第7章 真打と影打

「その型は、『久薙剣(ひさなぎのつるぎ)』……」
剣一が呟いた。
「…?俺の刀がどうかしたのか俺の刀が?」
「その刀は、真打……」
剣一が神妙に答えた。
「そういえば、真打の方は徳久家に納められたのだったな……」
アロケルが言った。
「何故お前が持っている?」
「俺は、徳久家永様の小姓だった。
この真打は徳久家に代々伝わる刀で、忝なくもお仕えする際に譲渡されたんだ」
アロケルの質問に、ホトが答えた。
「ほう…」
「さようか……」
アロケルと剣一が呟いた。
「だが、今となってはどうでも良き事。
拙者は、主君に長年武器として扱って頂けている。
むしろ、真打より厄介なのは―――‥‥‥」
剣一が話している途中の事だった。
息を切らせたイリスェントが駆け付け、「隙あり!!」とアサルトライフルを乱射させたのは。
「?!!」
数弾はアロケルに命中したが、他は剣一が宙を飛び回り弾いた。
「イリスェント!?」
ホトは、思いもよらぬ助太刀に目を見開いた。
「悪魔の気配がしたので、来てみたら…やはりそうだったであるか!
我が輩も戦うのである!」
「…そう。真打より厄介なのは……」
言いながら、剣一はアロケルの手に収まった。
「貴様だ。初代学者」
「昔年の恨み、今ここで晴らしてくれる!!」
アロケルは、イリスェントに向かい思い切り武器を振りかぶる。
だがイリスェントは、微動だにもしなかった。
「フン…。我が輩が、射撃しか能がないとでも思ったであるか?」
イリスェントは、武器を持つアロケルの腕を最小限横凪ぎし、武器の軌道をずらし攻撃を防ぐ。
そして、そのまま腕と肩を掴み、地に組伏せた。
「ぐっ…!貴様!」
剣一はアロケルの手を離れ、宙を舞いイリスェントに襲いかかる。
だがそれも、柄を弾かれ、攻撃は防がれてしまった。
伸縮しても、それをあらかじめ見通したかのようによけられてしまう。
(…すげえ…。全て、最小限の動きでいなしてやがる…)
真打などよりイリスェントのほうが厄介というのは、そういうわけか。
ホトはゴクッと唾を飲む。
「クッ……」
地に伏せられたアロケルの眼光が、よりぎらぎらときつくなった。
「引くぞ!剣一!!」
「!はっ…!」
剣一は、アロケルの腰元の鞘に収まる。
アロケルは立ち上がり、二人を睨み付けた。
今回ばかりは、勝機が見えない。
「覚えておけ…!
いずれ必ず、貴様らを殺してくれる!」
それだけ言い残し、アロケルは地獄へと瞬間移動していった。
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