第3章 消えた友達と奪われた日常
ここはヴァレンシア海岸。
キャンプに来た魔法学校の生徒達は、思い思いに時間を過ごしていた。
「行くぞっ!!ピスタチオ!!」
フィーノは明るい表情で、片手に水の魔力を溜めた。
「いっ、いいいいい嫌っぴ嫌っぴ!!」
対しピスタチオは、涙を流しぴょんぴょんと跳ねて怯えている。
「水よ!命司る力を示し、青きその手に全てを包め!!ブルーカスケード!!」
「ぴ――――――――っ!!!!(※悲鳴です。)」
「勝者、フィーノ!」
「やったぁ♪イエーイ♪」
びしょ濡れで倒れているピスタチオの横で、カシスはフィーノの片腕を取って上げた。
「なーんか楽勝だったんだけど!」
「ま、相手がピスタチオだかんな」
「き、きさまら……」
ピスタチオはゆらりと立ち上がった。
「オイラを誰だと思ってるっぴー!?」
「落第寸前の落ちこぼれ《ピスタチオ》」
カシスとフィーノが異口同音した。
「落ちこぼれと書いてピスタチオと読むなっぴー!!」
「事実じゃん」
ピーピーうっせえし、とカシスが付け加えるとピスタチオはさらにピーピー喚いた。
「フィーノ~」
ふわりと薔薇のいい香りがしたかと思うと、シードルが歩いてきた。薔薇の香りは彼の魔法によるものだろうか。
「海岸の所にガナッシュとキャンディが二人っきりでいたよ。ちょっと興味深くないかい?」
シードルが言い終えるとほぼ同時に、フィーノは駆け出していた。
「教えてくれてありがとう!!薔薇男!!」
「誰が薔薇男だ!!誰が!!」
まったく、とシードルは溜め息をついた。
海岸で二人っきりの、ガナッシュとキャンディ。
……と、そんな二人を岩の影から見ているフィーノという部外者約1名。
「あ、あの~呼び出したりしてごめんね……ガナッシュ、この前誕生日だったよね……?」
キャンディはもじもじしながら言った。
「誕生日?もう、ずいぶん前だけど……それがどうかしたの?」
「いや、その、じつは、その時プレゼント用意してたんだけど渡せなくってさ……今日、持ってきたんだ。あははははは」
キャンディは赤い顔で笑いながら、綺麗にラッピングされた小さな箱をガナッシュに渡した。
「あ、そう……ありがとう」
あまり表情は変わらないが、ガナッシュは照れているようだった。
「それで、えーと、なんて言うかね、私さぁ、あの……」
今が告白のチャンス!
キャンディはさらにもじもじし出した。
「キャンディの誕生日いつだったっけ?」
「え!?私!?私は、来月だけど……」
「それじゃその時に、俺から何かプレゼントするよ」
「ほんと!?うれし―――――!」
「それじゃ」
「あああん!ちょっと待って~!!まだちょっとお話があるんだけど~!」
「ごめん。後にしてくれないか。学校に帰ってから聞くよ」
それだけ言うと、ガナッシュはその場からスタスタ立ち去ってしまった。
(うっわ……ひでぇ!!)
フィーノは心の中で思わずツッコんだ。
ガナッシュひどかったなあ……でもキャンディに取られなくて良かったかも……などと考えながら林のほうに行くと、素早いカエルグミを追いかけ回してぐるぐるしているキルシュに、それを眺めるアランシアがいた。
奥のほうに動きののろいカエルグミもいるが、キルシュはなぜか素早いカエルグミばかりを追いかけている。
「……なんであっちを狙わないんだろ?トロいのもいるじゃん」
フィーノは首を傾げた。
「キルシュって変だよね~。のーみそカエルなみ~」
「アランシア、それはカエルに失礼だよ。キルシュといっしょにしちゃ悪いよ」
「それもそっか~」
フィーノの言葉を否定しないアランシア。
フィーノも、キルシュってバカだなぁ……などと思いつつ動きがトロいほうのカエルグミを捕まえると、キルシュもようやく素早いカエルグミを捕まえられてぐるぐる回るのが止まったようだ。
「よっしゃあ!ケロケロゲットだぜ~!」
すると――……。
「キャ―――――――ッ!!!!」
ブルーベリーの悲鳴と共に、怪しい鳴き声が轟いた。
そして、青ざめた彼女と傷付いたレモン、そして得体の知れない化け物がやって来た。
「!!!!」
キルシュは驚き、目を見開いた。
「えっ……!何!?コイツ!!どうなってるの!?」
フィーノが怯えた顔で言った。
「助けて!!!!みんな殺されちゃう!!!!」
いつも冷静なブルーベリーが、こんなにも動揺しているなんて。
フィーノは心の中でそう思った。
「なんなの~~~!?どうしちゃったの~~~!?」
「!!!!なんなんだ、ソイツは!?」
アランシア、キルシュが言った。
「そんなの知らないわよ!!ご本人に聞いてみれば!!」
レモンが傷の痛みに耐えながら言った。
「了解!下がってな!消しズミにしてやるッ!アランシアは二人の手当てを!フィーノ!お前はマドレーヌ先生を探してくれ!」
「わ、わかった……!」
フィーノは一心不乱に駆け出した。
目の前で次々と化け物に拐われていくクラスメイト達。
それを見ている事しかできない自分が嫌だった。
――力が欲しい。
フィーノは、強くそう思った……。
マドレーヌ先生を探してコテージ前へ行くと、キャンディが皆を次々と連れ去って行った化け物に追われていた。
「来ないでェ――――ッ!!」
「キャンディ!」
フィーノが焦ったような顔で叫んだ。
「キャア――――――ッ!!」
逃走もむなしく、キャンディも連れて行かれてしまう。
「キャンディ!!」
ガナッシュは、キャンディを拐った化け物に怒りをあらわにした。
「キャンディをどこにやったッ!?」
「ケッケッケ……」
キャンディをどこかへ消した化け物は、ワープの魔法を使って消えてしまった。
すると、もう一体いた化け物がガナッシュとフィーノに詰め寄った。
「くっくっく……!!いい目をしている……。パワーを感じるぞ……。しかし、もうずいぶん戦ったハズだ。いつまでもつか……。二人でかかって来るがいい。くっくっく……」
フィーノが戦おうと一歩前に出ると、ガナッシュがフィーノの前に立った。
「フィーノ……。手を出すな……」
ガナッシュの放ったミジョテーにより、化け物は闇の煙に掻き消されてしまう。
「俺一人でじゅうぶんだ」
するとそこへ、マドレーヌ先生がやって来た。
「ガナッシュ!!フィーノ!!だいじょうぶ!?」
「マドレーヌ先生!!」
「先生!!他のみんなは!?」
「…………。みんな連れていかれた…………」
「連れていかれた?どこへ!?ヤツらはいったい何者なんだ!?」
「ヤツらはエニグマ……。闇から生まれた生きものよ」
「エニグマ……?」
フィーノが呟いた。
「この世界には手をださないハズなのに……。なぜ、今になって……?」
「その、エニグマって言うバケモノ…………。ソイツが次々とみんなをどこかに連れて行った……」
ガナッシュが言った。
「このあたりは全部かこまれてるみたい。どこにも逃げ場なんかないわ……」
「もういい!!誰が逃げたりするもんか!!先生だって、最初からこうなることがわかっていたんだ!!」
ガナッシュは、血を吐くように叫ぶとどこかへ走り去ってしまった。
「ガナッシュ!!」
マドレーヌ先生は、ガナッシュを追いかけようとして、フィーノの方を振り返った。
「ちょっとガナッシュを見てくる!フィーノは隠れてて!すぐもどるから!!」
しかし、その場に一人になると、フィーノは怖くなりマドレーヌ先生とガナッシュを探しに駆け出した。
海岸に行くと、ガナッシュとマドレーヌ先生がいた。
ガナッシュはエニグマに囲まれている。
(ガナッシュ!!)
フィーノの体は、無意識に震えていた。
「クックックッ……。すさまじいパワーだ…………。お前が手に入れば他のザコはいらん。カクゴしろ……」
「ガナッシュ!!何をする気!?」
マドレーヌ先生が叫んだ。
「先生……。待ってて……。みんなを連れて戻るよ……」
そして、ガナッシュも連れて行かれてしまった。
「ガナッシュ!!」
「あとは、ザコか……。くっくっくっく……。お前達の好きにしな……」
マドレーヌ先生は、グラン・ドラジェとウィルオウィスプでした会話を思い出していた。
『ヴァレンシア海岸…………あそこは、3年前の事件の後すぐに閉鎖すべきだったわ。よりにもよって、どうしてあんな場所でキャンプを続けるんですか?』
『こちらの動きをヤツらに知られたくないんだ。子供たち全員とは言わぬ。半分でいい。前線に出せる魔法使いとして育てて帰ってきてほしい』
『半分!?他は死んでもいいっておっしゃるんですか!?それはあんまりです!!何かあったらすぐ、私の判断で学校に戻ります!!』
『一刻を争うんじゃ。軍にはもう、頼れる者はおらん。このままだと、15年前の悪夢の再来……いや、こちらにはもうヤツらをおさえこむ戦力がない……どうなるかは火を見るよりあきらか。たのむ、マドレーヌ。戦争はもう始まっておるんじゃ』
『校長の考えはわかりました。だけど、全員連れて帰ります。一人も死なせたりするもんですか』
マドレーヌ先生は、考えるのをやめキッとエニグマ達を睨み据えた。
「誰がザコですって?」
マドレーヌ先生が一歩前に出ると、光がエニグマを包み弾け、消し飛ばした。
「こ……!コイツッ!!」
さらに彼女は、もう一体をも倒す。
「みんなにしたことを私にもしなさい」
「チッ!!ここで戦うのはブが悪い」
化け物が舌打ちした。
「光のプレーンにもどるのか?」
「光のプレーン……?」
いつか、本で読んだ事がある。いくつも無数に重なる平行世界、プレーン。その中には、光のプレーンというのもあると。
フィーノは記憶をたどって思い出した。
(光のプレーンにもどる……?エニグマが?どうして?)
マドレーヌ先生は心の中で呟いた。
「あそこはもっとブが悪くなるだろうが。もっといい場所を用意してやるよ。くっくっくっくっく……」
「さぁ!!!!どうするのッ!!」
「今だ!!はさみうちだ!!」
エニグマに左右囲まれ、マドレーヌ先生は連れていかれてしまった。
「ケッケッケ……」
エニグマは全てどこかへワープして去って行った。
この場には、波の音だけが残り、その静けさがフィーノを喪失感と恐怖で包み込んだ……。
海岸に洞窟があったので、フィーノはそこへ入ってみた。
「うわ~なんか変なとこ入っちゃった……ん?」
「フ゛ィ゛ー゛ノ゛~~~~~~!!!!!!」
「うわあっセサミ!?」
奥から、涙と鼻水で顔がグシャグシャのセサミが突然現れ、フィーノはドキドキバクバクとする胸を押さえた。
「怖かった怖かった!死ぬかと思った~~~~~~~~!」
「ぼ、僕も……」
「あのヘンな生き物はどうした?いなくなったか?」
「う、うん」
「ひゃあ~~~~~~!助かった~~~~~!!どうなることかと思った~!!」
「セサミ、よく無事だったね……」
「アイツら、奥のウズマキからフーッと出てきたんだ!!俺、最初から見てたから、ヤベーと思って、すぐ隠れたんだけど、セイカイだったな」
「ウズマキ?」
「この洞窟の奥に、いつの間にかウズマキができてんだよ!!怪しい感じだぜ!!ぜったい近くに行かないほうがいいぜ!!」
奥を調べてみると、確かに不気味なウズマキがある。フィーノは、その中に入ることを決意した。
「あぁ~~~~ッ!!フィーノも行くのかよ!!」
フィーノはコクりと頷いた。
「あ、そう。俺は残るけどな。それじゃバイバイ」
フィーノがウズマキに入るのを見ながら、「あ~……」とセサミは呟いた。
「バッカだなぁ……。どこに行くかわかんねぇんだぞ。まったく……」
すると、セサミの背後にエニグマが――。
「ああああああああああッ!!」
そして、セサミも連れ去られてしまった。
「ケッケッケ……」
エニグマが不気味に笑う声だけが、その場を支配した。
キャンプに来た魔法学校の生徒達は、思い思いに時間を過ごしていた。
「行くぞっ!!ピスタチオ!!」
フィーノは明るい表情で、片手に水の魔力を溜めた。
「いっ、いいいいい嫌っぴ嫌っぴ!!」
対しピスタチオは、涙を流しぴょんぴょんと跳ねて怯えている。
「水よ!命司る力を示し、青きその手に全てを包め!!ブルーカスケード!!」
「ぴ――――――――っ!!!!(※悲鳴です。)」
「勝者、フィーノ!」
「やったぁ♪イエーイ♪」
びしょ濡れで倒れているピスタチオの横で、カシスはフィーノの片腕を取って上げた。
「なーんか楽勝だったんだけど!」
「ま、相手がピスタチオだかんな」
「き、きさまら……」
ピスタチオはゆらりと立ち上がった。
「オイラを誰だと思ってるっぴー!?」
「落第寸前の落ちこぼれ《ピスタチオ》」
カシスとフィーノが異口同音した。
「落ちこぼれと書いてピスタチオと読むなっぴー!!」
「事実じゃん」
ピーピーうっせえし、とカシスが付け加えるとピスタチオはさらにピーピー喚いた。
「フィーノ~」
ふわりと薔薇のいい香りがしたかと思うと、シードルが歩いてきた。薔薇の香りは彼の魔法によるものだろうか。
「海岸の所にガナッシュとキャンディが二人っきりでいたよ。ちょっと興味深くないかい?」
シードルが言い終えるとほぼ同時に、フィーノは駆け出していた。
「教えてくれてありがとう!!薔薇男!!」
「誰が薔薇男だ!!誰が!!」
まったく、とシードルは溜め息をついた。
海岸で二人っきりの、ガナッシュとキャンディ。
……と、そんな二人を岩の影から見ているフィーノという部外者約1名。
「あ、あの~呼び出したりしてごめんね……ガナッシュ、この前誕生日だったよね……?」
キャンディはもじもじしながら言った。
「誕生日?もう、ずいぶん前だけど……それがどうかしたの?」
「いや、その、じつは、その時プレゼント用意してたんだけど渡せなくってさ……今日、持ってきたんだ。あははははは」
キャンディは赤い顔で笑いながら、綺麗にラッピングされた小さな箱をガナッシュに渡した。
「あ、そう……ありがとう」
あまり表情は変わらないが、ガナッシュは照れているようだった。
「それで、えーと、なんて言うかね、私さぁ、あの……」
今が告白のチャンス!
キャンディはさらにもじもじし出した。
「キャンディの誕生日いつだったっけ?」
「え!?私!?私は、来月だけど……」
「それじゃその時に、俺から何かプレゼントするよ」
「ほんと!?うれし―――――!」
「それじゃ」
「あああん!ちょっと待って~!!まだちょっとお話があるんだけど~!」
「ごめん。後にしてくれないか。学校に帰ってから聞くよ」
それだけ言うと、ガナッシュはその場からスタスタ立ち去ってしまった。
(うっわ……ひでぇ!!)
フィーノは心の中で思わずツッコんだ。
ガナッシュひどかったなあ……でもキャンディに取られなくて良かったかも……などと考えながら林のほうに行くと、素早いカエルグミを追いかけ回してぐるぐるしているキルシュに、それを眺めるアランシアがいた。
奥のほうに動きののろいカエルグミもいるが、キルシュはなぜか素早いカエルグミばかりを追いかけている。
「……なんであっちを狙わないんだろ?トロいのもいるじゃん」
フィーノは首を傾げた。
「キルシュって変だよね~。のーみそカエルなみ~」
「アランシア、それはカエルに失礼だよ。キルシュといっしょにしちゃ悪いよ」
「それもそっか~」
フィーノの言葉を否定しないアランシア。
フィーノも、キルシュってバカだなぁ……などと思いつつ動きがトロいほうのカエルグミを捕まえると、キルシュもようやく素早いカエルグミを捕まえられてぐるぐる回るのが止まったようだ。
「よっしゃあ!ケロケロゲットだぜ~!」
すると――……。
「キャ―――――――ッ!!!!」
ブルーベリーの悲鳴と共に、怪しい鳴き声が轟いた。
そして、青ざめた彼女と傷付いたレモン、そして得体の知れない化け物がやって来た。
「!!!!」
キルシュは驚き、目を見開いた。
「えっ……!何!?コイツ!!どうなってるの!?」
フィーノが怯えた顔で言った。
「助けて!!!!みんな殺されちゃう!!!!」
いつも冷静なブルーベリーが、こんなにも動揺しているなんて。
フィーノは心の中でそう思った。
「なんなの~~~!?どうしちゃったの~~~!?」
「!!!!なんなんだ、ソイツは!?」
アランシア、キルシュが言った。
「そんなの知らないわよ!!ご本人に聞いてみれば!!」
レモンが傷の痛みに耐えながら言った。
「了解!下がってな!消しズミにしてやるッ!アランシアは二人の手当てを!フィーノ!お前はマドレーヌ先生を探してくれ!」
「わ、わかった……!」
フィーノは一心不乱に駆け出した。
目の前で次々と化け物に拐われていくクラスメイト達。
それを見ている事しかできない自分が嫌だった。
――力が欲しい。
フィーノは、強くそう思った……。
マドレーヌ先生を探してコテージ前へ行くと、キャンディが皆を次々と連れ去って行った化け物に追われていた。
「来ないでェ――――ッ!!」
「キャンディ!」
フィーノが焦ったような顔で叫んだ。
「キャア――――――ッ!!」
逃走もむなしく、キャンディも連れて行かれてしまう。
「キャンディ!!」
ガナッシュは、キャンディを拐った化け物に怒りをあらわにした。
「キャンディをどこにやったッ!?」
「ケッケッケ……」
キャンディをどこかへ消した化け物は、ワープの魔法を使って消えてしまった。
すると、もう一体いた化け物がガナッシュとフィーノに詰め寄った。
「くっくっく……!!いい目をしている……。パワーを感じるぞ……。しかし、もうずいぶん戦ったハズだ。いつまでもつか……。二人でかかって来るがいい。くっくっく……」
フィーノが戦おうと一歩前に出ると、ガナッシュがフィーノの前に立った。
「フィーノ……。手を出すな……」
ガナッシュの放ったミジョテーにより、化け物は闇の煙に掻き消されてしまう。
「俺一人でじゅうぶんだ」
するとそこへ、マドレーヌ先生がやって来た。
「ガナッシュ!!フィーノ!!だいじょうぶ!?」
「マドレーヌ先生!!」
「先生!!他のみんなは!?」
「…………。みんな連れていかれた…………」
「連れていかれた?どこへ!?ヤツらはいったい何者なんだ!?」
「ヤツらはエニグマ……。闇から生まれた生きものよ」
「エニグマ……?」
フィーノが呟いた。
「この世界には手をださないハズなのに……。なぜ、今になって……?」
「その、エニグマって言うバケモノ…………。ソイツが次々とみんなをどこかに連れて行った……」
ガナッシュが言った。
「このあたりは全部かこまれてるみたい。どこにも逃げ場なんかないわ……」
「もういい!!誰が逃げたりするもんか!!先生だって、最初からこうなることがわかっていたんだ!!」
ガナッシュは、血を吐くように叫ぶとどこかへ走り去ってしまった。
「ガナッシュ!!」
マドレーヌ先生は、ガナッシュを追いかけようとして、フィーノの方を振り返った。
「ちょっとガナッシュを見てくる!フィーノは隠れてて!すぐもどるから!!」
しかし、その場に一人になると、フィーノは怖くなりマドレーヌ先生とガナッシュを探しに駆け出した。
海岸に行くと、ガナッシュとマドレーヌ先生がいた。
ガナッシュはエニグマに囲まれている。
(ガナッシュ!!)
フィーノの体は、無意識に震えていた。
「クックックッ……。すさまじいパワーだ…………。お前が手に入れば他のザコはいらん。カクゴしろ……」
「ガナッシュ!!何をする気!?」
マドレーヌ先生が叫んだ。
「先生……。待ってて……。みんなを連れて戻るよ……」
そして、ガナッシュも連れて行かれてしまった。
「ガナッシュ!!」
「あとは、ザコか……。くっくっくっく……。お前達の好きにしな……」
マドレーヌ先生は、グラン・ドラジェとウィルオウィスプでした会話を思い出していた。
『ヴァレンシア海岸…………あそこは、3年前の事件の後すぐに閉鎖すべきだったわ。よりにもよって、どうしてあんな場所でキャンプを続けるんですか?』
『こちらの動きをヤツらに知られたくないんだ。子供たち全員とは言わぬ。半分でいい。前線に出せる魔法使いとして育てて帰ってきてほしい』
『半分!?他は死んでもいいっておっしゃるんですか!?それはあんまりです!!何かあったらすぐ、私の判断で学校に戻ります!!』
『一刻を争うんじゃ。軍にはもう、頼れる者はおらん。このままだと、15年前の悪夢の再来……いや、こちらにはもうヤツらをおさえこむ戦力がない……どうなるかは火を見るよりあきらか。たのむ、マドレーヌ。戦争はもう始まっておるんじゃ』
『校長の考えはわかりました。だけど、全員連れて帰ります。一人も死なせたりするもんですか』
マドレーヌ先生は、考えるのをやめキッとエニグマ達を睨み据えた。
「誰がザコですって?」
マドレーヌ先生が一歩前に出ると、光がエニグマを包み弾け、消し飛ばした。
「こ……!コイツッ!!」
さらに彼女は、もう一体をも倒す。
「みんなにしたことを私にもしなさい」
「チッ!!ここで戦うのはブが悪い」
化け物が舌打ちした。
「光のプレーンにもどるのか?」
「光のプレーン……?」
いつか、本で読んだ事がある。いくつも無数に重なる平行世界、プレーン。その中には、光のプレーンというのもあると。
フィーノは記憶をたどって思い出した。
(光のプレーンにもどる……?エニグマが?どうして?)
マドレーヌ先生は心の中で呟いた。
「あそこはもっとブが悪くなるだろうが。もっといい場所を用意してやるよ。くっくっくっくっく……」
「さぁ!!!!どうするのッ!!」
「今だ!!はさみうちだ!!」
エニグマに左右囲まれ、マドレーヌ先生は連れていかれてしまった。
「ケッケッケ……」
エニグマは全てどこかへワープして去って行った。
この場には、波の音だけが残り、その静けさがフィーノを喪失感と恐怖で包み込んだ……。
海岸に洞窟があったので、フィーノはそこへ入ってみた。
「うわ~なんか変なとこ入っちゃった……ん?」
「フ゛ィ゛ー゛ノ゛~~~~~~!!!!!!」
「うわあっセサミ!?」
奥から、涙と鼻水で顔がグシャグシャのセサミが突然現れ、フィーノはドキドキバクバクとする胸を押さえた。
「怖かった怖かった!死ぬかと思った~~~~~~~~!」
「ぼ、僕も……」
「あのヘンな生き物はどうした?いなくなったか?」
「う、うん」
「ひゃあ~~~~~~!助かった~~~~~!!どうなることかと思った~!!」
「セサミ、よく無事だったね……」
「アイツら、奥のウズマキからフーッと出てきたんだ!!俺、最初から見てたから、ヤベーと思って、すぐ隠れたんだけど、セイカイだったな」
「ウズマキ?」
「この洞窟の奥に、いつの間にかウズマキができてんだよ!!怪しい感じだぜ!!ぜったい近くに行かないほうがいいぜ!!」
奥を調べてみると、確かに不気味なウズマキがある。フィーノは、その中に入ることを決意した。
「あぁ~~~~ッ!!フィーノも行くのかよ!!」
フィーノはコクりと頷いた。
「あ、そう。俺は残るけどな。それじゃバイバイ」
フィーノがウズマキに入るのを見ながら、「あ~……」とセサミは呟いた。
「バッカだなぁ……。どこに行くかわかんねぇんだぞ。まったく……」
すると、セサミの背後にエニグマが――。
「ああああああああああッ!!」
そして、セサミも連れ去られてしまった。
「ケッケッケ……」
エニグマが不気味に笑う声だけが、その場を支配した。