりのやつがな!」
ダンテは流し目にバージル見た。
そこに、あの空の下で、寂しそうな目をした青年の姿はない。
「さあ、湿っぽいのはこれで終わりだ。後は二人で、気が済むまで遊ぼうぜ。」
ダンテは笑う。
剣を片手に、溢れる喜びを込めて。
「なあ、バージル?」
ダンテは剣を担ぐように構えると、ざり、と足を踏み締める。
バージルも呼応するように、ダンテをじろりと睨め付けた。
その目は鋭く、そしてあの青空よりもずっとずっと晴れやかで、ダンテはとても綺麗だと思った。
(———ああ、この目がいい。)
ダンテは密かに嘆息した。
(この目の方が、ずっといい。)
青い視線を独り占めする幸せを胸に。
ダンテは力いっぱい大地を蹴って、バージルへと駆け出した。
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