第5章 パペットのハート

フィーノ達はトルーナ村にたどりついた。
そこはパペットの住む村で、フィーノは自然とカベルネを思い出した。
「カベルネ大丈夫かなぁ……あっ!」
フィーノは村長の家の前に、見慣れた人物を発見した。
フィーノとしては会えてとても嬉しい人物だ。
「ガナッシュじゃん!」
「ほんとだ!ガナッシュ~!」
「!?フィーノ、アランシア……」
ガナッシュはこちらに気付いたようだ。
「それにピスタチオ……」
「よっ、オッサン!生きてたか!」
「当たり前だ!勝手に殺すな!!それに俺はオッサンじゃない!カシスの真似なんかしなくていい!!」
フィーノの軽口に、ガナッシュはムキになった。
「キルシュがたいへんだっぴ!!エニグマにさらわれたっぴ!!」
「そうなの~!!融合されちゃうかも!!」
ピスタチオ、アランシアが言った。
「僕をかばってさらわれたの……」
フィーノが泣きそうな顔でうつむいた。
「融合の心配はないと思うが、ヤバいことになったな……」
そんなフィーノの頭を撫でながら、ガナッシュが言った。
「融合の心配はないっぴか?融合はウソだっぴか?」
「すぐに融合できるんだったら、海岸でやってたハズだ。こんなところまで連れてきて、俺たちがつかれはてるのを待ってるところを見ると……俺たちにその気がなければ融合なんてできないんだと思う」
「じわじわいたぶって、その気になるまで待つのね?キルシュ……だいじょうぶかしら……?」
アランシアは表情を不安そうに曇らせた。
「さらわれたのがアイツで助かったよ。アイツならだいじょうぶだ」
すると、遠くから叫び声がした。
「ひゃあああああああああっ!!」
「ど、ど、ど、どうしたんですかい!!」
「地下から声がするぺたん!!ブキミな声がするぺたん!!」
どうやら、旅のこんにゃく様とパペットの声のようだ。
「やだ~こわ~い……」
「行ってみよう。キルシュがいるかも知れない」
ガナッシュはアランシアを勇気づけるように、どこか力強く冷静に言った。
「うん、行こう。早くキルシュに会いたい……」
フィーノは罪悪感と不安が入り交じったような顔が隠しきれてなかった。

トルーナ村の左端の家の中から洞窟に続く道に入ると、ヴァルカネイラとキルシュの声が聞こえて来た。
「どうだ……融合してみる気になったか?」
「い……いやだ……」
「くっくっく……そうは言っても……だいぶ、ココロにスキができてきてるぞ……。もう一発くらってみるか?くっくっくっく……。」
洞窟内に、ミジョテーの放たれた音が響いた。
「うああああああああああッ!!」
キルシュは魔法をくらったのだろう。痛ましい悲鳴が響いた。
「キルシュの声だっぴ!!」
「すぐに行くからな……。根性見せろよ、キルシュ」
ガナッシュが呟いた。
(キルシュ……本当は、同じ目にあうのは僕だったはずなのに……)
フィーノは目尻に浮かぶ涙を拭う。
奥へ行くと、ヴァルカネイラと倒れてるキルシュがいた。
「やめろ!!そいつに手を出すな!!」
ガナッシュが叫んだ。
「なんだ?助けに来たのか?」
ヴァルカネイラが問う。
「ちがう」
「?」
ガナッシュの答えに、アランシアは疑問を感じた。
「くっくっく……。面白い。俺を殺しに来たとでもいいたいのかい?」
「それも、ちがったらどうする?」
ガナッシュは、ヴァルカネイラに一歩近付いた。
「おおっと!!それ以上来るんじゃない!!今は、お前らを相手にしてる力は残ってない。どうしてもと言うなら、俺はコイツにトドメをさしてズラかるだけだ」
「ガナッシュ!!キルシュがやられるっぴ!!」
キルシュは、必死に体を起こした。
「俺のことは気にするな!!戦える!!」
「俺と融合しないか?」
「!!!!!!」
アランシアが目を見開いた。
「ガナッシュ!!!!裏切るっぴか!!!!」
「ガナッシュ……」
フィーノは、ガナッシュを強く止められず、切なそうに見詰めるばかりだ。
なぜなら、自分もエニグマと融合したいと思った事があるから……。
「なるほど……。パワーも高い……。属性は闇……。いい宿主になりそうだ」
「ガナッシュ……お前……」
キルシュが傷の痛みに耐えながら呟いた。
「はっはっは……。いいぞ……。ようやく光のプレーンを落とす日が来たのか。はっはっはっはっは!」
「だが、その前にお前をためしたい」
「なんだとぉッ!!」
ガナッシュが放った魔法で、ヴァルカネイラは消し飛んでしまった。
「口ほどにもない」
「ふ~。そういうことだったのね~」
アランシアはホッとした顔で胸を撫で下ろした。
「俺たちまでだまされるところだったぜ。まったく人が悪いヤツだぜ」
「も~ガナッシュったら。びっくりしたよ~~~。あはははは」
フィーノはガナッシュの背中をバシバシと叩く。
それに対しガナッシュは無言だった。
「これから、どうするっぴ?このあたりにはもう誰もいないっぴ」
「そうね~、トルーナ村の村長に遺跡に入る許可をもらって、遺跡を抜けて……え~と…………」
「ワクティ村だ。愛の大使の村があるはず」
ガナッシュが言った。
「よっしゃあ!!そうと決まれば行くぜ!!」
「おー!!レッツゴー!!あの、キルシュ……ごめんね……」
「ん?何が?」
キルシュがニカッと笑ってみせた事に、フィーノは救われた。

遺跡に入る許可を求めて家にやって来たフィーノ達に、パペットの族長、シフォンが対応した。
「はひゃ。どなたさんでしたかの……」
「ぶしつけでもうしわけ無いが、遺跡を抜けたいんだ。許可をもらえないかな」
ガナッシュが申し出た。
「はひゃ。許可か。よかろう。しかし、今日はもう遅いのぉ。ミルフィーユ、遅いよのぉ?」
パペットの族長のシフォンが言った。
「そうですね、おじいさま。ちょっとだけ遅いかもね」
ミルフィーユと呼ばれた金髪の女性のパペットが答えた。
「そうじゃの。明日また来てもらおう。そしたら、そなたらにわしのモモヒキをあげよう。それがあれば、のぉ、遺跡に入れるハズじゃ。のぉ、ミルフィーユ」
「モモヒキじゃありません。おじいさま。ウークルの羽です。ウークルの羽を持つものだけが遺跡に入れるのです」
ミルフィーユがフォローを入れた。
「そうそう、ウークルの……それがあると、えー……夜もあったかくて、ぐっすり眠れるんじゃったかの……?」
「それは、モモヒキ。おじいさま、ご心配なく。ウークルの羽は、明日私がおわたしして遺跡にも案内してさしあげます」
「おお、つれて行ってくれるか。それはすまぬの。遺跡へ行くのも何年ぶりじゃ」
シフォンはまだ何か勘違いしているようだ。
「案内してさしあげるのは、おじいさまではなく旅の方です。おじいさまは、ここでゆっくりなさいませ。お体にひびきます」
ミルフィーユは優しく祖父に言った。
「おお、そうかそうか。それがよかろう。それじゃ、また明日来るがよい」
(す……凄まじいボケ老人だなこりゃあ……ミルフィーユさん大変だろな~……)
フィーノは心の中でミルフィーユに同情した。
「ここはトルーナ村の村長、シフォン・トルーナの家です。私はシフォンの孫娘のミルフィーユ。よろしくね」
ミルフィーユが一同に自己紹介した。
「キレイなお姉さんだっぴ……」
ピスタチオはポ~ッとなっている。
「……?どうかしましたか?」
「お姉さん。ステキだっぴ」
「ピスタチオ。目がハートになってるよ」
フィーノが茶化した。
ミルフィーユは嬉しそうに笑顔になった。
「ありがとう。あなたもステキよ。あなたみたいなキュートな子に会うの、800年の人生の中でもはじめてよ」
「800年!!!!それじゃお姉さんじゃなくておばあさんだっぴ!!」
「ピスタチオ~!!しつれいよ~!!パペットは年を取らないのッ!」
アランシアが叱った。
「え~~~~~ッ!?それじゃ、奥にいるヒゲのパペットは~~~ッ!?」
なおもピスタチオは驚いた。
「あの人は私のおじいちゃん。この村の村長で、生まれた時から白いヒゲのおじいちゃんだったわ。パペットはみんな生まれた時からず~っと、何も変わらないのよ」
「ふーん。じゃあ、カベルネもそうなのかな?」
「多分ね~」
フィーノ、アランシアが言った。
「はひゃ?ミルフィーユや、ごはんかの?」
すると、シフォンがやって来て尋ねた。
「なんでもありませんわおじいさま。ごはんはさっき食べましたから、ゆっくりおくつろぎ下さいませ」
「ここは、ふしぎな町だな……。時間が止まっていて……それでいて、少しずつ壊れて行くような……」
「キルシュ、いつのまにシードルのポエム病がうつったの?ちゅうに病患者はクラスにひとりで充分だよ」
「いや、うつったわけじゃねえけど……」
フィーノにツッコまれ、キルシュは言葉を濁した。
「そろそろ行くぜ」
ガナッシュが促した。
「そうよ~。今日はみんないるから~また今度。二人きりで会う約束しときなよ~。年上だけど、ステキよ~」
「そんなんじゃないっぴ!行くっぴ!」
長生きしているとわかったとたんこれである。とことんレディーに対して失礼なピスタチオだった。
だいぶ遅い時間になったので、フィーノ達は宿屋で一泊することになった。
「よう、村長になにやら取り入ったみたいだな。泊まっていくか?5ブラーでいいぜ」
宿屋の主、ティラミスが気さくに接客し、部屋へフィーノ達を通した。
「5ブラーでいいってさ!やっすいね~!」
フィーノはベッドに腰掛け、足をバタバタさせた。
「オイラもう寝たいっぴ。疲れたっぴ~」
ピスタチオはごそごそとベッドに潜り込む。
「そうだな……俺ももう寝るわ。体力の限界……」
キルシュもベッドに潜り込んだかと思えば、あっという間にイビキをたて始めた。
「いや~ん、ちょっぴりうるさいかも~」
「……俺達も寝るか?」
ガナッシュはチラとフィーノの方を向いた。
「そうしよっか……」
フィーノは苦笑しながら帽子を取った。

翌朝、起きると村がシーンとしている。あまりに静かで、違和感を感じたフィーノ達は外へと出てみた。
すると、ひとりのパペットが地面に倒れていた。……死んでいる。
「いや――――――――!!」
赤い色のパペットが叫んだ。
「どうした!?またコロシかッ!?」
青い色のパペットが動揺した。
「死んでマスわん!!死んでマスわん!!殺されたんでスわ――――――――――ん!!!!」
赤い色のパペットは、半分混乱して慌てている。
「うるせぇなぁ。いったいどうしたんだよ!?」
そこに、宿屋の主ティラミスがやってきた。
「まいったね。またコロシですか。のろわれてますなぁ」
ティラミスの口調は、まるでなんとも思ってないとでも言うような口振りだ。
「いったい、何人のパペットが死ねば終わるんだっ! クソッ!」
青い色のパペットが地面を殴った。
「どうしたんですか!?」
そこにミルフィーユもやってきた。
パペットの死体に気づくと、彼女は愕然とその場に崩れ落ちた。
「どうして……!?どうしてなのッ!?どうして私たちが、こんなにみじめに殺されなきゃいけないの!?」
悲しい事件が起きているが、自分たちにはどうにもできない。
フィーノ達がウークルの羽を受け取りに村長の家へ行くと、ミルフィーユが帰って来た。
「ただいま、おじいさま……」
ミルフィーユの表情は悲しみに包まれている。
それも当然であろう。仲間が殺されたのだから。
「おかえりミルフィーユ。どうじゃった?また事件かいのぉ?」
「…………」
「外がさわがしいようじゃが、また誰か殺されたのかの……」
「そうよ、そのとおりよ。また一人、仲間が殺されたわ」
ミルフィーユは暗い声で答えた。
「うむ。そうか。それも運命かの……」
シフォンもまた、悲しそうだ。
「おじいちゃん!私……!」
ミルフィーユはぼろぼろと泣き出した。
「うむ。ツラかろう。泣くがええ。いくらでも泣くがええ」
「取り込み中、もうしわけないが……」
「ちょっと!ガナッシュ!あとでもいいよ!んもう!」
「空気読みなよ、ガナッシュ……」
空気を読まないガナッシュを、アランシアとフィーノが咎めた。
「ごめんなさい……」
ミルフィーユは、一同に背を向けて泣き続けた。
「ミルフィーユ……わしら古代のたみのまつえい、ほろびるのが運命かもしれん。運命ならば神様がきめたこと。なにを泣くことがあろう」
シフォンが言った。
「……」
ミルフィーユはフィーノに近付くと、ひとつの羽を差し出した。
「はい、ウークルの羽」
「あ、ありがとう……」
フィーノはウークルの羽を受け取った。
「遺跡まで案内します。ついてきて」
「オイラたち、いそいでないからあとでもいいっぴ!……」
ミルフィーユは、ピスタチオの言葉も聞かず行ってしまう。
「俺たち、よそものでしかないってことなんだよ。やっかいばらいしたのさ」
ガナッシュの言葉を、誰も否定しなかった。
家の外へ出るとミルフィーユが待っていた。
「こっちです」
ミルフィーユに案内されてベナコンチャ遺跡へ行くと、そこには先客がいた。
「やぁ、ミルフィーユ」
宿屋の主、ティラミスだ。
「?」
「また一人死んだね……どう思う……?」
ティラミスは妖しく笑みすら浮かべている。
それをフィーノは不愉快に感じた。
「ティラミス……どう?って、どういうこと?わからないの?あなたは悲しくないの?」
「そうか……。つまり、君は悲しいんだね?」
「あたりまえじゃないの!!仲間が死んだのよ!!」
ミルフィーユが怒鳴った。
「あたりまえ……?あたりまえなんかじゃない。ミルフィーユ……キミの中に、ハートがあるってことさ……」
「?なに?どうしたの?ティラミス……」
「生き物は、ハートがなくなったりこわれたりした時に死ぬんだ。逆にいえば、死んだ生き物でも、ハートを入れてやれば動き出す」
「……わからない……何を言いたいの……?」
「お前のハートが欲しい……。弟を生き返らせたいんだ……」
「なにを言ってるの……?死んだのよ、あなたの弟……」
不可解だと言うふうにミルフィーユは言った。
「死んだんじゃないッ!!俺の話をちゃんと聞け!!ガケから落ちた時のショックでハートが壊れたんだ!ハートを入れたら生きかえる!弟はもう200年も止まったまま何もできないんでいるんだ!!ハートをくれ!!」
叫びながらティラミスは、ミルフィーユののどを絞め始めた。
「や、やめて……。く、苦しいわ……。ティ……ラミ……」
「おおっと!テイコウするんじゃないぜ!暴れるとハートごと壊れちまう。お前をムダに殺したくない……」
「ちょっとやめなよ!!」
たまらずフィーノ達が駆け寄った。
「なにしてるっぴ!!」
すると、ティラミスは思わずミルフィーユを離した。
「ミルフィーユ!!だいじょうぶか!!」
キルシュは、ごほごほと咳き込むミルフィーユの側に行った。
「チッ!よそものがッ!」
ティラミスはワープの魔法で逃げて行った。
「ミルフィーユさん!!だいじょうぶですか~!?」
「ごほっごほっ……だいじょうぶ……」
「トルーナ村へ戻ろう。アイツをなんとかしなきゃ」
「そうだよ!このままじゃ良くないよ!」
キルシュとフィーノが言った。
「やめてください……。私たちの問題なんです。よそから来た方に決めてほしくありません。ワクティ側の出口まで案内しますので、早々に立ち去って下さい」
「そんなこと言ってもだっぴ!」
「こっちです」
ミルフィーユは先へ行ってしまった。
「あ~ん勝手に行っちゃうし~」
「しゃーない、僕らも行こう」
「やれやれだぜブラザー」
フィーノ達もミルフィーユの後に続いた。
やがて、ベナコンチャ遺跡の南東に案内されてゆき、そこには大きな怪鳥が。
「怪鳥スノウヘアよ。今までに、何人もの旅人がコイツの犠牲になったわ。スノウヘアを倒さないと、この先へは進めないけど、あなたたちならきっと大丈夫。もし、勝てる自信が無いなら、遺跡に落ちてる宝箱を取りにもどるといいわ。私はここで待ってるから」
フィーノ達は、素直に宝箱を取りに行った。
……行ったはいいが、フィーノに先頭を歩かせたら迷いまくって古代機械の出すモンスターとバトルになりまくるはめになってしまった。
「実技もトップだし」
アランシアが言った。
「筆記も完璧」
キルシュが言った。
「いつも首席という頭脳と実力を持ちながら……」
ガナッシュが言った。
「極度の方向音痴。これさえなければっぴ」
ピスタチオがやれやれというふうに言った。
「えーいやっかましい!!バトルして鍛えられたんだから、損にはなってないでしょ!!ほら、スノウヘアんとこついたよっ!!」
フィーノは歩きながらスノウヘアをビシッと指した。
「ふぁひゃ――――っ!!はれはれひゃ――――っ!!」
スノウヘアが醜い声で鳴いた。
「変な鳴き声……」
フィーノは思ったままを口にした。
「コイツを倒したら、ミルフィーユもいっしょに行こ~」
アランシアが言った。
「だめよ。ティラミスを放っておけないわ」
「だからって、君を一人帰すわけには行かない。ティラミスのヤツが、どこかでまちぶせてるかも知れないじゃないか!」
「これは私たちの問題だって言ってるでしょ?」
キルシュの言葉を、ミルフィーユははねのけた。
「もう行くぜ。もたもたしてるヒマはないんだ」
「ガナッシュ~ヒドイよ、君~」
アランシアが眉を八の字にした。
「神様を信じなよ。すべて取り計らってくれるよ。人生にたえられないことなんてありはしないんだ」
優しくそう言うと、ガナッシュは戦う為に一歩前に出た。
「はれはれひゃ――――っ!!」
「うわああ!?」
なんとスノウヘアは、風の魔法アウラーを使ってきた。
フィーノは咄嗟に氷の壁を作り、それを盾にしてアウラーのカマイタチを防いだ。
カマイタチによって氷の壁はバラバラになってしまったが、全員無傷だ。
「チッ!だてに怪鳥を名乗ってないや!」
「あたしに任せて~」
アランシアが魔力を溜める。
「魂のレクイエム!」
アランシアの音の魔法に飲まれ、スノウヘアは眠ってしまった。
「アランシア、ナイスっぴ!」
「えへへ~」
「よっしゃあ!!今が攻撃のチャンスだな!」
「ガナッシュ!」
フィーノはガナッシュのほうを向いた。
「わかってる!コールニルヴァ――ミジョテー!」
召喚されたニルヴァが、ガナッシュの闇の魔法の威力を上げる。
スノウヘアは闇の魔力にあっという間に掻き消されてしまった。
「おお~!さあっすがガナッシュ!」
フィーノはパチパチと拍手した。
ガナッシュは満更でもないようだ。
「逃げなかったってことはカクゴができたってことかな?」
「お前は!!ティラミスッ!!」
キルシュが警戒心をあらわにし、ミルフィーユとガナッシュを除く全員がティラミスを取り囲んだ。
「彼らのことは気にしないで。私たち二人で話しましょう」
「他人のことに首をつっこんでも話をこじらせるだけだぜ。俺たち、他人でしかねぇんだ。二人の本当の事情なんて、わかりやしないんだ。そんなことより、今は他の友達をさがす方が先だろ?俺は行くぜ。じゃあな」
ガナッシュはそれだけ言うと行ってしまった。
「ガナッシュ~!」
「んもー、協調性僕以下!」
アランシア、フィーノが言った。
「もう、パペットどうしで争うのはイヤ。私のハートが欲しいならあなたにあげるわ。でも、それっきりにしてッ!」
「ミルフィーユ!ダメだっぴ!それって、スゴいことだっぴ!」
「そうだ、ミルフィーユ!俺たちが証人になる。ソイツを村長の前に突き出せ!」
ミルフィーユはうつむいた。
「……。そんなこと、できない……」
「できないって……どうして~どうしてなのよ~?」
「彼を村の男たちに差し出して、私は彼が、村の人たちから石を投げられたりなぐられたりする姿を見なければいけないの?」
「しょうがないよ。それがルールなんだ」
キルシュが言った。
「そんなルールなんてウソ!悲しくなるのはイヤ!悲しい気持ちばかり心につめこんで生きていくのはイヤ!!」
「そうは言ってもさぁ……ティラミスが悪さをしてたのは事実でしょ?」
フィーノはあきれたように言った。彼にはとても理解できなかったのだ。
「……ミルフィーユ……宿屋で待つ……お前は必ず来る……信じてる」
ティラミスは静かにそう伝えると行ってしまった。
「逃げる気だっぴ!!」
「ほっとけ!それよりも、ミルフィーユ!いっしょに行こう」
「そうだよ~もどると殺されちゃうよ~」
「そうだよ!もっと命を大事にして!」
ピスタチオ、キルシュ、アランシア、フィーノが言った。
「ありがとう。優しいんですね。でも、私は村長の孫です。村を守らなければいけないの。さようなら!」
ミルフィーユは微笑みそう言うと、村へ戻る為に立ち去って行った。
「あ~あ……ミルフィーユ、バカだっぴ……」
「まったく!!やってらんねぇよ!!」
「え~そんなぁ~おいかけなきゃ~」
「フィーノ!行くかもどるかフィーノが決めるっぴ!!オイラたち従うっぴ!!」
「えっ?僕が?」
「オイラたちって、俺もふくまれてんのか?」
「あたりまえだっぴ!!」
「やれやれだぜブラザー」
「…………。じゃあ、戻ろっか。やっぱり気になるし……」
ミルフィーユを追って引き返すフィーノ達の後ろ姿を、ガナッシュはしょうがないなというようにフッと微笑して見ていた。
「やれやれだな……」

ベナコンチャ遺跡の入り口で、ティラミスはうつむき拳を握り締めていた。
「……なぜだ、ミルフィーユ……!なぜ、殺されるとわかって帰ってくるんだ!」
「心があるからさ」
「なんだとぉッ!?」
ガナッシュが、物陰からティラミスの前に現れた。
「お前はッ!?一人で先に行ったんじゃッ!?」
「フッ……。戻って来ちゃ悪いかい?」
「何が言いたいんだ?俺を止める気か?」
ティラミスが睨んだ。
「ミルフィーユがもどってきてうれしいかい?それだけ聞いておこうと思ってね……」
「お前には関係無い。これ以上口出しするな」
「ティラミス!ミルフィーユをどうする気だッ!」
「俺の村で俺が何をしようがお前には関係無い!!ヤツがノコノコ帰って来た以上俺は……!俺は……!!」
「アンタはクズだ」
ガナッシュは静かに言い放った。
するとティラミスは、ガナッシュに向かって嘲笑した。
「俺がクズだって?ハッ!クズでけっこう!笑ってくれ!指さして笑ってくれ!」
「アンタがミルフィーユを殺す気なら、俺はアンタの息の根を止める。どうするかは、自分で決めな」
「バカなボウヤだ……。オレのことを笑ったヤツは……みんな死んだ……。スラッ――――――シュ!!」
ティラミスは刃の精霊スラッシュを召喚した。
「こんな決着しかつけられないなんて……ニルヴァッ!!」
ガナッシュも、闇の精霊ニルヴァを召喚した。
「ニルヴァ?闇の使い手なのかッ!?」
ティラミスは驚きうろたえだす。
「終わりだ、ティラミス。弟に会わせてやる」
「や、やめろ!!ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
その後、ティラミスはボロボロの体でトルーナ村へと逃げ帰った。
「クッ……クソッ……俺は……ムダには……死なん……!!弟に……」

トルーナ村へ戻ったフィーノ達は、ティラミスを追って宿屋へ入った。
そこには、大ケガをして倒れているティラミスと、それを介抱しようとしているミルフィーユがいた。
「ティラミス!?」
フィーノは驚いた。このティラミスのケガはいったい!?
「しっかりして!!ティラミス!!どうしたの!?いったい、どこでこんなヒドいケガをッ……!?」
「どうしたんだ!!なんだ、このキズは!!」
キルシュが尋ねた。
「へへッ……しくじっちまった……。遺跡から足をすべらせ……落ち……ウグッ……!!」
「こんなキズ……見たことない……遺跡から落ちたキズじゃないわ……」
「まるで、自分でかきむしってひろげたようなキズだっぴ……」
アランシア、ピスタチオが言った。
「早く、俺のハートを取り出して……弟に……」
「もうしゃべらないで!!早く手当てしなきゃ!!」
「弟を……君に会わせたい……早く……俺のハートを……弟に……たの……む……」
「ティラミス!!死んじゃダメ!!ハートなんてないのよ!!取り出せないものなの!!」
「ミルフィーユ……うれしい……君がいて……君に会えて……オレの……気持ち……ハート……弟に……」
声はだんだんか細くなり、ティラミスは息絶えてしまった。
「ティラミスッ!!!!死んじゃだめッ!!!!もう誰も死なないで!!!!誰も死んじゃダメ――――ッ!!」
泣き叫ぶミルフィーユにかける言葉も見つからず、フィーノ達は宿屋の外へ出た。
そこにはガナッシュがいた。
「ヤツの具合はどうだった?」
「……ガナッシュ……まさか、お前がやったのか?」
キルシュが言った。
「いいクスリになっただろう。あれで、2~3日でもミルフィーユにカイホウされればハートってものもわかるだろう」
「ガナッシュ……知らないの……?」
アランシアは悲しそうにおそるおそる言った。
「え……?知らないって……?」
様子を見るに、演技ではない。
ガナッシュはティラミスがどうなったかを知らないようだ。
「死んだっぴ……。ティラミスは死んだっぴ……!」
「そんな……!!まさか……!!」
ガナッシュは、ティラミスに闇の魔法をくらわせた時の事を思い出した。
「命にかかわるようなキズじゃない……!!そんな深手は負わせていない……!!」
ガナッシュは苦しげに叫ぶと、どこかへと走り去ってしまった。
「ガナッシュ!!」
アランシアが叫んだ。
「ガナッシュ……」
キルシュはガナッシュが走り去って行った方を見詰めている。
「ガナッシュはウソはついていないと思う。きっと、ちゃんと手かげんしてるハズよ……」
「ガナッシュのミジョテーをくらって、パニックになって自分の胸からハートを取り出そうとしたんだっぴ……。ガナッシュのせいとも、そうでないともいいきれないっぴ」
「そうだな……。アイツ、ヤケをおこすようなヤツじゃないけど、放っておくわけにも行かないな。俺たちも行こう」
皆が話している間、ずっとフィーノはうつむいたままだった。
(わかるよ、ガナッシュ……人を殺すってことは、つらいよね……)
自身も故郷の人々を全員魔法で殺してしまったからこそ、フィーノにはガナッシュの痛みが苦しいほど理解できていた。
ガナッシュはきっと今、大きな罪悪感と戦っていることだろう。
自分のように。
「……とにかく今は、前に進むしかないよね……」
フィーノは自分に言い聞かせるように呟いた。
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