Iron Wedding

火花が散る。
数千、数万、あるいはそれよりも多く交錯した刃。
刀身は大地すら砕く力を一点に受け、真っ赤に灼けて熱を放つ。
柄伝いに感じる、ダンテを両断しようとする力。
強大過ぎるそれに、次第に剣を握る手が痙攣を始めた。

———ああ、最高に気持ちがいい。

交わる視線。
夜の氷晶を思わせる澄んだ青。
バージルの瞳には、ただダンテだけが映っていた。
冷徹な色の奥に、密かに燃える炎。
ダンテは耐え切れないほど昂揚し、次の一手を見極める。

さて、次はどうしようか。
取り敢えず後ろに飛んで、鍔迫り合いバインドを解いて仕切り直す?
それじゃあ面白くない。
オーソドックスに刃を返して、閻魔刀伝いに剣を滑らせその喉元を斬ってみようか。
上手くいけば狙い通り。
ただしタイミングを見誤れば、返す刀でこちらの喉笛が裂かれ、見事な返り討ちにあうだろう。
身体を捻って、頭に水平斬りツヴェルヒハウを食らわせるというのも手だ。
スピードがものをいう分、今の痺れた手でどこまでできるかは賭けだが、きっと向こうも同じ状態だ。
下手を打っても肋の何本かを断たれるくらいで済むだろう。

ダンテの脳内で繰り広げられる、数多のシミュレーション。
そのどれもが嫌と言うほど、バージルによってダンテに刻まれ、そしてダンテがバージルに刻んだ無数の記憶だ。

ある時は魔界の断崖で。
ある時は魔帝の島で。
幾度も繰り返した望まぬ別離。
その結末としてダンテがバージルと迎えたのは、何より望んだ再逢だった。
失われた時を取り戻すように、互いを煽り、罵り、笑い合った。
刃を突き入れ、拳を叩き込み、肉と骨を断ち合った。
時折、どれがマシかと口論し、妥協の末に選んだ悪魔を屠っては喰らった。
剣と拳でのじゃれ合いに飽きたら、互いに身を預け、気が済むまで惰眠を貪った。
そして目が醒めると、ここにいる存在は夢ではないのだと何度も確かめ、再び刃で互いを刻み、血で染めた。

ずっと願い、待ち焦がれたもの。
悪魔として渇望する闘争。
人間として切望する絆。
全てを満たせる唯一の存在が、今、ダンテの隣には確かにある。
その事実に、ダンテはこの上ない幸福を、心の底から感じていた。


いよいよ限界を迎える手の痛みに、ダンテは改めてバージルを見る。
一か八か、力任せに袈裟へと押し上げてみようか?
いや、どうせすぐに刀を持ち替えられて、胴を真っ二つにされるのがオチだ。
———ただあの感覚は、意外とどうして『クセ』になる。
そうだ。
折角ならあれ・・がいい。
ダンテがなけなしの力を込めようと、柄を握り直したその時だ。

「ダンテ。」

バージルがダンテの名前を呼んだ。
声に抑揚は少なく、僅かな苛立ちが聞き取れる。
そこで漸く、ダンテは皮膚を焼くよう殺気が立ち込めていることに気付いた。
「おっと、クリンチばっかで『お客』がお怒りかな?」
「馬鹿を言うな。」
交わった剣から、緊張が霧散する。
そして代わり、ダンテの胸へとバージルの手がふわりと置かれた。
労わるように触れる掌。
布越しに感じる感触に、ダンテは心が安らぐのを感じた。
だが、それも束の間。
「どちらが多く狩れるか、勝負だ。」
聞き慣れた台詞と共に、どん、と後ろへ突き飛ばされる。
と、同時にダンテとバージルの間へ巨大な鎌が振り下ろされた。
狙いが外れ再び鎌を構えたのは、ボロを纏ったヘルカイナだ。
鎌を大振りに横薙ぐ動作の、なんと鈍いことか。
バージルであれば、既に十を超える斬撃を繰り出しているに違いない。
ダンテは軽く飛び上がり、鎌の刃へと飛び乗った。
ヘルカイナは驚いたようだが、ダンテの重みに耐えようと、反射的に鎌をぐっと支えた。
その様子にダンテはしゃがみ込むと、素早くホルダーからエボニーを抜きヘルカイナへと向ける。
 
「ったく、人様の蜜月ハネムーンに首突っ込むなんざ、地獄送りでも文句は言えねえぜ?」

獲物をに囚えた瞬間、ダンテは痺れの残る指で引き鉄を引いた。

「そうだろ?バージル。」

弾丸が頭を吹き飛ばす。
土塊のようなヘルカイナの頭蓋が、瞬く間に輝くレッドオーブへと還った。
ゆっくりと煌めきながら宙に舞う、紅い結晶の向こう。
そこにはダンテに背を向け、同じく紅を撒き散らすバージルが見えた。
ダンテの呼びかけに、バージルは顔だけを僅かにこちらへ向ける。
その唇は、ともすれば見落としてしまいそうなほど緩やかに、滑らかな弧を描いていた。

ダンテは満足そうに息を吐くと、今度はアイボリーを引き抜いた。
そして二挺拳銃トゥーハンドに構えると、空に現れたポータルから現れる悪魔達を不敵な笑みで出迎える。
しかしその眼は、有象無象の雑魚など一片たりとも捉えていない。

ダンテの瞳が映すもの。

それはダンテの傍で青く輝く、魂の片割れだけだった。
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