第6章 切られし戦いの火蓋

地獄に人質が来てから、10年の年月が過ぎた。
「人質さーん。お手紙ですよー」
ショルダーバッグを下げた愛想の良い、長い前髪をピンでとめ分けたポニーテールの悪魔の若者が、お城にやって来た。
年齢は、見た目には人間でいう10代手前くらいに見える。
男女どちらかかは判別できない。
これは、両性具有ゆえだろうか。
「アイゴー!来た来た!
郵便屋さんだしー!
待ってたしー!!」
すっかり立派な青年へ成長したチョルくんが、若者に駆け寄る。
待ち兼ねていた!とばかりに、顔が輝いている。
「いつもありがとだし!バフォメット!」
「いーえいーえ。コレが商売ですから!
では!」
ショルダーバッグから出してチョルくんに1通の封筒を渡すと、若者――郵便屋さんもといバフォメットは瞬間移動で姿を消していった。
封筒には、達筆な字で「若造へ アロケル」とだけ書いてある。
地獄の手紙は、ポストに入れれば切手も住所もなしでもどこの誰にでも届くのだ。
「おや。アロケルからの手紙が来たのかい?」
そこへ、ルシファーがやって来た。
「うん!そうだし!
返事が来たんよ!」
チョルくんはウキウキと答えた。
「君達、10年前から会ったり文通したりしてるもんね…。
いいね。あのおじいさん、老眼だし、老眼鏡でもかけながら返事を書いてるのかな?」
「今、想像してしまったし」
「私も。アロケルが、テチョル君にとって初の文通相手なら、実はあちらも君が初めて手紙をやりとりする相手なんだ。
君達、いい関係だね。じじまごってやつかな?」
「なんね、それ」
何だそれと言いつつも、チョルくんは嬉しそうだ。
「――おーっと忘れてた!
もう5通もあったんだ!」
シュンッ、と瞬間移動でまたバフォメットがやって来た。
「やーすみません!
これ、ルシファー様にパイモンとダンタリアンから2通、ベルフェーゴル様にアカーコックとストラスから2通、ベルゼバブ様にフュルから1通あったんだ!
すみませんすみません!」
慌てて謝りながら、うっかり屋さんな郵便屋さんバフォメットは、ショルダーバッグから複数手紙を取り出しルシファーに封筒を2通渡した。
「あはは、しっかり~」
「パボやね~」
「うわ~ん返す言葉もございません!
ベルフェーゴル様ー!ベルゼバブ様ー!郵便ですよー!!」
ルシファーとチョルくんの野次を背に、バフォメットは城内を駆けて行った。
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