第5章 狂おしき運命の旋律

「……タオ。
君は優しいであるな。
こんな男を相手に」
イリスェントは柔和な微笑みを浮かべた。
「アダムにハンドガンを与えた時、使うのを怖がられたのである。
あれが当然の反応なのである。
引き金を引き、他者を撃つのが怖くない者があろうか。
でも、戦わなきゃいけないのである。我が輩達は…」
「オレら格闘家みてえに、素手でも渡り合えるわけじゃないもんな」
「大抵の"学者"はな。
我が輩は軍隊で培った近接格闘術などを使えるが、アダムはそうはいかないのである。
覚醒するまで、普通の7歳であった。
ゆえに、あまり重くないような武器をとハンドガンを与えたが…今後、使いこなせると良いのである。
我が輩の教えかた次第であろうな」
「あんまスパルタ教育すんなよ?」
緊張気味のイリスェントを見て、タオはちゃかしてみせる。
「そ、そんなことはしないのである」
イリスェントがしどろもどろに反論した。
タオはおかしそうに笑う。
「あはははっ!
なぁ、ところでさ。イリスェント。
イリスェントは知ってるか?
神殿に、ずっと前5億のサタンが住んでたって話。
オレ、マオから聞いたんだけど」
「当然なのである。
マナ一族になる前も、聖書くらいは読んでいたし……。
タオは、マオから聞いたであるか」
「うん。なんでサタンは、地獄に落とされたんだ?」
「…人間が彼らを、神にあだなす"悪魔"と決め付け、女神様と天使エステレラに救済を求める内容を、聖書に記したからである。
何一つ悪事など働いていなかったという真実は、記さずに…」
タオは、驚いて言葉を失った。
「無論、エステレラも女神様も人間達の味方をせざるを得なかった。
それにより、サタン達は怒って地上を我が物にせんと企んだのである」
イリスェントの説明を聞いて、タオは思い出した。
ベルフェーゴルの、女神もエステレラも人間も裏切り者、悪魔以外信じない、何千年かかろうともこの世界から殲滅してやるという言葉を。
ああいう過去があっては、そう思うのも無理ない…。
タオは、しんみりした気持ちになった。
「グレたくなるのもわかるなー。
だけど、現に地上の区域外にモンスターを放ってるのも悪魔だっていうし…。
悪さはしてるんだよな。
戦うっきゃないんだよな」
「その通りなのである」
イリスェントはきりっとした顔で答えた。
「戦争に、完全に正しい者などいないのである。
さりとて、おとなしく命を捨てたがる者もいない。
懸命に戦うしかないのである。
それが、戦争を生きるという事なのだから」
「……オレ、なんだか眠くなってきた」
タオはあくびを噛み殺している。
「こんな時間に、難しい話をしてすまなかったのである」
タオの様子に、イリスェントは苦笑した。
「では、そろそろベッドに入ろうか?
おやすみなのである」
「晩安~」
おやすみとは言ったものの、ここは神殿外。
神殿まで、二人は共に行く事にしたのであった。
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