第8章 暫しの別れ
ファブールの村にたどり着いた一行は、まずはギルバートの教育係の占い師を探す事にした。
しかし、その教育係がどこにいるのかも見当が付かず、セシル達はファブールの村中をうろうろと何時間も歩き続けていた。
「何やってるんだろ、僕達……」
セシルが自らに失笑する。
「オイラ疲れた~~~~!」
「あたしも~……」
パロムとリディアがねを上げた。
「本当ね……」
ローザが何とはなしにギルバートの方を見ると、彼は顔色が悪く、非常に苦しそうに息をしている。
大丈夫かとローザが声をかけようとする前に、ギルバートはその場に倒れてしまった。
「ギルバート様!」
ポロムがギルバートの額に手を当てる。
「すごく、熱いですの……」
「どこかで休ませなくちゃ……」
セシルは動けないギルバートを背負って、キョロキョロと辺りを見渡した。
すると、金色の巻き毛の眼鏡の貴族風の青年が、血相を変えてセシルのもとに駆け寄ってきた。
「王子!!この少年は、ダムシアンのギルバート・クリス王子では?!いったいいかがされたのです?!」
「あ、はい……そうです。ちょっとムリをさせてしまって、倒れちゃって……あなたは?」
「ダムシアンにてギルバート・クリス王子の教育係を務めておりました、フォルテ・レセ・ヴィブレ・ド・アパッショナートと申します」
貴族風の青年は、丁寧に自己紹介した。
「とりあえず、私の館に参りましょう。王子を一刻も早くベッドにお連れしなければ」
フォルテに案内されて館についたセシル一行は、すぐにギルバートをベッドに寝かせた。
皆で懸命に介抱してようやくギルバートは落ち着いてすうすうと寝息を立て始めた。
「良かった……もう大丈夫かしら」
ローザはホッと胸を撫で下ろした。
「何時間も歩き通しだったからね……ちょっとギルにはつらかったかな」
「なんですって……?」
セシルの何気ない発言を、フォルテは聞き逃さなかった。
「王子を……。王子を、何時間も歩かせたのですか?」
まるでゴゴゴゴゴという音が聞こえるかのごとく、フォルテは怒りの形相になっている。
「え?えと……そうですが……」
セシルは怯んで思わず敬語になった。
「ギルちゃん、トロイアのお城を脱出する為走ってた時、ものすごく苦しそうだった……。ギルちゃんて体弱いの……?」
リディアが余計な事をフォルテに言った。
セシルがそれに内心あせったのは言うまでもない。
「走らせもしたんですか……?」
「そんで、今日みたいに何回か倒れてた」
パロムも余計な一言を付け加えた。
すると、フォルテは静かに爆発した。
「このお馬鹿さんどもが。全員呪わせて頂きます。えーえ、全員ですとも。お覚悟を。王子が死なれたらどうするおつもりだったんですか?薬もない状況で、そんなに無理ばかりさせていたとは」
「え……ギルちゃんてそんなに体弱いの?死なれたらって……」
「王子は外で活発に動くなど、ましてや侍医や薬もなしに旅など本来できるお体ではないのです。ここまで成長できたのが奇跡なくらいに。これ以上医者も薬もなしに無茶な旅を続けていては、このままでは死期を早めてしまうだけでしょう」
「では……ギルバート様は……」
ポロムがおずおずとフォルテを見上げた。
「ええ。旅はおやめになって頂きます。でも、生きていて下さって良かった……。ダムシアンはゴルベーザに襲われたと噂で耳にしたものですから」
フォルテは一瞬だけ優しい顔つきになったが、またすぐに真面目な顔に戻った。
「どうして君は、ギルの教育係なのにこのファブールにいるんだい?」
セシルが尋ねた。
「家族が全員流行り病にかかりまして、危篤状態に……。今は皆天に召されてしまいましたが。それよりセシルさん、あなたがたはこれから先どうしたら良いか知りたいようですね?まずはゾットの塔にお行きなさい。そこに行けば、道はひらけます」
セシル達は驚いた。何も言ってないのに、この男には全て見透かされていたのだろうか。
「な……何も言ってねーのに、なんでオイラ達の考えてることわかんだよ?」
「人より勘がいいだけですよ。これでも占い師ですから」
フォルテはそれだけ言って、ギルバートの柔らかな黒髪を撫でた。
「本当に……生きていて下さって良かった……」
数日後、ギルバートはようやく少しベッドから起き上がれるようになった。
「皆、足を引っ張ってしまって申し訳ないです……」
ベッドに腰掛けて、ギルバートはセシル達に謝った。
「いいんだよ、僕達が無理させちゃったのが悪いんだし……」
セシルが優しく言った。
「でも、元気になったらまたすぐ僕も……!」
「いいえ、いけません。王子」
ギルバートが意気込むも、フォルテがきっぱりと遮った。
「王子には、おイヤは承知でこの館で療養してて頂きます。リズ君も無しに旅でそこらへんを動き回るなどもっての他です。死にたいのですか?そのような死にかたをなさったら呪いますよ?」
ギルバートはぐうの音も出なかった。
そして、がっくりと頭を垂れた。
「では……。おとなしく、ここで休んでいることにします。これ以上セシル達に迷惑はかけられない……。でも、どうしても気がかりな事があるんです。セシル、お願いしてもいいですか?」
「なんだい?」
「僕の侍医に、リズ君という子がいて……。彼はダムシアンが襲撃された時にゴルベーザの魔法でどこかへ飛ばされてしまったけど、僕は彼が死んだとは到底思えないんです。だから、もしリズ君と会う事があったら伝えて下さい。クリスは、フォルテのもとで生きていると」
「わかった。リズ君てのはどんな人?」
「桜色の髪と目の、僕と同い年の子です」
「12歳?!」
セシルはびっくりするあまり、眼を見開いた。
「嘘だろう?!12歳で医者になんてなれるわけない!」
「ちなみに、リズ君が医師になったのは8歳の頃ですよ」
フォルテが付け足すと、セシルは「ええ――――――っ?!」とあとずさった。
そんなセシルの手に、ギルバートはひとつの美しい草を握らせた。
「……?何?これ?」
「『ひそひそう』と言ってね、とても不思議だけれど役に立つ草なんです。僕の代わりです。持っていって下さい」
「ありがとう。常に懐に忍ばせておくよ」
セシルはそう言って衣服の内側にひそひそうをしまった。
「ギルちゃん、さみしいけど早く良くなってね」
心配そうなリディアに、ギルバートは「大丈夫だよ」とニコッと笑ってみせた。
こうして、セシル達はゾットの塔へと向かう事となった。
その先に大きな運命が待ち受けているのは、知るよしもないまま――……。
しかし、その教育係がどこにいるのかも見当が付かず、セシル達はファブールの村中をうろうろと何時間も歩き続けていた。
「何やってるんだろ、僕達……」
セシルが自らに失笑する。
「オイラ疲れた~~~~!」
「あたしも~……」
パロムとリディアがねを上げた。
「本当ね……」
ローザが何とはなしにギルバートの方を見ると、彼は顔色が悪く、非常に苦しそうに息をしている。
大丈夫かとローザが声をかけようとする前に、ギルバートはその場に倒れてしまった。
「ギルバート様!」
ポロムがギルバートの額に手を当てる。
「すごく、熱いですの……」
「どこかで休ませなくちゃ……」
セシルは動けないギルバートを背負って、キョロキョロと辺りを見渡した。
すると、金色の巻き毛の眼鏡の貴族風の青年が、血相を変えてセシルのもとに駆け寄ってきた。
「王子!!この少年は、ダムシアンのギルバート・クリス王子では?!いったいいかがされたのです?!」
「あ、はい……そうです。ちょっとムリをさせてしまって、倒れちゃって……あなたは?」
「ダムシアンにてギルバート・クリス王子の教育係を務めておりました、フォルテ・レセ・ヴィブレ・ド・アパッショナートと申します」
貴族風の青年は、丁寧に自己紹介した。
「とりあえず、私の館に参りましょう。王子を一刻も早くベッドにお連れしなければ」
フォルテに案内されて館についたセシル一行は、すぐにギルバートをベッドに寝かせた。
皆で懸命に介抱してようやくギルバートは落ち着いてすうすうと寝息を立て始めた。
「良かった……もう大丈夫かしら」
ローザはホッと胸を撫で下ろした。
「何時間も歩き通しだったからね……ちょっとギルにはつらかったかな」
「なんですって……?」
セシルの何気ない発言を、フォルテは聞き逃さなかった。
「王子を……。王子を、何時間も歩かせたのですか?」
まるでゴゴゴゴゴという音が聞こえるかのごとく、フォルテは怒りの形相になっている。
「え?えと……そうですが……」
セシルは怯んで思わず敬語になった。
「ギルちゃん、トロイアのお城を脱出する為走ってた時、ものすごく苦しそうだった……。ギルちゃんて体弱いの……?」
リディアが余計な事をフォルテに言った。
セシルがそれに内心あせったのは言うまでもない。
「走らせもしたんですか……?」
「そんで、今日みたいに何回か倒れてた」
パロムも余計な一言を付け加えた。
すると、フォルテは静かに爆発した。
「このお馬鹿さんどもが。全員呪わせて頂きます。えーえ、全員ですとも。お覚悟を。王子が死なれたらどうするおつもりだったんですか?薬もない状況で、そんなに無理ばかりさせていたとは」
「え……ギルちゃんてそんなに体弱いの?死なれたらって……」
「王子は外で活発に動くなど、ましてや侍医や薬もなしに旅など本来できるお体ではないのです。ここまで成長できたのが奇跡なくらいに。これ以上医者も薬もなしに無茶な旅を続けていては、このままでは死期を早めてしまうだけでしょう」
「では……ギルバート様は……」
ポロムがおずおずとフォルテを見上げた。
「ええ。旅はおやめになって頂きます。でも、生きていて下さって良かった……。ダムシアンはゴルベーザに襲われたと噂で耳にしたものですから」
フォルテは一瞬だけ優しい顔つきになったが、またすぐに真面目な顔に戻った。
「どうして君は、ギルの教育係なのにこのファブールにいるんだい?」
セシルが尋ねた。
「家族が全員流行り病にかかりまして、危篤状態に……。今は皆天に召されてしまいましたが。それよりセシルさん、あなたがたはこれから先どうしたら良いか知りたいようですね?まずはゾットの塔にお行きなさい。そこに行けば、道はひらけます」
セシル達は驚いた。何も言ってないのに、この男には全て見透かされていたのだろうか。
「な……何も言ってねーのに、なんでオイラ達の考えてることわかんだよ?」
「人より勘がいいだけですよ。これでも占い師ですから」
フォルテはそれだけ言って、ギルバートの柔らかな黒髪を撫でた。
「本当に……生きていて下さって良かった……」
数日後、ギルバートはようやく少しベッドから起き上がれるようになった。
「皆、足を引っ張ってしまって申し訳ないです……」
ベッドに腰掛けて、ギルバートはセシル達に謝った。
「いいんだよ、僕達が無理させちゃったのが悪いんだし……」
セシルが優しく言った。
「でも、元気になったらまたすぐ僕も……!」
「いいえ、いけません。王子」
ギルバートが意気込むも、フォルテがきっぱりと遮った。
「王子には、おイヤは承知でこの館で療養してて頂きます。リズ君も無しに旅でそこらへんを動き回るなどもっての他です。死にたいのですか?そのような死にかたをなさったら呪いますよ?」
ギルバートはぐうの音も出なかった。
そして、がっくりと頭を垂れた。
「では……。おとなしく、ここで休んでいることにします。これ以上セシル達に迷惑はかけられない……。でも、どうしても気がかりな事があるんです。セシル、お願いしてもいいですか?」
「なんだい?」
「僕の侍医に、リズ君という子がいて……。彼はダムシアンが襲撃された時にゴルベーザの魔法でどこかへ飛ばされてしまったけど、僕は彼が死んだとは到底思えないんです。だから、もしリズ君と会う事があったら伝えて下さい。クリスは、フォルテのもとで生きていると」
「わかった。リズ君てのはどんな人?」
「桜色の髪と目の、僕と同い年の子です」
「12歳?!」
セシルはびっくりするあまり、眼を見開いた。
「嘘だろう?!12歳で医者になんてなれるわけない!」
「ちなみに、リズ君が医師になったのは8歳の頃ですよ」
フォルテが付け足すと、セシルは「ええ――――――っ?!」とあとずさった。
そんなセシルの手に、ギルバートはひとつの美しい草を握らせた。
「……?何?これ?」
「『ひそひそう』と言ってね、とても不思議だけれど役に立つ草なんです。僕の代わりです。持っていって下さい」
「ありがとう。常に懐に忍ばせておくよ」
セシルはそう言って衣服の内側にひそひそうをしまった。
「ギルちゃん、さみしいけど早く良くなってね」
心配そうなリディアに、ギルバートは「大丈夫だよ」とニコッと笑ってみせた。
こうして、セシル達はゾットの塔へと向かう事となった。
その先に大きな運命が待ち受けているのは、知るよしもないまま――……。