第8章 自分達だけの戦い

キード・モンガには、フィーノとカフェオレとレモンとブルーベリーとキルシュとピスタチオが向かう事となった。
キード・モンガに向かう道すがら、イベンセ岩場を通ったらそこには一匹のどーどーがいた。
「わ~かわい~~!」
フィーノがどーどーを撫でようと手を伸ばした、その時!
「その鳥にさわるな!!」
ニャムネルトの男が現れ、怒鳴ってきた。
フィーノは思わずびくりと肩を跳ね上げた。
「とつぜん何だっぴ~!?」
「まったくもう!びっくりしちゃったよ!」
フィーノはドキドキとする心臓のあたりを押さえた。
「すまない。おどかす気はなかったんだ。俺の名はネクター。タピオカティ村の生まれだけど、今は村から離れてるんだ」
ニャムネルトの男は、どうやらネクターというらしい。
「へー、タピオカティ村……」
フィーノが呟いた。
「タピオカティ村だっぴか!ニャムネルトの村だっぴ!」
「どーどーって、1000年も生きるんだぜ。信じられるかい?」
「知ってるわ。おばあちゃんから、よく聞いたもの」
「僕も本で読んだことあるー」
ブルーベリー、フィーノが言った。
「そして1000年ののちにもとの姿にもどる。呪われる前の……どーどーになる前の本当の姿にね」
ネクターが説明する。
「にわかには信じがたい話だっぴ……」
「だまって聞けよ。ったくもう!」
ピスタチオをキルシュが叱った。
「このどーどーも、もしかしたら人間や、精霊かもしれない。それなのに!!どーどーの肉や血がクスリになるからって、つかまえる連中がいるんだ!!そんな可愛そうなどーどーを安全な場所に集めて守ってやるのが俺の仕事さ」
「うんうん。大人ってきたねぇよな。ゆるせねぇぜ」
キルシュは共感するようにうなずく。
「まったくだね。そういう大人にはなりたくないや」
フィーノも共感してコクコクうなずいた。
「それじゃ。俺はこれで。おいで!どーどー!」
どーどーを連れて、ネクターはどこかへ行った。
フィーノ達も先へ進むことにした。
キード・モンガがあるゲアラヴァ村にだいぶ近付いて来た頃。
「あ~!!フィーノたち~!!」
向かい側から、キャンディが手を振ってやって来た。
「お~いたヌ~。見たことのある顔ヌ~」
カベルネに、シードルにオリーブもいるようだ。
「うわー!!キャンディにカベルネ~!それにシードル!元気だった!?」
フィーノはあえてオリーブの名前だけ呼ばなかった。
存在自体をも無視されてるのが心を読んで伝わり、オリーブは悲しくて黙ってうつむいてしまった。
「フィーノ、陰湿だっぴ」
「何が?」
「ぴっ……」
フィーノに睨み付けられてピスタチオは黙った。
「コイツはラッキーだな。次々と仲間がみつかるな」
レモンは明るい表情だ。
「みんな大丈夫だっぴか!?」
すると――……。
「キャァァァァァァァァッ!!!!」
「ななななななななッ!!なんだヌ~!!」
「イヤァァァァァァァァァッ!!たすけてぇぇぇぇぇっ!!」
キャンディ達四人はどこかへと消えてしまい、「ひっひっひ……」エニグマの声がどこからかフィーノ達の耳に入る。
「ひあ~~~~~~~ッ!!!!」
ピスタチオが悲鳴を上げた。
「チッ……!なんてこった!」
レモンが舌打ちした。
「いったい何がおきたんだッ!?」
キルシュがあたりを警戒する。
「ガウ――――――ン!!」
「ガウーンじゃないよ、カフェオレ!!」
フィーノが思わずツッコむ。
「こんなときに!どうしてっ!?」
ブルーベリーが言った。
すると、赤い体のエニグマが一匹現れた。
「闇のプレーンにつれて行ってやる……おとなしくするんだな……」
「……ヤバいわ、フィーノ……。今までのとは、ケタがちがう……」
「そうだね……」
ブルーベリーとフィーノが固唾を飲む。
「戦うしかないってことね……」
レモンが身構えた。
「ふざけんな!!返りうちだ!!」
キルシュも臨戦体勢に入る。
「行くっぴ~!!行きたいっぴ~!!戦うのイヤだっぴ~!!」
ピスタチオはすっかり怯えてしまっている。
その時、ガナッシュがエニグマの横から歩いてきた。
「手を貸そうか?」
「ガナッシュ!!」
フィーノはガナッシュの姿を見て、少し安心した。
「チッ……挟まれたか……」
エニグマは、ワープの魔法で逃げようとする。
「待て!!」
ガナッシュはそれを追い、ワープの魔法に巻き込まれてしまう。
「ガナッシュ!!やめろ!!深追いするな!!」
キルシュが叫んだ。
「ガナッシュ!!」
ブルーベリーも叫んだ。
「カッコつけすぎなんだよ!!あのバカッ!!」
レモンは額を押さえた。
「あわわわわわわわ……」
ピスタチオが慌てているうちに、ガナッシュの姿もエニグマの姿も消えてしまった。
「ウソでしょ……」
フィーノが呟いた。
「まいったな……闇のプレーンか……」
キルシュが言った。
「フゥ……行かなきゃいけないみたいね。私たちも、闇のプレーンに……」
次いで、ブルーベリーが言った。
「行きたくないっぴ!!オイラ、イヤだっぴ!!」
ピスタチオは涙目だ。
「ピスタチオ、勇気を出して!!みんながつれてかれたの見たでしょ!?」
フィーノがそんなピスタチオを叱責した。
「魔バスが動いたら彼らを探さなきゃね」
レモンが言った。
「行きましょう。行くとこはもう決まったわ」
と、ブルーベリー。
「行きますか。ここにいてもしょうがない」
「だね、キルシュ……キード・モンガに行こう」
――少しでも前に進む為に。
フィーノ達は再び歩き始めた。

フィーノ達がキード・モンガに足を踏み入れたのと同じ頃。
カシスもゲアラヴァ村に来ていた。
そこでカシスは、ある小屋の前から「んご……んごご……」という聞き覚えのある声を耳にする。
その小屋の前にいる見覚えのあるドワーフにカシスは近づいた。
「ようやくみつけたぜ!オッサン!!俺のダチを返しな!」
「ダチ!?お前の!?いんやぁ、なんのことかさ~っぱり」
見覚えのあるドワーフは、わざとらしくしらばっくれる。
そんなドワーフに、カシスは怒りを覚えた。
「てめぇ!切り刻まれてぇのか!?」
そんな時、怪しいドワーフが三人村に入ってきた。
「ここだな……。確かに気配を感じる……。とりあえず、ジャマなドワーフを消しておくか……」
怪しいドワーフは、闇の魔法を使い、村人のドワーフを1人消した。
突然の事に、村人のドワーフ達は驚き騒ぎだした。
「あんだ~~~~~!?シュクセイか~~~~!?シュクセイが始まっただか~~~~~!?」
「なにモンだ!キサマら!なぜドワーフが魔法を!?」
カシスも驚き警戒した。
「ヒゲのないのが一匹いるな。決めた。ヤツを宿主にする」
怪しいドワーフは、カシスにミジョテーの魔法を放ち、「ぐはっ!!」カシスは倒れてしまった。
魔法を放ったドワーフはカシスに近付き、他の怪しいドワーフは自分達は先に行くと言ってどこかへ行ってしまった。
「まさか、死んではいないだろうな……。もっとも、あの程度で死ぬのであれば、はなから用はないのだがな……」
「クッ……!!テメェ……」
カシスは痛みをこらえて体を起こし、怪しいドワーフにコンカッセの魔法を放つ。
「ゴブッ……!!」
怪しいドワーフは、地に伏してしまった。
「どこにそんな力が……グフッ……ダメだ……引きずられる……このままでは死んでしまう……次の宿主……っ、次の宿主を……っ!!」
怪しいドワーフの体から、エニグマのダブハスネルが抜けた。
「ユダンしすぎなんだよ」
カシスは一言言い捨てた。
その時、カシスの背後から見覚えのあるドワーフが!
目付きがどこか変だ。
「ユダンしたのは……どっちかな……?」
「!!」
カシスは驚いて振り向くも、ワープの魔法でどこかへ飛ばされてしまう。
「やはり、ドワーフではダメだ……。しばらく、コイツの中にひそんで……次の宿主を……」

フィーノ達はキード・モンガに入り、5階まで行った。
しかし、階段の前をドワーフが1人塞いでいる。
「ちょっと、どいて」
フィーノが困った顔をした。
「お前達、こんなとこであにしてるだー」
「このカフェオレをカイゾーしてもらいに行くんだ。入り口でちゃんと許可はもらってるぜ」
ドワーフの質問に、キルシュが答えた。
「まぁ、いい……。どうでもいい……。ただ……、カタキを取らせてくれ……」
なんとドワーフは、エニグマのダブハスネルに変わった。
「俺自身のカタキをな……!」
全員が身構え、カフェオレがびっくりしてあとずさった。
「んもう……!しつこいんだから!――ダブルフロー!」
「コールフロー!」
フィーノとブルーベリーが水の精霊を呼び出す。
次の瞬間!
「ミジョテー!」
「うわあああッ!!」
ダブハスネルの放った闇の魔法をくらい、フィーノは倒れてしまった。
「フィーノ!!大丈夫だっぴか!?」
「へ……平気……」
フィーノは口にカエルグミを押し込むと、飲み込んだ瞬間立ち上がり、大きく叫んで唱えた。
「ソーダフラッペ!!」
「ぐおおおおっ!!!!」
強烈な冷気により、ダブハスネルは体が凍てついて動けなくなる。
「チクショウ……さらに力を上げてやがる……!!しかし、覚えておけ……!ウィルオウィスプの卒業生のうち5人に1人はエニグマ憑きだ。やがて、お前らの国にも戦争が起きて、エニグマ憑きの者がこの世界の全てを手にする。その時になって、俺様と融合しなかったことを悔やむんじゃないぜ……くっくっくっく……」
そこまで言うと、ダブハスネルは体が破裂して消えてしまった。
「…………」
フィーノはうつむいて考えてしまった。
卒業生のうち5人に1人はエニグマ憑き。ならば、自分もエニグマ憑きになってもおかしくはないのではないか?
しかし、皆を裏切りたくはない。だが、融合はしたい。力に溺れ、哀しみや苦しみさえ感じなくなるくらいに意識の全てをエニグマに預けてしまいたい。どうすればいい?
「オイラ達が殺したワケじゃないっぴ……!!エニグマが融合した時にこうなる運命が決まっていたんだっぴ……!!」
「ヤバいわね……。早いとこケリをつけないと……」
ピスタチオ、ブルーベリーが言った。
「先を急ごう!!グズグズしてると追いつめられるだけだ!!なあ、フィーノ!!」
「……」
「フィーノ?」
レモンが話しかけるも、フィーノは黙ってうつむいている。
「フィーノ、どうした?なんだか思い詰めた顔して……」
「……もしかして、エニグマの言ったことを気にしてるのか?」
「大丈夫?顔色が良くないわ」
レモン、キルシュ、ブルーベリーがフィーノを心配した。
「大丈夫。なんでもない」
「なんでもなくないっぴ!!顔に書いてあるっぴ!!」
「ソウダ ハナシテミロ」
「ほんとになんでもないから。さあ、先へ進もう」
ピスタチオもカフェオレも心配するが、フィーノは強がって暗い顔のまま歩き出した。
ピスタチオは悔しかった。フィーノは親友なのに何も打ち明けてくれない。何かをひとりで抱え込んでいるのは明らかなのに。
(オイラは、そんなに頼りないっぴか?どうして何も話してくれないっぴ?どうしていつもいつもひとりで悩んでるっぴか?誰にも頼らないっぴか?)
ピスタチオは心の中でフィーノにといかけた。
当然、その質問に返事が返ってくる事はない……。

フィーノ達は上から降りてきてエレベーターに乗ろうとする。
するとどこからか不気味で怪しい声がフィーノ達の耳に入ってきた。
「くっくっくっく……。まちわびたぞ……。くっくっくっく……」
「ナンダ?コノ アヤシイワライゴエハ?」
「どこかに誰かひそんでやがるなっ!?」
全員警戒し、キョロキョロとあたりを見渡した。
すると、ドワーフが1人現れた。どこか様子が変だ。
「このエレベーターを使うためには……カエルグミをオラにあずけなきゃなんねぇんだ……。さぁ、あずけてけろ」
「え~~……しょうがないなぁ……」
怪しいと思いつつも、フィーノはドワーフに持っているカエルグミを全て預けた。
「くっくっくっく……オレの勝ちだ……。悪く思うなよ……」
ドワーフはダブハスネルに変わった!正体はエニグマだったようだ。
「もぉ――――っ!!もうやだ!!エニグマしつっこい!!」
フィーノの怒号と共に、ダブハスネルの上から氷の槍が幾つも降りかかる。
幾つもの巨大な氷の槍に貫かれ、ダブハスネルはあっけなく倒れた。
「くっくっくっく……。俺を倒したところで、誰かがその力を手に入れる……。その強さを手に入れるのはどのエニグマかな……。くっくっくっく……」
ダブハスネルは消滅してしまった。
フィーノはまた思い詰めたような表情になるも、無言でエレベーターに乗った。
エレベーターに乗っている間、ずっとフィーノは一言も喋らなかった。

その後、無事にグレナデンのもとにつけたフィーノ達。
しかし、グレナデンはなかなか首を縦に振ってはくれなそうだった。
「ドワーフのワザはドワーフのモンだ。他のモンに使わす気はねぇ。帰ってけれ」
「申し訳ないが、頼みがあるんだ。ここに連れてきた古代機械を魔動力ジェネレーターにカイゾーしてほしいんだ。できるか?……じゃなくて、やってもらえますか?」
キルシュが彼なりに丁寧にお願いした。
「魔動力ジェネレーターなど手に入れて、何するだ?宇宙の果てにでもワープするマシンでも作る気だか? 」
「違います」
フィーノが短く返答した。
「ハハァ~ン、行き先は闇のプレーンだなっや?顔に書いてあるべさ」
「はい」
再度フィーノは返答した。
「闇のプレーンに行って戦争でもおっぱじめるだか?」
「まさか!そんなこと!」
フィーノは首をブンブン横に振った。
「フン。最初からわかってるだ。お前達、実はエニグマじゃなかんべか?闇のプレーンに帰る方法がわからなくなったべ?」
「怒るよ?」
フィーノの目付きがキツくなった。
「どっちにしても、ここではもう危険なモンは作らん。帰ってけろ」
「そこをなんとか……」
フィーノが食い下がった。
「オラたちの仕事でよ、いっぱい人が死んだだよ。お前らに何か作ってやっても人を殺すだけで、生かしやしねぇだ」
「そんなことない!!」
思った以上に、フィーノは大きな声を出してしまった。
「お前ら、何モンかと戦ってるべ?」
「……はい」
フィーノはコクリとうなずいた。
「それはお前たちが、戦うことが好きだからだべさ」
「いいえ」
「好きでもないのに、仕方なく戦うだか?」
フィーノは黙ってうなずいた。
「ケッ……大体は見当ついただ。どうせ、誰かを助ける為とか言うんじゃなかんべか?」
「そうです。大切な人達を助けたいんです」
フィーノは力強く答えた。
「誰かを助ける……。……。誰かを助けに、闇のプレーンに行くだか?」
「はい」
「するってぇと、お前達の助けようとしてるヤツってなぁエニグマにでもさらわれて闇のプレーンにいるとでも言うだか?」
「そうです」
「反対に言うと、エニグマにさらわれたヤツが助けようとした、お前を闇のプレーンでさらわれただか?」
「え?えと……よくわからないけど、そうだと思います」
フィーノはグレナデンの言葉の意味が理解できずも、とりあえず肯定した。
「うーん、わかったようなわからんような……。では、こうしよう!!お前達の腕を見せてくれ!」
「僕らの腕?」
「ええのかー?ここは、ボケのポイントだべー。誰もボケんでええのか?次へ行くだぞー」
意外とオチャメなグレナデン。
フィーノは「遠慮しときます……」とボケるのは控えておいた。
「オラたちのサイコーケッサク!!タルタルちゃんと戦うだ!!見事、これに勝てたら、お前たちを本物と認めるだ!ただし!!負けたら死ぬことになる!!ガチンコの勝負だべ!!やってみるだか!?」
「わかりました!やってみます!」
「ならば行くぞ!!いでよ!!タルタルちゃん!!」
グレナデンの声を合図にしたかのように、大きな狂暴な機械が柵が開くと同時に部屋に放たれた。
「はが――――――っ!!」
タルタルちゃんはピスタチオのほうに向かっていく。
「ぴっ!?」
ピスタチオはぶるぶると震えだした。
「こ、こ、来ないでほしいっぴ――――!オイラ死にたくないっぴ――――っ!」
ピスタチオは恐怖心から必死で巨大で硬いどんぐりを魔力で作り上げ、それを思い切りタルタルちゃんに投げ付けた。『どんぐりんこ』の魔法だ。
タルタルちゃんはその衝撃で壊れたのか、動かなくなった。
「ピスタチオやったじゃん!!君って強い!!」
「もう動かないっぴか?襲って来ないっぴか?」
フィーノがほめるも、ピスタチオはまだビクビクしている。
グレナデンはそれを見て感激した。
「スンばらスィ!!お前達ならやれる!!ソイツをカイゾーしてやるだ!!今の機能とカタチは、そのままでやってやるだでよ!!」
こうしてカフェオレを改造してもらうことができ、カフェオレはめでたく魔動力ジェネレーターになれた。
その後魔バスへ行くと、カフェオレの姿を見てバルサミコは喜んだ。
「おう!!いいねぇ!!いい感じになったねぇ!!さっそく魔バスにつないでみるけど、いいかい?」
「あー、やっちゃってやっちゃって」
フィーノは軽いノリで承諾する。
「いいね~バッチシだよ。コレで闇のプレーンだろうが、もとの世界へだろうが自由に行けるわなぁ。1回は」
「さっそく闇のプレーンに行くぜ!覚悟はできてるか!?」
「ちょいまて、キルシュ。バルサミコ、今、なんつった?」
レモンが再確認すると、バルサミコは「闇のプレーンだろうが、もとの世界へだろうが自由に行けるわなぁ。1回は」と再度言い直した。
「マジで!?それって貴重じゃない!?」
フィーノが言った。
「1回だけだっぴか?」
「闇のプレーンになんか、何度も行きたくねぇよ。1回でいいだろ?さっさと行こうぜ!のんびりしてられるかよ!」
「あっちゃ――……、ほんとキルシュって……」
フィーノは呆れて額を押さえた。
「キルシュ、あなたアタマ使ってる?1度っきりってことは行ったらもう帰れないってことじゃないの?」
ブルーベリーがフィーノの言いたい事をズバリと言ってくれた。
「でもそれじゃ、ガナッシュ達を助けに行けないじゃな~い?」
アランシアが言った。
「あ、それもそっか……」
フィーノはアランシアの意見を素直に認めた。
「カフェオレのトランスが1回しかもたねぇからよぉ。学校にもどって魔バスをちゃんと修理すりゃなんとかなるんじゃねぇの?」
バルサミコが言った。
「つまり帰るしかないってことだっぴ」
「マァ、ソウイウコトダ。ココハカエルシカナイト」
「魔バスの修理ってどのくらいかかるんだ?ガナッシュやキャンディは大丈夫なのか?」
と、キルシュ。
「あせったってしょうがないよ。カクジツな方法を選ぼう。帰るよ、学校に」
レモンが言った。
「りょ~~~~~~かい!行くぜっ!ワ――――――――――――――――――――ップ!」
「イッ……!!イッ……!!!!イヒャ――――――――――ッ!!」
カフェオレの悲鳴と共に、魔バスは魔法学校にワープした。
「プシュ~~~~……」
皆は魔バスから降りた。
「ついたわ」
ブルーベリーが言った。
「ふ~。それじゃ、オイラはこれで……」
「キャンプを途中でやめたら退学だぜ!それでもいいのか?」
グラン・ドラジェは言っていたのだ。ヴァレンシア海岸に向かう前、全員に。キャンプの途中でねをあげて帰って来たら退学だと。
「あの時とは、ぜんぜんジョウキョウがちがうっぴ!!」
「……そうかなぁ……。校長先生は全部知っていたんじゃないかなぁ」
「僕もそう思う……」
アランシアの意見を、フィーノが肯定した。
「知っててオイラ達をキャンプに向かわせたっぴか!?」
「この学校の卒業生の5人に1人はエニグマ憑き……もし、それが本当なら、もうすぐ戦争が始まるってのもありえない話じゃないわ」
「大人達じゃ解決できない何かを探させる為に、危険を承知で私達をエニグマに会わせたのかも知れないね……」
アランシア、ブルーベリーが言った。
「よく気がついたじゃねぇか、少年少女よ。実は、魔バスを光のプレーンに送り込んだのは、エニグマじゃなくて校長なんだ。この国のほかの魔法使いはだれひとりとして、敵か味方かわからねぇ。いざって時に、グラン・ドラジェが頼れるのはお前らだけなんだ」
バルサミコが説明する。キルシュが「なんてこった……」と呟いた。
「私達、グラン・ドラジェに見込まれてますの!?」
「喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら」
「だね、レモン……」
ははは、と渇いた薄笑いをフィーノは浮かべた。
「イクシカ ナイッテ コトダゼ ベイベ~」
「オニだっぴ……。先生はオニだっぴ……」
「……ハァ……。なんだか、気が遠くなってきたわ。だけど、大人達に頼れないってわかった以上、私達でなんとかしなきゃ!!」
ブルーベリーが意を決する。
「急ぐんだったら、俺が召喚機を動かしてやるぜ!召喚機ってのは、他のプレーンから生き物を呼び出したりする機械なんだが、カイゾーすれば、こっちから向こうに生き物を送り込めるようにもなる」
「それじゃ、順番に1人ずつ行くかーっ!」
バルサミコとキルシュが言った。
「オイラはイヤだっぴ!!」
「おおっと、あせるなよ!行けるのはカフェオレだけだ!」
「オレカ……ガックシ……」
「ドワーフにカイゾーしてもらったジェネレーターにだなぁ召喚機の魔道パルスを流してなんか、タービンを逆回転させるわけよ」
「セツメイガ アバウト ナンデスケド……。シクシク……」
「で、カフェオレにガナッシュらを探しておいてもらう。魔バスが修理できたらすぐに助けに行く。これでいいだろ?」
「だけど、カフェオレだけが行ったところで!」
キルシュが言った。
「私も行くよ。カフェオレといっしょに召喚機に入ればいっしょに行けるだろ?」
レモンが申し出た。
「私も!!」
ブルーベリーも申し出た。
「私も行きますの!」
ペシュもだ。
「そんなに何人も入れねぇ。せいぜい3人だろ」
「じゃあ、私とレモン!」
「誰と行くかは、カフェオレが決めな。カフェオレが一番頼れるヤツを選ぶといい」
バルサミコが言った。
「イカナイッテノハ ダメデスカ……?ダメデスネ……。ワカッテマシタ……。シクシクシク……」
「カフェオレちゃん!がんば!」
「……。シクシクシク……」
「それじゃ、俺は召喚機をカイゾーしてくらぁ」
バルサミコは魔法学校の中に行ってしまった。
「で?誰と行くの?」
アランシアがカフェオレに訊いた。
「ソレデハ ボウシガステキナ フィーノサンニ……2000テン……」
「はあ、どうも」
フィーノはとりあえず適当に礼を言った。
「ボケてる場合じゃねぇだろ……」
キルシュのごもっともな意見。
「フィーノ、それでいい?」
「うん、僕行くよ」
レモンの問いかけに、フィーノは素直にうなずいた。
「あなたなら、そう言うと思ったわ」
ブルーベリーが微笑んだ。
「フィーノと……もう1人は?」
アランシアが言った瞬間、ピスタチオがあとずさった。
「ソウダンシテモ イーデスカ~?」
「う~ん、そうだね~~」
カフェオレとフィーノが笑顔と笑顔で会話する。
「キンチョー感ないなぁ。心がなごんできたよ」
キルシュはあきれ半分脱力半分だ。
「よし!ピスタチオ行こう!」
フィーノが揚々と言った。
「オイラだっぴか~~~~~ッ!?」
「まあまあ、行こうよ、親友じゃん。君がいると安心するしさ、ねっ」
フィーノはピスタチオの肩をポンポン叩いた。
こう言われては拒否しづらい。
ピスタチオは涙目でガックリした。

いよいよ召喚機に入る時が来た。
「魔バスが修理できたらすぐむかえに行くからなー。それまでがんばれよー」
「オイラ、なにしてるっぴ……?どうしてオイラがここに……?」
ピスタチオはショックがまだ続いてるのか呆然としている。
「闇のプレーンに行ったら、ギュウヒ・オグラを探しな。ギュウヒ・オグラは、以前はこの学校で各プレーンの地理について教えていたんだ。今は引退して闇のプレーンにいるって話だ。まずはギュウヒ・オグラを探して、闇のプレーンの地図をもらうといい。ギュウヒ・オグラはレヒカフ沼の南西あたりにいるって話だ」
「オッケー!」
フィーノが明るく返した。
「ソレデハ ミナサン!!ジュンビハ イーデスカ!?」
「よぉし!行こ行こ!」
フィーノはピスタチオを引きずって、無理矢理自分とカフェオレといっしょに召喚機に詰めた。
「死ぬなよ~!」
バルサミコの声と共に、召喚機が閉じ、3人は闇のプレーンに送られた。
部屋は少しだけ静かになった。
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