第5章 少年の想い

「クリス様ー!お薬のお時間ですよー!」

ここはダムシアン城。王子の寝室に、明るい声で桜色の髪と目の眼鏡をかけた白衣の少年が飲み薬を持って入室してきた。

「ありがとう。リズ君…」

ベッドの中の黒髪の少年、クリス…ギルバート・クリスは桜色の少年、リズに微笑んだ。

「飲みやすいように甘くしてみましたよ」

「ほんとだ…飲みやすいですね…」

薬をコクコクと飲みながら、ギルバートは言った。

「おかげで今日は少し調子がいいから、ベッドから出てみようかな……」

「ほんとですか?!良かったですね!では、御召し変えをしなくてはなりませんね!」

「はい。さすがに、寝てばかりではダメですから」

「でもご無理はなさらないで下さいね?」

「うん」

今日も、いつもの1日が送れる。

なんのへんてつもない日常が始まる。

そう思っていた。


ギルバートは寝間着から私服に着替え、リズと共に部屋の外に出た。

その時だった。

大きな音が響き渡り、城に火が付いたのは。

「?!」

ギルバートは思わずびくりとする。

「あっちからだ!!この音はおそらく黒魔法だ!!」

リズは、大きな音がした方向に走り出した。

「待って!リズ君!!」

それをギルバートは懸命に追う。

リズは、かつては玉座の間であった所で足を止めた。

そこは魔法で荒れ果て、王と王妃は息絶えて倒れている。

クリスタルを手にしたゴルベーザの足元で。

(お父様!!お母様…!!)

ギルバートは絶望した。

周囲では、大勢の兵士の遺体がごろごろと転がっている。

ゴルベーザは尚も魔法を放ち、城を破壊し始めた。

「うわああっ!」

その魔法に巻き込まれ、リズはどこかへ吹き飛ばされてしまった。

「リズ君!!
…………っ!」

ギルバートはゴルベーザをキッと睨み付けた。

「この悪魔!!」

ギルバートは拳を握り締め、ゴルベーザに向かい駆け出そうとする。

しかし、突然のめまいと吐き気に襲われ、ギルバートは倒れてしまった。

(こんな時に……こんな時に……っ)

体と心の苦痛から涙を流しながら苦しむギルバートを尻目に、ゴルベーザはどこかへと一瞬で消えていった。
1/4ページ
スキ