第2章 楽しみと期待の翌日

「はい、今日の授業は終わり!明日はいよいよヴァレンシア海岸だぞ!準備を忘れずにね~!以上!また明日!」
いよいよヴァレンシア海岸への臨海学校を明日に控えたマドレーヌクラスの生徒達は、翌日の話題で大盛り上がりになった。
「楽しみ――――――っ!」
「俺もだ――――――っ!」
キャンディとキルシュがわくわくするあまり叫んだ。
「本当に楽しみね。皆と何日も過ごすなんてドキドキしちゃう」
ブルーベリーがおしとやかに微笑んだ。
「さっきの授業で、キャンプファイヤーはキルシュが魔法で火をつけることに決まってたね。キルシュらしい勢いのある炎が見られそうだね」
シードルが鞄にノートや教科書を詰めながら言った。
「勢い付けすぎて失敗すんなよ~?」
レモンがケケケと笑いながらからかうと、キルシュはムキになって「うるせぇな!!余計なお世話だ!!」と反論した。
「マア ダイジョウブダロ。イザトナリャ フィーノ ト ブルーベリーノ ミズノマホウガアル」
「けーせーるー」
「うぐぐ……このデカブツども……」
カフェオレとショコラにまで言われ、キルシュの顔は耳まで怒りで真っ赤だ。
「はっはっは!踏んだり蹴ったりとはこのことだな!アニキ!!」
「うるせー!!」
「も~キルシュ、セサミに八つ当たりしないの。暑苦しい上に見苦しい男だなぁ」
本に目を通しながら、フィーノが毒を吐いた。
「フィーノ何読んでるの~?」
「いろんなプレーンの事が書いてある本!おもしろいよ~!」
おっとりと尋ねてきたアランシアに、フィーノはニコニコと答えた。
「プレーン……って、なんだヌ~?おいしいのかヌ~?」
「ちょっとカベルネ、1週間前授業でやったじゃん。あっきれたぁ。パペットなのに頭は鳥なの?3歩歩いたら忘れちゃった?」
「ガリ勉のフィーノに言われるなんて心外だヌ~!失礼な男だヌ~!」
「黙れ毒人形。ガリ勉じゃなくて首席と言え」
フィーノは低く呟いた。
「…………プレーンとは、1つの宇宙に無数も重なって出来ている平面世界のことだったな」
ガナッシュがさりげなく場の空気を和らげた。
「そーそー!んで、それぞれの性質にしたがって、例えばここは『物質のプレーン』って呼ばれてるんだよね!そんで各プレーンにはさまざまな種族や精霊が生活してるらしいね!」
すると、水を得た魚のように、フィーノがペラペラと知識を披露した。
「火を司る『火のプレーン』とか、水を司る『水のプレーン』とか、風を司る『風のプレーン』とか、いろんなプレーンがあるんだよね!僕、水のプレーンて1回行ってみたいなぁ~」
「フィーノはもしかしたら、水のプレーン出身だったりしてな。ガナッシュ並みに魔力つえーし」
「ありえるっぴ!もしかしたら、フィーノの本当の両親は水のプレーンにいるのかも知れないっぴ!」
「フィーノちゃんも、水の魔法使いですものね!可能性は充分ですの!」
カシス、ピスタチオ、ペシュが言った。
「あはは、実の両親が生きてるかさえわからないのに、そんなの確証が持てないよ」
フィーノは笑って手を左右に振った。
「……でも、どこかにいるといいね」
オリーブが控えめに言った。
「…………」
フィーノは黙ってオリーブから目をそらし、心の中で『話しかけるんじゃねーよくるくるぱー頭女』と呟く。
彼は心を読める彼女が大嫌いなのだ。フィーノは誰にも自分の心に踏み込まれたくないのだ。
しかしその2、3秒後、フィーノはすぐにぱっと皆に笑顔を作ったので、オリーブは黙ってうつむくことしかできなかった。
「――さて、明日の準備でもしに寮に帰ろっかな!ピスタチオ、キャンディ、いっしょに行こ!」
「そうだね、そろそろ寮で準備しよっか!また明日ねーみんな!」
「バイバイっぴ~」
ペチャクチャおしゃべりしながら、フィーノとキャンディとピスタチオの寮生活組は教室を出ていった。
だが、これくらいで静かになるクラスではない。
日が沈むまで、生徒達は臨海学校へ臨む期待と喜びを話し合っているのだった。
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