Notice of Foreclosure — 差押調書 —
Notice of Foreclosure 差押調書
ダンテの笑いが止まらない。
バージルはこめかみに青筋を立てて、時折パリパリと魔力の稲妻を走らせている。
そんな二人を見るネロは苦り切った顔で見守るほかなかった。
原因は、バージルとダンテ宛に届いた封書。
『FINALLY DEMAND 』と赤い文字が大きく書かれたそれは、州税務局から届いた不動産税未納による差押えと、競売開始の通知書だった。
中には『復興計画』に伴う権利調査の結果、二人に家の所有権が認められたと記された紙が一枚。
納税義務と処分の法的正当性、競売の説明が書かれた紙が一枚。
そして滞納されている税金の額が記された紙が一枚入っていた。
「ははっ、おいバージル!何だよその額!お前俺の借金のこと言えた立場じゃねえだろ!!」
笑い過ぎて呼吸困難になったダンテは床にうずくまり、バンバンとロウテーブルを叩いている。
確かに、バージルへと届いた通告書に書かれた滞納額は、この貧乏便利屋からすればあまりにも大きかった。
「黙れ!貴様も同じ額だろうが!」
バージルは容赦なくダンテに蹴りを喰らわせるものの、当の本人は床に仰向けになってひいひいと笑い続けるだけで、なんのダメージも負っていない。
馬鹿なじゃれ合いをする父と叔父をよそに、ネロはダンテ宛にきた封書を手に取った。
バージルとダンテへと送られてきたのは、同じ不動産の税金未納の通知だ。
デビルメイクライの事務所は一応ダンテのものであるものの、トリッシュ達の助力もあり、問題なく各種支払いが済んでいたはず。
最近人間社会に復帰したばかりのバージルは、有耶無耶になっている賠償金はともかく、不動産など持っているわけもない。
それならば一体何の未納だというのだろう。
「———あ。」
紙に書かれた『所在地』の欄。
そこに書かれていたのは、レッドグレイブの文字。
あの運命の双子が生まれ育ち、紆余曲折を経た後再び共に生きることを決め、降り立った地だ。
「親父とダンテが、生まれた家か。」
一度だけバージルに——いや、Vに連れられ、ちらりと見たことがある。
あれほどの厄災に見舞われ、多くのものが失われた場所で、ただ朽ちることを待つだけだったはずの廃墟。
かつてスパーダとエヴァが家族のために建てたそれは、バージルとダンテが諸々含めて受け継ぐべきと、お上はそう決めたらしい
「あっはっは!国のお墨付きが出たってよ!あそこは俺とお前のっ、二人の家だってっ!」
そうダンテが指差す手紙には、『所有者/納税義務者』の欄にバージルとダンテの名前が記載されていた。
「いい加減笑うのをやめろ!」
最近はアメリカン・コミックのヒーロー達も、政府や組織にこき使われたり、世間様から指図されたりすることが多くなった。
スパーダの血統も御多分に洩れず、お国の手からは逃れられないようだ。
「俺らあれだけっ、ひひっ、大暴れしたってのにな。くくくっ…それでもあの家は、俺たちが継いだっ…くっ……家族の家なんだとっ……あははははは!」
ダンテは相変わらず笑っている。
バージルは馬鹿にするなと怒ってはいるが、ダンテの笑いはネロからしたら、少し感傷じみたものがあるのだろうと感じる。
多分、ダンテは嬉しいのだ。
二人が家族であること。
両親から二人で受け継いだものが残っていたこと。
そしてそれを、他の誰かが認めてくれたこと。
たとえそれが、人間が勝手に決めたルールに従って、役人がしたためただけの紙切れだとしても。
それはかつて『みなしご』だったネロだからこそよくわかる。
「馬鹿の相手をしていても埒が明かん。モリソンのところへ行く。」
ネロは驚いた。
モリソンのところへ、ということは、バージルは金の工面なり、権利関係の相談なりをしに行くというのだろうか。
つまりバージルは、あの家を取り戻そうと、もう算段を始めたらしい。
まさか。
ネロは驚きに次いで、急にむず痒さを覚えた。
故郷も家族も、自分さえも捨て去って、力だけを求めていたバージルが、今度求めたのはあのボロ家とは。
きっとそれは、土地の資産価値や更なる差押の回避なんて理由からではないはずだ。
焦りと怒りを隠そうともせず、手紙を手に事務所を飛び出すバージルの背中が、ネロには酷く微笑ましく見えた。
「くふふっ…ま、待てよバージル。ぐっ…俺も行くって……ふははっ」
まだ笑いが収まらないダンテも、バージルの後を追いはじめる。
しかしその足取りはよろよろと覚束ず、とてもバージルに追いつきそうもない。
「おいオッサン。いつまでも笑ってんなよ。エリオット・ネスにガサ入れされる前にカタをつけるんだろ?」
そうダンテに肩を貸すネロの声は弾んでいた。
この復讐だの憎悪だの宿命だの、くだらないしがらみに縛られ続けただろう二人が、こんな細やかな出来事に一喜一憂し、駆けずり回る日々を迎えるなんて、一体誰が想像しただろう。
そうあれと願う人は多かったかもしれないが、本当にこんな日常を送れると信じていた人間は多くはなかったはずだ。
しかしネロは今、そんな二人の姿をはっきりと目の当たりにしている。
それは間違いなく、この二人が漸く自分達の幸福のために歩きはじめた場に居合わせているということであり、ネロはそれが嬉しかった。
「ほら、行こうぜ。」
ネロの呼びかけに、ダンテは笑いながら、こくこくと頭を縦に振る。
笑い過ぎたダンテの目からは、時折ぽろぽろと涙が溢れていた。
ダンテの笑いが止まらない。
バージルはこめかみに青筋を立てて、時折パリパリと魔力の稲妻を走らせている。
そんな二人を見るネロは苦り切った顔で見守るほかなかった。
原因は、バージルとダンテ宛に届いた封書。
『
中には『復興計画』に伴う権利調査の結果、二人に家の所有権が認められたと記された紙が一枚。
納税義務と処分の法的正当性、競売の説明が書かれた紙が一枚。
そして滞納されている税金の額が記された紙が一枚入っていた。
「ははっ、おいバージル!何だよその額!お前俺の借金のこと言えた立場じゃねえだろ!!」
笑い過ぎて呼吸困難になったダンテは床にうずくまり、バンバンとロウテーブルを叩いている。
確かに、バージルへと届いた通告書に書かれた滞納額は、この貧乏便利屋からすればあまりにも大きかった。
「黙れ!貴様も同じ額だろうが!」
バージルは容赦なくダンテに蹴りを喰らわせるものの、当の本人は床に仰向けになってひいひいと笑い続けるだけで、なんのダメージも負っていない。
馬鹿なじゃれ合いをする父と叔父をよそに、ネロはダンテ宛にきた封書を手に取った。
バージルとダンテへと送られてきたのは、同じ不動産の税金未納の通知だ。
デビルメイクライの事務所は一応ダンテのものであるものの、トリッシュ達の助力もあり、問題なく各種支払いが済んでいたはず。
最近人間社会に復帰したばかりのバージルは、有耶無耶になっている賠償金はともかく、不動産など持っているわけもない。
それならば一体何の未納だというのだろう。
「———あ。」
紙に書かれた『所在地』の欄。
そこに書かれていたのは、レッドグレイブの文字。
あの運命の双子が生まれ育ち、紆余曲折を経た後再び共に生きることを決め、降り立った地だ。
「親父とダンテが、生まれた家か。」
一度だけバージルに——いや、Vに連れられ、ちらりと見たことがある。
あれほどの厄災に見舞われ、多くのものが失われた場所で、ただ朽ちることを待つだけだったはずの廃墟。
かつてスパーダとエヴァが家族のために建てたそれは、バージルとダンテが諸々含めて受け継ぐべきと、お上はそう決めたらしい
「あっはっは!国のお墨付きが出たってよ!あそこは俺とお前のっ、二人の家だってっ!」
そうダンテが指差す手紙には、『所有者/納税義務者』の欄にバージルとダンテの名前が記載されていた。
「いい加減笑うのをやめろ!」
最近はアメリカン・コミックのヒーロー達も、政府や組織にこき使われたり、世間様から指図されたりすることが多くなった。
スパーダの血統も御多分に洩れず、お国の手からは逃れられないようだ。
「俺らあれだけっ、ひひっ、大暴れしたってのにな。くくくっ…それでもあの家は、俺たちが継いだっ…くっ……家族の家なんだとっ……あははははは!」
ダンテは相変わらず笑っている。
バージルは馬鹿にするなと怒ってはいるが、ダンテの笑いはネロからしたら、少し感傷じみたものがあるのだろうと感じる。
多分、ダンテは嬉しいのだ。
二人が家族であること。
両親から二人で受け継いだものが残っていたこと。
そしてそれを、他の誰かが認めてくれたこと。
たとえそれが、人間が勝手に決めたルールに従って、役人がしたためただけの紙切れだとしても。
それはかつて『みなしご』だったネロだからこそよくわかる。
「馬鹿の相手をしていても埒が明かん。モリソンのところへ行く。」
ネロは驚いた。
モリソンのところへ、ということは、バージルは金の工面なり、権利関係の相談なりをしに行くというのだろうか。
つまりバージルは、あの家を取り戻そうと、もう算段を始めたらしい。
まさか。
ネロは驚きに次いで、急にむず痒さを覚えた。
故郷も家族も、自分さえも捨て去って、力だけを求めていたバージルが、今度求めたのはあのボロ家とは。
きっとそれは、土地の資産価値や更なる差押の回避なんて理由からではないはずだ。
焦りと怒りを隠そうともせず、手紙を手に事務所を飛び出すバージルの背中が、ネロには酷く微笑ましく見えた。
「くふふっ…ま、待てよバージル。ぐっ…俺も行くって……ふははっ」
まだ笑いが収まらないダンテも、バージルの後を追いはじめる。
しかしその足取りはよろよろと覚束ず、とてもバージルに追いつきそうもない。
「おいオッサン。いつまでも笑ってんなよ。エリオット・ネスにガサ入れされる前にカタをつけるんだろ?」
そうダンテに肩を貸すネロの声は弾んでいた。
この復讐だの憎悪だの宿命だの、くだらないしがらみに縛られ続けただろう二人が、こんな細やかな出来事に一喜一憂し、駆けずり回る日々を迎えるなんて、一体誰が想像しただろう。
そうあれと願う人は多かったかもしれないが、本当にこんな日常を送れると信じていた人間は多くはなかったはずだ。
しかしネロは今、そんな二人の姿をはっきりと目の当たりにしている。
それは間違いなく、この二人が漸く自分達の幸福のために歩きはじめた場に居合わせているということであり、ネロはそれが嬉しかった。
「ほら、行こうぜ。」
ネロの呼びかけに、ダンテは笑いながら、こくこくと頭を縦に振る。
笑い過ぎたダンテの目からは、時折ぽろぽろと涙が溢れていた。
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