第6章 Love and friendship
フィーノ達は、ベナコンチャ遺跡を抜けてワクティ村近くの原っぱへ出た。
すると、どこかから会話の声が聞こえて来た。
「この俺がエニグマの仲間だって~ッ!?じょうだん言っちゃいけねぇ!」
バルサミコの声だ。
「てめぇ、その変な乗り物から出てきて話をしやがれ!!」
「たいど悪ィぞ!!」
「いや、たいどはたしかによくないが、悪いヤツではなさそうだ。村のものに説明がつけばそれでいい。我々がなっとくできるこたえを聞かせてもらいたい。お前はどこから来たんだ?」
「しょうがねぇなぁ。ちゃんと聞いてろよ。さっきから何度も説明してるだろ?」
どうやらバルサミコが知らない相手ともめているようだ。
「今、バルサミコの声が聞こえたような気がする~」
アランシアがおっとりと言った。
「ああ、俺も聞こえたよ。ピスタチオ、お前は?」
「文鳥の声に、文鳥のニオイがするだけっぴ」
「つまり、聞こえなかったと」
バルサミコの声がした方に行くと、戦士風の愛の大使が大きな声を出した。
「なにものだ!!お前たち!!」
「キャッ!いや~んびっくり~」
「いきなりデカい声出さないでよ!!ありえない!!」
フィーノが怒った。
「オイラたち、ヘンな魔物に追われてるっぴ」
「エニグマってヤツだ。知ってるか?」
「エニグマ!!それはあっしらにとっても敵!」
戦士風の愛の大使が言った。
「ところで、アンタらこそなにものだっぴ?」
戦士風の愛の大使に、ピスタチオが尋ねた。
「あっしらは、ワクティ村の村長しんえー隊ッ!タルトとタタン!そして、まん中においでなのが、村長のムスコさんだッ!ムスコさんからも一言どうぞ!」
「ムスコさんではない!!村長と呼べ!村長!」
小さな愛の大使が憤慨した。
「いや、しかし、呼べと言われても村長はあなたのお父上で……」
タタンが困ったように言った。
「ワクティ村では、愛のデッパリを持つものが村長と決まっている。愛のデッパリを父上からゆずりうけた以上は、私がワクティの村長だ」
ムスコさんが偉そうに言った。
「愛のデッパリ……。別名、村長ワンド……。しょうちいたしておりやすとも。でもそれは、ムスコさんが無理矢理ガトーどのから……」
タルトが言った。
「ムスコさんではないッ!!私が村長だッ!!逆らうヤツは父上に言いつけてクビにしてやる!!」
ムスコさんが脅しをかけるが、フィーノの目には虎の威を借る狐に見えた。
「そんな、むちゃくちゃな……」
タタンが呟いた。
「そこのよそ者ども!早々に立ち去るがよい。このあたりは、われら愛の大使がかんりしている!近ごろでは、エニグマも出没すると聞く」
自称村長のムスコさんが言った。
「だけど、ムスコさん……私たち……」
「ムスコさんではない!!私の名前はトルティーヤ!!ワクティ村の村長だ――ッ!!」
どうやらムスコさんはトルティーヤというらしい。
「そんちょーしなさい」
「ハァ……」
タルトのダジャレに呆れてピスタチオとフィーノが同時にため息をついた。
「行くぞ!」
「ハッ!!」
トルティーヤたちは、その場からどこかへ行ってしまった。
「魔バスだっぴ!!」
「ほんとだ~こんなものまで来てるんだ~」
アランシアはしげしげと魔バスを見た。
「エニグマのヤツら、人もバスもおかまいなしかよ……魔力はすさまじいが、オツムはピーナッツだな」
「エニグマって案外単細胞なんだね。まさか、融合したらそのピーナッツ頭になる……なんてこと……ないよね?」
フィーノが毒づいた。
「さあ……そうだったらやだな。融合なんて永遠にゴメンだけど」
キルシュが複雑な顔をした。
「さっき聞こえた声って、やっぱりバルサミコの声だったんだ~」
アランシアはニコニコしている。
「いよう!悪ガキども!生きてやがったな!魔バスの天才ドライバー様もこっちに来てるぜぃ!いやぁ~、さっきはエニグマの仲間だとカンちがいされて、からまれてたんだ。まったく、俺のどこが悪いヤツに見えるってんだ!?はぁ~ん?」
「バルサミコだっぴ!!」
「運転手つきか。気がきくな、エニグマ」
「本当にね。サービスいいよね、エニグマ」
フィーノがキルシュの言葉に賛同した。
「とりあえず乗れよ。えんりょなんかすんなよ。自分ちだと思ってくつろいで行くんだぞ!」
全員、バルサミコの言葉に甘えて魔バスに乗りこんだ。
「ねぇ、バルサミコ他の生徒は見なかった?」
アランシアが尋ねた。
「ああ、見た見た。カフェオレとぺシュな。それとレモンとブルーベリーな。あの子ら、仲いいよなぁ」
「キャンディは!?キャンディはいなかったか!?それに、他のみんなは?」
ほんとキルシュってキャンディのことばっかだな、とフィーノは思った。
「キャンディよりもガナッシュよ!キルシュのバカっ!ガナッシュは見なかった!?」
そんなキルシュがおもしろくないのか、アランシアは怒り気味だ。
「あの子は、一人で勝手にどっか行っちゃったね~。他の4人が帰ってこないって言ってんのに、聞きもしねぇ」
「帰ってこない!?レモンたちはどうしたの!?」
アランシアはあせった。
「彼女ら、カフェオレを探しに行ったきり帰ってこないね~。カフェオレがいれば魔バスもなんとかできるかも知れないのにねぇ~」
「探しに!?カフェオレはどうしたの!?わけわかんねぇよ!!」
「ああ、ごめんごめん。わかりやすく言うとだな……こっちの世界に飛ばされたショックで魔バスが壊れてしまったんだ。それで、困ってたら、カフェオレくんたちが来てくれたってわけさ」
「で、それでどうしたの?」
アランシアが促した。
「部品を取り出そうと思ってカフェオレのハラ開けたのさ」
「カフェオレはどうしたっぴ?」
「逃げた」
「あははははははははは!!!!」
バルサミコの短い答えがツボに入ったのか、フィーノは手を叩いて爆笑した。
「俺も逃げたいよ」
キルシュはどこか哀愁が漂っている。
「がーはっはっはっは!!青いね~キルシュ青年!!お前もいずれ俺みてぇな汚ェ大人になんだよ~!!わかってんだろ~!?」
「……とりあえず、その……4人を探してきます……」
「ハァ……」
アランシアとピスタチオは、バルサミコの言動に引いているようだった。
フィーノだけがまだ大笑いしていた。
魔バスから下りたフィーノ達は、ワクティ村に行った。
村長のガトーと話をする為だ。
「おお、旅の人か。先ほどの3人の連れの方ひゃの?」
ガトーが自宅を訪れたフィーノ達に尋ねた。
「わかんない。先ほどの3人って誰?」
フィーノは首を傾げた。
「そうか……。実は、先ほど3人の女の子らが友達を助けにレーミッツ宮殿に入りたいとたずねてきたひゃ。宮殿のカギを渡したのひゃが、今になって心配になってきての、レーミッツ宮殿に行かれるなら、あの娘らの様子を見てきてはもらえんひゃの?宮殿のカギも渡しますひゃ」
「わかった、ありがと」
フィーノはガトーから宮殿のカギを受け取った。
すると、トルティーヤが怒りながらその場にやって来た。
「父上!!なぜヨソモノに宮殿のカギを渡すのですか!」
「おお、トルティーヤか。すまぬひゃ。これもすべて、愛ゆえひゃ。なにがなくとも、思いやり。それがすなわち、愛ひゃ」
「そんなことのどこが愛ですか!?もっと真剣に考えてください!あなたはもう、村長のシカクなどない!!」
ガトーが言うも、トルティーヤはますますヒートアップするばかりだ。
「そうかも知れん。この村に村長などおらんひゃ。みな、自分で考え、自分で自分をただしておるひゃ」
「私を村長とは認めないとおっしゃるのですね。それも良いでしょう。しかし、村のルールと安全は私が守ります」
「ムスコさん……そのワンドは……愛のデッパリは、ガトー殿にお返ししてくだせぃ。お願いします。いがみあうのは、愛の大使ににつかわしくありませんです」
タルトが控え目に申し出た。
「出すぎるな!村を守るのはこの私だ!!」
しかしトルティーヤは耳を貸さない。
「行くぞ!!今日こそはエニグマを倒す!!旅の者よ、宮殿のカギは自由に使うが良い。しかし、エニグマは私たちの敵。私たちが倒す!」
「てがらは全部ムスコさんのもの!」
タルトが言った。
「そうすりゃ村人もムスコさんを村長と認めるってもの!」
次いでタタンが。
「そのとおり!!行くぞ!しんえー隊ッ!!」
言うだけ言って、トルティーヤ達は行ってしまった。
「素直な好青年っぴ」
「すまぬひゃ。見苦しい姿をみせましたひゃ。ムスコが持ってる愛のデッパリは村長ワンドとも呼ばれ、村長の証とされてきた品ですひゃ。また、ワンドは 闇をはらう力を持っているとも言いつたわっておりますひゃ。ワンドを彼に持たせておるのは、村のためでも、彼のためでもありますひゃ。これもまた、愛ですのひゃ」
「……ねえ、愛の大使って本当は戦いなんて好まないんだよね?」
「もちろんですひゃ」
フィーノの言葉に、ガトーは頷いた。
その後フィーノは続けた。
「エニグマを倒すなんて、本当はいきがってるだけの薄っぺらい言葉なんじゃないのかなぁ?」
「でも、トルティーヤはやる気がメラメラ燃えてたっぴ」
「うーん……」
フィーノは考えこんでしまった。
「あなたのおっしゃる通りですひゃ。ムスコも愛の大使。きっと戦いを好んでいるわけではいませんのひゃ」
ガトーは穏やかにフィーノの意見を肯定した。
彼は心の底からトルティーヤを信じているのだろう。
これもまた愛なのだろうか。
ガトーに鍵をもらったフィーノ達はレーミッツ宮殿に入った。
入口に入ると、ピスタチオがクンクンと辺りのにおいを嗅ぎ始めた。
「ぺシュのニオイがするっぴ!ブルーベリーもだっぴ!」
「ホント~!?この中にいるの~!?」
「ピスタチオって、改めて鼻いいね。僕毎日お風呂に入るようにしてて良かった。僕のニオイ臭かったら最悪だもん」
フィーノがやや能天気かつずれたコメントをした。
「フィーノは大丈夫だっぴ。でも、キルシュはたまに汗臭いっぴ」
「なんだとこの犬」
キルシュの趣味はスポーツと筋トレなのだ。汗臭いのも無理はない。
「ここまでだ!宮殿への立ち入りは許さん!!」
そこに、トルティーヤ達が現れた。
「お前たちのため言ってるのだ。エニグマの話は聞いているだろ?ソイツがこの中にいることがわかっているんだ。お前たちでは危なすぎる。早々に立ち去るがいい」
「キケンなんか、いつもしょうちの上だぜ」
「しょうちだと?お前に何がわかるかッ!!この中にいるエニグマはおそらく3体。しかも、手ごわい相手だ。簡単に倒せると思うなッ!」
トルティーヤが声を荒げる。
「だけど、中からブルーベリーとぺシュのニオイがするっぴ~」
「不用意な……なぜわざわざキケンな場所へ……」
「ムスコさん……あっしらも、力を貸して、ともにエニグマを倒すのがいいのでは……?」
タルトが控え目に意見を出した。
「しかし……」
「意地はるなよ。これだけ頭数がそろってんだ。今がエニグマを倒すチャンスじゃないのかい?」
キルシュが言った。
「……倒す……誰も彼もが口を開けば倒すだの、殺すだの……なんてあわれな……」
「ムスコさん……」
タタンが呟いた。
「なぜ倒す必要がある……?ヤツらが何をした!?光におびえ、宮殿に引きこもっているだけの相手をッ……!」
「エニグマのカタを持つっぴ?どうかしてるっぴ!?そっちにエニグマを倒す理由がなくても、こっちにはあるっぴ!ヒドイ目にあったっぴ!!」
「僕ら、エニグマに友達をさらわれたの」
ピスタチオが怒り、フィーノも静かに反論した。
「ムスコさん、あっしらも愛の大使のハシクレ。ムスコさんの気持ちはよ~く、わかりやす。しかし、ここは……」
タルトが言った。
「これ以上言ってもムダのようだな。お前たちに事情があるなら、倒すのもしかたがないこと。しかし私は……!」
「ムスコさん、今は、人を助ける時。誰も手を汚さずに生きてゆける時代ではありやせんぜ。手を貸してやりやしょうぜ」
タタンもトルティーヤを説得しようとした。
「俺たちだけでやるさ。お前はここで待ってな」
「フ――――――――ンだ!!おとなしく待ってるっぴ!テガラはくれてやるっぴ!」
「ピスタチオ~そ~ゆ~こと言わないの!」
「じゃね、ムスコさん」
フィーノは去り際に、トルティーヤの肩を軽く叩いた。
トルティーヤは下を向いて黙っていた。
フィーノ達は宮殿内部に入ると、大廊下に出た。
そこにはペシュがいて、何やらキョロキョロして困ったような様子だ。
「あっ!!」
ぺシュはフィーノ達を見つけると、駆け寄ってきた。
そしてとても混乱した様子で話し始めた。
「みんなー!!たいへんですの――――!!ブルーベリーちゃんが具合が悪くなって、動けなくなって、それから……それから……」
「それからどうしたっぴ!!おちついて話すっぴ!!」
「そうよ、ぺシュちゃん。最初からちゃんと話して」
「あ、あ、あ、あうあー。最初って、どのへんからですの~?」
ペシュは相当混乱しているようだ。
「やれやれだぜブラザー。まず、レモンがいっしょじゃないワケから話しな」
「えーと、3人で門のとこでエニグマに襲われそうになって、レモンちゃんがオトリになって私たちを逃がしてくれましたの」
「それで?」
キルシュが続きを促した。
「この宮殿の地下で待ち合わせてたんだけど、ブルーベリーちゃんが具合が悪くなって、レモンちゃんも来ないから、誰か呼んでこようと……」
「誰か呼んでこようと思って、それでどうしてたの?」
アランシアが優しく尋ねた。
「迷子になってましたの……」
「あー、ここ広いもんね……」
方向音痴のフィーノがウンウン頷いた。
「たよりにならないっぴ」
「ピスタチオちゃんに言われたくありませんの!」
ピスタチオの一言が癪に触ったのか、ペシュは怒り出した。
「はい、はい、はい、はい。わかったわかった。で、ブルーベリーが、この宮殿の地下にいるんだな?で、それを、助けに行くと」
「最初からそう言いましたの……」
「言ってないっぴ」
「ピスタチオちゃんのお耳は虫の穴ですのッ!?」
「虫の穴じゃないっぴ!!」
「どっちでもいいから、もう行こうぜ。ブルーベリーのことが心配だ」
「そうだね。ブルーベリー大丈夫かな?」
ブルーベリーの心配をすると同時に、彼女のもとまでこの広い宮殿の中で方向音痴の自分が無事に着けるかどうかと己の心配もするフィーノだった。
フィーノ達は、迷いに迷いながらも宮殿の地下へ行き、中心辺りへ来た。
ただでさえ方向音痴のフィーノが広大な宮殿内へ入り込んだのだ。そう易々といくまい。
「ここですの!ここにブルーベリーちゃんがいますの!エニグマがひそんでるかも知れないけど、カクゴはできてますの?」
「うん!どんとこい!」
フィーノは勇ましく返事をした。
「それじゃ行きますの!」
ぺシュは意気込んで言うと、皆をブルーベリーのいる場所へ連れていった。
ブルーベリーは、床に倒れて具合が悪そうだ。
「ブルーベリーちゃん!だいじょうぶですの!?」
ブルーベリーは、なんとか上体を起こしたが顔色が悪い。
「おひさしぶり……ぺシュ……それに、キルシュ、アランシア、フィーノ……」
「オイラもいるっぴ!!」
名前を呼び損ねられたピスタチオが抗議した。
「ブルーベリーちゃん!休んでないといけませんの!」
「エニグマは3体いるらしいな。どうする?」
「あんなヤツが3体も……」
キルシュが言うと、ブルーベリーが呟いた。
「ブルーベリー、もしかしてここのエニグマを見たの~!?」
アランシアが尋ねた。
「ええ、海岸に出たのとは、ぜんぜんちがうわ。私たちで3体を相手にしたらとても勝ち目はない……」
「レモンが1匹をマークしている今がチャンスってことか……。残りのヤツらを、一匹ずつさそい出せばなんとか……」
「そうだね、キルシュ。僕らでなんとか一匹ずつ……」
すると、どこからか不気味な声が聞こえてきた。
「ひっひっひっひっひ…………」
「エニグマですの!!」
その場にエニグマが現れ、フィーノ達は警戒した。
「ひっひっひっひ……安心しな。殺しはしない。俺たちの宿主になってもらう。光のプレーンで自在にふるまうためにはお前たちが必要だ」
「…………」
フィーノは思ってしまった。
一番怖いのは死ぬ事。自分はたくさんの人を殺した。地獄に落ちるに決まってる。しかし強くなる事と引き換えに、それを免れられる?
しかし、それを選べば皆を裏切る事となる……。
「い、い、い、イヤだっぴ!!!!融合なんかしたくないっぴ!!オイラ、フサフサのしっぽもツヤツヤのおハナもお気に入りだっぴ!!エニグマなんかになりたくないっぴ!!」
「死を前にして同じことが言えるかな?くっくっくっく……」
エニグマは余裕な笑いさえ見せている。
「コイツかッ!!1匹ずつたたきゃいいんだ!!行くぜ!!」
「ひっひっひっひ……ソイツが戦ってるあいだ……オレは何をして待ってればいいんだい?」
今度は別のエニグマの声が聞こえたかと思えば、反対側から別のエニグマが出てきた。
「2匹だ~!2匹もいる~!」
アランシアが慌てた。
「くっくっくっく……2匹とはな……虫のように呼んでもらって光栄だよ…………」
すると、また別方向から更に別のエニグマが現れた。
「ひあ~~~~~~~~!!オイラ融合したいっぴ!エニグマ様と融合して強くなりたいっぴ!!死にたくないっぴ!!」
「ちょっ、ピスタチオ……!」
フィーノは自分も同じ事を考えていただけに強くは出れないものの、挫けたピスタチオを咎めるように言った。
「くっくっくっく。わかってもらえてうれしいよ」
「力に屈しちゃダメだ――――ッ!!」
その時、トルティーヤ達があらわれ、トルティーヤはエニグマに村長ワンドを投げつけた。
「ぬッ!うごッ!うぐぐぉぉ……ッ!ぷきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
エニグマのうち、村長ワンドを投げつけられた1匹が倒された。
「ムスコさん!?」
「助かった~~!」
キルシュ、フィーノが言った。
「ゆだんするな!!こっちは私たちにまかせろ!!お前たちは、そっちをッ!!」
「くっくっくっくっ……闇にあらがうなど……虫ケラのやること……」
「虫ケラだって……生きてるんだよ?」
静かに言いながら、フィーノは両手に魔力を溜める。
その間にもブルーベリーが水の精霊フローを召喚したのを確認すると、フィーノは唱えた。
「アクアグラッセ!!!!」
エニグマは、悲鳴をあげる間もなく巨大な氷の槍に貫かれ絶命した。
魔法の威力を上げるという役目を終えたフローは消えた。
「あいかわらず強いな……さすがは首席……」
「ブルーベリーが精霊を呼び出してくれたからだよ」
信じられないというふうなキルシュに、フィーノは謙遜して見せた。
トルティーヤ達もエニグマを倒したようだ。
「トルティーヤちゃん!」
ペシュはトルティーヤの方を向いた。
「ムスコさん……助かりやした……あっしら助かったっす!!」
「そう……エニグマが死んで……俺たちは助かった……」
タルトの言葉に、トルティーヤは静かな暗さを持つ声で返した。
「そうですともムスコさん!!あっしら助かったんだ!!村長ワンドは……なくなったが……しかし、そんなモノ!!人の命にくらべりゃ、ヘみたいなモンだぁ!!」
「たすかったからなんだって言うんだ。――助かったからなんだって言うんだッ!!戦わなければ生きていけないなら、なぜ俺は愛の大使なんかに生まれてきたんだ!!オレはもう……愛の大使なんかじゃない……生きてるシカクなんてない!!」
「トルティーヤ、アンタは英雄だ。胸をはれよ」
キルシュが言った。
「ハッ!この俺が英雄か!村へ帰り、みなの前で、『俺を見ろ。俺がしたように戦え』そう言えばいいのか!?」
「誰もそんなこと言ってないっぴ」
「あまり思いつめないで トルティーヤさん。私もぺシュとの付き合いが長いし、愛の大使の考え方はよくわかるわ」と、ブルーベリー。
「……」
「ありがとう、トルティーヤ」
「あたしも感謝してますの!!ありがとうですの!!トルティーヤちゃん!!」
「センキュ~トルティーヤ。俺も感謝してるぜ」
キルシュがウインクした。
「ありがとう!ムスコさん」と、アランシア。
「ありがとねっ!感謝感激!」
フィーノも満面の笑顔で気持ちを伝えた。
「ムスコさん!!あっしらも、それからこっちのイヌちゃんも感謝してるです!」
「イヌちゃん……」
タルトにイヌちゃん呼ばわりされて、ピスタチオは複雑そうな顔になる。
「トルティーヤどの!!村へ帰りましょう!!ワクティ村の村長として!!」
タタンが言うも、トルティーヤは首を横に振った。
「ありがとう、しんえー隊。それに、みんな。また、どこかで会おう」
それだけ言うと、トルティーヤはどこかへ行ってしまった。
「トルティーヤどの!!」
「お待ちください!!」
タルトとタタンもトルティーヤを追って行ってしまった。
「あとあじ悪いっぴ……」
「しかたがないことですの。エニグマが敵だとは言っても戦って、相手が死んでることに変わりはないですの」
「行こう。レモンとカフェオレを探しに」
キルシュが前を向くべく言った。
「そうね。それと、こたえを探しに。どうしてエニグマが私たちをねらうのか、ハッキリさせないと今の気持ちを変えられない」
「そうだね。ブルーベリー」
フィーノがうなずいた。
すると、ブルーベリーはハッとしたようにこう言った。
「レモンはどうしたの!?アイツを追ってたハズよ!!行きましょう!!」
レーミッツ宮殿の内部から出ると、そこには倒れているレモンがいた。
フィーノ達は、倒れているレモンに駆け寄った。
「レモンちゃん!!だいじょうぶですの!?」
「ツゥ……ッ!ゆだんした……」
レモンは起き上がると、激昂した。
「あのエニグマ~ブッ殺してやるッ!!」
「ウフフフフ……」
ペシュはおかしそうに笑う。
「フゥ~。相変わらずコワイお姉さんだ」
「お元気そうで何より」
キルシュとフィーノが言った。
「エニグマはもういないわよ、レモン」
ブルーベリーが教えた。
「いない?いないってことは……お前たちでやったのか?」
「そーゆーことだっぴ。先をいそぐっぴ。カフェオレはどこに行ったっぴ!?」
「裏門のドワーフたちが古代機械がどうのと言ってたから……その先に行ってみる必要があると思って、ブルーベリーたちをむかえに来たんだ。そしたら、エニグマとはちあわせしてしまってこのザマさ。さっき、裏門からパンくずをまきながら来たから、それをたどれば簡単に行けるハズだ。エニグマにやられて寝てる間に、トリに食われてしまったかも知れないけどね。………………しかしこれじゃ……人数が多すぎやしないか?」
「たしかに、あまり人数が多いと逆に危険だ」
キルシュがレモンの意見に賛同した。
「チームをわけて、一部は魔バスで待機しよう。あの中なら、モンスターも襲って来ないし安全だ」
そう言ってレモンがブルーベリーを見ると、ブルーベリーは首を左右に振った。
「私、残るのはイヤよ。戦うわ」
「ブルーベリーちゃん……」
「ありがとう、いつも気をつかってもらって。でも、私だけ残るのはイヤ。絶対にイヤ!」
「気持ちはわかるけど、カラダはだいじょうぶなの?」
「そうだよ、ブルーベリー具合悪かったじゃん。平気なの?」
レモンとフィーノが言った。
「心配しないでよ。だいじょうぶにきまって……うっく……!」
一瞬だけ、その場が静かになった。
「ダメじゃん。ぺシュ、キルシュ、彼女を魔バスまで連れて行ってあげて」
「のけものにしないで!!私だってやれるわ!!」
「レモンちゃんはそんなつもりで言ったわけじゃないですの~」
「どんなつもりか知らないけど……いつも、私ひとりだけ置いて行かれるのはイヤ!!」
「やれやれだね。おじょう様」
レモンはあきれたように静かに言った。
「そんな言い方しないで!!たしかに私……生まれつきカラダは弱いけど、でも、そんなこと気にしないで、フツーに接して欲しいの!」
「できないよ……。特に今は、ヒドイありさまだ。ヘタすりゃ、アンタを死なせることになる」
レモンが真摯に述べた。
すると、ブルーベリーは声を荒くした。
「私に、一生みんなから外れて生きて行けって言うの!?小さい頃からずっと、パパやママから、お前は長生きできないって言われてきたから、私、死ぬのなんて怖くないよ!長生きしたいなんて少しも思ってない!!ほんの少しの時間でもみんなといっしょにいたいの!!親友でしょ?レモン!」
死ぬのは怖くないと言い切れるブルーベリーは、まるで自分とは正反対だなとフィーノは感じた。
そして、彼女が生きるのを諦めていることも。
しばらくの間の後、レモンはブルーベリーに言った。
「ブルーベリー……、私たち、本当に親友だった?」
「それは……あなたがどう思ってるか知らないけど、私は親友だって思ってた。それすらもいけないって言うの?」
ブルーベリーは、悲しそうにうつむいた。
「それじゃ、どうして親友の私にいつも隠し事をするの?」
「隠し事?私が?」
ブルーベリーは、うつむいていた顔を上げた。
「あなた、カラダの具合が悪い時も何も言ってくれないじゃない。何もたよってくれないじゃない。私がいつも心配してるのに、自分だけで抱え込んじゃってさ。そんなの親友じゃないよ!!なんで何も言ってくれないんだよ!!」
「!!!!だって、それは……」
レモンはいつも、悔しかったのだろう。ブルーベリーが自分を頼ってくれないことが。体の具合が良くない時、いつも自分ひとりで耐えていたことが。
「いっしょに行くのはかまわない。でも、条件があるわ。カラダの調子が悪い時は、すぐに言うこと。自分だけで抱え込まないで、ちゃんと、私や、他のみんなをたよらなきゃダメよ。それが守れるならもうあなたを一人で待たせたりしないわ」
「……ありがとう、レモン。あの……ごめんね、私……めいわくばっかかけて…………」
「OK。行こう、ブルーベリー」
レモンはブルーベリーに微笑んだ。
「しかし、大人数がキケンなことに変わりないよな。ねぇ、フィーノ……カフェオレのことは、私達にまかせてほしいの。私と、ブルーベリーとぺシュ、三人で、なんとかカフェオレを連れて帰るわ。いいでしょう?」
「いいよ!じゃあ僕、魔バスで待ってる!」
「誰もお前を止めたりしねぇよ。どうせ、ダメだって言っても行く気なんだろ?」
「ヤル気がにじみ出てるっぴ」
「フィーノちゃんもいっしょに行きますの!」
「フィーノも……?そうね、フィーノには特別な何かを感じるし、一緒にいてくれたほうがいいわね」
ブルーベリーは柔らかな表情でフィーノを見た。
「そお?じゃあ僕も一緒に行くね!カフェオレ探しチームに混ざるね」
「それじゃ、お言葉に甘えて、私達、魔バスで待ってるけど……本当にだいじょうぶ?」
「大丈夫に決まってるでしょ?私一人でも平気なくらいよ」
心配するアランシアに、レモンは胸を張った。
「それじゃ、オイラたち、魔バスにもどるっぴ!これ以上からむとヤバいっぴ!」
「ん?これ以上からむと何がヤバいって?」
「なんでもないっぴー!!」
レモンがドスを効かせると、ピスタチオは魔バスへ向かいダッシュで逃走して行った。
「やれやれだぜブラザー」
フィーノが肩を竦めた。
「俺の口癖マネすんな!ま、ケガしないようにがんばれよ」
キルシュも魔バスへ戻りに行った。
「がんばってね!無理しちゃダメだよ!」
アランシアも魔バスへ行った。
「さぁ、それじゃ行こうか。目指すは裏門。裏門を守ってるドワーフがカフェオレの行方を知ってるはずだ。裏門はこの宮殿の北西のあたりに位置しているはずだ。まずはトピアリー迷宮の外へ抜けようぜ」
「おー!」
フィーノは天に拳を突き上げて明るい声を出した。
(ブルーベリー……、死ぬのは怖くないって言ってたよね)
(僕は死ぬのが一番怖い)
(僕はブルーベリーと違って絶対天国には行けない。とても大きな罪を犯したから……。死んだら地獄行きに決まってる)
(でも、どんな事をしたのかは言えない……言う勇気が出ない)
(いつかは、打ち明けられるようになれるのかな?)
(いつかは…………)
すると、どこかから会話の声が聞こえて来た。
「この俺がエニグマの仲間だって~ッ!?じょうだん言っちゃいけねぇ!」
バルサミコの声だ。
「てめぇ、その変な乗り物から出てきて話をしやがれ!!」
「たいど悪ィぞ!!」
「いや、たいどはたしかによくないが、悪いヤツではなさそうだ。村のものに説明がつけばそれでいい。我々がなっとくできるこたえを聞かせてもらいたい。お前はどこから来たんだ?」
「しょうがねぇなぁ。ちゃんと聞いてろよ。さっきから何度も説明してるだろ?」
どうやらバルサミコが知らない相手ともめているようだ。
「今、バルサミコの声が聞こえたような気がする~」
アランシアがおっとりと言った。
「ああ、俺も聞こえたよ。ピスタチオ、お前は?」
「文鳥の声に、文鳥のニオイがするだけっぴ」
「つまり、聞こえなかったと」
バルサミコの声がした方に行くと、戦士風の愛の大使が大きな声を出した。
「なにものだ!!お前たち!!」
「キャッ!いや~んびっくり~」
「いきなりデカい声出さないでよ!!ありえない!!」
フィーノが怒った。
「オイラたち、ヘンな魔物に追われてるっぴ」
「エニグマってヤツだ。知ってるか?」
「エニグマ!!それはあっしらにとっても敵!」
戦士風の愛の大使が言った。
「ところで、アンタらこそなにものだっぴ?」
戦士風の愛の大使に、ピスタチオが尋ねた。
「あっしらは、ワクティ村の村長しんえー隊ッ!タルトとタタン!そして、まん中においでなのが、村長のムスコさんだッ!ムスコさんからも一言どうぞ!」
「ムスコさんではない!!村長と呼べ!村長!」
小さな愛の大使が憤慨した。
「いや、しかし、呼べと言われても村長はあなたのお父上で……」
タタンが困ったように言った。
「ワクティ村では、愛のデッパリを持つものが村長と決まっている。愛のデッパリを父上からゆずりうけた以上は、私がワクティの村長だ」
ムスコさんが偉そうに言った。
「愛のデッパリ……。別名、村長ワンド……。しょうちいたしておりやすとも。でもそれは、ムスコさんが無理矢理ガトーどのから……」
タルトが言った。
「ムスコさんではないッ!!私が村長だッ!!逆らうヤツは父上に言いつけてクビにしてやる!!」
ムスコさんが脅しをかけるが、フィーノの目には虎の威を借る狐に見えた。
「そんな、むちゃくちゃな……」
タタンが呟いた。
「そこのよそ者ども!早々に立ち去るがよい。このあたりは、われら愛の大使がかんりしている!近ごろでは、エニグマも出没すると聞く」
自称村長のムスコさんが言った。
「だけど、ムスコさん……私たち……」
「ムスコさんではない!!私の名前はトルティーヤ!!ワクティ村の村長だ――ッ!!」
どうやらムスコさんはトルティーヤというらしい。
「そんちょーしなさい」
「ハァ……」
タルトのダジャレに呆れてピスタチオとフィーノが同時にため息をついた。
「行くぞ!」
「ハッ!!」
トルティーヤたちは、その場からどこかへ行ってしまった。
「魔バスだっぴ!!」
「ほんとだ~こんなものまで来てるんだ~」
アランシアはしげしげと魔バスを見た。
「エニグマのヤツら、人もバスもおかまいなしかよ……魔力はすさまじいが、オツムはピーナッツだな」
「エニグマって案外単細胞なんだね。まさか、融合したらそのピーナッツ頭になる……なんてこと……ないよね?」
フィーノが毒づいた。
「さあ……そうだったらやだな。融合なんて永遠にゴメンだけど」
キルシュが複雑な顔をした。
「さっき聞こえた声って、やっぱりバルサミコの声だったんだ~」
アランシアはニコニコしている。
「いよう!悪ガキども!生きてやがったな!魔バスの天才ドライバー様もこっちに来てるぜぃ!いやぁ~、さっきはエニグマの仲間だとカンちがいされて、からまれてたんだ。まったく、俺のどこが悪いヤツに見えるってんだ!?はぁ~ん?」
「バルサミコだっぴ!!」
「運転手つきか。気がきくな、エニグマ」
「本当にね。サービスいいよね、エニグマ」
フィーノがキルシュの言葉に賛同した。
「とりあえず乗れよ。えんりょなんかすんなよ。自分ちだと思ってくつろいで行くんだぞ!」
全員、バルサミコの言葉に甘えて魔バスに乗りこんだ。
「ねぇ、バルサミコ他の生徒は見なかった?」
アランシアが尋ねた。
「ああ、見た見た。カフェオレとぺシュな。それとレモンとブルーベリーな。あの子ら、仲いいよなぁ」
「キャンディは!?キャンディはいなかったか!?それに、他のみんなは?」
ほんとキルシュってキャンディのことばっかだな、とフィーノは思った。
「キャンディよりもガナッシュよ!キルシュのバカっ!ガナッシュは見なかった!?」
そんなキルシュがおもしろくないのか、アランシアは怒り気味だ。
「あの子は、一人で勝手にどっか行っちゃったね~。他の4人が帰ってこないって言ってんのに、聞きもしねぇ」
「帰ってこない!?レモンたちはどうしたの!?」
アランシアはあせった。
「彼女ら、カフェオレを探しに行ったきり帰ってこないね~。カフェオレがいれば魔バスもなんとかできるかも知れないのにねぇ~」
「探しに!?カフェオレはどうしたの!?わけわかんねぇよ!!」
「ああ、ごめんごめん。わかりやすく言うとだな……こっちの世界に飛ばされたショックで魔バスが壊れてしまったんだ。それで、困ってたら、カフェオレくんたちが来てくれたってわけさ」
「で、それでどうしたの?」
アランシアが促した。
「部品を取り出そうと思ってカフェオレのハラ開けたのさ」
「カフェオレはどうしたっぴ?」
「逃げた」
「あははははははははは!!!!」
バルサミコの短い答えがツボに入ったのか、フィーノは手を叩いて爆笑した。
「俺も逃げたいよ」
キルシュはどこか哀愁が漂っている。
「がーはっはっはっは!!青いね~キルシュ青年!!お前もいずれ俺みてぇな汚ェ大人になんだよ~!!わかってんだろ~!?」
「……とりあえず、その……4人を探してきます……」
「ハァ……」
アランシアとピスタチオは、バルサミコの言動に引いているようだった。
フィーノだけがまだ大笑いしていた。
魔バスから下りたフィーノ達は、ワクティ村に行った。
村長のガトーと話をする為だ。
「おお、旅の人か。先ほどの3人の連れの方ひゃの?」
ガトーが自宅を訪れたフィーノ達に尋ねた。
「わかんない。先ほどの3人って誰?」
フィーノは首を傾げた。
「そうか……。実は、先ほど3人の女の子らが友達を助けにレーミッツ宮殿に入りたいとたずねてきたひゃ。宮殿のカギを渡したのひゃが、今になって心配になってきての、レーミッツ宮殿に行かれるなら、あの娘らの様子を見てきてはもらえんひゃの?宮殿のカギも渡しますひゃ」
「わかった、ありがと」
フィーノはガトーから宮殿のカギを受け取った。
すると、トルティーヤが怒りながらその場にやって来た。
「父上!!なぜヨソモノに宮殿のカギを渡すのですか!」
「おお、トルティーヤか。すまぬひゃ。これもすべて、愛ゆえひゃ。なにがなくとも、思いやり。それがすなわち、愛ひゃ」
「そんなことのどこが愛ですか!?もっと真剣に考えてください!あなたはもう、村長のシカクなどない!!」
ガトーが言うも、トルティーヤはますますヒートアップするばかりだ。
「そうかも知れん。この村に村長などおらんひゃ。みな、自分で考え、自分で自分をただしておるひゃ」
「私を村長とは認めないとおっしゃるのですね。それも良いでしょう。しかし、村のルールと安全は私が守ります」
「ムスコさん……そのワンドは……愛のデッパリは、ガトー殿にお返ししてくだせぃ。お願いします。いがみあうのは、愛の大使ににつかわしくありませんです」
タルトが控え目に申し出た。
「出すぎるな!村を守るのはこの私だ!!」
しかしトルティーヤは耳を貸さない。
「行くぞ!!今日こそはエニグマを倒す!!旅の者よ、宮殿のカギは自由に使うが良い。しかし、エニグマは私たちの敵。私たちが倒す!」
「てがらは全部ムスコさんのもの!」
タルトが言った。
「そうすりゃ村人もムスコさんを村長と認めるってもの!」
次いでタタンが。
「そのとおり!!行くぞ!しんえー隊ッ!!」
言うだけ言って、トルティーヤ達は行ってしまった。
「素直な好青年っぴ」
「すまぬひゃ。見苦しい姿をみせましたひゃ。ムスコが持ってる愛のデッパリは村長ワンドとも呼ばれ、村長の証とされてきた品ですひゃ。また、ワンドは 闇をはらう力を持っているとも言いつたわっておりますひゃ。ワンドを彼に持たせておるのは、村のためでも、彼のためでもありますひゃ。これもまた、愛ですのひゃ」
「……ねえ、愛の大使って本当は戦いなんて好まないんだよね?」
「もちろんですひゃ」
フィーノの言葉に、ガトーは頷いた。
その後フィーノは続けた。
「エニグマを倒すなんて、本当はいきがってるだけの薄っぺらい言葉なんじゃないのかなぁ?」
「でも、トルティーヤはやる気がメラメラ燃えてたっぴ」
「うーん……」
フィーノは考えこんでしまった。
「あなたのおっしゃる通りですひゃ。ムスコも愛の大使。きっと戦いを好んでいるわけではいませんのひゃ」
ガトーは穏やかにフィーノの意見を肯定した。
彼は心の底からトルティーヤを信じているのだろう。
これもまた愛なのだろうか。
ガトーに鍵をもらったフィーノ達はレーミッツ宮殿に入った。
入口に入ると、ピスタチオがクンクンと辺りのにおいを嗅ぎ始めた。
「ぺシュのニオイがするっぴ!ブルーベリーもだっぴ!」
「ホント~!?この中にいるの~!?」
「ピスタチオって、改めて鼻いいね。僕毎日お風呂に入るようにしてて良かった。僕のニオイ臭かったら最悪だもん」
フィーノがやや能天気かつずれたコメントをした。
「フィーノは大丈夫だっぴ。でも、キルシュはたまに汗臭いっぴ」
「なんだとこの犬」
キルシュの趣味はスポーツと筋トレなのだ。汗臭いのも無理はない。
「ここまでだ!宮殿への立ち入りは許さん!!」
そこに、トルティーヤ達が現れた。
「お前たちのため言ってるのだ。エニグマの話は聞いているだろ?ソイツがこの中にいることがわかっているんだ。お前たちでは危なすぎる。早々に立ち去るがいい」
「キケンなんか、いつもしょうちの上だぜ」
「しょうちだと?お前に何がわかるかッ!!この中にいるエニグマはおそらく3体。しかも、手ごわい相手だ。簡単に倒せると思うなッ!」
トルティーヤが声を荒げる。
「だけど、中からブルーベリーとぺシュのニオイがするっぴ~」
「不用意な……なぜわざわざキケンな場所へ……」
「ムスコさん……あっしらも、力を貸して、ともにエニグマを倒すのがいいのでは……?」
タルトが控え目に意見を出した。
「しかし……」
「意地はるなよ。これだけ頭数がそろってんだ。今がエニグマを倒すチャンスじゃないのかい?」
キルシュが言った。
「……倒す……誰も彼もが口を開けば倒すだの、殺すだの……なんてあわれな……」
「ムスコさん……」
タタンが呟いた。
「なぜ倒す必要がある……?ヤツらが何をした!?光におびえ、宮殿に引きこもっているだけの相手をッ……!」
「エニグマのカタを持つっぴ?どうかしてるっぴ!?そっちにエニグマを倒す理由がなくても、こっちにはあるっぴ!ヒドイ目にあったっぴ!!」
「僕ら、エニグマに友達をさらわれたの」
ピスタチオが怒り、フィーノも静かに反論した。
「ムスコさん、あっしらも愛の大使のハシクレ。ムスコさんの気持ちはよ~く、わかりやす。しかし、ここは……」
タルトが言った。
「これ以上言ってもムダのようだな。お前たちに事情があるなら、倒すのもしかたがないこと。しかし私は……!」
「ムスコさん、今は、人を助ける時。誰も手を汚さずに生きてゆける時代ではありやせんぜ。手を貸してやりやしょうぜ」
タタンもトルティーヤを説得しようとした。
「俺たちだけでやるさ。お前はここで待ってな」
「フ――――――――ンだ!!おとなしく待ってるっぴ!テガラはくれてやるっぴ!」
「ピスタチオ~そ~ゆ~こと言わないの!」
「じゃね、ムスコさん」
フィーノは去り際に、トルティーヤの肩を軽く叩いた。
トルティーヤは下を向いて黙っていた。
フィーノ達は宮殿内部に入ると、大廊下に出た。
そこにはペシュがいて、何やらキョロキョロして困ったような様子だ。
「あっ!!」
ぺシュはフィーノ達を見つけると、駆け寄ってきた。
そしてとても混乱した様子で話し始めた。
「みんなー!!たいへんですの――――!!ブルーベリーちゃんが具合が悪くなって、動けなくなって、それから……それから……」
「それからどうしたっぴ!!おちついて話すっぴ!!」
「そうよ、ぺシュちゃん。最初からちゃんと話して」
「あ、あ、あ、あうあー。最初って、どのへんからですの~?」
ペシュは相当混乱しているようだ。
「やれやれだぜブラザー。まず、レモンがいっしょじゃないワケから話しな」
「えーと、3人で門のとこでエニグマに襲われそうになって、レモンちゃんがオトリになって私たちを逃がしてくれましたの」
「それで?」
キルシュが続きを促した。
「この宮殿の地下で待ち合わせてたんだけど、ブルーベリーちゃんが具合が悪くなって、レモンちゃんも来ないから、誰か呼んでこようと……」
「誰か呼んでこようと思って、それでどうしてたの?」
アランシアが優しく尋ねた。
「迷子になってましたの……」
「あー、ここ広いもんね……」
方向音痴のフィーノがウンウン頷いた。
「たよりにならないっぴ」
「ピスタチオちゃんに言われたくありませんの!」
ピスタチオの一言が癪に触ったのか、ペシュは怒り出した。
「はい、はい、はい、はい。わかったわかった。で、ブルーベリーが、この宮殿の地下にいるんだな?で、それを、助けに行くと」
「最初からそう言いましたの……」
「言ってないっぴ」
「ピスタチオちゃんのお耳は虫の穴ですのッ!?」
「虫の穴じゃないっぴ!!」
「どっちでもいいから、もう行こうぜ。ブルーベリーのことが心配だ」
「そうだね。ブルーベリー大丈夫かな?」
ブルーベリーの心配をすると同時に、彼女のもとまでこの広い宮殿の中で方向音痴の自分が無事に着けるかどうかと己の心配もするフィーノだった。
フィーノ達は、迷いに迷いながらも宮殿の地下へ行き、中心辺りへ来た。
ただでさえ方向音痴のフィーノが広大な宮殿内へ入り込んだのだ。そう易々といくまい。
「ここですの!ここにブルーベリーちゃんがいますの!エニグマがひそんでるかも知れないけど、カクゴはできてますの?」
「うん!どんとこい!」
フィーノは勇ましく返事をした。
「それじゃ行きますの!」
ぺシュは意気込んで言うと、皆をブルーベリーのいる場所へ連れていった。
ブルーベリーは、床に倒れて具合が悪そうだ。
「ブルーベリーちゃん!だいじょうぶですの!?」
ブルーベリーは、なんとか上体を起こしたが顔色が悪い。
「おひさしぶり……ぺシュ……それに、キルシュ、アランシア、フィーノ……」
「オイラもいるっぴ!!」
名前を呼び損ねられたピスタチオが抗議した。
「ブルーベリーちゃん!休んでないといけませんの!」
「エニグマは3体いるらしいな。どうする?」
「あんなヤツが3体も……」
キルシュが言うと、ブルーベリーが呟いた。
「ブルーベリー、もしかしてここのエニグマを見たの~!?」
アランシアが尋ねた。
「ええ、海岸に出たのとは、ぜんぜんちがうわ。私たちで3体を相手にしたらとても勝ち目はない……」
「レモンが1匹をマークしている今がチャンスってことか……。残りのヤツらを、一匹ずつさそい出せばなんとか……」
「そうだね、キルシュ。僕らでなんとか一匹ずつ……」
すると、どこからか不気味な声が聞こえてきた。
「ひっひっひっひっひ…………」
「エニグマですの!!」
その場にエニグマが現れ、フィーノ達は警戒した。
「ひっひっひっひ……安心しな。殺しはしない。俺たちの宿主になってもらう。光のプレーンで自在にふるまうためにはお前たちが必要だ」
「…………」
フィーノは思ってしまった。
一番怖いのは死ぬ事。自分はたくさんの人を殺した。地獄に落ちるに決まってる。しかし強くなる事と引き換えに、それを免れられる?
しかし、それを選べば皆を裏切る事となる……。
「い、い、い、イヤだっぴ!!!!融合なんかしたくないっぴ!!オイラ、フサフサのしっぽもツヤツヤのおハナもお気に入りだっぴ!!エニグマなんかになりたくないっぴ!!」
「死を前にして同じことが言えるかな?くっくっくっく……」
エニグマは余裕な笑いさえ見せている。
「コイツかッ!!1匹ずつたたきゃいいんだ!!行くぜ!!」
「ひっひっひっひ……ソイツが戦ってるあいだ……オレは何をして待ってればいいんだい?」
今度は別のエニグマの声が聞こえたかと思えば、反対側から別のエニグマが出てきた。
「2匹だ~!2匹もいる~!」
アランシアが慌てた。
「くっくっくっく……2匹とはな……虫のように呼んでもらって光栄だよ…………」
すると、また別方向から更に別のエニグマが現れた。
「ひあ~~~~~~~~!!オイラ融合したいっぴ!エニグマ様と融合して強くなりたいっぴ!!死にたくないっぴ!!」
「ちょっ、ピスタチオ……!」
フィーノは自分も同じ事を考えていただけに強くは出れないものの、挫けたピスタチオを咎めるように言った。
「くっくっくっく。わかってもらえてうれしいよ」
「力に屈しちゃダメだ――――ッ!!」
その時、トルティーヤ達があらわれ、トルティーヤはエニグマに村長ワンドを投げつけた。
「ぬッ!うごッ!うぐぐぉぉ……ッ!ぷきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
エニグマのうち、村長ワンドを投げつけられた1匹が倒された。
「ムスコさん!?」
「助かった~~!」
キルシュ、フィーノが言った。
「ゆだんするな!!こっちは私たちにまかせろ!!お前たちは、そっちをッ!!」
「くっくっくっくっ……闇にあらがうなど……虫ケラのやること……」
「虫ケラだって……生きてるんだよ?」
静かに言いながら、フィーノは両手に魔力を溜める。
その間にもブルーベリーが水の精霊フローを召喚したのを確認すると、フィーノは唱えた。
「アクアグラッセ!!!!」
エニグマは、悲鳴をあげる間もなく巨大な氷の槍に貫かれ絶命した。
魔法の威力を上げるという役目を終えたフローは消えた。
「あいかわらず強いな……さすがは首席……」
「ブルーベリーが精霊を呼び出してくれたからだよ」
信じられないというふうなキルシュに、フィーノは謙遜して見せた。
トルティーヤ達もエニグマを倒したようだ。
「トルティーヤちゃん!」
ペシュはトルティーヤの方を向いた。
「ムスコさん……助かりやした……あっしら助かったっす!!」
「そう……エニグマが死んで……俺たちは助かった……」
タルトの言葉に、トルティーヤは静かな暗さを持つ声で返した。
「そうですともムスコさん!!あっしら助かったんだ!!村長ワンドは……なくなったが……しかし、そんなモノ!!人の命にくらべりゃ、ヘみたいなモンだぁ!!」
「たすかったからなんだって言うんだ。――助かったからなんだって言うんだッ!!戦わなければ生きていけないなら、なぜ俺は愛の大使なんかに生まれてきたんだ!!オレはもう……愛の大使なんかじゃない……生きてるシカクなんてない!!」
「トルティーヤ、アンタは英雄だ。胸をはれよ」
キルシュが言った。
「ハッ!この俺が英雄か!村へ帰り、みなの前で、『俺を見ろ。俺がしたように戦え』そう言えばいいのか!?」
「誰もそんなこと言ってないっぴ」
「あまり思いつめないで トルティーヤさん。私もぺシュとの付き合いが長いし、愛の大使の考え方はよくわかるわ」と、ブルーベリー。
「……」
「ありがとう、トルティーヤ」
「あたしも感謝してますの!!ありがとうですの!!トルティーヤちゃん!!」
「センキュ~トルティーヤ。俺も感謝してるぜ」
キルシュがウインクした。
「ありがとう!ムスコさん」と、アランシア。
「ありがとねっ!感謝感激!」
フィーノも満面の笑顔で気持ちを伝えた。
「ムスコさん!!あっしらも、それからこっちのイヌちゃんも感謝してるです!」
「イヌちゃん……」
タルトにイヌちゃん呼ばわりされて、ピスタチオは複雑そうな顔になる。
「トルティーヤどの!!村へ帰りましょう!!ワクティ村の村長として!!」
タタンが言うも、トルティーヤは首を横に振った。
「ありがとう、しんえー隊。それに、みんな。また、どこかで会おう」
それだけ言うと、トルティーヤはどこかへ行ってしまった。
「トルティーヤどの!!」
「お待ちください!!」
タルトとタタンもトルティーヤを追って行ってしまった。
「あとあじ悪いっぴ……」
「しかたがないことですの。エニグマが敵だとは言っても戦って、相手が死んでることに変わりはないですの」
「行こう。レモンとカフェオレを探しに」
キルシュが前を向くべく言った。
「そうね。それと、こたえを探しに。どうしてエニグマが私たちをねらうのか、ハッキリさせないと今の気持ちを変えられない」
「そうだね。ブルーベリー」
フィーノがうなずいた。
すると、ブルーベリーはハッとしたようにこう言った。
「レモンはどうしたの!?アイツを追ってたハズよ!!行きましょう!!」
レーミッツ宮殿の内部から出ると、そこには倒れているレモンがいた。
フィーノ達は、倒れているレモンに駆け寄った。
「レモンちゃん!!だいじょうぶですの!?」
「ツゥ……ッ!ゆだんした……」
レモンは起き上がると、激昂した。
「あのエニグマ~ブッ殺してやるッ!!」
「ウフフフフ……」
ペシュはおかしそうに笑う。
「フゥ~。相変わらずコワイお姉さんだ」
「お元気そうで何より」
キルシュとフィーノが言った。
「エニグマはもういないわよ、レモン」
ブルーベリーが教えた。
「いない?いないってことは……お前たちでやったのか?」
「そーゆーことだっぴ。先をいそぐっぴ。カフェオレはどこに行ったっぴ!?」
「裏門のドワーフたちが古代機械がどうのと言ってたから……その先に行ってみる必要があると思って、ブルーベリーたちをむかえに来たんだ。そしたら、エニグマとはちあわせしてしまってこのザマさ。さっき、裏門からパンくずをまきながら来たから、それをたどれば簡単に行けるハズだ。エニグマにやられて寝てる間に、トリに食われてしまったかも知れないけどね。………………しかしこれじゃ……人数が多すぎやしないか?」
「たしかに、あまり人数が多いと逆に危険だ」
キルシュがレモンの意見に賛同した。
「チームをわけて、一部は魔バスで待機しよう。あの中なら、モンスターも襲って来ないし安全だ」
そう言ってレモンがブルーベリーを見ると、ブルーベリーは首を左右に振った。
「私、残るのはイヤよ。戦うわ」
「ブルーベリーちゃん……」
「ありがとう、いつも気をつかってもらって。でも、私だけ残るのはイヤ。絶対にイヤ!」
「気持ちはわかるけど、カラダはだいじょうぶなの?」
「そうだよ、ブルーベリー具合悪かったじゃん。平気なの?」
レモンとフィーノが言った。
「心配しないでよ。だいじょうぶにきまって……うっく……!」
一瞬だけ、その場が静かになった。
「ダメじゃん。ぺシュ、キルシュ、彼女を魔バスまで連れて行ってあげて」
「のけものにしないで!!私だってやれるわ!!」
「レモンちゃんはそんなつもりで言ったわけじゃないですの~」
「どんなつもりか知らないけど……いつも、私ひとりだけ置いて行かれるのはイヤ!!」
「やれやれだね。おじょう様」
レモンはあきれたように静かに言った。
「そんな言い方しないで!!たしかに私……生まれつきカラダは弱いけど、でも、そんなこと気にしないで、フツーに接して欲しいの!」
「できないよ……。特に今は、ヒドイありさまだ。ヘタすりゃ、アンタを死なせることになる」
レモンが真摯に述べた。
すると、ブルーベリーは声を荒くした。
「私に、一生みんなから外れて生きて行けって言うの!?小さい頃からずっと、パパやママから、お前は長生きできないって言われてきたから、私、死ぬのなんて怖くないよ!長生きしたいなんて少しも思ってない!!ほんの少しの時間でもみんなといっしょにいたいの!!親友でしょ?レモン!」
死ぬのは怖くないと言い切れるブルーベリーは、まるで自分とは正反対だなとフィーノは感じた。
そして、彼女が生きるのを諦めていることも。
しばらくの間の後、レモンはブルーベリーに言った。
「ブルーベリー……、私たち、本当に親友だった?」
「それは……あなたがどう思ってるか知らないけど、私は親友だって思ってた。それすらもいけないって言うの?」
ブルーベリーは、悲しそうにうつむいた。
「それじゃ、どうして親友の私にいつも隠し事をするの?」
「隠し事?私が?」
ブルーベリーは、うつむいていた顔を上げた。
「あなた、カラダの具合が悪い時も何も言ってくれないじゃない。何もたよってくれないじゃない。私がいつも心配してるのに、自分だけで抱え込んじゃってさ。そんなの親友じゃないよ!!なんで何も言ってくれないんだよ!!」
「!!!!だって、それは……」
レモンはいつも、悔しかったのだろう。ブルーベリーが自分を頼ってくれないことが。体の具合が良くない時、いつも自分ひとりで耐えていたことが。
「いっしょに行くのはかまわない。でも、条件があるわ。カラダの調子が悪い時は、すぐに言うこと。自分だけで抱え込まないで、ちゃんと、私や、他のみんなをたよらなきゃダメよ。それが守れるならもうあなたを一人で待たせたりしないわ」
「……ありがとう、レモン。あの……ごめんね、私……めいわくばっかかけて…………」
「OK。行こう、ブルーベリー」
レモンはブルーベリーに微笑んだ。
「しかし、大人数がキケンなことに変わりないよな。ねぇ、フィーノ……カフェオレのことは、私達にまかせてほしいの。私と、ブルーベリーとぺシュ、三人で、なんとかカフェオレを連れて帰るわ。いいでしょう?」
「いいよ!じゃあ僕、魔バスで待ってる!」
「誰もお前を止めたりしねぇよ。どうせ、ダメだって言っても行く気なんだろ?」
「ヤル気がにじみ出てるっぴ」
「フィーノちゃんもいっしょに行きますの!」
「フィーノも……?そうね、フィーノには特別な何かを感じるし、一緒にいてくれたほうがいいわね」
ブルーベリーは柔らかな表情でフィーノを見た。
「そお?じゃあ僕も一緒に行くね!カフェオレ探しチームに混ざるね」
「それじゃ、お言葉に甘えて、私達、魔バスで待ってるけど……本当にだいじょうぶ?」
「大丈夫に決まってるでしょ?私一人でも平気なくらいよ」
心配するアランシアに、レモンは胸を張った。
「それじゃ、オイラたち、魔バスにもどるっぴ!これ以上からむとヤバいっぴ!」
「ん?これ以上からむと何がヤバいって?」
「なんでもないっぴー!!」
レモンがドスを効かせると、ピスタチオは魔バスへ向かいダッシュで逃走して行った。
「やれやれだぜブラザー」
フィーノが肩を竦めた。
「俺の口癖マネすんな!ま、ケガしないようにがんばれよ」
キルシュも魔バスへ戻りに行った。
「がんばってね!無理しちゃダメだよ!」
アランシアも魔バスへ行った。
「さぁ、それじゃ行こうか。目指すは裏門。裏門を守ってるドワーフがカフェオレの行方を知ってるはずだ。裏門はこの宮殿の北西のあたりに位置しているはずだ。まずはトピアリー迷宮の外へ抜けようぜ」
「おー!」
フィーノは天に拳を突き上げて明るい声を出した。
(ブルーベリー……、死ぬのは怖くないって言ってたよね)
(僕は死ぬのが一番怖い)
(僕はブルーベリーと違って絶対天国には行けない。とても大きな罪を犯したから……。死んだら地獄行きに決まってる)
(でも、どんな事をしたのかは言えない……言う勇気が出ない)
(いつかは、打ち明けられるようになれるのかな?)
(いつかは…………)