Treat for Honey
バージルの様子がおかしい。
朝。
バージルが淹れる、まどろっこしいくらい時間をかけたコーヒー。
今朝はそれを口にした途端、バージルの顔が歪んだ。
ダンテが飲んでみるも、普段と変わらず香りはいいが、妙にややこしくて癖になる味のコーヒーだった。
昼。
コイントスで決まったレストランはバージルご所望のカジュアルフレンチだったが、ダンテがゴネたためイタリアンに変更された。
そこでもバージルの異変は続いており、ペペロンチーノを口にすると頬が強張り、タリアータに添えられた西洋わさび は皿の隅へと避けられた。
いつも頼むはずのエスプレッソも、今日は何故かミネラルウォーターに変わっている。
オリーブ抜きのカプリチョーザを頬張りながら、いよいよダンテは不審に思う。
何かおかしい。
ダンテは何かあったかと記憶の糸を手繰ってみる。
昨晩、久しぶりに舞い込んだ『合言葉』絡みの依頼。
所謂人を『狂わせる』タイプの悪魔だったが、特に手こずることなく片付けられたはずだ。
強いていうなら、最期に何かバージルへと喚いていたような気もするが、バージルは即座に細切れにしていたので気にもとめていなかった。
しかしひょっとしたらあれは、何かの呪いの類だったのかもしれない。
雑魚の呪いなどダンテ達には殆ど意味をなさないが、もしかしたらということもある。
特にバージルはどれほど辛く苦しくとも、それをダンテに見せまいとするところがあった。
仮に厄介な呪いを受けていても、一人で抱え込んでしまう。
そう。
ダンテの気持ちも知らずに、だ。
レストランからの帰り道。
ダンテはバージルを横目で見ながら、顎の髭を忙しなく撫でていた。
****************
事務所に帰ると、ダンテは単刀直入にバージルへと尋ねた。
「お前、今日どうしたんだ?」
返ってきた答えは盛大な舌打ちだった。
「あのなあ、人が心配してやってるってのに舌打ちで返す馬鹿があるかよ。」
ムッとしたダンテが言葉を返すと、バージルはくるりと反転して背を向ける。
バージルという男には、つくづくコミュニケーション能力というものがなさすぎる、とダンテは呆れた。
「昨日の悪魔絡みか?もし呪いだ魔術だって話なら、早く手を打たなきゃなんねえことだってある。何があってからじゃお前だって困るだろ。」
こんなありきたりな説得で心を動かすバージルではない。
バージルは自分自身の苦痛や困難にはイマイチ鈍いのだ。
しかしダンテもその辺りは心得ている。
「百歩譲って自分がどうこうなっても構わねえってならいいさ。でももし依頼に影響でもあったらどうすんだよ。半端な仕事で終わるようなことがあったら、お前それで納得できんのか?」
ぴくり、とバージルの肩が揺れる。
根が生真面目なバージルは、こういう軸での話に弱い。
後一押し。
ダンテはそう手応えを得る。
「それに……」
声を顰めて、できるだけ『しおらしく』 言葉を詰まらせる。
それからバージルに聞こえるかどうかの吐息をゆっくりと震わせ、きゅっと唇を結んだ。
更にそこから一息、二息ほど置いてからダンテはぼそりと呟いた。
「バージルに何かあったら、俺は………」
恐らくハリウッドがダンテを知ったら、即アカデミー賞を差し出すだろう。
それほどまでに迫真の演技だと、ダンテは自負した。
バージルへ向けた言葉は勿論本心からのものだ。
バージルに何かあればたまったものではないし、バージルのいない日々など二度と考えたくもない。
しかしだからと言ってダンテは、こんな風にいじらしく振る舞うような性格ではなかった。
だがダンテは知っていたのである。
何だかんだ『兄』でありたがるバージルは、こういうダンテの庇護欲をくすぐる態度にすこぶる弱い、と。
だからこそダンテは、バージルの異変を探るべくこんな小芝居を打ったのだ。
わざと俯き、こちらの表情が見えないように髪を垂らす。
演技だけでなく、演出も抜かりはなかった。
そろそろか、と頃合いを図れば、案の定コートが翻る音がした。
こつりこつりと靴音が近づいてきて、ダンテの視界にブーツの爪先が見えたところで、バージルはぴたりと足を止めた。
「———ダンテ。」
酷く真摯な声で名前を呼ばれた。
穏やかで、労わるような息を孕む声。
ダンテの胸が、ちくりと痛む。
多分バージルは、本気でダンテを気遣っているのだ。
救いようがないほど偏屈で腹の立つ男だが、本当は自分をこれ以上ないほど大切に思ってくれていることを、ダンテは知っていた。
しかしだからこそ、ここでボロを出すことは許されない。
これはバージルを想えばこその茶番なのだ。
「痛みがある訳ではない。幻覚の類もない。ただ……」
バージルは一つ一つ、丁寧に言葉を選ぶようにダンテへと語りかける。
ダンテはバージルの言葉を溢すまいと、微動だにせず耳を傾ける。
暫くの静寂があった後、バージルは躊躇いがちにこう続けた。
「……ただ少し、苦味や辛味が辛いだけだ。」
「…………………?」
ダンテは目が点になる。
前髪のお陰でバージルからは見えないだろうが、相当間抜けな顔には違いない。
気の利いた反応もできず、ダンテはそのまま突っ立っていた。
「低俗な悪魔だ。感覚を狂わせる呪いが半端にかかって、舌が過敏になる程度で終わったのだろう。多少味覚に異常はあるが、すぐに元に戻るはずだ。」
ダンテを慰めるためだろうか。
ややつかえながらも、バージルにしては口数多く続けられる話をまとめると、こうなるらしい。
「………つまりお前、今お子サマ舌になってるってことか?」
肩と声を震わすダンテに、バージルはピタリと喋るのを止める。
さすがに色々と察したのか、バージルが纏う気配が険しくなった。
しかしダンテはくつくつと笑いを堪えながら顔を上げた。
ダンテの目に入ったのは想像通り。
眉間に深い皺を刻み、怒りを隠しもないバージルの顔だった。
「おまっ……舌がそんなんなのに、バレないように無理矢理コーヒー飲んだり、ペペロンチーノ食ってたりしたのか?マジかよ!」
ぷは、と吹き出すと、ダンテは堰を切ったように笑い出した。
大きく声をあげ、腹を抱えて高らかに笑う。
――ああ、よかった。
ダンテはそう思う。
まずはバージルの呪いが深刻でなかったことに。
次に、バージルが昔と変わらない、見栄っ張りであったことに。
そして最後に、何だかんだバージルが、自分のことを想ってくれていたことに。
他人から見れば馬鹿馬鹿しいかもしれないが、ダンテにとって、それは紛れもない喜びだ。
そんな喜びと安堵は光の粒となって、ダンテの瞼を彩っていた。
「———ダンテ。」
先程と打って変わって、地獄の底から響くような声。
ダンテが一瞬目を見開くと、バージルが矢筈にした手を繰り出すのが見えた。
捌こうと手を伸ばした時、ふわりと身体が浮く。
足を払われたと認識した時にはすでに遅かった。
ガタンと大きな音を立て、ダンテの身体はソファに叩きつけられる。
起きようと身を捩ると同時に顎を掴まれ、ダンテは無理矢理上を向かされた。
目の前にバージルの顔がある。
ドクン、と心臓が高鳴り、バージルの瞳に意識が囚われる
「バー……」
名前を呼ぼうと口を開くと、間髪入れずに唇で塞がれ、強引に舌が捩じ込まれた。
舌を絡め取られ、熱い吐息ごと喰らわれる。
「っ、ん………!」
ダンテはバージルの背に回した手でコートを握りしめ、形だけの抵抗をする。
しかしキスの激しさが変わることはなく、ダンテはまともに息すらできなかった。
意識がぼうっとしはじめた矢先、股間にバージルの足を割り入れられ、膝で下腹部を刺激される。
ダンテが反射的に口を離せば、バージルは逃がさないとばかりに上唇へと噛みついてきた。
溢れた唾液が首筋を濡らし、その感覚にダンテはぞくりと腰を揺らす。
軽い酸欠になるほどの口付けの末、ダンテはやっと解放された。
「———はぁっ、はっ……何だ、よっ……舌がビンカンになってるんじゃ、なかったのか?」
熱に浮かされたままのダンテは、精一杯の虚勢を張ってバージルへと笑ってみせる。
当のバージルはといえば、ダンテを品定めするかのように目を眇めていた。
これは相当腹に据えかねている顔だ。
ダンテはまずかったかな、と少し怯むが、笑顔だけは崩さない。
「ああ、確かに舌の感覚は過敏だな。しかしこれはこれで楽しめそうだ。」
ダンテの劣情を見越してか、バージルは更に顔を上向かせる。
僅かな痛みにダンテが呻けば、バージルが楽しそうに笑う気配がした。
「俺の舌が気になるか、ダンテ。それならお前の身体で確かめるといい。この『ガキ舌』の具合をな。」
バージルはそう言って、露わになったダンテの首筋をべろりと舐め上げた。
「ひ、あっ……!」
ダンテはとめどなく漏れそうになる声をぐっと飲み込むと、なけなしの力でバージルの手を振り解く。
「———ははっ、食い意地の張ったクソガキだな。かわいいかわいいお子様にゃ、たっぷりサービスしてやるよっ。」
ダンテはバージルの頭を抱きしめ、お返しとばかりに唇を押し付ける。
誘うように舌を出せば、軽く歯を立てられてバージルの口内へと引き摺り込まれた。
「っ…はふっ……どうだ?んっ……キスの、味はっ」
挑発するようにそう聞けば、バージルは舌舐めずりをしながらダンテを見据えた。
「反吐が出るほど甘ったるい。 」
「へえ、そいつはよかっ……んんっ!」
ダンテの言葉は最後まで紡がれることはなく、再びバージルに口付けられた。
今日はさすがに、バージルを揶揄い過ぎてしまった。
バージルがダンテを想う心を弄んだのは、理由はあれど『重罪』だ。
ならばせめてもの罪滅ぼしとして、兄にたっぷりと甘い夜をご馳走するくらいはしてやらないと。
ダンテはバージルの舌に翻弄されながら、ふと、そんなことを考えていた。
朝。
バージルが淹れる、まどろっこしいくらい時間をかけたコーヒー。
今朝はそれを口にした途端、バージルの顔が歪んだ。
ダンテが飲んでみるも、普段と変わらず香りはいいが、妙にややこしくて癖になる味のコーヒーだった。
昼。
コイントスで決まったレストランはバージルご所望のカジュアルフレンチだったが、ダンテがゴネたためイタリアンに変更された。
そこでもバージルの異変は続いており、ペペロンチーノを口にすると頬が強張り、タリアータに添えられた
いつも頼むはずのエスプレッソも、今日は何故かミネラルウォーターに変わっている。
オリーブ抜きのカプリチョーザを頬張りながら、いよいよダンテは不審に思う。
何かおかしい。
ダンテは何かあったかと記憶の糸を手繰ってみる。
昨晩、久しぶりに舞い込んだ『合言葉』絡みの依頼。
所謂人を『狂わせる』タイプの悪魔だったが、特に手こずることなく片付けられたはずだ。
強いていうなら、最期に何かバージルへと喚いていたような気もするが、バージルは即座に細切れにしていたので気にもとめていなかった。
しかしひょっとしたらあれは、何かの呪いの類だったのかもしれない。
雑魚の呪いなどダンテ達には殆ど意味をなさないが、もしかしたらということもある。
特にバージルはどれほど辛く苦しくとも、それをダンテに見せまいとするところがあった。
仮に厄介な呪いを受けていても、一人で抱え込んでしまう。
そう。
ダンテの気持ちも知らずに、だ。
レストランからの帰り道。
ダンテはバージルを横目で見ながら、顎の髭を忙しなく撫でていた。
****************
事務所に帰ると、ダンテは単刀直入にバージルへと尋ねた。
「お前、今日どうしたんだ?」
返ってきた答えは盛大な舌打ちだった。
「あのなあ、人が心配してやってるってのに舌打ちで返す馬鹿があるかよ。」
ムッとしたダンテが言葉を返すと、バージルはくるりと反転して背を向ける。
バージルという男には、つくづくコミュニケーション能力というものがなさすぎる、とダンテは呆れた。
「昨日の悪魔絡みか?もし呪いだ魔術だって話なら、早く手を打たなきゃなんねえことだってある。何があってからじゃお前だって困るだろ。」
こんなありきたりな説得で心を動かすバージルではない。
バージルは自分自身の苦痛や困難にはイマイチ鈍いのだ。
しかしダンテもその辺りは心得ている。
「百歩譲って自分がどうこうなっても構わねえってならいいさ。でももし依頼に影響でもあったらどうすんだよ。半端な仕事で終わるようなことがあったら、お前それで納得できんのか?」
ぴくり、とバージルの肩が揺れる。
根が生真面目なバージルは、こういう軸での話に弱い。
後一押し。
ダンテはそう手応えを得る。
「それに……」
声を顰めて、できるだけ『しおらしく』 言葉を詰まらせる。
それからバージルに聞こえるかどうかの吐息をゆっくりと震わせ、きゅっと唇を結んだ。
更にそこから一息、二息ほど置いてからダンテはぼそりと呟いた。
「バージルに何かあったら、俺は………」
恐らくハリウッドがダンテを知ったら、即アカデミー賞を差し出すだろう。
それほどまでに迫真の演技だと、ダンテは自負した。
バージルへ向けた言葉は勿論本心からのものだ。
バージルに何かあればたまったものではないし、バージルのいない日々など二度と考えたくもない。
しかしだからと言ってダンテは、こんな風にいじらしく振る舞うような性格ではなかった。
だがダンテは知っていたのである。
何だかんだ『兄』でありたがるバージルは、こういうダンテの庇護欲をくすぐる態度にすこぶる弱い、と。
だからこそダンテは、バージルの異変を探るべくこんな小芝居を打ったのだ。
わざと俯き、こちらの表情が見えないように髪を垂らす。
演技だけでなく、演出も抜かりはなかった。
そろそろか、と頃合いを図れば、案の定コートが翻る音がした。
こつりこつりと靴音が近づいてきて、ダンテの視界にブーツの爪先が見えたところで、バージルはぴたりと足を止めた。
「———ダンテ。」
酷く真摯な声で名前を呼ばれた。
穏やかで、労わるような息を孕む声。
ダンテの胸が、ちくりと痛む。
多分バージルは、本気でダンテを気遣っているのだ。
救いようがないほど偏屈で腹の立つ男だが、本当は自分をこれ以上ないほど大切に思ってくれていることを、ダンテは知っていた。
しかしだからこそ、ここでボロを出すことは許されない。
これはバージルを想えばこその茶番なのだ。
「痛みがある訳ではない。幻覚の類もない。ただ……」
バージルは一つ一つ、丁寧に言葉を選ぶようにダンテへと語りかける。
ダンテはバージルの言葉を溢すまいと、微動だにせず耳を傾ける。
暫くの静寂があった後、バージルは躊躇いがちにこう続けた。
「……ただ少し、苦味や辛味が辛いだけだ。」
「…………………?」
ダンテは目が点になる。
前髪のお陰でバージルからは見えないだろうが、相当間抜けな顔には違いない。
気の利いた反応もできず、ダンテはそのまま突っ立っていた。
「低俗な悪魔だ。感覚を狂わせる呪いが半端にかかって、舌が過敏になる程度で終わったのだろう。多少味覚に異常はあるが、すぐに元に戻るはずだ。」
ダンテを慰めるためだろうか。
ややつかえながらも、バージルにしては口数多く続けられる話をまとめると、こうなるらしい。
「………つまりお前、今お子サマ舌になってるってことか?」
肩と声を震わすダンテに、バージルはピタリと喋るのを止める。
さすがに色々と察したのか、バージルが纏う気配が険しくなった。
しかしダンテはくつくつと笑いを堪えながら顔を上げた。
ダンテの目に入ったのは想像通り。
眉間に深い皺を刻み、怒りを隠しもないバージルの顔だった。
「おまっ……舌がそんなんなのに、バレないように無理矢理コーヒー飲んだり、ペペロンチーノ食ってたりしたのか?マジかよ!」
ぷは、と吹き出すと、ダンテは堰を切ったように笑い出した。
大きく声をあげ、腹を抱えて高らかに笑う。
――ああ、よかった。
ダンテはそう思う。
まずはバージルの呪いが深刻でなかったことに。
次に、バージルが昔と変わらない、見栄っ張りであったことに。
そして最後に、何だかんだバージルが、自分のことを想ってくれていたことに。
他人から見れば馬鹿馬鹿しいかもしれないが、ダンテにとって、それは紛れもない喜びだ。
そんな喜びと安堵は光の粒となって、ダンテの瞼を彩っていた。
「———ダンテ。」
先程と打って変わって、地獄の底から響くような声。
ダンテが一瞬目を見開くと、バージルが矢筈にした手を繰り出すのが見えた。
捌こうと手を伸ばした時、ふわりと身体が浮く。
足を払われたと認識した時にはすでに遅かった。
ガタンと大きな音を立て、ダンテの身体はソファに叩きつけられる。
起きようと身を捩ると同時に顎を掴まれ、ダンテは無理矢理上を向かされた。
目の前にバージルの顔がある。
ドクン、と心臓が高鳴り、バージルの瞳に意識が囚われる
「バー……」
名前を呼ぼうと口を開くと、間髪入れずに唇で塞がれ、強引に舌が捩じ込まれた。
舌を絡め取られ、熱い吐息ごと喰らわれる。
「っ、ん………!」
ダンテはバージルの背に回した手でコートを握りしめ、形だけの抵抗をする。
しかしキスの激しさが変わることはなく、ダンテはまともに息すらできなかった。
意識がぼうっとしはじめた矢先、股間にバージルの足を割り入れられ、膝で下腹部を刺激される。
ダンテが反射的に口を離せば、バージルは逃がさないとばかりに上唇へと噛みついてきた。
溢れた唾液が首筋を濡らし、その感覚にダンテはぞくりと腰を揺らす。
軽い酸欠になるほどの口付けの末、ダンテはやっと解放された。
「———はぁっ、はっ……何だ、よっ……舌がビンカンになってるんじゃ、なかったのか?」
熱に浮かされたままのダンテは、精一杯の虚勢を張ってバージルへと笑ってみせる。
当のバージルはといえば、ダンテを品定めするかのように目を眇めていた。
これは相当腹に据えかねている顔だ。
ダンテはまずかったかな、と少し怯むが、笑顔だけは崩さない。
「ああ、確かに舌の感覚は過敏だな。しかしこれはこれで楽しめそうだ。」
ダンテの劣情を見越してか、バージルは更に顔を上向かせる。
僅かな痛みにダンテが呻けば、バージルが楽しそうに笑う気配がした。
「俺の舌が気になるか、ダンテ。それならお前の身体で確かめるといい。この『ガキ舌』の具合をな。」
バージルはそう言って、露わになったダンテの首筋をべろりと舐め上げた。
「ひ、あっ……!」
ダンテはとめどなく漏れそうになる声をぐっと飲み込むと、なけなしの力でバージルの手を振り解く。
「———ははっ、食い意地の張ったクソガキだな。かわいいかわいいお子様にゃ、たっぷりサービスしてやるよっ。」
ダンテはバージルの頭を抱きしめ、お返しとばかりに唇を押し付ける。
誘うように舌を出せば、軽く歯を立てられてバージルの口内へと引き摺り込まれた。
「っ…はふっ……どうだ?んっ……キスの、味はっ」
挑発するようにそう聞けば、バージルは舌舐めずりをしながらダンテを見据えた。
「反吐が出るほど甘ったるい。 」
「へえ、そいつはよかっ……んんっ!」
ダンテの言葉は最後まで紡がれることはなく、再びバージルに口付けられた。
今日はさすがに、バージルを揶揄い過ぎてしまった。
バージルがダンテを想う心を弄んだのは、理由はあれど『重罪』だ。
ならばせめてもの罪滅ぼしとして、兄にたっぷりと甘い夜をご馳走するくらいはしてやらないと。
ダンテはバージルの舌に翻弄されながら、ふと、そんなことを考えていた。
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