第4章 揺らぐ事無き力

不気味なウズマキの中に入ったフィーノは、のどかな森の中に導かれやってきた。
草木が豊かに生い茂り、空気も美味しい。
「もしかして、ここが……光のプレーンってとこ?だよね……?皆はどこ行ったのかな……」
キョロキョロあたりを見回しながら歩いていると、ピスタチオの姿を発見した。
「ピスタチオ!」
「あっ!!!!フィーノ!!!!」
「ピスタチオも、ここにいたんだね!」
フィーノもピスタチオも、表情が一気に明るくなった。
「助かったっぴ~~~!!!!オイラ、海岸で変な生き物に追い回されて……でも、もう大丈夫だっぴ!仲間に会えたっぴ!…………」
「どうしたの?いきなり黙っちゃって」
すると、ピスタチオは突然どこかへ走って行った。
「も~。なんなの……」
なんとなく後ろを振り返ると、なんとそこにはエニグマが!
「あ……!あんの犬ッ!!僕を見捨てやがった!!」
フィーノは怒りが体の奥底から沸き上がるのを感じた。
その怒りは魔力に変わる。
「うおおおおおお!!!!!!あのクソ犬野郎――――――――!!!!!!!!!!」
フィーノが叫ぶと同時に、エニグマは巨大な氷の槍に貫かれ絶命した。
(許すまじ!!あの駄犬、許すまじ!!!!)
怒りに燃えながら小川のそばをたどって歩いていると、そこには大きなモンスターと、その前で倒れているピスタチオが。
確かあのモンスターは、本で読んだ情報によるとデミッススという名前だ。
何してるんだあの犬、とフィーノは心で毒づいた。
「ほくしゃ――――――っ!」
デミッススが鳴きながらピスタチオに近付いた。
「困ったっぴ……挟まれたっぴ……死んだフリしてるの見破られたら、オイラもいよいよ終わりだっぴ……。…………」
「なにしてんの」
フィーノは無表情で声をかけた。
「フィーノ!!ちょうど良かったっぴ!!これから、このモンスターと戦うところだっぴ!!いっしょに戦うっぴ!!」
フィーノは、素早く詠唱すると両手に水の魔力を溜めた。
「嘘つけ――――――っ!!!!!!」
そして、勢いよくデミッススとピスタチオを空高く水で押し飛ばした。
「ほくしゃ―――――っ!!!!!!」
「ぴ――――――っ!!!!!!」
デミッススはどこか遠くへと飛ばされ星になり、ピスタチオは運良くフィーノの足もとへと落ちてきた。
「オイラまで殺る気かっぴ!?」
「僕を見捨てて逃げた上に、死んだフリしてたのはどこのどいつだよ」
「ぴっ……」
返す言葉もなく、ピスタチオは黙った。
「で、これからどこに行く?」
「オイラの鼻によると、西の方からアランシアのニオイがするっぴ!」
「嗅覚鋭いね、さすがはワンちゃん」
こうして西の方を目指す事になった二人。
しかし、フィーノがあまりにも方向音痴でいろいろな所に寄り道してしまい、すぐには西の方に行けなかった。
「フィーノは頭がいいのかそうでないのかわからないっぴ」
「うるさいなぁ……あっ、見て!洞窟があるよ!」
フィーノは前方を指した。
そこには、確かに洞窟の入り口の穴がある。
「本当だっぴ!この先にアランシアがいるっぴ!行くしかないっぴ!」
「よっしゃ、行こう!」
「イエ~~~~ッス!イカスっぴ~~~~!!シビレるっぴ~~~~!!」
「ピスタチオ、テンション高いね」
中に入ると、そこにはアランシアがいた。だが、どこか様子がおかしい。
「ふっふっふ……こっちだよ……おいで……」
「アランシア……?どこか変だっぴ……」
「だよね……」
様子がおかしいアランシアは一人で先へと進んでしまった。
アランシアの雰囲気に違和感を覚えつつも、フィーノとピスタチオはアランシアに付いていった。
「うまいこと、エニグマの手からのがれてるようだね……。くっくっく……」
フィーノはこの時、彼女はアランシアではないと感じた。
アランシアはこんな気味の悪い笑いかたはしない。
「アランシア!どうしたっぴ!?目つきが怪しいっぴ!?」
「光の中なら、エニグマからものがれられるだろうけど、わざわざこんな闇の中に友達を追ってくるなんて、うぬぼれてるのかな?」
「エニグマ……?海岸で襲ってきたヤツらっぴ?闇がどうしたっぴ?ここはキケンだっぴか?」
「何も知らないんだな。まぁ、いいだろう。エニグマは闇から生まれた生き物で、すさまじい魔力を持っている。敵にまわすとコワイ存在だが……味方にすれば、無敵の強さを手に入れることになる……」
――強くなれる?
ドクン、ドクンとフィーノの心臓が跳ねた。
「強くなれるっぴ!?どうすればいいっぴ!?」
「簡単さ。体を貸してやるだけさ。融合するのさ」
「ゆうごう……?」
ピスタチオとフィーノが同時に同じ事を呟いた。
「ああ、そうだ。もう少し側に来なよ……教えてやるよ……」
ピスタチオがアランシアに近付いた、その時。
「ピスタチオ!!はなれろ!!」
「!?」
キルシュと、もう一人のアランシアがピスタチオとフィーノのもとに走って来た。
「キルシュ!?……と、本物?のアランシア!?……だよね!?」
フィーノは二人のアランシアを交互に見た。
「ふっ……ジャマが入ったか……」
様子が変なほうのアランシアは、喉の奥から不気味にクツクツ笑った。
「ソイツはアランシアじゃない。ニセもんだ。エニグマが化けてるんだ」
「やっぱり……」
キルシュの言葉でフィーノは確信した。
やはりアレは、アランシアではなかったのだ。
「いや~ん。あたしって、あんななの~?」
本物のアランシアは、ショックだとでも言いたげな顔をしている。
「あう?あうあー?」
ピスタチオは少し混乱しているようだ。
「しかたない。力ずくでうばってやるッ!」
エニグマは、ついに変身を解き正体を現した!
「ケッケッケッケ……。せいぜい楽しませてくれよ」
「ふん!よくも騙そうとしてくれたね!――ブルーカスケード!!」
フィーノが発した水が、いくつもの槍のようにエニグマ――ヴァルカネイラの体を貫いた。
「ぐおおッ!!!!…………」
ヴァルカネイラは、その痛みによろめくと、フィーノをじっと見つめだした。
「?……何」
「素晴らしいパワーだ……同時に、強くなりたいという意志も持っている。どうだ?融合してみないか?融合すれば、何物にも揺らぐ事のない力を得られるぞ……どうだ?かかえている全ての弱さと別れてみないか?」
フィーノの心臓が、再び早鐘のようになる。
(融合……融合すれば……力を得れば……。力に溺れてしまえば、苦しみを感じなくなる……?何も感じなくなる……?)
思い出したくない辛く苦しい過去、そんな心を読まれたくないからとオリーブを嫌っている自分。
その全てから逃れられるほどの力を得られる?
「フィーノ!!耳を貸しちゃダメ!!」
アランシアが、思い詰めた顔でうつむいているフィーノに言った。
「フィーノは充分強いっぴ!!オイラにも勝ったっぴ!!」
ピスタチオもフィーノを説得するように言った。
「ごちゃごちゃやかましいんだよ!!フィーノがお前なんかにそそのかされるもんかよ!!」
キルシュは両手に炎をともした。
「これ以上俺の友達に近付くな!!ホットグリル!!」
炎は、激しくヴァルカネイラを包み込んだ。
「ぐああああああああ!!!!」
炎に焼かれ、ヴァルカネイラは倒れた。
「ちくしょ――――ッ!!カラダが重い!!光のプレーンなどでは力が出ぬわ――――ッ!!融合してやる……コイツと融合すれば……お前達なんぞに負けん!!」
「フィーノ!!」
ヴァルカネイラがフィーノに手を伸ばそうとしたのを見て、とっさにキルシュがフィーノを突き飛ばした。
するとキルシュは、ヴァルカネイラのワープの魔法に巻き込まれて連れ去られてしまった。ヴァルカネイラとキルシュの姿は同時に消えた。
「!!!!!!」
フィーノは顔面蒼白になった。
キルシュが、自分をかばってさらわれてしまった。
「あわあわあわ!!たいへんなことになったっぴ!!キルシュがどこかに連れていかれたっぴ!!」
「……どうしよう…………僕のせいだ……」
ピスタチオがあわてている傍ら、フィーノがうつむいた。
「フィーノのせいじゃないよ!キルシュなら大丈夫よ!あんなヤツに負けるもんですか!パニックになっちゃダメ!!この洞窟を出ると村があるの!!そこへ行きましょう!!」
「アランシア、なんでそんなこと知ってるっぴ!?」
「キルシュと二人でみんなをさがしてたのッ!たいへんだったんだからねっ!」
「……」
アランシアの言葉で次に向かう場所は見えてきたが、フィーノはうつむいたままだった。
ヴァルカネイラの誘惑に揺らいだこんな自分を、キルシュは信じてくれた。そして、かばって連れ去られた。
(キルシュ……お願い、無事でいて……)
フィーノは震える体でアランシアとピスタチオと共に歩き出した。
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