第7章 迫り来る闇の足音
カフェオレを探しに行くことになった、フィーノとレモンとブルーベリーとペシュの四人。
レーミッツ宮殿の北西にある裏門へ行くと、魔物がドワーフ二人を回していた。
「……なんだありゃ」
フィーノが怪訝な顔をした。
「ひゃっひゃっひゃっひゃっ」
「やんだーたすけてけろー」
ドワーフのヌクマムが、回されながら助けを求めている。
フィーノ達は、裏門へ行きたかったので仕方なく奥へ行った。
「なんだ――――ッ!?お前たちわ――――ッ!?お前らも、ドワーフみてぇにクルクルまわしてやろうか――――――――――ッ!?」
「は?意味わかんない。付き合ってらんないよ」
フィーノがズバッと言い放った。
「なんだとォォォォォォ――――――――ッ!!!!ゆるせんぞ!!お前!!殺――――――――ッす!!」
すると魔物は、足を前に突きだしてきた。
すると、物凄い悪臭がその足から!
「うっ……」
ブルーベリーは、あまりの臭さに思わず吐き気をもよおした。
「く、くさっ!目にしみる!涙出てきた……オエッ」
フィーノは涙を流しながら吐き気に耐えた。
その隣では、ペシュが鼻を摘まみながらうずくまってプルプル震えている。
しかし、レモンは強かった。
「くっせぇんだよコラ――――――ッ!!ふざけんじゃねえ!!フラッシャー!!!!」
「ぐおおおおおお!?」
レモンの怒りの電撃が、魔物を覆う。
「うお――――――ッ!!ゆるせ――――――ん!!ゆるせんぞ――――ッ!!おぼえておけよ――――ッ!!」
そう叫び、魔物は地に付して動かなくなった。
「いんやー!!たすかっただー!!」
ドワーフのヌクマムが喜んだ。
「もー、感謝カンゲキアメアラレだべ~」
ドワーフのナンプラもとても喜んでいる。
「アイツは、ブッチーネ3世っつー、バケモンでよ~ドワーフをまわしはじめたら死ぬまでやめねんだー」
「へー、何考えてんのかわかんないね」
ヌクマムの言葉に、フィーノが相槌を打つ。
「いんや、命びろいしたないや」
ナンプラが言った。
「んだずー。命のおん人だ。この門は自由に通ってけれ」
「いいの!?」
ヌクマムの言葉に、フィーノはパアッと顔を輝かせた。
「金は後でええだな?」と、ナンプラー。
「んだず。後でええだ」
ヌクマムも気前よく言った。
こうしてフィーノ達は、裏門をくぐる事が出来た。
「ようやく宮殿を抜けたわね。カフェオレを探しに行けるわ」
ブルーベリーが言った。
「ところで、マドレーヌ先生のことなんだけど……。あの先生、ぼーっとしてるだろ?こっちの世界に来てたとしたら、ヤバいんじゃないかな?カフェオレが見つかったらすぐにさがしだして、助けてあげなきゃ」
「わかる~」
レモンの言葉に、フィーノがウンウンうなずいた。
闇のプレーンの森深く。エニグマの死体がごろごろ倒れている所に、マドレーヌ先生はいた。
「生徒たちはどこにいるの!?返しなさい!!」
「コイツ……なにもんだ……これではキリがない……!」
ピスカプークが恐れをなした。
「それはこっちのセリフよ!!ケルレンドゥはどこにいるの!?直で話をつけるわ!会わせなさい!」
「ケルレンドゥを知ってる……!?」
「人間のくせに……!?」
ピスカプーク達がざわついた。
すると、ピスカプーク達とは別方向からエニグマのエキウロクリュが現れた。
「虫ケラの名前を一つ 知っていたところでどうする……。それに、虫ケラは死んだ……。たった今……。くっくっくっく……」
「誰……!?」
マドレーヌ先生は警戒した。
「誰でもよかろう……」
「私の生徒をこっちの世界に引きこんだのは、あなたね!?」
「お前の生徒はここには来ていない。光のプレーンにいる。学生ごときは、我らが光の中にあっても、恐れる存在ではない」
「私だけ特別に闇のプレーンにごしょうたいされたわけね。ありがとう。おそれいるわ」
マドレーヌ先生が皮肉めいて吐き捨てた。
「ケッケッケッケ!!光のプレーンはもうすぐ落ちる。太古の魔法と、ドワーフの技術が俺たちのものになる。そして、俺たちが宇宙を支配する」
ピスカプークが高笑いした。
「俺と融合しろ。どのプレーンにも行けるぞ。クックックックック」
エキウロクリュが不気味に笑った。
「ケルレンドゥ配下のエニグマは一匹もいないのね……」
「虫ケラどもは、みんな死んだ。生まれ変わるために。キオクを消し、生まれ変わる。エニグマは一つになる。俺がエニグマの王になる」
エキウロクリュが言った。
「フゥ……。いやになるなぁ、もう。宿主を持たないエニグマが、そんなに強いのかしら?」
「なんだと……!?」
エキウロクリュが声を低くした。
「あなたたちじゃ、私の生徒にも勝てないわ」
「なんだってぇ~?」
ピスカプークはマドレーヌ先生に詰め寄る。
「光のプレーンにいるんでしょ?だったら、あせる必要もないな」
「お前が言ってることは、すべてただのハッタリだ。思い知らせてやる」
エキウロクリュが脅すように言った。
「ハァ……。やれやれ……。またどこかでお会いしましょう」
マドレーヌ先生は、どこかへワープの魔法を使って姿を消していった。
「!!!!」
「逃げたぞ!!ワープしやがった!!」
「ハッタリじゃない!!ワープの魔法を使ったぞ!!」
ピスカプーク達は驚きを隠せずにいる。
「チッ!!光のプレーンはあとだ!!ガキどもと、あの女を殺す!!闇のプレーンに引きずりこめ!!」
エキウロクリュも叫んだ。これは開戦の合図でもある声だった。
裏門を通ることができたフィーノ達。
さらに進むと、ドワーフ二人がなにやらもめていた。
「通るのは勝手だけんども……おめさ、キード・モンガにゃ入れねーだぞ?わがってんだか?」
ドワーフのアングレースが、ドワーフのクアトロファルマッジに言う。
「あに言うだ。同じドワーフでねげ。ちょっくら機械を借りに行くくれー、かまわねべさ」
「オラたちゃ、エリートだー。おめーたち、人形いじりしてるよーなドワーフと、いっしょくたにするんでね」
アングレースはピシャリとはねのけた。
「ありゃりゃ。ケンカかな?」
「ドワーフ同士でもめてるみたいね……」
フィーノに次いで、ブルーベリーが言った。
「まったくもう!!ケンカはいけませんの!!私がしかってあげますの!!」
ドワーフたちの方へ近づくと、よく見ればクアトロフォルマッジの前に見慣れた姿があった。
「ショコラ!!」
「あ――――。レモン――――」
「ショコラ!!無事だったのね!!」
「ありょ?追っ手さ来ただか」
クアトロファルマッジは、ショコラを押しながら逃げて行った。
「あっ!!逃げますの!!」
「こらー!!ショコラを返せ――!!連れてくなーっ!!」
フィーノが叫んだ。
「追いかけるぜ!!」
レモンが言うと、四人は急いでクアトロフォルマッジが逃げた方向へ行った。
ショコラを連れて行ったクアトロフォルマッジを追ってイベンセ岩場へ行って、四人はあたりをキョロキョロ見渡した。
しかしそこには、ショコラの姿もクアトロフォルマッジの姿もなかった。
「……。見当たらない……。どこに行ったのかしら?」
「キード・モンガがどうこう言ってたよな……」
「キード・モンガ!!ドワーフの塔ですの!!」
「チッ……。やっかいなことになってきたぜ」
レモンが舌打ちした。
「あっ!あそこ見て!あそこにもドワーフがいる!」
フィーノが遠くを指差すと、そこにはドワーフとマジックドールが。
皆はそこに行ってみる事にした。
「オラ、MD職人のウスターだ。おめぇ、マジックドールさ知ってるべか?」
「知ってるよ。ウィルオウィスプにもあったもん」
フィーノが答えた。
「んったら、話は早ぇ。オラ、ピンときたべさ。おめぇは、えー職人になるだよ。光のプレーンいちの、いんや、この宇宙いちのマジックドール職人によぉ!!」
「はあ。マジで?」
フィーノが茶を濁した。
「そこで、おめぇさみこんでたのみがあんだぁ。オラのマジックドール、MD05-サーディン引きとって欲しいんだ。もちろんタダでええ。オラ、他のドワーフみてぇにカネカネ言うのは好きでね。どうだ?オラのMD05-サーディン、引きとってくれるか?」
「いいよ、戦力になりそうだし!おいで~サーディン」
フィーノはニッコリして手招きする。
マジックドールのサーディンは、フィーノの方へ歩み寄っていった。
「ありがてぇぇぇぇ。オラ、涙出そうだぁぁぁ。引渡しの前に、カンタンにマジックドールの説明さしとくべさ。オラが引き渡すマジックドールはキホンのマジックドールだべ。この、キホンのマジックドールだけでは、実のところ、なーんもできねんだ。マジックドールは、5つの材料さ組みこんで、強くしてやんねといげねんだ。5つの材料がそろわねぇと、能力も最低のままだし、魂の入魂もできねんだ。魂の入魂ができねぇってこたぁ、すなわち、ヘボのまんまってことだべさ。てところで……まいったな。どこから説明すべかー?」
「あー大丈夫大丈夫、マジックドールのことなら本で読んだことがあるからバッチリだよ」
「フィーノちゃん、さすが読書家ですの~」
「それなら話ははええだな!ほっだらな、MDに組み込む素材は、そのへんに落ちてるハズだから、さがしてくれや。よろしくたのんだでよ」
「はーい。あんがとね~おじさん」
マジックドールのサーディンは、無事素材も組み込まれ、ブルーベリーの魂が入魂された。
こうして新たな仲間が加わった。
サーディンを仲間に入れたフィーノ達はロッシュの川べりへ行った。
そこにはカシスがいて、チッと舌打ちしながらあたりをキョロキョロしている。
「まいったなぁ……。どこに行きやがったんだ、あのドワーフめ!!」
「あれは!!」
フィーノがカシスに気付いた。
「カシスちゃんですの!!」
「ちょうどいい!!ショコラはあいつにまかせよう!」
「そうだねレモン!そうしよう!おーい!カシスー!!」
フィーノ達は、カシスのもとへ駆け寄った。
「レモンにブルーベリー!!フィーノにぺシュ!!無事だったんだな!」
「あと、キルシュとアランシアとピスタチオがいるわよ。東のほうに、魔バスが来てるんだけど、そこにいるわ」
「魔バス!!そんなモンまで来てんのか!!」
カシスは驚いた表情を見せた。
「それより、ショコラがドワーフにさらわれたんだ!!助けなきゃ!!」
レモンが言った。
「見かけたのか!?どっちだ!?」
「宮殿の裏門の西の方ですの!キード・モンガに向かったみたいですの!!」
「なんてこった!!なんで後を追わないんだ!!」
「私たちはカフェオレを助けに行かなきゃいけないの」
「カフェオレか……。忘れるところだった。アイツは、オーブンに改造されてチーズの塔でチーズケーキを焼いてるぜ」
「おめぇこそ、なんで助けてやらねぇんだよ!!」
「そうだよ!!そこまでわかってるくせに、どーして助けないわけ!?それって一大事じゃん!!」
レモンとフィーノが声を荒くした。
「チーズの塔は、やっかいなんだ。後回しだ」
「やっかい?」
フィーノが首を傾げた。
「やっかい……って、いったい何がやっかいですの!?」
「行けば、わかるさ。二手に別れよう。俺がショコラを追う。お前たちはカフェオレだ」
「そんなこと言われなくったってそのつもりよ!!」
「OK。カフェオレはまかせたぜ。無事にもとの世界に帰ったらデートしようぜ、ブルーベリー」
「イヤよ」
ブルーベリーはプイとそっぽを向いた。
「それじゃ、アランシアでもさそいますか。それじゃあな!」
軽口を叩きながら、カシスは行ってしまった。
「なによ。誰でもいいんじゃない」
ブルーベリーはご立腹のようだ。
「からかわれてるだけよ。相手にしなくていいよ」
「そうそう、単なるバカシスだよ。そういえばあのバカシス、僕が入学した初日も僕のこと女の子と勘違いして口説いてたでしょ。そんなバカシスのことなんて気にする必要ないよ」
「ほんとバカシスだよな~。数年前から成長してねぇなアイツ」
「フィーノちゃん可愛い顔してるからですの」
バカシス談義で盛り上がっていると、そのバカシスが走って戻ってきた。
「そうそう、この先に虫好きのブッ壊れた男がいるぜ!」
「いきなり何ですの!?」
「セサミがいるの?連れていけばいいのに」
虫好きのブッ壊れた男という説明だけで、レモンがセサミのことだと理解できたことにフィーノはツッコみたかった。
「アンタらがさそってみなよ。ついてくるかどうか」
それだけ言うなり、カシスはまた行ってしまった。
「あー!もう!なにあの男!!あんなしゃべり方しかできないの!?」
ブルーベリーが激怒した。
「だから、気にするなって」
「やれやれだぜブラザー」
フィーノはキルシュの口癖を真似しながら、首を少し左右に振った。
やがて、ロッシュの一本橋にて。
「ひゃっは――――ッ!!虫がいっぱいだ――――ッ!!」
カシスの言った通りセサミがいたが、虫に夢中で呼んでもこちらに気づかないのである。
なるほど、確かに虫好きのブッ壊れた男だ。
「おーい、セサミー」
「ひゃっは――――ッ!!」
「セサミくーん」
「虫だ虫だ――――ッ!!」
「…………」
フィーノの中で何かが切れた。
フィーノはセサミの頭上でハリセン型に水を溜めると、それを勢い良くセサミの頭に叩きつけた。……セサミは倒れてしまった。
「フィーノちゃん、なんてことを!!」
「いくらなんでもこれで気付くでしょ」
しかしセサミはむくりと起き上がると、「虫ちゃん待て待て――――。あはははは」また虫を追いかけ始めた。
「……よし、もうほっとこう。置いていこう。確かにこいつは虫好きのブッ壊れた男だ」
誰もフィーノの意見に反対する者はいなかった。
丸太橋の所まで行くと、セサミの方から声が聞こえてきた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッ!!」
「どうしたでぺたん!!だいじょうぶでぺたこんか!?うぎゃっ!!」
次いで、こんにゃく様らしき声も。
「セサミ!?どうかしたのかしら!?ちょっともどってみましょう!」
ちょっと戻ってセサミのところへ行ってみると、セサミがこんにゃく様の前で腰を抜かしていた。
「だいじょうぶ!?いったい何があったの!?」
ブルーベリーがセサミを助け起こした。
「こ……こ……、こん……こんにゃくがしゃべったぁ――――――――――――――ッ!!」
「いきなりぶつかってきて何を言うでぺたこ――――ん!!」
「そんなことかよ……。まったく……。この世界では、こんにゃくだってツボだってしゃべるんだよ。わかってなかったの?」
「……。なーんだ……。セサミちゃん、こんにゃく様をはじめて見たんですのね。あきれましたの」
「まったくもう!!そんなことであんな大声を!まぎらわしいんだからっ!こんにゃく様がしゃべるのなんてあたりまえでしょ!」
セサミはたったの一言で女性陣から一斉に呆れられてしまった。
「こんにゃくがしゃべってんだぜ!!どうなってんだよ!!!!フシギじゃねぇのかよ!!オイ!!」
「大事な用事があるのに~~!こんなとこで足止めされるのはごめんなさいでぺたこ――――――――――ん!!」
こんにゃく様はどこかに行ってしまった。
「だって、ほら……こんにゃくが……」
セサミはまだうろたえている。
「ふざけるのもいいかげんにして!」
ブルーベリーが怒った。
「ぺたーん、とか……。ぺたこーん、とか……。………………」
「あのねえセサミ。不思議だってのも一理あるし気持ちはわかるけど……。いちいちびっくりしてたらキリがないでしょ?」
フィーノがなだめるように言うと、セサミは乾いた笑顔を浮かべた。
「……。やっぱりいいです。ボクがどうかしてました。はははははは」
そして、また虫を追いかけだした。切り替えの早い男である。
「虫ちゃ~ん、出ておいで~。はははははは」
そして再度セサミは、フィーノ達に放っておかれたのだった。
フィーノ達はカフェオレを助けにピップルスタウンにあるラ・ロッシュの塔に行ったが、カタギの者は入れないと断固拒否された。
そんな時だ。ピップルスの1人から、こんな事を聞いたのは。
「この町では、コインの取引は禁止だ。店で金貨や銀貨を売るんじゃねぇぞ。わかったな」
フィーノは当然やりたくなかったが、カタギの者は入れないと言われたラ・ロッシュの塔に入る為に仕方なく金貨を売った。
すると、店の近くにいたピップルスがフィーノ達を睨み付け、怒鳴ってきた。
「てめぇ、コインを売りやがったな?この町がコイン売買禁止と知ってて売りやがったのか?」
フィーノは黙ってうなずいた。
ピップルスは納得したように笑いだした。
「はっはっは!アンタ、この道のモンだな。一目見りゃ、わかるぜ。俺たちのカシラが、お前の持ってる金貨や銀貨を高く買ってくれるはずだ。オカシラは、ラ・ロッシュの塔の最上階にいるはずだ。俺が会わせてやるよ。だが、すぐには会えねぇ。オカシラの命をねらってるヤツはゴマンといるからな。まずは、塔の入り口の男に、火のシールをわたしな。あとは指示にしたがえばいい」
ピップルスは笑いながら火のシールをフィーノに渡し、どこかへ歩いて行った。
「こ……この僕が、この道のモンだってぇ~っ!?失礼しちゃうなあ!もう!」
「まあまあ、いいじゃん。結果的にはいい方向に行ったんだし」
拗ねたフィーノを、レモンがケラケラ宥めた。
「普段品行方正なフィーノちゃんの、珍しい悪事でしたの」
「仕方ないわ、こうしなきゃ事が進まなかったんだもの」
ペシュ、ブルーベリーが言った。
フィーノはまだムスッとしながら「行こっか」と短く言った。
ラ・ロッシュの塔に入り、6階につく頃にはフィーノはぐったりしてしまっていた。
「めんっっっどくさかった~~~……。カエルグミみたいな歩き方をしているヤツに古のシールを渡せだとか、話しかけたらそっぽ向く恥ずかしがりに獣のシール渡せだとか、その他もろもろ、もぉ~~めんどくさかった~~~……。カシスが言ってた『チーズの塔はやっかい』ってのはこういうことだったのか……」
そんなことを言いながら、オカシラの部屋に入ると、すっかりオーブンになったカフェオレとご対面を果たした。
「カフェオレ!なにその格好!ウケるんだけど!」
フィーノは目を丸くしてカフェオレを見た。
「オーブンニ カイゾーサレテ シマイマシタ」
するとピップルスの首領のパルメザンが、フィーノに話しかけてきた。
「あー、チミチミ!そりはわしのとくチューオーブンなのでありマスのよ、もしかして~ドワーフの親方に、すンごい値段で作ってもらったモノなのよ、もしかして~~でも、チミが、どーしても欲しいとゆーなら、売ってあげてもイイのよ、もしかして~カエルグミ青10個と交換でどうでありマスかね~もしかして~」
「カフェオレの値段って、ほんと安いね……さらにウケる……」
フィーノは呟きながら、カエルグミをパルメザンに手渡した。
「それじゃあ、オーブンおゆずりしマ~スもしかして~オーブンに声をかけて連れていってくださいね~もしかして~」
「良かったね!カフェオレ!自由の身だよ!」
フィーノはニコニコとカフェオレに話しかけた。
「アリガトウ ナノデ~ス イッショウ オーブントシテ イキテイク コトニナルカト チョット フアンニ ナッテタデ~ス モシカシテ~」
「たはは……」
フィーノは乾いた笑いを浮かべた。
「タスケテモラッテ コウイウノモナンデスガ……イロイロ カンガエタンダケド、オレ、マバスノ ブヒンニナル カクゴデキタ。サキニ マバスヘ カエル。マバスヲ……ミタラ……オレノコトヲ……エグッ……オモイダシテ……サヨウナラ ナノデ~ス!!」
言うなりカフェオレは、その場から走り去ってしまった。
「カフェオレ!!待って!!ヤケをおこさないで!!」
「カフェオレちゃん!!どうしましたの!!いっしょに帰りますの!!」
「カフェオレは魔バスにもどるって言ってたよな!?私たちも、あとを追おう!」
「だね……」
フィーノは内心やれやれと思いながらうなずいた。
フィーノ達は、ピップルスタウンからロッシュの一本橋へでた。
すると、セサミの絶叫が響き渡った。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッ!!」
「セサミの声だわ……」
「セサミちゃんの声ですの……」
「セサミ……?」
「今度はどうしたんだろ……?またこんにゃく様?」
橋を通って反対側へ進み、セサミを探してみたが全く見当たらない。
「セサミがいたのって、このへんよね?」
「ちょっとさがしてみよう!」
セサミを探していると、ウォーターピープルが1人現れた。
「ウォーターピープル!?どうしてこんなところに!?」
「ウォーターピープル?」
レモンがブルーベリーに尋ねるように一言言った。
「水のプレーンの住人よ。だけど今はもう、水のプレーンにはいないの。闇のプレーンに何人かいるって話は聞いたことあるけど…………どうしてここに?」
「ハうア えウく リるクす ラいロめ デろニお プク」
「へ?」
ウォーターピープルが何か言ったが、フィーノにはわからなくてなんとも形容しがたい変てこな表情になった。
しかし、どこか惹かれる言語だった。不思議な懐かしささえ覚える。
「なんですの!?何て言いましたの!?」
「闇の獣の力で、道ができたって言ってるわ。エニグマがプレーンの間を通る時にまきこまれてこっちに来たんだわ」
「セサミのことを聞いてくれない?」
レモンがブルーベリーに頼んだ。
「アうグ うシゅ ナいマわレ かピて アーしタ プク」
ブルーベリーがウォーターピープルの言葉で、ウォーターピープルに語りかけた。
「はム べり なモにー ぼルかレ タりろネ プク」
「けプー プク。――小さな生き物が、エニグマといっしょに消えたそうよ」
「セサミですの!?」
「わからないわ。――かボしャ はバれケ げボんゲ?プク」
「にゃカ ハにャけケ りモにー プク」
「何を話したの?」
レモンが訊いた。
「私たちと、いっしょに来るかどうか聞いたの」
「それで、プルプルちゃんは何て言いましたの!?」
「この川が気に入ったって」
「なんじゃそりゃ」
フィーノは考える前に口に出していた。
「とりあえず、このへんにはセサミはいないと思って間違いないな。急ごう!」
「そうね!」
フィーノ達は文鳥ヶ原に行って、魔バスに乗り込んだ。
「カフェオレ~?いる~?――あっ!カフェオレ!」
フィーノは魔バスの中にカフェオレを見つけると、嬉しそうな顔になった。
「いよう!青年!ちょうどいい!ついさっき、カフェオレをブンカイしてみたんだが、古くて使いモンにならねぇ!」
バルサミコは、すでにカフェオレをいじくっていたらしい。
「ケッ フルイノハ オマエノ ウデジャ ネェノカ~?」
「聞くところによると、どっかにドワーフの塔ってのがあって、そこのドワーフは機械のカイゾーが得意だって言うじゃねぇか。そこで、たのみがあんだが、カフェオレをその、ドワーフの塔ってとこに連れて行って、魔動力ジェネレーターにカイゾーしてもらってきてほしいんだ。そうすりゃ、あとはどうにでもなるってモンよ。誰と行ってもいいけど、カフェオレを連れて行くのだけは忘れるなよ」
「カフェオレ、オーブンの次は、その、魔動力ジェネレーターになるんだね……」
さすがにフィーノも哀れんだ。
「マドウリョクジェネレーター ケッコウナ ハナシダネ。ナンニデモ ナリマストモ。ミンナノ タメデスカラ、ヨロコンデ。ハイ。トクイノ ミートパイヲ ゴチソウシテ アゲラレナクテ ザンネンデス」
カフェオレは半ばやけくそ気味だ。
「かわいそうかも……」
ペシュもカフェオレが不憫に思えてならなかった。
その頃レーミッツ宮殿では、エニグマのダブハスネル達が会話していた。
「クッ……」
「人間ごときが……なぜにッ……!!」
「死すべき定めの者に勝利はない。人間の体はほろびる。だが、われらは不死身だ。ゆっくりとやればよい」
「ゆっくりと!?このままでは何度でもこのクツジョクを味わうだけだぞ……!!」
「宿主をさがすと言うのか……?光のプレーンで宿主になりうる知的生命はいない」
「このさいドワーフでいい!!」
「バカな!!魔法も使えぬ生物と融合したところで、たいした力は得られぬ!!むしろ危険だ!!肉体の死にまきこまれれば、われらの命もあやうい!!」
「今だけだ。ヤツらに死の恐怖を……」
フィーノ達に、足音静かに闇が迫ろうとしていた。
レーミッツ宮殿の北西にある裏門へ行くと、魔物がドワーフ二人を回していた。
「……なんだありゃ」
フィーノが怪訝な顔をした。
「ひゃっひゃっひゃっひゃっ」
「やんだーたすけてけろー」
ドワーフのヌクマムが、回されながら助けを求めている。
フィーノ達は、裏門へ行きたかったので仕方なく奥へ行った。
「なんだ――――ッ!?お前たちわ――――ッ!?お前らも、ドワーフみてぇにクルクルまわしてやろうか――――――――――ッ!?」
「は?意味わかんない。付き合ってらんないよ」
フィーノがズバッと言い放った。
「なんだとォォォォォォ――――――――ッ!!!!ゆるせんぞ!!お前!!殺――――――――ッす!!」
すると魔物は、足を前に突きだしてきた。
すると、物凄い悪臭がその足から!
「うっ……」
ブルーベリーは、あまりの臭さに思わず吐き気をもよおした。
「く、くさっ!目にしみる!涙出てきた……オエッ」
フィーノは涙を流しながら吐き気に耐えた。
その隣では、ペシュが鼻を摘まみながらうずくまってプルプル震えている。
しかし、レモンは強かった。
「くっせぇんだよコラ――――――ッ!!ふざけんじゃねえ!!フラッシャー!!!!」
「ぐおおおおおお!?」
レモンの怒りの電撃が、魔物を覆う。
「うお――――――ッ!!ゆるせ――――――ん!!ゆるせんぞ――――ッ!!おぼえておけよ――――ッ!!」
そう叫び、魔物は地に付して動かなくなった。
「いんやー!!たすかっただー!!」
ドワーフのヌクマムが喜んだ。
「もー、感謝カンゲキアメアラレだべ~」
ドワーフのナンプラもとても喜んでいる。
「アイツは、ブッチーネ3世っつー、バケモンでよ~ドワーフをまわしはじめたら死ぬまでやめねんだー」
「へー、何考えてんのかわかんないね」
ヌクマムの言葉に、フィーノが相槌を打つ。
「いんや、命びろいしたないや」
ナンプラが言った。
「んだずー。命のおん人だ。この門は自由に通ってけれ」
「いいの!?」
ヌクマムの言葉に、フィーノはパアッと顔を輝かせた。
「金は後でええだな?」と、ナンプラー。
「んだず。後でええだ」
ヌクマムも気前よく言った。
こうしてフィーノ達は、裏門をくぐる事が出来た。
「ようやく宮殿を抜けたわね。カフェオレを探しに行けるわ」
ブルーベリーが言った。
「ところで、マドレーヌ先生のことなんだけど……。あの先生、ぼーっとしてるだろ?こっちの世界に来てたとしたら、ヤバいんじゃないかな?カフェオレが見つかったらすぐにさがしだして、助けてあげなきゃ」
「わかる~」
レモンの言葉に、フィーノがウンウンうなずいた。
闇のプレーンの森深く。エニグマの死体がごろごろ倒れている所に、マドレーヌ先生はいた。
「生徒たちはどこにいるの!?返しなさい!!」
「コイツ……なにもんだ……これではキリがない……!」
ピスカプークが恐れをなした。
「それはこっちのセリフよ!!ケルレンドゥはどこにいるの!?直で話をつけるわ!会わせなさい!」
「ケルレンドゥを知ってる……!?」
「人間のくせに……!?」
ピスカプーク達がざわついた。
すると、ピスカプーク達とは別方向からエニグマのエキウロクリュが現れた。
「虫ケラの名前を一つ 知っていたところでどうする……。それに、虫ケラは死んだ……。たった今……。くっくっくっく……」
「誰……!?」
マドレーヌ先生は警戒した。
「誰でもよかろう……」
「私の生徒をこっちの世界に引きこんだのは、あなたね!?」
「お前の生徒はここには来ていない。光のプレーンにいる。学生ごときは、我らが光の中にあっても、恐れる存在ではない」
「私だけ特別に闇のプレーンにごしょうたいされたわけね。ありがとう。おそれいるわ」
マドレーヌ先生が皮肉めいて吐き捨てた。
「ケッケッケッケ!!光のプレーンはもうすぐ落ちる。太古の魔法と、ドワーフの技術が俺たちのものになる。そして、俺たちが宇宙を支配する」
ピスカプークが高笑いした。
「俺と融合しろ。どのプレーンにも行けるぞ。クックックックック」
エキウロクリュが不気味に笑った。
「ケルレンドゥ配下のエニグマは一匹もいないのね……」
「虫ケラどもは、みんな死んだ。生まれ変わるために。キオクを消し、生まれ変わる。エニグマは一つになる。俺がエニグマの王になる」
エキウロクリュが言った。
「フゥ……。いやになるなぁ、もう。宿主を持たないエニグマが、そんなに強いのかしら?」
「なんだと……!?」
エキウロクリュが声を低くした。
「あなたたちじゃ、私の生徒にも勝てないわ」
「なんだってぇ~?」
ピスカプークはマドレーヌ先生に詰め寄る。
「光のプレーンにいるんでしょ?だったら、あせる必要もないな」
「お前が言ってることは、すべてただのハッタリだ。思い知らせてやる」
エキウロクリュが脅すように言った。
「ハァ……。やれやれ……。またどこかでお会いしましょう」
マドレーヌ先生は、どこかへワープの魔法を使って姿を消していった。
「!!!!」
「逃げたぞ!!ワープしやがった!!」
「ハッタリじゃない!!ワープの魔法を使ったぞ!!」
ピスカプーク達は驚きを隠せずにいる。
「チッ!!光のプレーンはあとだ!!ガキどもと、あの女を殺す!!闇のプレーンに引きずりこめ!!」
エキウロクリュも叫んだ。これは開戦の合図でもある声だった。
裏門を通ることができたフィーノ達。
さらに進むと、ドワーフ二人がなにやらもめていた。
「通るのは勝手だけんども……おめさ、キード・モンガにゃ入れねーだぞ?わがってんだか?」
ドワーフのアングレースが、ドワーフのクアトロファルマッジに言う。
「あに言うだ。同じドワーフでねげ。ちょっくら機械を借りに行くくれー、かまわねべさ」
「オラたちゃ、エリートだー。おめーたち、人形いじりしてるよーなドワーフと、いっしょくたにするんでね」
アングレースはピシャリとはねのけた。
「ありゃりゃ。ケンカかな?」
「ドワーフ同士でもめてるみたいね……」
フィーノに次いで、ブルーベリーが言った。
「まったくもう!!ケンカはいけませんの!!私がしかってあげますの!!」
ドワーフたちの方へ近づくと、よく見ればクアトロフォルマッジの前に見慣れた姿があった。
「ショコラ!!」
「あ――――。レモン――――」
「ショコラ!!無事だったのね!!」
「ありょ?追っ手さ来ただか」
クアトロファルマッジは、ショコラを押しながら逃げて行った。
「あっ!!逃げますの!!」
「こらー!!ショコラを返せ――!!連れてくなーっ!!」
フィーノが叫んだ。
「追いかけるぜ!!」
レモンが言うと、四人は急いでクアトロフォルマッジが逃げた方向へ行った。
ショコラを連れて行ったクアトロフォルマッジを追ってイベンセ岩場へ行って、四人はあたりをキョロキョロ見渡した。
しかしそこには、ショコラの姿もクアトロフォルマッジの姿もなかった。
「……。見当たらない……。どこに行ったのかしら?」
「キード・モンガがどうこう言ってたよな……」
「キード・モンガ!!ドワーフの塔ですの!!」
「チッ……。やっかいなことになってきたぜ」
レモンが舌打ちした。
「あっ!あそこ見て!あそこにもドワーフがいる!」
フィーノが遠くを指差すと、そこにはドワーフとマジックドールが。
皆はそこに行ってみる事にした。
「オラ、MD職人のウスターだ。おめぇ、マジックドールさ知ってるべか?」
「知ってるよ。ウィルオウィスプにもあったもん」
フィーノが答えた。
「んったら、話は早ぇ。オラ、ピンときたべさ。おめぇは、えー職人になるだよ。光のプレーンいちの、いんや、この宇宙いちのマジックドール職人によぉ!!」
「はあ。マジで?」
フィーノが茶を濁した。
「そこで、おめぇさみこんでたのみがあんだぁ。オラのマジックドール、MD05-サーディン引きとって欲しいんだ。もちろんタダでええ。オラ、他のドワーフみてぇにカネカネ言うのは好きでね。どうだ?オラのMD05-サーディン、引きとってくれるか?」
「いいよ、戦力になりそうだし!おいで~サーディン」
フィーノはニッコリして手招きする。
マジックドールのサーディンは、フィーノの方へ歩み寄っていった。
「ありがてぇぇぇぇ。オラ、涙出そうだぁぁぁ。引渡しの前に、カンタンにマジックドールの説明さしとくべさ。オラが引き渡すマジックドールはキホンのマジックドールだべ。この、キホンのマジックドールだけでは、実のところ、なーんもできねんだ。マジックドールは、5つの材料さ組みこんで、強くしてやんねといげねんだ。5つの材料がそろわねぇと、能力も最低のままだし、魂の入魂もできねんだ。魂の入魂ができねぇってこたぁ、すなわち、ヘボのまんまってことだべさ。てところで……まいったな。どこから説明すべかー?」
「あー大丈夫大丈夫、マジックドールのことなら本で読んだことがあるからバッチリだよ」
「フィーノちゃん、さすが読書家ですの~」
「それなら話ははええだな!ほっだらな、MDに組み込む素材は、そのへんに落ちてるハズだから、さがしてくれや。よろしくたのんだでよ」
「はーい。あんがとね~おじさん」
マジックドールのサーディンは、無事素材も組み込まれ、ブルーベリーの魂が入魂された。
こうして新たな仲間が加わった。
サーディンを仲間に入れたフィーノ達はロッシュの川べりへ行った。
そこにはカシスがいて、チッと舌打ちしながらあたりをキョロキョロしている。
「まいったなぁ……。どこに行きやがったんだ、あのドワーフめ!!」
「あれは!!」
フィーノがカシスに気付いた。
「カシスちゃんですの!!」
「ちょうどいい!!ショコラはあいつにまかせよう!」
「そうだねレモン!そうしよう!おーい!カシスー!!」
フィーノ達は、カシスのもとへ駆け寄った。
「レモンにブルーベリー!!フィーノにぺシュ!!無事だったんだな!」
「あと、キルシュとアランシアとピスタチオがいるわよ。東のほうに、魔バスが来てるんだけど、そこにいるわ」
「魔バス!!そんなモンまで来てんのか!!」
カシスは驚いた表情を見せた。
「それより、ショコラがドワーフにさらわれたんだ!!助けなきゃ!!」
レモンが言った。
「見かけたのか!?どっちだ!?」
「宮殿の裏門の西の方ですの!キード・モンガに向かったみたいですの!!」
「なんてこった!!なんで後を追わないんだ!!」
「私たちはカフェオレを助けに行かなきゃいけないの」
「カフェオレか……。忘れるところだった。アイツは、オーブンに改造されてチーズの塔でチーズケーキを焼いてるぜ」
「おめぇこそ、なんで助けてやらねぇんだよ!!」
「そうだよ!!そこまでわかってるくせに、どーして助けないわけ!?それって一大事じゃん!!」
レモンとフィーノが声を荒くした。
「チーズの塔は、やっかいなんだ。後回しだ」
「やっかい?」
フィーノが首を傾げた。
「やっかい……って、いったい何がやっかいですの!?」
「行けば、わかるさ。二手に別れよう。俺がショコラを追う。お前たちはカフェオレだ」
「そんなこと言われなくったってそのつもりよ!!」
「OK。カフェオレはまかせたぜ。無事にもとの世界に帰ったらデートしようぜ、ブルーベリー」
「イヤよ」
ブルーベリーはプイとそっぽを向いた。
「それじゃ、アランシアでもさそいますか。それじゃあな!」
軽口を叩きながら、カシスは行ってしまった。
「なによ。誰でもいいんじゃない」
ブルーベリーはご立腹のようだ。
「からかわれてるだけよ。相手にしなくていいよ」
「そうそう、単なるバカシスだよ。そういえばあのバカシス、僕が入学した初日も僕のこと女の子と勘違いして口説いてたでしょ。そんなバカシスのことなんて気にする必要ないよ」
「ほんとバカシスだよな~。数年前から成長してねぇなアイツ」
「フィーノちゃん可愛い顔してるからですの」
バカシス談義で盛り上がっていると、そのバカシスが走って戻ってきた。
「そうそう、この先に虫好きのブッ壊れた男がいるぜ!」
「いきなり何ですの!?」
「セサミがいるの?連れていけばいいのに」
虫好きのブッ壊れた男という説明だけで、レモンがセサミのことだと理解できたことにフィーノはツッコみたかった。
「アンタらがさそってみなよ。ついてくるかどうか」
それだけ言うなり、カシスはまた行ってしまった。
「あー!もう!なにあの男!!あんなしゃべり方しかできないの!?」
ブルーベリーが激怒した。
「だから、気にするなって」
「やれやれだぜブラザー」
フィーノはキルシュの口癖を真似しながら、首を少し左右に振った。
やがて、ロッシュの一本橋にて。
「ひゃっは――――ッ!!虫がいっぱいだ――――ッ!!」
カシスの言った通りセサミがいたが、虫に夢中で呼んでもこちらに気づかないのである。
なるほど、確かに虫好きのブッ壊れた男だ。
「おーい、セサミー」
「ひゃっは――――ッ!!」
「セサミくーん」
「虫だ虫だ――――ッ!!」
「…………」
フィーノの中で何かが切れた。
フィーノはセサミの頭上でハリセン型に水を溜めると、それを勢い良くセサミの頭に叩きつけた。……セサミは倒れてしまった。
「フィーノちゃん、なんてことを!!」
「いくらなんでもこれで気付くでしょ」
しかしセサミはむくりと起き上がると、「虫ちゃん待て待て――――。あはははは」また虫を追いかけ始めた。
「……よし、もうほっとこう。置いていこう。確かにこいつは虫好きのブッ壊れた男だ」
誰もフィーノの意見に反対する者はいなかった。
丸太橋の所まで行くと、セサミの方から声が聞こえてきた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッ!!」
「どうしたでぺたん!!だいじょうぶでぺたこんか!?うぎゃっ!!」
次いで、こんにゃく様らしき声も。
「セサミ!?どうかしたのかしら!?ちょっともどってみましょう!」
ちょっと戻ってセサミのところへ行ってみると、セサミがこんにゃく様の前で腰を抜かしていた。
「だいじょうぶ!?いったい何があったの!?」
ブルーベリーがセサミを助け起こした。
「こ……こ……、こん……こんにゃくがしゃべったぁ――――――――――――――ッ!!」
「いきなりぶつかってきて何を言うでぺたこ――――ん!!」
「そんなことかよ……。まったく……。この世界では、こんにゃくだってツボだってしゃべるんだよ。わかってなかったの?」
「……。なーんだ……。セサミちゃん、こんにゃく様をはじめて見たんですのね。あきれましたの」
「まったくもう!!そんなことであんな大声を!まぎらわしいんだからっ!こんにゃく様がしゃべるのなんてあたりまえでしょ!」
セサミはたったの一言で女性陣から一斉に呆れられてしまった。
「こんにゃくがしゃべってんだぜ!!どうなってんだよ!!!!フシギじゃねぇのかよ!!オイ!!」
「大事な用事があるのに~~!こんなとこで足止めされるのはごめんなさいでぺたこ――――――――――ん!!」
こんにゃく様はどこかに行ってしまった。
「だって、ほら……こんにゃくが……」
セサミはまだうろたえている。
「ふざけるのもいいかげんにして!」
ブルーベリーが怒った。
「ぺたーん、とか……。ぺたこーん、とか……。………………」
「あのねえセサミ。不思議だってのも一理あるし気持ちはわかるけど……。いちいちびっくりしてたらキリがないでしょ?」
フィーノがなだめるように言うと、セサミは乾いた笑顔を浮かべた。
「……。やっぱりいいです。ボクがどうかしてました。はははははは」
そして、また虫を追いかけだした。切り替えの早い男である。
「虫ちゃ~ん、出ておいで~。はははははは」
そして再度セサミは、フィーノ達に放っておかれたのだった。
フィーノ達はカフェオレを助けにピップルスタウンにあるラ・ロッシュの塔に行ったが、カタギの者は入れないと断固拒否された。
そんな時だ。ピップルスの1人から、こんな事を聞いたのは。
「この町では、コインの取引は禁止だ。店で金貨や銀貨を売るんじゃねぇぞ。わかったな」
フィーノは当然やりたくなかったが、カタギの者は入れないと言われたラ・ロッシュの塔に入る為に仕方なく金貨を売った。
すると、店の近くにいたピップルスがフィーノ達を睨み付け、怒鳴ってきた。
「てめぇ、コインを売りやがったな?この町がコイン売買禁止と知ってて売りやがったのか?」
フィーノは黙ってうなずいた。
ピップルスは納得したように笑いだした。
「はっはっは!アンタ、この道のモンだな。一目見りゃ、わかるぜ。俺たちのカシラが、お前の持ってる金貨や銀貨を高く買ってくれるはずだ。オカシラは、ラ・ロッシュの塔の最上階にいるはずだ。俺が会わせてやるよ。だが、すぐには会えねぇ。オカシラの命をねらってるヤツはゴマンといるからな。まずは、塔の入り口の男に、火のシールをわたしな。あとは指示にしたがえばいい」
ピップルスは笑いながら火のシールをフィーノに渡し、どこかへ歩いて行った。
「こ……この僕が、この道のモンだってぇ~っ!?失礼しちゃうなあ!もう!」
「まあまあ、いいじゃん。結果的にはいい方向に行ったんだし」
拗ねたフィーノを、レモンがケラケラ宥めた。
「普段品行方正なフィーノちゃんの、珍しい悪事でしたの」
「仕方ないわ、こうしなきゃ事が進まなかったんだもの」
ペシュ、ブルーベリーが言った。
フィーノはまだムスッとしながら「行こっか」と短く言った。
ラ・ロッシュの塔に入り、6階につく頃にはフィーノはぐったりしてしまっていた。
「めんっっっどくさかった~~~……。カエルグミみたいな歩き方をしているヤツに古のシールを渡せだとか、話しかけたらそっぽ向く恥ずかしがりに獣のシール渡せだとか、その他もろもろ、もぉ~~めんどくさかった~~~……。カシスが言ってた『チーズの塔はやっかい』ってのはこういうことだったのか……」
そんなことを言いながら、オカシラの部屋に入ると、すっかりオーブンになったカフェオレとご対面を果たした。
「カフェオレ!なにその格好!ウケるんだけど!」
フィーノは目を丸くしてカフェオレを見た。
「オーブンニ カイゾーサレテ シマイマシタ」
するとピップルスの首領のパルメザンが、フィーノに話しかけてきた。
「あー、チミチミ!そりはわしのとくチューオーブンなのでありマスのよ、もしかして~ドワーフの親方に、すンごい値段で作ってもらったモノなのよ、もしかして~~でも、チミが、どーしても欲しいとゆーなら、売ってあげてもイイのよ、もしかして~カエルグミ青10個と交換でどうでありマスかね~もしかして~」
「カフェオレの値段って、ほんと安いね……さらにウケる……」
フィーノは呟きながら、カエルグミをパルメザンに手渡した。
「それじゃあ、オーブンおゆずりしマ~スもしかして~オーブンに声をかけて連れていってくださいね~もしかして~」
「良かったね!カフェオレ!自由の身だよ!」
フィーノはニコニコとカフェオレに話しかけた。
「アリガトウ ナノデ~ス イッショウ オーブントシテ イキテイク コトニナルカト チョット フアンニ ナッテタデ~ス モシカシテ~」
「たはは……」
フィーノは乾いた笑いを浮かべた。
「タスケテモラッテ コウイウノモナンデスガ……イロイロ カンガエタンダケド、オレ、マバスノ ブヒンニナル カクゴデキタ。サキニ マバスヘ カエル。マバスヲ……ミタラ……オレノコトヲ……エグッ……オモイダシテ……サヨウナラ ナノデ~ス!!」
言うなりカフェオレは、その場から走り去ってしまった。
「カフェオレ!!待って!!ヤケをおこさないで!!」
「カフェオレちゃん!!どうしましたの!!いっしょに帰りますの!!」
「カフェオレは魔バスにもどるって言ってたよな!?私たちも、あとを追おう!」
「だね……」
フィーノは内心やれやれと思いながらうなずいた。
フィーノ達は、ピップルスタウンからロッシュの一本橋へでた。
すると、セサミの絶叫が響き渡った。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッ!!」
「セサミの声だわ……」
「セサミちゃんの声ですの……」
「セサミ……?」
「今度はどうしたんだろ……?またこんにゃく様?」
橋を通って反対側へ進み、セサミを探してみたが全く見当たらない。
「セサミがいたのって、このへんよね?」
「ちょっとさがしてみよう!」
セサミを探していると、ウォーターピープルが1人現れた。
「ウォーターピープル!?どうしてこんなところに!?」
「ウォーターピープル?」
レモンがブルーベリーに尋ねるように一言言った。
「水のプレーンの住人よ。だけど今はもう、水のプレーンにはいないの。闇のプレーンに何人かいるって話は聞いたことあるけど…………どうしてここに?」
「ハうア えウく リるクす ラいロめ デろニお プク」
「へ?」
ウォーターピープルが何か言ったが、フィーノにはわからなくてなんとも形容しがたい変てこな表情になった。
しかし、どこか惹かれる言語だった。不思議な懐かしささえ覚える。
「なんですの!?何て言いましたの!?」
「闇の獣の力で、道ができたって言ってるわ。エニグマがプレーンの間を通る時にまきこまれてこっちに来たんだわ」
「セサミのことを聞いてくれない?」
レモンがブルーベリーに頼んだ。
「アうグ うシゅ ナいマわレ かピて アーしタ プク」
ブルーベリーがウォーターピープルの言葉で、ウォーターピープルに語りかけた。
「はム べり なモにー ぼルかレ タりろネ プク」
「けプー プク。――小さな生き物が、エニグマといっしょに消えたそうよ」
「セサミですの!?」
「わからないわ。――かボしャ はバれケ げボんゲ?プク」
「にゃカ ハにャけケ りモにー プク」
「何を話したの?」
レモンが訊いた。
「私たちと、いっしょに来るかどうか聞いたの」
「それで、プルプルちゃんは何て言いましたの!?」
「この川が気に入ったって」
「なんじゃそりゃ」
フィーノは考える前に口に出していた。
「とりあえず、このへんにはセサミはいないと思って間違いないな。急ごう!」
「そうね!」
フィーノ達は文鳥ヶ原に行って、魔バスに乗り込んだ。
「カフェオレ~?いる~?――あっ!カフェオレ!」
フィーノは魔バスの中にカフェオレを見つけると、嬉しそうな顔になった。
「いよう!青年!ちょうどいい!ついさっき、カフェオレをブンカイしてみたんだが、古くて使いモンにならねぇ!」
バルサミコは、すでにカフェオレをいじくっていたらしい。
「ケッ フルイノハ オマエノ ウデジャ ネェノカ~?」
「聞くところによると、どっかにドワーフの塔ってのがあって、そこのドワーフは機械のカイゾーが得意だって言うじゃねぇか。そこで、たのみがあんだが、カフェオレをその、ドワーフの塔ってとこに連れて行って、魔動力ジェネレーターにカイゾーしてもらってきてほしいんだ。そうすりゃ、あとはどうにでもなるってモンよ。誰と行ってもいいけど、カフェオレを連れて行くのだけは忘れるなよ」
「カフェオレ、オーブンの次は、その、魔動力ジェネレーターになるんだね……」
さすがにフィーノも哀れんだ。
「マドウリョクジェネレーター ケッコウナ ハナシダネ。ナンニデモ ナリマストモ。ミンナノ タメデスカラ、ヨロコンデ。ハイ。トクイノ ミートパイヲ ゴチソウシテ アゲラレナクテ ザンネンデス」
カフェオレは半ばやけくそ気味だ。
「かわいそうかも……」
ペシュもカフェオレが不憫に思えてならなかった。
その頃レーミッツ宮殿では、エニグマのダブハスネル達が会話していた。
「クッ……」
「人間ごときが……なぜにッ……!!」
「死すべき定めの者に勝利はない。人間の体はほろびる。だが、われらは不死身だ。ゆっくりとやればよい」
「ゆっくりと!?このままでは何度でもこのクツジョクを味わうだけだぞ……!!」
「宿主をさがすと言うのか……?光のプレーンで宿主になりうる知的生命はいない」
「このさいドワーフでいい!!」
「バカな!!魔法も使えぬ生物と融合したところで、たいした力は得られぬ!!むしろ危険だ!!肉体の死にまきこまれれば、われらの命もあやうい!!」
「今だけだ。ヤツらに死の恐怖を……」
フィーノ達に、足音静かに闇が迫ろうとしていた。