第7章 真打と影打

所変わって、インディ区域の市場。
そこには、真剣そのものでカレーのスパイスを選抜するイリスェントがいた。
「う~~~~~ん……どれを使えば、コルちゃんの故郷の味に近くなるであろうか……」
「お前、ほんとクソマジメだなほんと。
まさか、こだわりにこだわりぬいた本格派カレーを作るつもりじゃ…?」
「その通りなのである」
傍らのホトに、キリリとした顔でイリスェントは答えた。
「せっかくカレーを作るのだから、ルーなどには頼らずスパイスから本格的に入りたいのである」
「はは、お前らしい」
「そうであるか?
おっと。あちらにも、良さそうなものがありそうなのである。
ちょっと見てくるのである。
長くなりそうなので、ホトはその辺をブラブラしてていいのである」
そう言って、イリスェントは遠くの店に行ってしまった。
(…長くなりそう…、か)
ホトは一人、ふっと笑った。
確かに本格派カレーを作るとなれば、カレーのスパイスなどは学者のイリスェントのほうが詳しいだろう。
ここは、任せるに限る。
ホトは、どこに向かうともなく足を動かし始めた。
すると、そんななか、見覚えのある顔を発見した。
あれは、人間の姿を借りてはいるが……。
「…ハエ騎士団員、アロケル…」
ホトの呟きを、アロケルは聞き逃さなかった。
背中から悪魔の翼が生え、黒衣の本来の姿に変わる。
周りの人間達はどよめきだし、悲鳴をあげ逃げだし始めた。
「みんな、早く逃げろ!
…って、言葉通じねーか言葉」
「……斬られたくなければ、」
アロケルは、すらっと鞘から武器を抜きホトへ突き付けた。
「イリスェント・ガル・ラ・オルデシアの居どころをおとなしく吐くことだな」
「…そんな脅しに、」
ホトも刀を鞘から抜いた。
「この俺が屈するとでも?」
ホトは不敵に口端を吊り上げた。
「斬りたきゃ斬りな!
存分に相手してやる!」
「そのセリフ、後悔するぞ!
こわっぱが!!!!」
ギィン、と刃と刃が打ち合う音が響く。
アロケルの攻撃を受け止めきれたかと思いきや、アロケルの武器の刀身は素早く大きくなりホトの肩をザクッと斬った。
「うあっ……!!」
ホトは一瞬たじろぐが、すぐに魔術で傷口を治癒した。
そして、反撃に出る。
「変な技使いやがって!」
ホトの刀は、確実に剣一を宙に弾いた。
弾いたはずだった。
剣一は、まるでブーメランのようにホトに向かって来たのだ。
「なっ……!?」
ホトはなんとかそれを自ら刀で横凪ぎに弾く。
剣一は、アロケルの手に収まった。
「意思を持つ刀か……。
こいつは厄介だぜこいつは」
ホトが言った。
アロケルと剣一はその時、あることに気付いた。
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