不器用な、ふたり
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(あっ!……これ、可愛い!………………ねぇ、秀?これ買ってもいい?)
(ん?…別にいいのだが、そんな安物でいいのか?あっちの専門店の方がいいんじゃないか、葵)
(いーのぉ!、こういうのは安いとか高価とか関係ないのよ、秀?人を愛するのと一緒。)
(フッ…そうか、そういうものなのか。)
(そうよ?秀からの何気無い差し入れや他愛ない会話。休憩時間にくれる缶珈琲にも私にとっては素敵な思い出…アルバムなの。でも何より、いま私たちが恋仲であることが私にとってかけがえないものよ。)
(…………俺もだ。…では買ってやろう、婚約指輪として。)
そう告げて学生でも買える金額のアクセサリーショップで見かけた安物のペアリングを同僚で恋人の秀一が買ってくれた指輪は私達の婚約指輪として左薬指へとはめられた
それが、今現在……私の目の前で秀が身に付けていたリングが宙を舞い大きな水の底へと…………
『……え、……え、今…なんて、』
「聞こえなかったのか?……なら、もう1度だけ言う。葵、俺と別れろ………」
我々FBIが黒の組織と名付け呼んでいる組織に秀一が潜入捜査の任を受けてまだ3ヶ月も経ていない月日から私、葵は秀から一方的な連絡を貰った
スマホから聞こえた彼の声が嬉しいかったのと同時に私はなんだか、怯えたような気持ちに襲われたの
たった3ヶ月されど3ヶ月……懐かしい、恋しかった、ようやくまた会えた、何気無い川の上にある橋の場所に呼ばれ行くと、唐突すぎる告白に私の頭は真っ白に染まりそうになる
動揺を隠せず震える唇でその理由を問い質すと秀は……
「葵……人の心は虚ろいやすい。ただそれだけのことだ。一方的な想いは結局いずれ崩れる。だからいまここで俺はお前のいうアルバムにおさめた写真を破り捨ててやろう。」
そういうと秀一は瞳を閉じ葵の前で身に付けていたリングを外し、隣に流れる川へとリングを投げ捨てたのと同時に背中を向け立ち去る
空へと舞い上がるリングはやがて重力に逆らえず落ちていく
大きな水の底へと……沈んだ
膝を折り崩れた葵の口から漏れた言葉を赤井が知ることはない
『っ………秀…は………っ、優しい、ね……?』
俺は彼女の悲痛な顔など直視できなくて瞳を閉じ彼女と誓ったはずのリングを外し側にある川に投げ捨て踵をかえしその場を立ち去った
自分がしたことはどれ程の罪に問われるのだろうか?
そんな疑問が浮かび、自分を嘲笑った
大罪そのものだろうと?
自分は葵を守りたくて守りたくて……守りたくて、傷つけたんだ
これは守れたと言えるのだろうか?
あの組織は危険だ。
潜入捜査に身を置いている俺は組織の者に今近づいて情報を探っていた
そのとき、その者に葵との繋がりであるリングに目を付けられ焦りを隠しながら考えた結果がこれだ
ダンッッ!!
いま泊まり込んでいるホテルに帰った瞬間、壁に済まないと謝り切れない感情をぶつけた
その朝、同僚のジョディから連絡が入った
ピッ……
「なんだ、ジョディ……俺はいま潜入捜査に身を置いているんだ、連絡は「秀!すぐに病院に来て!葵が、葵が!?」!!?……おい!葵がどうしたんだ!?」
俺はホテルを飛び出しジョディに言われた病院へ向かいながら電話で聞かされた内容を頭の中で繰返し再生された
心の内で取り返しのつかない失態を犯した自分を責めた!何度も何度も"葵!、葵っ!!"と大切な恋人の名前を叫んだ
(昨日の夜に葵がびしょ濡れで帰ってきて、どうしたのか聞いても応えてくれなくてそのままお風呂に入ってすぐベッドで寝込んで、わたし彼女のことが気になって様子を見に行ったら葵…息してなくて!)
赤井は怒鳴るようにジョディに葵は大丈夫なのか!生きているのか!!と問い質すとジョディは"ええ、直ぐに人工呼吸をしてそしたら口から水を吐き出して一命をとりとめて念のため救急車を呼んで今いる病院のベッドで寝込んでいるわ"と報告をうけて緊迫から脱力した
病院に着き医師から葵は溺死しかけたみたいで、恐らく飲み込んでしまった水をそのままにベッドに寝たのが原因で溺死を引き起こしたと説明を受け原因を知り、やはり俺のせいだったのだと自分を責めるしかなかった
守っているようで結局は葵を守れていなかった………傷つけただけ、しかも彼女を死へと追いやってしまう始末
こんな自分がどうして彼女の側に居られようか?愛することが出来るのだろうか?
何かを決意したように俺は葵がいる病室に向かう
病室にたどり着き扉を少し開いた時、ジョディと葵の会話の声が聞こえてきた………
『ジョディ……秀は優しいのよ。』
「はあ!!?な、何言っているのよ!貴女は秀のせいで死にかけたのよ!そのリング、秀のでしょ!!」
ジョディのいう通りだ……葵、お前は何を言っている?俺が優しい、だと
『優しいよ?………だって私のためにあんなこと言って、このリングを捨てたの。あのね、秀がこのリングを投げ捨てるとき、彼……瞳を閉じて拳を握りしめてた。瞳を閉じていたのは私の悲しむ顔を見たくなかったから、震える拳は気持ちを圧し殺していたのよ。』
葵のその言葉にハッと息を呑み目を見開く
まさにその通りだったからだ
『私はそれに気づいていたのに……………彼を引き止めてそう言えば良かった。少しでも秀の心を和らげたかった、そんな貴方のことを私は一生愛していると…、これからもずっと赤井秀一という男性以外の人を私は、愛せない…』
少し開いた扉から見えた葵の表情
力なく笑っている顔でもなく悲しむ顔でもない
絶対的な決意の笑顔だった
「っ………じゃあ、貴女を思って別れた秀が別の女性を好きになってもいいっていうの!?」
『……いい。秀がその人と幸せなら私も幸せ。ふふっ……私は秀一にずっと片想いしている一生独身の女性で生涯を遂げて見せるわねジョディ!』
葵はそう言えば半ばジョディを病室から追い出す
俺は咄嗟に隠れ病院を去るジョディの後ろ姿を見ながら再び葵の病室の扉の前に立ち竦む
すると、病室から啜り泣く彼女の声色を耳にする
秀一っ……秀っ……と俺の名前を口にしている
本当に、馬鹿な女だ
こんな俺を生涯、愛し続けるなんて……
本当に………
馬鹿だな…………
俺、も……………………………
そっと扉を開け、俺に背中を向けて啜り泣く葵の体を抱きしめ、彼女の手の中にある自分が捨てたはずの婚約指輪をもう一度左薬指に通して驚いている彼女へ口付けを送った
『んっ!んんっ…、…ハァッ!……しゅ………しゅう。!……さっきジョディとの、話………』
「ああ………、お互い……不器用だったんだな?」
『え?……』
それが相手のためだと勝手に思い込んで更に傷つけた
…………守りたかったから、彼女を巻き込まないために
仕方がなかった。
だがお前がこうして感情を抑え込みながら悲しむのなら…、
「葵………お前の思う通り俺はお前に危険なことに巻き込みたくなくて、あんな酷な言葉とこの指輪を投げ捨てた。だが今、ようやく理解したよ。………なぁ?……こんな俺を待っててくれるか?全て片付いたら葵の元へ帰りたいんだ。」
『っ………ぅん!………待ってる。ずっと待ってるから!』
簡単なことだった
ちゃんと伝えていれば
守るために傷つけずに
すんだのにな?
"不器用な、ふたり"
(そんな優しい貴方が……好きよ………)
(優しすぎるお前が……好きだ……)